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【選手紹介Vol.5】ナイロ・キンタナ

山岳を翔けるコロンビアの英雄

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選手名:ナイロ・キンタナ(Nairo Alexander Quintana Rojas)

所属チーム:モビスター・チーム

国籍:コロンビア

生年月日:1990年2月4日

脚質:クライマー

 

主な戦歴

ツール・ド・フランス

 総合2位(2013、2015)、山岳賞(2013)、ステージ通算3勝(2013、2018、2019)

ジロ・デ・イタリア

 総合優勝(2014)、ステージ通算3勝(2014 × 2、2017)

ブエルタ・ア・エスパーニャ

 総合優勝(2016)、ステージ通算2勝(2016、2019)

・ティレーノ・アドリアティコ

 総合優勝(2015、2017)、ステージ通算2勝(2015、2017)

ツール・ド・ロマンディ

 総合優勝(2016)、ステージ1勝(2016)

・ボルタ・ア・カタルーニャ

 総合優勝(2016)、ステージ1勝(2013)

ブエルタ・アル・パイス・バスコ

 総合優勝(2013)、ポイント賞(2013)、ステージ1勝(2013)

 

どんな選手?

圧倒的な登坂力とその実績から、コロンビアの英雄と謳われるピュアクライマー。

 

2010年に若手の登竜門として名高いツール・ド・ラブニールを20歳で制覇、2012年にワールドチームであるモビスター・チームに移籍し才能がさらに開花し勝利を重ねる。

そして2013年、自身初めてのグランツール(3大ステージレース)出場となったツール・ド・フランスでいきなり総合2位に入賞

2014年には弱冠24歳でジロ・デ・イタリア総合優勝を果たし、ツール・ド・フランスを制するのも時間の問題かと思われたが、そこに最大のライバルであるチーム・スカイ(現チーム・イネオス)のクリス・フルームが立ち塞がる。

ツール制覇を至上命題として、強力なアシストを従えた豪華布陣で臨む最強王者フルームの壁は厚く、キンタナも自慢の登坂力であと1歩のところまで追いつめるも僅かに届かなかった(ツール2015では1位フルームと2位キンタナのタイム差はたったの1分12秒)。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016ではフルームを抑え総合優勝を飾りリベンジを果たしたように、決して個人の力では大きく遅れを取っているわけではないが、チーム力の問題もありツールではフルームの3連覇(2015~2017)を許してしまう

 

そんな状況の中、2018シーズンからはキンタナ自身が不調に陥ってしまい、調子の悪い日は得意のはずの山岳ステージでもズルズルと後退する姿を見せるようになってしまった。

2018年も2019年もツール・ド・フランスでステージ優勝を飾るなど、調子がいい日は他の選手を圧倒する軽快な登坂を見せるのだが、調子が安定しない事には総合優勝は望めない。

一説にはチーム内での不仲が不調の原因とも囁かれ、そんなキンタナの姿をファンは期待と不安が入り混じったような感情で見守っていたが、2020年に向けてキンタナは大きな決断をする。

それは、8年間在籍し輝かしい実績を残してきたモビスター・チームから移籍する事。

しかも、スペイン籍のワールドチーム(最上位カテゴリーのチーム)から、フランス籍のプロチーム(ワールドチームより1ランク下のカテゴリー)であるチーム・アルケア・サムシックへの移籍という、誰もが驚愕する大決断だった。

幸いにも、モビスターから同郷の盟友ウィナー・アナコナを引き連れて移籍することができた上に、弟のダイエル・キンタナも同チームへの移籍が叶った。

ツール・ド・フランスへの出場権も、無事にワイルドカード(招待枠)で勝ち取ることができた。

2020シーズンは既に2つのステージレースに出場し、そのどちらでも山岳ステージを圧倒的登坂力で勝った上での総合優勝を飾り、移籍した判断が間違いでは無かったと証明する事が出来た。

そこで見せた、山岳をまるで平地のように軽々と登っていく姿は、正にファンが望んでいたキンタナそのものだった。

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「ボクはコンドルと呼ばれているけど、まだまだ高く飛べる」と語るキンタナ。

ファンは待っている。

あなたがツール・ド・フランスでまた羽ばたく姿を。

それも、ステージ優勝のような小さなものではなく、総合優勝争いの中でその圧倒的な登坂力を見せつけて、高々と飛んでいくのを待っている。

 

※2020年12月26日追記

上述の通り2020年シーズンのキンタナは、ワールドツアーではないもののシーズン初頭の2つのステージレースで総合優勝して、好調ぶりをアピール。

3月のパリ~ニースでも、落車による遅れの為に総合優勝には届かなかったものの、クイーンステージである第7ステージでは見事にステージ勝利を飾る。

並み居る強力なライバルを一発で置き去りにするその圧巻のクライミングは、ここ数年のイマイチなイメージを払拭するには十分なもので、この時点ではツールの総合争いでも戦える予感がしていた。

 

しかし、新型コロナウィルスの影響による中断期間中の7月3日、思わぬアクシデントがキンタナを襲う。

弟のダイエルと共に公道でトレーニングをしていた際、2人を後方から追い抜こうとした自動車がキンタナと接触、キンタナは転倒して右膝と肘を負傷してしまったのだ。

幸い骨折などの大きなケガは無かったものの、コンディションに一抹の不安を抱えたままシーズン再開を迎える事となった。

 

ツール前哨戦の1つであったツール・ド・ランでは、ツールの2大優勝候補であるプリモシュ・ログリッチとエガン・ベルナルに続いての総合3位となり順調かと思えたが、続くクリテリウム・デュ・ドーフィネでは膝の痛みのために第5ステージ途中でリタイアと、やはり万全ではない様子が伺える状態でツールに突入する事に。

それでもツール序盤~中盤は安定した走りを見せ、第14ステージ終了時点ではトップのログリッチから1分12秒遅れの総合5位と、総合優勝も充分狙える順位をキープ。

しかし、逆転の為の勝負所の一つであったはずの第15ステージ、超級グラン・コロンビエール峠の中腹で膝の痛みが再発してしまい、チーム・ユンボ・ヴィスマが刻むハイペースについていけずに集団から大きく遅れてしまった。

結局この日、キンタナは3分50秒ものタイムを失い総合9位に転落、その後のステージでもズルズルと順位を落としてしまい、最終的に総合17位でのフィニッシュとなった。

 

キンタナの膝の痛みが再発したのはツール第13ステージで落車していたのが原因だったようで、ツール終了後に膝の状態を再度検査したところ、膝蓋骨の骨折が判明して手術を受ける事に。

勿論これにより、この時点でキンタナの2020年シーズンは終了となった。

 

シーズン序盤は調子が良かっただけに、7月の事故によるケガが本当に悔やまれる形となってしまった2020年のキンタナ。

2021年シーズンこそは、万全の状態であの軽やかで圧倒的なクライミングを披露して欲しい。

何だかピークを過ぎたベテランのような雰囲気を醸し出しているが、2021年シーズン中に31歳となるように、まだまだ老け込むような年齢ではない。

グランツールレーサーとして今一度輝く姿を、多くのファンが望んでいる筈だ。

 

※2021年11月28日追記

2021シーズン、前年のケガからの手術明けのキンタナは序盤から調子が上がらない。

ワールドツアーのティレーノ~アドレアティコやヴォルタ・ア・カタルーニャでは総合トップ10にも入れず、カテゴリーが1つ下がるUCIプロシリーズのツアー・オブ・ジ・アルプスでも総合7位止まり。

更にカテゴリーの下がるヨーロッパツアー1カテゴリーのブエルタアストゥリアス・フリオ・アルバレス・メンドでやっとステージ1勝と総合優勝と、本調子では無いのは明らかだった。

 

そんな状態で迎えたツールでは、やはり調子が上がらずに総合争いからは早々に脱落した事で、山岳賞に狙いを変更。

第8ステージで逃げに乗り山岳賞ランキング3位に躍り出ると、翌日の第9ステージでもポイントを稼ぎ暫定首位の座に。

しかし、混戦模様となった山岳賞争いの中、第14ステージで山岳賞ジャージを奪われるとそこからポイントを大きく伸ばす事が出来ず、残念ながら2013年以来の山岳賞獲得とはならなかった。

 

その後のレースでも大きな結果を残せず、前年に続き低調なシーズンを過ごした2021年のキンタナだったが、アルケアとの契約を1年延長する事を発表。

2022年こそ、本来の実力を発揮してチームに恩返しをしたいところだ。

 

※2022年11月17日追記

2022年シーズン開幕直後、キンタナはツール・ド・ラ・プロヴァンスにツール・デ・ザルプ=マリティーム・エ・デュ・ヴァールと、プロシーリーズと1クラスのレースで総合優勝に輝く。

その後のワールドツアーでのステージレースも、パリ~ニースで総合5位、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで総合4位と、表彰台は逃しつつも上位にはランクインしていた。

 

そうやって「今年こそは…」という期待感を抱かせながら迎えたツールだったが、グランツールで3週間安定した走りを披露できていないここ数年の傾向通り、キンタナはステージごとに浮き沈みの激しい走りに終始してしまう。

ステージ最高順位は2位、そして総合成績は6位。

もしかしたら大失敗とは言わない結果のかもしれないが、キンタナへの期待値からすれば何も得られていないと言っていい、残念な結果に終わってしまった。

 

ツール閉幕から3週間ほどすぎた8月17日、衝撃的なニュースが世界中を駆け巡る。

ツール期間中に採取されたキンタナの血液サンプルから、UCI国際自転車競技連合)が競技中の使用を禁止している「トラマドール」が検出されたというのだ。

キンタナに下った裁定は、ツールでの成績剝奪。

ただし、トラマドールは副作用(吐き気やめまいなど)を懸念してUCIが使用禁止に定めている鎮痛剤であり、世界ドーピング防止機構(WADA)の禁止薬物には指定されていない。

つまり、競技能力向上のためのドーピングとは異なるため、出場停止などの処分は下らなかった。

そしてその後、キンタナ自身は「トラマドールを服用した事は一度もない」と表明し、CAS(スポーツ仲裁裁判所)に異議申し立てをしていたが、残念ながらこれは棄却される事になった。

 

このトラマドール問題の影響もあり、ブエルタへの出場を取りやめたキンタナ。

その後は世界選手権にしか出場しなかった事も含めて、非常に後味の悪い流れとなってしまった。

そして、現時点(2022年11月17日)で、キンタナの来シーズンの契約は発表されていない。

アルケアと契約延長するのか、それとも新天地を求めるのか。

いずれにしても、キンタナが再び輝ける居場所が見つかることを祈りたい。

 

※2023年11月16日追記

前述の「トラマドール問題」の影響で、キンタナは2023年を「無所属」で過ごす事に。

その結果として、出場したレースはコロンビア国内選手権のみと、非常に厳しい1年となってしまった。

このあまりにも辛く寂しい状況が果たしていつまで続くのか、2024年も無所属となってしまうのか…。

 

しかし、そんなキンタナに手を差し伸べるチームが表れた。

それはなんと、2019年に「喧嘩別れ」に近い形でチームを離れた、モビスター。

かつて8年間所属し、数々の栄光を共に掴んできた古巣への、電撃復帰となった。

 

不安は、当然ある。

1年間のブランク、2024年には34歳となる年齢、そしてメンタル面など、今のキンタナが果たしてどれだけの走りを見せられるのか、不安があるのは否定できない。

それでもまずは、キンタナが再びワールドチームと契約できた事を喜びたい。

来シーズン、再びキンタナの走りが見られるのを、素直に喜びたい。

苦しい期間を超え、再び走り出すキンタナの姿を、楽しみにしようではないか。