20年以上に渡り第一線での活躍を続けた偉大なレジェンド
選手名:アレハンドロ・バルベルデ(Alejandro Valverde Belmonte)
所属チーム:モビスター・チーム
国籍:スペイン
生年月日:1980年4月25日
脚質:オールラウンダー・パンチャー
主な戦歴
総合優勝(2009)、総合2位(2006、2012、2019)、総合3位(2003、2013、2014)、ポイント賞(2012、2013、2015、2018)、ステージ通算12勝
総合3位(2015)、ステージ通算4勝
総合3位(2016)、ステージ1勝
・世界選手権
優勝(2018)
優勝(2006、2008、2015、2017)
・フレーシュ・ワロンヌ
優勝(2006、2014、2015、2016、2017)
優勝(2008、2014)
・スペイン選手権
優勝(2005、2018、2019)
どんな選手?
グランツール(3大ステージレース)を制する総合力と、ワンデーレースでも多くの勝利を積み重ねるアタック力を併せ持ち、20年以上もの長期間エースとして第一線で走り続けた偉大なレジェンド。
2002年にスペインの名門ケルメでプロデビューをして、翌2003年には23歳の若さでブエルタ・ア・エスパーニャで3位入賞を果たし、更には世界選手権の個人ロードレースでも2位に入賞する。
2005年にはケス・デパーニュ(現モビスター・チーム)に移籍、ツール・ド・フランスにも初めて出場し、残念ながら途中リタイアとなるもステージ1勝を挙げてしっかりと結果を残した。
2006年はそのパンチャー的な脚質を活かしてフレーシュ・ワロンヌとリエージュ~バストーニュ~リエージュで優勝を飾り、ワンデーレーサーとしての能力の高さを発揮。
以後、起伏のあるアルデンヌ系のクラシックでは常に優勝候補として挙げられる存在になる。
2009年にはブエルタ・ア・エスパーニャで終始安定した走りを見せ、遂に念願の総合優勝を飾り、ワンデーレースでもステージレースでも世界トップクラスの能力を有すると証明して見せた。
この時点で29歳と、選手として脂がのる時期に入っていたバルベルデだが、ここで大きな苦境に立たされる。
2010年の5月、ドーピング問題により、スポーツ仲裁裁判所から2010年1月1日から2012年1月1日までの2年間の出場停止処分が下されてしまったのだ。
これにより、2010年の記録はすべて剥奪され、バルベルデは2年間の空白の期間を過ごす事となってしまった。
そして出場停止明けの2012年、1月のツアー・ダウンアンダーでブランクを感じさせない走りを見せつけ、いきなりステージ1勝を挙げ、総合1位と同タイムの総合2位に入賞する。
シーズン終盤にはブエルタ・ア・エスパーニャでも総合2位、世界選手権でも3位に入賞するなど、その力は全く衰えていなかった。
その後も、ワンデーレースではフレーシュ・ワロンヌでの2014年~2017の4連覇、リエージュ~バストーニュ~リエージュも2015年と2017年に勝利など、持ち前のパンチ力に益々磨きがかかったような走りを披露(フレーシュ・ワロンヌ通算5勝は歴代最多、リエージュ~バストーニュ~リエージュ通算4勝は歴代2位)。
グランツールでも2015年にツール・ド・フランスで3位、2016年にジロ・デ・イタリアで3位に入り、全てのグランツールで表彰台を経験する総合力と安定感を見せた。
しかし、2017年のツール・ド・フランスでバルベルデに再び試練が訪れる。
ドイツのデュッセルドルフで行われた第1ステージの個人タイムトライアルで、雨に濡れた路面でスリップして柵に激しく激突してしまい、膝蓋骨の骨折などの重傷を負ってしまったのだ。
当時37歳のバルベルデにとっては引退の危機さえあるレベルの大きなケガだったが、大都市デュッセルドルフだったために適切な早期対応が可能だった事と、市内に勤めるスペイン人看護師が現場に居合わせるという奇跡的な幸運が重なり、そしてもちろん本人の懸命なリハビリとチームのサポートもあり、バルベルデは2018年シーズン開幕に間に合う程の驚異的な回復を見せた。
そして迎えた2018年シーズン、序盤のアブダビ・ツアーやヴォルタ・ア・カタルーニャで総合優勝するなど骨折の影響を全く感じさせない走りを披露。
そしてシーズン終盤、今まで2位2回・3位4回とあと一歩で手が届いていなかった世界選手権で、ゴール手前で自慢のアタック力を見せて見事に優勝に輝いた。
念願のアルカンシェル(世界選手権優勝の証である虹色のジャージ)を身に纏って走った2019年もブエルタ・ア・エスパーニャで総合2位に入賞するなど、2020年シーズンで40歳となった今もチームのエースとして走っているバルベルデ。
そんな鉄人ぶりを見せつける彼も、流石に2021年シーズン終了時での引退の可能性について言及している。
そして、その偉大なキャリアの集大成として
「私の履歴書にはオリンピックのメダルが欠けている」
と、東京オリンピックのメダルを狙うと宣言。
コロナウィルスの影響で東京オリンピックは1年延期になり、当初の予定より1年先にもベストパフォーマンスを発揮できるか不安視する声もあるかもしれないが、それでもきっと問題なく彼はオリンピックを狙いにいくだろう。
1年延期ぐらいが何だというのだ。
今までだって、幾多の苦境を乗り越える姿を私たちに見せてくれたではないか。
そんな不屈のレジェンドの最後の雄姿を、しっかりと目に焼き付けたい。
※2021年1月13日追記
新型コロナウィルスの影響により、2020年の目標としていた東京オリンピックが延期となってしまったため、バルベルデはツール・ド・フランスに出場。
エンリク・マス、マルク・ソレルとトリプルエースのような体制でレースに臨むも、バルベルデの走りにどこか元気がない。
持ち味である積極的なアタックは鳴りを潜め、厳しい山岳ステージでは最後まで先頭集団に残れず、少しずつタイム失ってしまい総合順位を上げられない。
かといって、自分よりいい順位で走るマスのアシストに全力を尽くす訳でもなく、チームとしての戦術もどこか煮え切らない。
バルベルデはそのまま大きな浮き沈みもなく総合12位でフィニッシュし、結局マスも総合5位止まりで終わってしまう。
ブエルタ・ア・エスパーニャも同様にバルベルデ、マス、ソレルのトリプルエース体制で走るも、ここでもバルベルデの調子は上がらず、そしてやはりチームとしての動きもどこか噛み合わない。
バルベルデは辛うじてトップ10圏内の総合10位、チーム最上位のマスはツールに続いての総合5位となった。
結局、バルベルデはドーピング問題で出場停止だった2011年以来のシーズン未勝利となってしまい、チームもバルベルデの調子に引っ張られたのか、年間僅か2勝という名門にあるまじき結果に終わってしまった。
40歳を超えて流石に年齢的な衰えも囁かれるが、このままでは終われない。
自身とチームの誇りを取り戻すため、まずはチームに多くの勝利を。
そして願わくば、2021年限りでの引退が噂されるバルベルデに、大きな勝利を。
東京オリンピックという、花道を飾るには出来すぎな舞台がバルベルデを待っている。
※2022年1月6日追記
2020年をまさかの年間0勝で終え、2021年限りでの引退を示唆するような発言もしていたバルベルデ。
そして迎えた2021シーズンは、春先から予想以上に素晴らしい走りを披露する事に。
まずは3月のグラン・プレミオ・ミゲル・インデュラインで勝利を飾ると、4月のアルデンヌ・クラシックでもアムステル・ゴールドレース5位、フレーシュ・ワロンヌ3位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ4位と、好調をキープ。
更に、ツール前哨戦であるクリテリウム・デュ・ドーフィネ第5ステージの緩い登りフィニッシュでは、先行したテイオ・ゲーガンハート(イネオス・グレナディアーズ)の後輪を捉えて、一気に加速。
未だ衰えぬそのパンチ力と、ベテランらしい絶妙なタイミングでの仕掛けを完璧に融合させ、見事なステージ勝利を挙げて見せた。
ただ、ドーフィネ直後のツールでは、積極的な仕掛けでステージ2位が1度と見せ場は作るも、総合24位に終わった自身の総合成績、そしてチームの成績的にも振るわなかった。
更には、「足りないメダル」と表現して並々ならぬ決意で挑んだであろう東京オリンピックでも、勝負に絡めず42位となってしまった。
しかし、翌8月開幕のブエルタでは、一転して好調な走りを披露。
モビスターはバルベルデだけでなく、マスとミゲルアンヘル・ロペスも開幕から好調で、第6ステージ終了時点では総合2位にマス、総合3位にロペス、そして総合4位にバルベルデと、トリプルエース体制が過去に例を見ない程機能していた。
モビスターの選手による総合優勝や総合表彰台への複数選手登壇、そしてバルベルデの総合表彰台という可能性も充分に期待できる状況になっていた。
そして迎えた第7ステージは、総合争いでの脱落者も出るであろう1級山岳フィニッシュ。
コース中盤の2級山岳で、モビスターは数の利を活かした積極策に出て、メイン集団からバルベルデを含んだ小集団が少し飛び出す格好に。
総合首位のプリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)に揺さぶりをかける為に、まさに理想的な動きだったが、悲劇は突然訪れる。
なんと、ダウンヒルでバランスを崩したバルベルデが、コーナーで転倒してしまったのだ。
あわや崖下に転落もありえるようなシチュエーションだっただけに肝を冷やしたが、幸い大事には至らず。
ただ、この落車で鎖骨を骨折したバルベルデは、もちろんそのままリタイアとなってしまう。
チームとしても、そして本人にとっても痛恨の落車となってしまったが、最終的にはマスが総合2位に入った事は、せめてもの救いになっただろうか。
ブエルタでのリタイアから約1か月後、バルベルデはジロ・ディ・シチリアに出場すると、なんとステージ1勝を挙げて総合2位に入賞。
更には翌週のイル・ロンバルディアでも5位と、改めてその鉄人振りが際立つシーズン終盤だった。
2021年のスケジュールを全て終えると、バルベルデは「2022年シーズン限りでの引退」を正式に表明。
ケルメでのデビューから21年、遂にその長きに渡る競技人生に幕を下ろす事となる。
2021年に3勝(しかもドーフィネで1勝)を挙げたように、その力はまだ完全に衰え切った訳では無い。
きっと、2022年もバルベルデらしい、エネルギッシュな走りを見せてくれるのだろう。
偉大なレジェンドの現役最終年、しっかりと目に焼き付けたい。
※2022年12月11日追記
いよいよ現役最終年を迎えたバルベルデだったが、シーズンインとなったチャレンジマヨルカシリーズでいきなり1勝を挙げ、未だその力が健在な事をアピール。
その後も、3月にはストラーデ・ビアンケで2位、4月にはお得意のフレーシュ・ワロンヌで2位と、本当に引退するのか疑わしくなるようなリザルトを連発する。
5月のジロを総合11位で終え、ツールには出場せず、最後のグランツールとして迎えたブエルタでは、マスのアシストとして奮闘。
マスを総合2位に送り込みつつ、自身も総合13位という結果は本当に素晴らしいものだった。
シーズン最終盤、イタリアのクラシックシーズンでもバルベルデは好調をキープ。
現役最終レースのイル・ロンバルディアに向けて、前哨戦で2位・4位・3位と結果を残し、新エースであるマスとともに臨む事に。
残念ながらバルベルデは最終局面でのアタックに付いていけなかったが、そのパンチ力で追走集団の先頭を獲り、最後は観客に手を振る余裕も見せながら6位でフィニッシュ。
最後の最後まで強さとらしさを見せつけた、素晴らしい幕引きの瞬間だった。
バルベルデが21年間の現役生活で積み重ねた勝利の数は、実に133にも達する。
勝利数の稼ぎやすいスプリンターではないのにこの数字は、ワンデーレースやステージレースといった局面を問わず、ハイレベルで安定した力を発揮し続けた事の証明だ。
間違いなく、ロードレース史にその名を刻む偉大なレジェンドと評していいだろう。
来シーズンからその走りを見られないのは残念ではあるが、選手へのアドバイザーのような立場でチームに残り、場合によってはチームカーに乗る可能性もあるらしいので、中継でその姿を見る事は出来そうだ。
バルベルデの新たな挑戦、そして変わらぬ自転車への愛情をこれからも応援していきたい。