「万年2位止まり」から遂に脱却したイタリアン・スプリンター
選手名:ジャコモ・ニッツォーロ(Giacomo Nizzolo)
所属チーム:イスラエル・プレミアテック
国籍:イタリア
生年月日:1989年1月30日
脚質:スプリンター
主な戦歴
ステージ1勝(2021)、ポイント賞(2015、2016)
・ヨーロッパ選手権ロードレース
優勝(2020)
・イタリア国内選手権ロードレース
優勝(2016、2020)
・エネコ・ツアー
ステージ1勝(2012)、ポイント賞(2012)
・パリ~ニース
ステージ1勝(2020)
ステージ1勝(2020)
どんな選手?
遂にその才能が開花した、乱戦で独特の強さを見せるスプリンター。
2011年、レオパルド・トレック(現トレック・セガフレード)でプロデビュー。
翌2012年には、グランツール(3大ステージレース)初出場となったジロ・デ・イタリアでステージ3位、ツール・ド・ワロニーでステージ1勝と総合優勝、エネコ・ツアー(現ビンクバンク・ツアー)でワールドツアー初勝利にポイント賞獲得と、23歳の若さで早くも頭角を現し始める。
2014年、3年連続出場となったジロで、ステージ2位を4回記録してポイント賞でも2位にランクインという、なんとも評価が難しい珍記録をマーク。
翌2015年には、これまたジロでステージ勝利を挙げないままポイント賞を獲得すると、続く2016年も同様にステージ0勝でポイント賞を獲得する。
ジロで2年連続でのステージ0勝でのポイント賞獲得は史上初の事例(連続ではない「ステージ0勝でのポイント賞獲得2回」自体も史上2例目、更に言えば近年のルールでの「ステージ0勝でのポイント賞獲得」の時点でかなりの珍記録)であり、安定してステージ上位に入賞する実力があるとも言えるが、なかなか勝ちきれないニッツォーロの実情がよく表れた記録と評するべきだろうか。
というのも、2012年にエネコ・ツアーで挙げたワールドツアー初勝利以来、なんとワールドツアーでの勝利が無い状態が2019年まで続いてしまうのだ。
カテゴリーの下がるレースではしっかり勝利を挙げ続け、また2016年にはイタリア国内選手権で優勝するなど、一定以上の実力がある事は示しつつも、とにかくワールドツアーでの勝利が掴めない。
2019年にはキャリアで初めての移籍も経験するが、やはり状況は変わらなかった。
勝ちきれないニッツォーロに対して、いつしか「2位ッツォーロ」などと揶揄する声も聞こえるようになる中、2020年の開幕レースとなったツアー・ダウンアンダーで、ついに長いトンネルの出口がやってきた。
ピュアスプリンターが生き残るには少し厳しい丘陵レイアウトの第5ステージ、カレブ・ユアンやエリア・ヴィヴィアーニといった有力候補が最終局面でやはり力を発揮できない中、スルスルっと抜け出したニッツォーロ。
シモーネ・コンソーニやサム・ベネットが必死に追い上げるも、そのままニッツォーロが先頭でフィニッシュ。
実に約8年振り、久々のワールドツアーでの勝利だった。
本当に不思議なもので、今まで長い間ワールドツアーでの勝ち星が無かったはずのニッツォーロが、ここから勝利を重ねる。
3月のパリ~ニースでも、平坦カテゴリーながら横風分断により小集団でのスプリントになった第2ステージで勝利。
新型コロナウィルスの影響によるレース中断期間が明けてもその勢いは止まらず、4年振りとなるイタリア国内選手権制覇、そしてその3日後に行われたヨーロッパ選手権でも勝利と、絶好調のニッツォーロ。
更にその3日後、現時点で最も勢いに乗るスプリンターとして、そしてヨーロッパチャンピオンとしてツール・ド・フランスに参戦。
ステージ勝利の有力候補として期待されたが、残念ながら膝の痛みにより第8ステージ途中でリタイアとなってしまい、待望のツール初勝利とはならなかった。
長い長いトンネルを抜けて、一気に勝利を重ねた2020年のニッツォーロ。
その乱戦で輝く独特の勝負勘は、スポンサー問題に揺れた影響でチームの存続すら危ぶまれ、あまり戦力が整っていない(万全の態勢でのスプリントがあまり期待できない)現在のチーム状況にはある意味マッチしているとも言える。
勝利を挙げられずに苦しんでいた時期に獲得してくれたチームに、今こそ恩返しをする時だ。
長い苦しみを乗り越えて強くなったニッツォーロが、苦しむチームを救うような勝利を挙げる事を期待したい。
※2022年1月22日追記
2020年に「勝ち癖」を身につけたニッツォーロは、2021年も開幕直後のクラシカ・デ・アルメリアで勝利を挙げ、幸先のいいスタートを切る事に成功する。
3月に入っても、春のクラシックではオキシクリーン・クラシック・ブルッヘ~デパンネ4位、ヘント~ウェヴェルヘム2位と、勝利こそなかったものの「らしさ」を見せて上位フィニッシュと、好調をキープ。
そして5月、エーススプリンターとして出場したジロで、遂に待望の瞬間がやって来る。
チーム力では劣るため、充分なアシストを受けられない中でも、第2ステージと第5ステージで2位に入り、相変わらず好調な事は伺わせていた。
そんな中で迎えた第13ステージ、クベカはアシスト陣が良い働きを見せ、ニッツォーロを良い位置でフィニッシュ手前まで連れてくる事に成功する。
チーム・ユンボ・ヴィスマのエドアルド・アッフィニが予想外の早掛けを仕掛けるも、ニッツォーロは慌てず、アッフィニを追いかけたフェルナンド・ガビリア(UAEチームエミレーツ)の背中に上手く飛び乗り、そして大胆な「乗り換え」でアッフィニの背中を捉える。
そのままギリギリまで溜めて、残り50mで飛び出したニッツォーロを止められる選手はいなかった。
遂に、実に11度もの2位を経て、その手に掴んだジロのステージ勝利だった。
そうして見せた穏やかな満面の笑みは、これまで積み重ねてきた様々な思いが詰まっていた事だろう。
おめでとう、ニッツォーロ!
ニッツォーロは、決して最強クラスのスプリンターでは無いかもしれない。
トップスプリンターと競り合うような展開だと、あと一歩届かないケースが多いのは事実だろう。
それでも今のニッツォーロは、勝利を掴み取る。
粘り強さやタフさ、そして上手さを駆使して、貪欲に勝利を狙う。
2021年の勝利がチームの存続に結びつかなかったのは残念ではあるが、新天地のイスラエル・プレミアテックでも、しぶとく勝利を挙げるのだろう。
きっとここからが、ニッツォーロの全盛期だ。
長いトンネルを抜けた苦労人の更なる活躍に期待したい。
※2022年12月17日追記
イスラエルという、クベカ同様に戦力的には恵まれていないチーム所属となったニッツォーロは、当然ながら2022年も苦戦を強いられる。
残念ながらワールドツアーでの勝利は挙げられず、唯一出場したグランツールであるジロも途中でのリタイアとなってしまった。
一応、1クラスのレースで1勝を挙げられた事や、ジロのステージ3位やティレーノ~アドレアティコのステージ2位と惜しい場面を作れた辺りは、流石と言った所か。
ただ、残念ながらチームはワールドチームからプロチームへ降格、更にはポイント不足でワールドツアーの優先招待枠も逃してしまい、2023年シーズンはトップレースへの出場は少し限られたものになりそうだ。
逆に、ニッツォーロとしては下位カテゴリーのレース中心に出場する事で、勝利を掴む可能性が高まるとも言えるが、そこで勝てなければエースとしての立場は危ういだろう。
なんとしてでも、格の違いを見せつけるような活躍をしたい所だ。