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【レース感想】UAEツアー2021 第4ステージ~第7ステージ

実力者が躍動する後半戦

今シーズン最初のワールドツアーレース、UAEツアー。

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前半の3ステージでは横風による分断やアルペシン・フェニックスの撤退という波乱も含みつつ、マチュー・ファンデルプール(アルペシン)、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)といった活躍が期待された実力者がしっかりと結果を残した印象。

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現在の総合順位は以下の通り。

1位:ポガチャル

2位:アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)+43秒

3位:ジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)+1分3秒

 

果たして総合の逆転はあるのか、そして3つあるスプリントステージでは誰が勝利を挙げるのか、注目の後半戦がスタート!

 

第4ステージ

オールフラット、今度こそ集団スプリントになるであろう平坦ステージ。

というか、集団スプリントになってくれ。

第1ステージのような横風分断もハラハラドキドキで面白いとは思うけれども、サム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ)やカレブ・ユアン(ロット・スーダル)やパスカル・アッカーマン(ボーラ・ハンスグローエ)といった世界最高クラスのスプリンターが集まっている今回のUAEツアーで、集団スプリントの機会がこれ以上失われるのはもはや罪と言っていいレベルの勿体無さだと思う。

 

そんな気持ちを知ってか知らずか、レースは非常に穏やかに進行というか、なかなか逃げが発生しないぐらい何もなく進んでいく。

残り80km前後でやっと2人の逃げが形成されるけれども、この日のコースレイアウトではもちろん逃げ切れる訳は無く、メイン集団は残り30kmを切った辺りでこれを吸収。

 

メイン集団は残り10km前後から集団スプリントに向けてペースアップを見せる。

180度の折り返しを超えて迎えたフィニッシュ手前、先頭で主導権を握るのはアッカーマンを引き連れたボーラ。

そのままアッカーマンが少し早めに飛び出して、周りの各エーススプリンターもスプリントを開始する。

インコースの空いたスペースから飛び出してきたのは、ドゥクーニンクのベネット!

リードアウト役のミケル・モルコフはアウトへ進路を取ったものの、インコースのスペースを好機と見てそこへ突入、そしてそのままアッカーマンを抜き去り一気に先頭へ!

ユアンやエリア・ヴィヴィアーニ(コフィディス)などのアウトコースから狙ったライバルは、モルコフが進路を塞ぐ形となり飛び出しが一瞬遅れてしまう…!

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完勝のベネット、これで節目となる通算50勝目!!

ドゥクーニンクのトレインの充実っぷり、そしてベネットの実力、やはりその安定感は健在であることを見事に証明!

やはり、今シーズンもツール・ド・フランスでのマイヨ・ヴェールの有力候補なのは間違いない。

 

ステージ2位は、意外にも若手のダヴィド・デッケル(チーム・ユンボ・ヴィスマ)。

というか、第1ステージでも2位に入っていたこの選手、あまり注目していなかったけれども、実はかなり凄いのでは…?

 

第5ステージ

ジュベルジャイス山頂を目差す約20kmの長い登坂で、最後の総合争いの場となるであろうステージ。

 

この日の逃げは9人、アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック)やトーマス・デヘント(ロット)を含むなかなか強力なメンバー。

ジュベルジャイスの登坂に入ると、逃げ集団からルツェンコが飛び出して独走を開始。

そのペースはかなりのもので、イネオスが牽引するメイン集団とのタイム差があまり縮まらず、残り5km地点でもまだ1分ほどのリードを保っている。

しかし、残り4.6km地点でのパトリック・コンラッド(ボーラ)のアタックからメイン集団はさらに活性化し、ダニエル・マルティネス(イネオス)の牽引によるペースアップでルツェンコとのタイム差はぐんぐん縮まっていく。

残り3.2km、ここまで静かにしていた大ベテラン、ヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード)がアタック。

この動きにハーム・ファンフック(ロット)やダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)やセルジオイギータ(EFプロサイクリング)などが呼応して、小集団でルツェンコを追走する。

 

残り2kmを切った辺りで、メイン集団からアルメイダがアタック!

もちろんポガチャルとアダム・イェーツとしてはこの動きを見逃す訳にはいかず、メイン集団は一気にペースを上げて追走、アルメイダもニバリ達も飲み込み、そして登坂力のない選手はポロポロと集団から零れ落ちていく。

残り1km、一瞬の隙を見て飛び出したのはユンボのヨナス・ヴィンゲゴー!

未だに逃げ続けるルツェンコに一気に追いつき、そして残り250mからのアタックで突き放して単独でフィニッシュへ!!

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期待の若手デンマーク人オールラウンダーのヴィンゲゴー、一昨年のツール・ド・ポローニュ以来となるプロ2勝目!

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでもプリモシュ・ログリッチの総合優勝に貢献した期待の若手実力派が、期待に違わぬ見事な走りを披露!

 

ヴィンゲゴーから3秒遅れとなった後続集団では、ポガチャルが先着してボーナスタイムを獲得。

同タイムフィニッシュのアダム・イェーツとのリードを僅かながら更に広げる盤石の走りで、総合優勝をほぼ手中に収める形になった。

 

第6ステージ

今大会3度目の平坦レイアウトのステージ、期待するのはもちろん大迫力の集団スプリント。

 

道中、横風分断を狙うイネオスやドゥクーニンクによるペースアップはあったものの、なんとか集団は形を保ったままレースは進行。

連日の逃げとなったルツェンコを含む逃げ集団や、逃げ吸収後に隙を見て飛び出したドミトリー・グルズジェフ(アスタナ・プレミアテック)の動きもしっかり捕まえ、集団フィニッシュに向けてのペースアップが始まる。

 

激しい位置取り争いを経て、マルティン・ラース(ボーラ・ハンスグローエ)がアッカーマンを引き連れて先頭に出ようとするも、2人の間に生じてしまったギャップにモルコフとベネットというドゥクーニンクの鉄板コンビが入り込み、なんだかラースがドゥクーニンクの2人をアシストしているような状態に。

そのままラースが牽引を終えてモルコフが先頭に立ち、周囲に誰も言ないという絶好の状態でベネットが発射!!

背後につけていたデッケルやヴィヴィアーニやアッカーマンも必死で追うけれども、ベネットに全く追いつけない!!

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文字通り他の選手を寄せ付けない、ベネットの圧勝劇!!

ベネットの、そしてドゥクーニンクの力が存分に発揮された、まさに完勝!

リードアウト職人モルコフの働き、凄すぎる。

 

そして、ステージ2位には昨シーズンは0勝(どころか上位フィニッシュもほぼ無い)という深刻な不振に陥っていたヴィヴィアーニがランクイン。

力強い加速でアッカーマンやデッケルを突き放したこの日の好走、復活の狼煙となるか。

 

第7ステージ

UAEツアー最終日は、前日に続いての集団スプリントが期待できる平坦ステージ。

 

この日もイネオスやドゥクーニンクが横風分断を仕掛け、一時は集団が割れるも残り45km辺りで集団は一つに合流。

ホッと一息ついたのも束の間、何でもない平坦路で大規模な落車が発生してしまう。

落車したのは…なんと総合2位のアダム・イェーツ!?

しかも顔面から地面に落下したようで、口元からは流血が…。

ただ、一瞬かなり心配したものの、意外とその表情はそれほど深刻なダメージは無い様子にも見える。

ほどなくしてドクターカーで治療を受けながらアダム・イェーツは走行を再開、集団もペースを落として合流を待つ流れに。

「総合2位の選手が最終日の落車によって離脱」なんていう展開にならなくて取り敢えずは一安心。

 

集団はそのまま特に動きは無く進んでいき、最後の決戦となる集団スプリントに向かう。

残り1kmを切って、いい態勢を整えたように見えるのはユアンを引き連れたロットのトレイン。

しかし、ロットのアシストは力を出し尽くしてしまい失速、この日もドゥクーニンクのモルコフとベネットが先頭に出て、そのままフィニッシュを目指す。

「ベネットの連勝か!」と思ったけれども、昨日と大きく違ったのは、ベネットの背後にアシストを失ったユアンが張り付いたこと。

飛び出したベネットのスリップストリームを利用して、ユアンの小さな体が爆発的な加速力を見せる!!

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「ポケット・ロケット」の名に恥じぬ圧倒的な爆発力を見せつけ、最終ステージはユアンが勝利!!

ここまでのステージでは位置取りに苦しんでいた印象が強かったけれども、この日はチームメイトが残り500m辺りまでユアンエスコートして先頭付近をキープ。

このタイミングでこれだけいい位置にいる事が出来れば、あとはその個の力で自ずと勝機は見えてくるという、若干アバウトな作戦に見えながらユアンの強みが存分に発揮される、そんな展開だった。

やはり、直近の2年でツール5勝の力は伊達ではない。

その圧倒的な爆発力で、今年はどれだけの勝利を積み重ねるのだろうか。

 

結果だけ見ると波乱は少ない

今シーズン最初のワールドツアーレース、UAEツアーがこれで無事に終了。

改めて総合順位を確認。

 

総合1位:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ

総合2位:アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ

総合3位:ジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ

 

戦前に予想された3強がそのまま順当に表彰台の座を掴み取った形に。

ポガチャルは流石はツール覇者という完璧な走り。

TTでステージ4位、2度あった山岳ステージも1勝と総合勢トップという、付け入る隙の無い強さを披露して、地元チームのエースとしての使命を完璧にこなしてみせた。

 

アダム・イェーツはやはりTTで少し遅れを取るも、山岳ではポガチャルと唯一対等に渡り合い、イネオスのエースとしての面目躍如といったところか。

今後のレースでもイネオスの強力アシスト陣と共に暴れまわる事を予感させるには十分な内容だったと思う。

 

前年のジロ・デ・イタリアで覚醒したアルメイダは、得意のTTではしっかりとタイムを稼ぎつつ山岳でもペーシング走法で大きくは遅れないという、TT系オールラウンダーのお手本のような走りを見せ、その実力が一過的な物ではないとしっかりと証明してくれた。

今回は披露する機会が無かったものの、他の総合系の選手にはあまりないパンチ力も兼ね備えるので、積極的な走りでレースを面白くしてくれる存在として、今後も楽しみで仕方がない。

 

今回は各ステージの勝者も改めて振り返ってみる。

 

第1ステージ:マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)

第2ステージ:フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ

第3ステージ:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ

第4ステージ:サム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ

第5ステージ:ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

第6ステージ:サム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ

第7ステージ:カレブ・ユアン(ロット・スーダル)

 

こうして見ると、第5ステージのヴィンゲゴー以外は名だたる超一流選手ばかりで、実力者が順当に力を発揮したレースだったと思える。

今シーズンもここまで既に中止になったレースが多く、このUAEツアーがシーズン開幕となった有力選手もかなりいたので、ため込んでいた力と思いを一気にぶつけたと解釈もできるかな。

第1ステージの横風分断、そして第2ステージでのアルペシンの撤退と、波乱続きの幕開けだったけれども、何はともあれ無事に終了した事が嬉しい。

 

3月に入り、レーススケジュールはいよいよ本格化して盛り上がりを見せている。

3月だけでもストラーデ・ビアンケ、パリ~ニース、ティレーノ~アドレアティコ、ミラノ~サンレモ、ボルタ・ア・カタルーニャと、注目レースが目白押しで楽しみは尽きない。

正直なところ、全部追うのはなかなか大変だな(選手の方が大変だろ!)と思ったりもしながら、それでも可能な限り楽しんでいこうと思う。

それでは、また!