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【レース感想】ジロ・デ・イタリア2021 第14ステージ

悪名高きゾンコラン

「悪名高い」という言葉は、普通に考えれば山に用いる言葉ではない気がする。

それでも、このゾンコランの凶悪な(これも普通は山には用いない…)プロフィールは、そんな言葉も使いたくなるぐらいとんでもないもの。

登坂距離14.1km・平均勾配8.5%・最大勾配27%。

特に、残り3kmからは1kmごとに勾配が厳しくなり、平均勾配は11.2%→13.1%→14.7%、最大勾配は22%→25%→27%と、目を疑うような数字が並んでいる。

間違い無く、総合勢の動きがある。

最終決戦の場ではないけれども、間違いなく総合優勝を狙える選手がかなり絞られる、超重要な第14ステージ。

 

ゾンコランは濃霧に覆われる険しい天気という情報が入ってくる中、スタート直後から割と激しめのアタック合戦の展開に。

前日ステージ2位のエドアルド・アッフィニ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)の動きをきっかけに、11人の逃げが形成される。

更にそこに加わろうと追走を掛ける選手がいたけれども、イネオス・グレナディアーズがフィリッポ・ガンナの牽きでそれらの動きは吸収してしまい、逃げは先ほど形成された11人で確定する。

 

メイン集団をコントロールするのは総合リーダーのエガン・ベルナルを抱えるイネオス…ではなく、アスタナ・プレミアテック。

これは…イネオスの「逃げ切り容認」のペースングが不満?

つまり、エースのアレクサンドル・ウラソフを総合ジャンプアップさせると同時にステージを取りに行くという事…?

それとも、イネオス以上のハイペースを刻むことで、ライバルチームの山岳アシストにダメージを与えたい?

いや、それは逆効果かな…?

細かい意図はともかくとして、アスタナが何か積極的に動きたい、そんな意志は間違いなく感じられる展開に。

 

残り58.1kmの2級山岳を超えてから、アスタナは意外な形で牙をむいてくる。

なんと、テクニカルなダウンヒルで意表を突いたペースアップを仕掛けてきた!

この動きでメイン集団は3つに分断!

先頭集団はアスタナがウラソフ、ルイスレオン・サンチェス、ゴルカ・イサギレ、ハロルド・テハダの4人、イネオスがベルナルとジョナタン・カストロビエホの2人、そしてバーレーン・ヴィクトリアスのペッリョ・ビルバオという、わずか7人に!

後方とのタイム差は30秒、更にその後ろにレムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ)などのいるグループと言う、かなり予想外な展開!

アスタナの奇襲が見事に決まった…ようにも見えたけれども、ダウンヒル直後の登り返しで、集団はまた一つに合流する事に。

 

残り14km、逃げ集団が遂にゾンコランの登坂口に到着。

ここまで積極的に逃げ集団を牽いてきたアッフィニとジャコポ・モスカ(トレック・セガフレード)はこの辺りで脱落。

アッフィニとモスカはそれぞれ一緒に逃げに乗ったジョージ・ベネット(ユンボ)とバウケ・モレマ(トレック)のステージ勝利の為、全て出し尽くすまで牽引を行うという、アシストの鏡のような素晴らしい働きっぷりを見せてくれた。

残り11km辺りで、ヤン・トラトニクが先頭集団から飛び出すと、意外にも誰も反応せず、トラトニクが独走を開始。

残り10km地点、ロレンツォ・フォルトゥナート(エオロ・コメタ)が単身でトラトニク目掛けて飛び出して合流に成功するけれども、後続のベネットやモレマはこれを追いかけない…?

まだフィニッシュまで距離はあるとはいえ、それでいいのか…?

もしかして、あれだけアシストしてもらっていたのに、実はもう厳しかったりする…?

結局、トラトニクとフォルトゥナートの2人は他の逃げてきた選手との差を決定的にして、ステージ勝利を目指して登っていく。

 

一方のメイン集団は、登坂口からはアスタナが牽引を続けていたけれども、ほどなくしてイネオスが集団の牽引を開始。

ジャンニ・モスコン、ジョナタン・ナルバエスカストロビエホ、ベルナル、ダニエル・マルティネスという、相変わらず鉄壁にして盤石の態勢。

やはりイネオスが牽くと少しづつ逃げとのタイム差が縮まっていくけれども、その縮まり方は思った以上に緩やかで、先頭が残り6kmの時点でまだ5分の開きがある状態。

これは…もしかして逃げ切りもあり得る?

 

先頭を逃げる2人は、追走とのタイム差50秒、メイン集団とのタイム差4分という状況で、残り3kmから始まる激坂区間に突入。

追走はタイム差を縮められない厳しい状態、一方のメイン集団はじわじわと近づいてきている上に、エースのアタックが掛かったらとんでもない勢いで差を詰める可能性はある…けれども、流石に差が開きすぎか?

残り2.3km、先頭で先に動いたのはフォルトゥナート!

フォルトゥナートの踏みは力強く、トラトニクとの差を徐々に広げていく!

そのまま安全圏と言えるリードを保ったまま残り1kmのゲートを通過!!

 

ほぼ同じタイミングでメイン集団では、ここまでのステージでは息をひそめていたサイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ)が遂にアタック!

そしてサイモン・イェーツのアタックに付いていけたのは、マリア・ローザを着るベルナルのみ!!

「別次元」の登坂力を見せる2人はメイン集団との差をグングン広げていく!!

 

一方の先頭は、フォルトゥナートの勢いが衰えない!

追いかけるトラトニクは急勾配に苦しみ、蛇行しながら登らざるを得ないほど厳しい状況。

フォルトゥナートは歯を食いしばりながら、最後まで力強く踏み続ける!!

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ゾンコランを制したのは、まさかのプロチームであるエオロ・コメタ所属のフォルトゥナート!!

歴戦の猛者たちを振り切り、なんとこれがプロ初勝利!!

そしてエオロ・コメタにとっても、グランツール初勝利なのはもちろん、これが今シーズン初勝利!

この劇的過ぎる結果に、チームオーナーのアルベルト・コンタドールも大興奮!!

かつての名選手が、自分のどんな勝利でも見せなかったような大狂乱状態に…。

まあ、それだけの事が起こったのは間違いないから、むしろこのぐらいエモーショナルな方が見てる側も楽しいかな(笑)。

何はともあれ、おめでとう、フォルトゥナート!

 

そして、メイン集団から飛び出した2人、サイモン・イェーツとベルナルの争いは…。

残り300m、ベルナルがサイモン・イェーツを突き放していく!

そのままベネットやモレマまで抜き去り、余裕のフィニッシュ!!

サイモン・イェーツとは11秒差、その他の総合勢とは40秒以上のタイム差をつける、まさに圧倒的な走り!!

ベルナル、君はやっぱり特別な選手だ!

そのまま総合優勝まで突っ走れ~!!

 

とは言いつつ、この後も厳しい山岳ステージがまだまだ残ってはいる。

このステージで一気に総合2位に浮上したサイモン・イェーツ(1分33秒遅れ)、安定した走りを披露して総合3位をキープしたダミアーノ・カルーゾ(バーレーン、1分51秒遅れ)、この日はタイムは落として総合4位となったものの侮れないウラソフ(1分57秒遅れ)など、当たり前だけれどもライバル達はまだまだ諦めてはいない。

次に迎える勝負の場は、第16ステージ。

標高2000m越えの山を3回も登り、獲得標高5700mにもなる今大会のクイーンステージ。

熱戦を、そしてベルナルの激走を期待したい!