積極性と冷静さ
第15ステージは、3回登る事になる3級山岳とフィニッシュ手前に設定された急勾配の中間スプリントポイントの存在が展開を読みにくくする、スロベニアとイタリアを出たり入ったりする周回コース。
集団スプリントか、アタッカーによる飛び出しか、はたまた逃げが勝つのか、正直言ってかなり予想しにくい。
アクチュアルスタートと同時に逃げを目論む数人が飛び出したと思ったら、その直後にメイン集団で落車が発生してしまう…。
レースが一旦ストップするほど大規模な落車に巻き込まれ、リタイアとなってしまったのは、エマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)、ヨス・ファンエムデン(チーム・ユンボ・ヴィスマ)、ナトナエル・ベルハネ(コフィディス)、ルーベン・ゲレイロ(EFエデュケーション・NIPPO)の4人。
ブッフマンは前日のゾンコランも無難にこなして総合6位につけていただけに、本当に残念だ…。
改めてレースがスタートすると、最初のスタートでも勢いよく飛び出していたチーム・クベカ・アソスの2人、ヴィクトール・カンペナールツとマクシミリアン・ヴァルシャイドがまた先行して、その動きに合わせる形で15人の逃げ集団が出来上がる。
更にこの逃げに乗ろうとする追走も発生していたけれども、結局逃げには合流できずにイネオス・グレナディアーズがコントロールするメイン集団に吸収されてしまう。
イネオスとしては総合を脅かす可能性の無い逃げ集団とのタイム差を詰める意志は全くなく、そしてスプリントチームも少し厳しめのレイアウトを嫌ってか、メイン集団のペースは緩いままレースは進行。
逃げとメイン集団のタイム差は常時10分以上、最大で14分ほどにもなり、早々と逃げ切りが「確定」する展開に。
何度かのアタックが掛かり、フィニッシュまでの距離が短くなるにつれて緊張感が高まる逃げ集団で、大きな動きがあったのは残り22km辺り。
レース開始直後、そして逃げに乗ってからも積極的な動きを見せていたカンペナールツがアタックすると、これに追従したのはオスカル・リースビーク(アルペシン・フェニックス)とアルベルト・トーレス(モビスター)の2人。
直後に登場したこの日最後の3級山岳でカンペナールツが再び加速すると、トーレスは脱落してしまい、先頭はカンペナールツとリースビークの2人に絞られる。
降りしきる雨の中、純粋なスプリント力では分が悪いカンペナールツはダウンヒルをギリギリまで攻めて、なんとかリースビークを引き離そうと試みるけれども、リースビークも粘り強く食らいつく!
残り4kmを切り、最後の仕掛け所である急勾配(最大傾斜14%)に設定された中間スプリントポイントの登坂に入ると、入り口のまだ傾斜が緩い部分でリースビークがアタック!
しかしカンペナールツはしっかりと踏みとどまり、逆に急勾配に差し掛かるとお返しとばかりに加速してリースビークを引き離しにかかる!
リースビークは登坂の頂上まではなんとか付いていくけれども、ダウンヒルのテクニックはカンペナールツの方が明らかに上手く、コーナーでカンペナールツが少し差を広げ、直線でリースビークが追いつくという展開を繰り返す!
ステージ勝利争い、もの凄く熱くて面白い!
ここで引き離したいカンペナールツ、なんとか付いていきたいリースビーク、2人の一進一退の攻防はフィニッシュ手前まで続き、大きくは離れないまま平坦区間に入った事でカンペナールツは無理に引き離す事を一旦諦め、少しペースを緩める。
少し牽制し合いながら、先行するのはカンペナールツ。
雨で濡れてスリッピーな最終コーナーを慎重に抜け、残すは300m。
直後、先に仕掛けたのはリースビーク!
カンペナールツは慌てず、一旦リースビークの背後に潜む!
冷静にリースビークを風除けとして利用したカンペナールツは、残り100mで前に出る!
カンペナールツはそのまま前を譲らず、最後はジャージに刻まれている「クベカの手」をアピールしながら余裕をもってのフィニッシュ!!
積極的にレースを動かしたカンペナールツ、勇気を結果へと実らせた見事なステージ勝利!
スタート直後と再スタート直後、そして逃げ集団からの飛び出しと、先手を打ち続けたカンペナールツ、その攻めの姿勢はひたむきで熱かった!
もちろん、攻めの姿勢だけではなく、最後のスプリントでは慌てず力を溜める冷静さをしっかりと持ち合わせていたのも素晴らしかった!
そしてカンペナールツは、これが意外にもグランツール初勝利。
アワーレコードの世界記録保持者が個人TTではなく、ラインレースで勝利を掴んで見せた!
メイン集団は先頭から17分遅れでのフィニッシュと完全に休息モード。
見据えるは、翌日に控えるクイーンステージ。
標高2000m越えの山岳が3つ登場し、獲得標高5700mを誇る今大会最難関のステージ。
総合争いがいよいよ最大の「山場」を迎える。