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【レース感想】ジロ・デ・イタリア2021 第16ステージ

王者の帰還

第16ステージは、今大会で間違いなく最難関のクイーンステージ。

フェダイア峠、ポルドイ峠、ジャウ峠という標高2000m越えの登坂が3つも登場し、総獲得標高が5700mにも達する、総合争い最大の「山場」。

しかし、レース直前に悪天候の影響によるコース短縮」がアナウンスされる。

フェダイア峠、ポルドイ峠は通らず、ジャウ峠を越えてからのダウンヒルフィニッシュへと変更に。

距離が212kmから152kmへ、獲得標高が5700mから3700mへ、そしてチーマコッピ(大会最高峰)がポルドイ峠(2239m)からジャウ峠(2233m)へ。

しかし、決して難易度が低い訳ではない。

ジャウ峠は登坂距離9.9km・平均勾配9.3%という数字ももちろん厳しいけれども、「勾配が緩む区間がほとんど存在しない」という、恐ろしい特徴を持っている。

確かに当初の予定よりは難易度が下がったとはいえ、この日も降りしきる冷たい雨の影響もあって、間違いなくタフで厳しいレースに、総合争いに大きな影響を与えるレースになる。

 

悪天候の影響で中継の映像が安定しない中、ヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード)やジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)などの有力選手を含む24人もの逃げが形成され、そしてそこから更に6人が抜け出し先行する形に。

抜け出したのは、ニバリ、アマヌエル・ゲブレイグザブハイヤー(トレック)、アルメイダ、ダヴィデ・フォルモロ(UAEチームエミレーツ)、ゴルカ・イサギレ(アスタナ・プレミアテック)、アントニオ・ペドレロ(モビスター・チーム)という、かなりの精鋭揃い。

一方のメイン集団を牽引するのは、総合リーダーのエガン・ベルナルを擁するイネオス・グレナディアーズではなく、総合5位のヒュー・カーシーを抱えるEFエデュケーション・NIPPO

最初に逃げた24人の中に総合12位のダニエル・マーティンイスラエル・スタートアップネーション)が、そしてそこから先行した3人の中に総合13位のアルメイダが入ったため、大きく逃がす訳にはいかないという事か。

イネオスとしてはその2人とベルナルは結構なタイム差が付いていて、別に牽かなくても(多少タイムを稼がれても)問題ないため、EFに任せる構えを見せている。

 

先頭の6人はジャウ峠手前のアップダウンで少し分裂する時間帯もあったけれども、ジャウ峠の入り口には結局6人で到達。

登坂の序盤でフォルモロが抜け出して先行し、ペドレロがこれを単独で追いかけ、そして追い抜いて先頭で独走を開始する。

 

一方のメイン集団は、総合7位のレムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク)が早々に脱落していく様子が映し出される。

今ジロの1週目は快調な走りを見せていたエヴェネプールも、よく考えればケガでの長期離脱からの復帰初戦であると同時に、初めてのグランツール挑戦だ。

3週間を戦い抜くような体が出来上がっていないのは、当然かもしれない。

続いてメイン集団から遅れたのは、総合4位のアレクサンドル・ウラソフ(アスタナ)。

どうやらメカトラ…というか、脱いだレインジャケットがホイールに絡まった(!?)ために遅れたという情報が入ってくる…。

実際、まだ力はしっかり残っていたようで、なんとかメイン集団に復帰しようとペースを上げている様子。

メイン集団を牽引するサイモン・カーのペースはかなり凄まじかったらしく、少し映像が途切れている間に、気が付けば集団に残っている選手が10人を切っている…!?

残っているのは、EFがカーシーと集団を牽引しているカー、イネオスがベルナルとダニエル・マルティネス(総合8位)、あとは総合2位のサイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ)、総合3位のダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)、総合6位のジュリオ・チッコーネ(トレック)、総合9位ロマン・バルデ(チームDSM)と、ほぼ各チームのエースしかいないような状況。

そして、先日の第14ステージで一気に総合順位をジャンプアップさせたサイモン・イェーツが、なんとメイン集団から真っ先に脱落していく…!!

1週目の不調を何とか凌いで、そしてゾンコランでタイムを取り戻し、総合優勝を目指して勝負はここからという、重要なタイミングで失速をしてしまったサイモン・イェーツ。

確かに寒さに弱いイメージはあったけれど、まさかこんな形で総合優勝が遠のくとは…。

 

山頂まで残り5km、先頭は未だに逃げ続けているペドレロ、そして数人の選手を挟んで残り7人のメイン集団、そのタイム差は50秒ほど。

カーが集団の牽引を終えて下がっていくタイミングで飛び出したのは、マリア・ローザを着用するベルナル!!

もちろんライバル達は反応して、特にカーシーがなんとか食らいつこうとするけれども、勢いよく踏み続けるベルナルは全てを振り切ってグングン進んでいく!!

ベルナルは先頭を走っていたペドレロもあっという間に抜き去り、山頂へ向けて独走を開始!!

ここで一旦中継の映像が途絶えてしまうけれども、ベルナルはそのまま山頂をトップ通過して、フィニッシュへと向かうダウンヒルに突入。

山頂通過時の2番手のカルーゾとのタイム差は45秒。

2番手のカルーゾにダウンヒル巧者のバルデが追いついたこともあり少しづつそのタイム差は縮まっていくけれども、ベルナルは30秒程のリードを保ったまま下り切る!

 

未だに中継映像が戻らない状況の中、フィニッシュまで400m地点の定点カメラの映像にベルナルが飛び込んできた!

力強く前方を見据えた表情で、フィニッシュに向けてペダルを回し続けている!

そしてレインジャケットを脱ぎ、総合首位の証であるマリアローザを誇らしげに見せつける!!

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歓声を浴びるようにその両腕を広げ、拳を突き出し、最後はまた両腕を掲げ、そして雄叫びを上げながらフィニッシュ!!

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王者が帰ってきた!!

ツール・ド・フランス2019を制した若き王者は、ケガに苦しんだ2020年を乗り越えて、さらなる強さと誇りをその身に宿し、今ここに帰還した!!

ジャケットを脱ぐ事による数秒のタイムロスを厭わず、マリアローザへのリスペクトと誇りを最大限に表に出して、そして今まで見せた事のないような雄叫びを上げて、自分こそが最強だと表現してくれた!!

ファンはこの瞬間を、どれだけ待ち望んでいたか…!!

痛みや重圧と戦う不安げな表情は、もうそこにはない。

絶対的な強さと、揺るがない矜持。

王者の資質を携えた最強のクライマーが、今ここに帰ってきたのだ!!

 

もちろん、3週目も厳しいステージは続き、そしてライバル達も決して完全に諦めた訳では無いだろう。

それでも、今のベルナルなら最後まで力強く突き進むと、確信している。

ミラノで頂点を掴むその瞬間を、歓喜の瞬間を、確信している。