レースを彩る地元フランスの英雄
ロードレース界最大のイベント、ツール・ド・フランスが遂に開幕!!
昨年は最終盤での大逆転という劇的な展開だったけれども、果たして今年はどんな「物語」が紡ぎ出されるのか。
今年の開幕は、カテゴリー山岳が6つも登場してアップダウンの連続となる丘陵ステージ。
フィニッシュ手前3kmからは激坂を含む登り勾配という事で、パンチャー向けなレイアウト。
ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)、ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)の3人が「3強」と目され、ステージ勝利とマイヨジョーヌを獲得するのは一体誰になるのか注目される中、レースはスタート!
スタート直後にアタックを仕掛けたのは、ジロ・デ・イタリアでも積極的な姿勢を見せていたチーム・クベカ・ネクストハッシュの2人、ヴィクトル・カンペナールツとマクシミリアン・ヴァルシャイド。
2人は一旦引き戻されて、しばらくはなかなか逃げが決まり切らない展開になるけれども、4級山岳の手前で再度アタックをしたカンペナールツが抜け出す形に。
カンペナールツはそのまま追走を振り切って山頂の先頭通過(山岳ポイント1ポイント獲得)には成功するものの、そのまま逃げはせずにメイン集団に吸収。
そして改めて形成された逃げ集団は6人、メイン集団とのタイム差は約3分程度。
4級山岳をダニー・ファンポッペル(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)、3級山岳をアントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)が先頭通過と、逃げ集団での山岳賞争いはかなり激しい展開に。
そんな中、この日4つ目のカテゴリー山岳となる4級山岳で、イーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ)が単独での飛び出しを敢行!
スヘリンフはそのまま4級山岳を先頭通過し、先ほどの3級山岳で2位通過のポイントと合わせて、山岳ポイント合計2点となりペレスと並ぶ事に。
そして残り67km辺りでスヘリンフ以外の逃げメンバーはメイン集団に吸収され、山岳賞争いではスヘリンフが圧倒的有利な立場になる。
残り62kmの中間スプリントポイントは、もちろん単独で逃げているスヘリンフが先頭で通過。
そしてメイン集団では、ポイント賞獲得に意欲を燃やす選手が激しい位置取り争いを繰り広げる!
その中には、意外にもカレブ・ユアン(ロット・スーダル)の姿も!
ユアンも含めた有力候補が軒並み参加したメイン集団の中間スプリントポイント争いは、ユアン、ペテル・サガン(ボーラ)、マイケル・マシューズ(チーム・バイクエクスチェンジ)、ブライアン・コカール(B&Bホテルズ P/B KTM)、アルノー・デマール(グルパマFDJ)という順番で通過。
これまでは「ステージ専門」といった感じで中間スプリントでは争う姿を見せてこなかったユアン、今回のツールではグリーンジャージの獲得を目指していきそう!
その後もスヘリンフが順調に逃げて山岳ポイントを獲得する一方で、メイン集団では大事件が発生。
なんと、コース上に身を乗り出した観客が集団のほぼ最前列にいたトニー・マルティン(ユンボ)に接触してしまいマルティンが転倒、狭い道で前方の選手が転倒した事で連鎖的に50人以上の選手が落車するという大惨事に…。
落車の発端となった観客は、レースそっちのけでカメラに向けて手書きのボードを掲げていて、自分が危険な位置に身を乗り出しているという事に、気が付いてすらいなかったように見える。
難を逃れた十数名以外、転倒した選手だけでなくほぼ全ての選手が足止めを食らってしまうという、レースそのものが揺らぎかねない大事故が1人の観客の愚行によって引き起こされるという、絶対にあってはならない事が起きてしまった…。
難を逃れた選手たちも流石に遅れた選手を待って、集団はまた一つになってレースはそのまま続行。
しかし、この集団落車によりヤシャ・ズッタリン(チームDSM)は無念のリタイア。
繰り返しになるけれども、観客がレースの邪魔をする事や選手を危険にさらす事は、絶対にあってはならない。
レースを主催するASOは、落車を引き起こした観客に対して訴訟を起こす模様。
過去にもレースを台無しにしてきた観客がいたけれども、自分が知る限りではレース主催者が正式に訴えるのは初めてだと思う。
悪質な妨害行為であり選手を危険に晒す行為な訳だから、SNS上での晒上げなどではなく、法の下で厳粛に裁きが下されるべきだ。
話をレースに戻すと、逃げ続けていたスヘリンフは残り27kmでメイン集団に吸収される。
さあ、残すはフィニッシュに向けた3kmの登坂で勝負…と思っていたら、またしてもトラブルが発生。
残り7.6km地点、集団の中ほどでまたしても大規模な落車が発生してしまう。
フィニッシュに向けてスピードが上がっていた事もあり、かなり激しく転倒した選手も結構いる…。
主だった総合優勝候補やこの日のステージ優勝候補は難を逃れたけれども、ここでも2人の選手がリタイアする事に…。
レースに落車は付き物とは言え、これは見ていて辛い展開だ…。
もちろん、それでもレースは進んでいく。
50人ほどに減ってしまった集団を猛牽引するのは、ドゥクーニンクのダヴィデ・バッレリーニやカスパー・アスグリーン辺り。
そのままドゥクーニンクが主導権を握ったまま、残り3kmからの登り勾配に突入していく。
ドリス・デヴェナインスのアシストを受けて、ドゥクーニンクのエースであるアラフィリップが残り2.3kmから早めのアタック!
この急勾配区間でのアラフィリップのキレッキレのアタックに、何と誰も付いていけない!
プリモシュ・ログリッチ(ユンボ)、ピエール・ラトゥール(トタル・エナジーズ)、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)といった総合勢が追いかけるけれども、アラフィリップの勢いは全く衰えないどころか、逆に差を広げるほどの強さを見せる!
最後は勝利を確信しながら、我が子の誕生を自ら祝福するガッツポーズ!!
これぞ絵になる男!!
アラフィリップによる美しい勝利!!
2km以上を残して激坂でのアタック、そしてそれを一発で決めてしまう鮮やかさ!
そして喜びを全身で表現するフィニッシュシーン!
相変わらずカッコ良すぎる…!
昨年は亡くなってしまった父に捧げる勝利、そして今回は1週間前に生まれた息子への祝福の勝利と、「持っている」としか言いようのないスター性。
アラフィリップという唯一無二の存在による快進撃は、今年も止まらない!!