怪物、見参
第2ステージは、4つの4級山岳を超えてから3級山岳「ミュール・ド・ブルターニュ」を2回登る、前日に続いてパンチャー向けな丘陵ステージ。
スタート直後から積極的に動いたのは、山岳賞ジャージを着用するイーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ)。
ただ、スヘリンフの動きはなかなか実らず、アントニー・ペレス(コフィディス)、エドワード・トゥーンス(トレック・セガフレード)、サイモン・クラーク(チーム・クベカ・ネクストハッシュ)、ヨナス・コッホ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)という、ワールドチームの選手のみによる逃げ集団が一旦形成される事に。
山岳賞を争うライバルのペレスが逃げに乗ってしまったことでスヘリンフはその後も何度もアタックを仕掛け、ジェレミー・カボット(チーム・トタル・エナジーズ)を伴って何とか合流に成功して、逃げは6人に。
メイン集団から最大4分ほどのタイム差を与えられた逃げ集団内では、山岳賞ポイント1位のスヘリンフ(3pt)と2位のペレス(2pt)による激しい争いが勃発!
まずは一つ目の4級山岳、山頂目指してペレスが加速すると、スヘリンフももちろん反応するけれども明らかにペレスの方が強い!
そのままペレスが山頂を先頭で通過して、スヘリンフにポイントで並ぶことに成功!
スヘリンフも負けじと山頂通過後に抜け出そうと試みるけれども、ここは前日と同じ轍を踏みたくないペレスが許さない。
2つ目の4級山岳では、パンチ力では厳しいと悟ったスヘリンフが山頂まで約1.5kmの地点から早掛けを試みるけれども、ペレスは慌てずに対応。
ペレスはそのままカウンターで突き放しにかかるものの、流石に山頂までまだ距離があるので一旦脚を緩めて、スヘリンフとコッホが追いついて来る。
そのままペレスが先頭で後方を窺いながら、スヘリンフは差すような目線でその背中を睨みながら、山頂への距離が徐々に縮んでいく。
山頂まで残り400m、またもや早めに仕掛けたのはスヘリンフ!
警戒していたペレスはしっかりと反応して前を譲らない…けれども、スヘリンフも諦めずに踏みを止めない!
徐々にペレスの踏みが弱まり、一方のスヘリンフは死に物狂いの形相で粘り続け、そして遂にスヘリンフが前に出る!
ペレスはもう力が残っていなかったのかここで諦め、スヘリンフが先頭で山頂を通過!
これでスヘリンフは再度ペレスを突き放して山岳賞単独首位に!
踏み込んでいる時、そして山頂通過の瞬間のスヘリンフの気合の入りまくった表情、これがとんでもなく熱かった!
そして、その後の2つの4級山岳は逃げ集団から飛び出したトゥーンスが先頭通過。
山岳賞争いはスヘリンフが1ポイントリードした状態で、逃げは全てメイン集団に吸収される事に。
ここまでの道中、メイン集団はこの日も中間スプリントポイントで争いが発生。
集団の先頭(全体7位)で通過したのは、前日に続いてカレブ・ユアン(ロット・スーダル)。
ユアン、今回はやはりポイント賞を狙っていきそうで、明日からはポイント賞争いも過熱しそうで楽しみだ。
逃げが吸収されて一つとなった集団はいよいよ勝負所、先頭通過で8秒のボーナスタイムが獲得できる1回目の「ミュール・ド・ブルターニュ」の登坂に突入。
2kmの登坂の入り口、勾配が厳しい箇所でアタックを仕掛けたのはマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)!
総合で18秒遅れのファンデルプールは、ここでのボーナスタイム8秒とフィニッシュでのボーナスタイム10秒を両方獲る事が出来れば(そしてフィニッシュでタイム差を付ける事が出来れば)、マイヨジョーヌ着用が現実味を帯びてくる!
集団はUAEチームエミレーツが牽引するけれども、ファンデルプールは「怪物」の異名の通り恐ろしい脚を披露して、山頂まで2km弱の地点からの早掛けでも勢いは衰えない!
ファンデルプールはそのまま先頭で山頂を通過して8秒獲得に成功!
メイン集団は山頂100m手前で飛び出したタデイ・ポガチャル(UAE)、プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)の順番で通過して、それぞれ5秒と2秒のボーナスタイムを獲得。
総合首位のジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)はボーナスタイムを獲得できなかったので、ファンデルプールが総合首位まで10秒差に詰め寄った状態で、フィニッシュ地点である2回目の「ミュール・ド・ブルターニュ」へ向かっていく事に。
集団は主にイネオス・グレナディアーズが隊列を組んで前方に陣取る形で、2回目の「ミュール・ド・ブルターニュ」に突入。
イネオスはミハウ・クフィアトコフスキが仕事を終え、リッチー・ポート、ゲラント・トーマス、リチャル・カラパスの3人を揃えるという、相変わらず盤石の構え。
残り1.3km、外側からアタックを仕掛けたのは、なんとナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)!
この背中に飛び乗ったのはファンデルプール!
そして盤石のように見えたイネオスは、気が付けばエースのトーマスがポジションを下げている!?
よくよく映像を見返すと、残り1.5km辺りからトーマスは下がり始め、ポートが振り返って探している…。
キンタナとファンデルプールが一旦吸収されると、残り900mで仕掛けたのはソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)!
この動きにもファンデルプールがすぐさま反応、そしてポガチャルとログリッチもついて来る!
そして残り800mを切った辺りで、またしてもファンデルプールがアタック!!
ファンデルプールのとんでもない勢いの加速に、誰も付いていけない!!
その差は一気に広がっていく!!
「怪物」はそのままフィニッシュまで独走!!
最後は天を指さしながらのフィニッシュ!!
これぞ「怪物」!!
これぞマチュー・ファンデルプール!!
圧倒的な個の力でステージ勝利とボーナスタイムを全てかっさらい、一気に総合首位に!!
一昨年に亡くなったファンデルプールの祖父レイモン・プリドールは、ツールの総合表彰台に8度も登った名選手だった。
そのプリドールが最後まで着る事のできなかった王者の証である黄色いジャージを、ファンデルプールは「怪物」の異名に相応しい圧倒的な走りで見事に掴みとり、そしてフィニッシュでは天に向かって指をさしてみせた。
フィニッシュ後のインタビューでは、感極まって涙を抑えられないファンデルプール。
「怪物」がツールの歴史に書き記す、なんとも美しい物語。
私たちはこういう瞬間を見たいがために、ロードレースを観戦しているのだと思う。
ありがとう、ファンデルプール。
おめでとう、ファンデルプール。
残りのステージでも、思う存分暴れまわってくれ!!
一方の総合勢による争いは、ステージ2位にはポガチャル、3位にはログリッチが入ったのに対して、イネオスのエースであるトーマスはそこから17秒遅れてのフィニッシュとなってしまった。
ポガチャルとログリッチという圧倒的な「個の力」を持つ2人に対して、圧倒的な「チーム力」で立ち向かうはずのイネオスは、早くも暗雲が立ち込めるような状況になってきた…。
とはいえ、ツールはまだまだ序盤も序盤、タイムも大きく失った訳ではない。
ここからどう巻き返しを図るのか、期待していきたい。