30→31
波乱の第3ステージを終え、第4ステージはカテゴリー山岳が存在しない平坦なレイアウト。
アクチュアルスタート直後、前日の「危険なレイアウト」に対する抗議として、選手達は走り出さずに止まる事を選択。
どうやら、第3ステージ開始前に「フィニッシュ前のレイアウトが危険すぎるので救済措置区間を3kmから5kmに変更して欲しい」と選手たちが要望を出し、レースを主催するASOはそれを承諾したけれども、UCIコミッセール(審判団)がNGを出した結果として第3ステージで落車が多発した、という経緯があったためのよう。
数分間の「ストライキ」、そして走り出してからも10kmほどはスローペースで走り、抗議をする選手達。
ファンとしては、もちろん選手が危険に晒されるのは避けて欲しい。
UCI、レース主催者、選手、チーム関係者など、レースに携わる「関係者」が上手く話し合って、ロードレース界がよりよい方向へ進んでくれる事を願うのみだ。
そんないつもと違う光景を経て、レースが動き出してから逃げを試みたのはブレント・ファンムール(ロット・スーダル)とピエールリュック・ペリション(コフィディス)の2人。
逃げ切りが困難、そして山岳ポイントを稼げないという「逃げるうまみ」が少ないステージで果敢に飛び出した2人は、メイン集団から3分ほどのリードを許される。
前日までと打って変わって平穏な展開でレースは進んでいき、残り34km地点の中間スプリントポイントまでは特に何もない状態が続く。
中間スプリントポイントを先頭通過したのはファンムール。
そしてメイン集団の先頭(全体3位)で通過したのは、マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)。
ミケル・モルコフのリードアウトに導かれて、他のスプリンターを余裕で制する。
まだ中間スプリントという事でどの選手も「本気」の踏みでは無いとは言え…これはカヴェンディッシュの調子がいいのかもしれない。
かつては最速の名を欲しいままにしたレジェンドは、果たして久々のツールで輝く事ができるか。
残り15kmを過ぎて逃げとメイン集団のタイム差が30秒程にまで縮まって来ると、先頭のファンムールがペリションを置き去りにして独走を開始。
先日のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで驚きの逃げ切りを見せたファンムール、単独でどこまでやれるかと思っていたら、タイム差を徐々に広げていく…!?
なんと、残り10km辺りでメイン集団との差は1分にまで広がり、残り7kmでも1分差のまま。
これは…もしかすると…?
この予想外のファンムールの粘りに、流石にメイン集団のスプリンターズチームが本気の牽引を開始してタイム差を縮めに掛かるけれども、ロットの選手がローテーションを阻害して思うようにペースが上がらない。
残り5km、50秒差。
残り4km、40秒差。
残り3km、…まだ30秒強の差が残っている。
残り2km、20秒差。
メイン集団は主導権を主張して引っ張るチームがいないような状況になっていて、このタイミングでもペースが上がり切らない…!
そのままファンムールが先頭でフラムルージュを通過!
集団との差は…10秒!
これはかなり際どいぞ…!!
ただ、ここから若干の登り基調、ファンムールは顔を苦痛に歪めながら最後の力を振り絞る!
残り500m、集団はもうすぐ後ろまで迫ってきたけれども、ファンムールは諦めない!!
残り400m、300m、そして…残り200mでメイン集団からスプリンターが飛び出すと、そのままファンムールを抜き去っていく!!
先陣を切ってフィニッシュを目指すのは、前日はアシストに徹したジャスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)!
その背中に張り付いているのはカヴェンディッシュ!
更にその横からはケース・ボル(チームDSM)がポジションを上げてくる!
フィリプセンとボルとの狭い隙間を縫って、カヴェンディッシュが先頭に踊り出る!!
カヴェンディッシュはそのままフィニッシュまで突き抜ける!!
「最速の男」が帰ってきた!!
カヴェンディッシュ、実に5年振りとなるツールでのステージ勝利!!
お馴染みの両腕を突き出すガッツポーズを、力強く2度繰り出す!!
ケガ、病気、不振…様々な困難と闘い、2年以上勝利から遠ざかる苦難の日々を乗り越え、たどり着いたのは古巣チームであるドゥクーニンク・クイックステップ。
その力を疑問視されながらも、エースを務める予定だったサム・ベネットの代役としてツール出場を果たし、そして掴み取ったツールのステージ31勝目。
もう加算される事は無いと思われていた数字を動かした最速の男は、チームメイトと熱い抱擁を交わしながら号泣する。
歴史に名を残す偉大なスプリンターが復活の勝利に泣きじゃくる姿に、見ているこちらも感情を激しく揺さぶられてしまう。
自分は全盛期のカヴェンディッシュをリアルタイムでは見ていないけれども、まさかこれほど心を動かされるとは…。
素晴らしい走り、素晴らしい勝利、そして素晴らしい瞬間をありがとう、カヴェンディッシュ。
もしかしたら、不可能と思われていたエディ・メルクスの持つツール最多34勝の更新も、再び見えてきたのではないか。
残りのステージも楽しみだ!!