未だ見えない、その才能の天井
第5ステージは、本格的な総合争いの幕が開けるであろう、27.2kmの個人タイムトライアル。
最序盤に出走したトニー・マルティン(チーム・ユンボ・ヴィスマ)が明らかに力をセーブしながらも暫定トップタイムを出したり、そのタイムを個人TTが苦手なイメージのあったセップ・クス(ユンボ)が塗り替えたりする中、明確なターゲットタイムを叩き出したのはミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ)。
やはり、U23カテゴリー世界選手権個人TT3連覇の実績は伊達ではない。
そしてビョーグがフィニッシュした後から雨脚が強まってきた事もあって、その後の選手はなかなか苦戦を強いられる状況に。
有力候補と目されていたブランドン・マクナルティ(UAE)は落車で大きくタイムを失い、シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)も落車こそ免れたもののかなり危険なスリップをしたためタイムロス、ビョーグには21秒届かない。
「ビョーグは注目している選手だからステージ勝利してくれたら嬉しいけど、もしこのまま雨が続いて、後半に出走する総合勢の争いに影響が出たら嫌だなぁ…」と思っていたところ、次第に天候は回復して晴れ模様に。
万全の走りができるコンディションが整う中、真っ先にビョーグのタイムを塗り替えたのはマッテオ・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ)。
しかしその直後、今日のステージ最大の優勝候補の1人であるヨーロッパチャンピオンジャージを身に纏ったシュテファン・キュング(グルパマFDJ)が出走。
全ての中間計測地点でトップタイムを記録する貫禄の走りを見せ、カッタネオのタイムを36秒も更新する。
その後、カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク)やヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ)が中間計測でキュングを上回る好走を見せるも、最終的なフィニッシュタイムでは抜き去る事が出来なかった。
総合勢では、落車の影響が心配されていたゲラント・トーマス(イネオス)とプリモシュ・ログリッチ(ユンボ)のタイムがやはり伸びない…。
トーマスはキュングから59秒遅れ、ログリッチは25秒遅れのタイムでフィニッシュと、本来の状態ならタイムを稼ぐ狙いだったはずの個人TTでタイムを失ってしまう。
トーマスとログリッチというライバルが苦しむ中、「3強」の一角タデイ・ポガチャル(UAE)が出走。
まずは第1中間計測で、アスグリーンの記録を10秒更新。
は、速いぞ、これは…。
更には第2中間計測でも、キュングのマークしたトップタイムを17秒更新…!
もう、手が付けられない。
誰もポガチャルを止める事なんてできない。
そのままフィニッシュでもキュングのタイムを19秒上回ったポガチャルがステージ優勝!!
王者の力は、これほどまでに圧倒的なのか。
その才能の天井は、一体どこにあると言うのか。
ディフェンディングチャンピオンのポガチャル、王座の防衛へ向けて、視界は限りなく良好だ。
そして総合争いやステージ争いと並んで注目されていたのが、マイヨジョーヌ争い。
個人TTを走り慣れていないマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)は果たして総合首位の座を守れるのか、皆が固唾を飲んで見守る中、「怪物」は出走。
「TTの練習なんてほとんどした事が無い」「ポジショニングの調整も充分に行えていない」と語るファンデルプール、果たしてその走りは…。
…いや、普通に速いぞ、これ。
ポガチャルから31秒遅れのステージ5位でフィニッシュして、8秒差でマイヨジョーヌのキープに成功!
「怪物」はどこまでいっても「怪物」。
その圧倒的な出力の前には、「練習不足」なんて要素は微々たる影響しか与えなかった…。
というか、しっかりTTの練習を積んで、風洞実験などで最適なフォームを身につけたりしたら、一体どうなってしまうのか。
ポガチャルとは別ベクトルで天井知らずな才能は、きっと今後も私たちを楽しませてくれる。
ポガチャルやファンデルプールといった、伝説として語り継がれるであろう選手の走りを楽しめる私たちは、幸せ者だ。