圧倒的な爆発力で勝利を量産する「ポケットロケット」
選手名:カレブ・ユアン(Caleb Ewan)
所属チーム:チーム・ジェイコ・アルウラー
国籍:オーストラリア
生年月日:1994年7月11日
脚質:スプリンター
主な戦歴
ステージ通算5勝(2019 ×3、2020 × 2)
ステージ通算5勝(2017、2019 × 2、2021 ×2)
ステージ1勝(2015)
ステージ通算9勝(2016 × 2、2017 × 4、2018、2020 × 2)
・UAEツアー
ステージ通算3勝(2019、2020、2021)
・ツアー・オブ・ターキー
ステージ通算2勝(2019)
・ツール・ド・ポローニュ
ステージ1勝(2017)
・ベネルクス・ツアー
ステージ1勝(2021)
・ティレーノ~アドレアティコ
ステージ1勝(2022)
優勝(2016)
・ミラノ~サンレモ
2位(2018、2021)
どんな選手?
167cmという小柄な体格ながら圧倒的な爆発力を有し、「ポケットロケット」と称される現役屈指のスプリンター。
プロ契約前から若手の登竜門であるツール・ド・ラヴニールでステージ3勝(2013年2勝、2014年1勝)を挙げるなどの結果を出して注目を集め、2014年10月に地元オーストラリア籍のワールドチームであるオリカ・グリーンエッジ(現チーム・ジェイコ・アルウラー)と契約。
直後に出場したツアー・オブ・北京でいきなりステージ2位に入り、前評判に違わぬ実力を発揮する事に成功する。
プロとして初めてフルシーズンを走る2015年も、序盤からヘラルド・サンツアーやツール・ド・ランカウィでそれぞれステージ2勝ずつを上げるなど、好調をキープ。
勢いそのままに、9月にはグランツール(3大ステージレース)の一つであるブエルタ・ア・エスパーニャに初出場するだけでなく、第5ステージで待望のワールドツアー初勝利を飾り、改めてその才能の大きさを証明して見せた。
2016年も、地元オーストラリア最大のレースであるツアー・ダウンアンダーでステージ2勝という上々の立ち上がりを見せ、5月にはジロ・デ・イタリアに初出場。
残念ながらジロで勝利は挙げられなかったが、8月にはワールドツアーのワンデーレースであるサイクラシック・ハンブルグで勝利を飾るなど、しっかりと勝利を重ねていく。
ここまでの活躍でも十分にワールドツアー上位のスプリンターと言えるものだったが、2017年にその才能が一気に爆発する。
まずは年初のダウンアンダーで驚愕のステージ4勝を挙げ、5月には昨年は達成できなかったジロでのステージ勝利も挙げる。
この時点で23歳のユアンは、同年ジロ4勝を挙げたフェルナンド・ガビリア(当時クイックステップ・フロアーズ)と言う同い年のライバルと共に、間違いなく今後のスプリント争いの主役となっていくと予想されていた。
2018年もダウンアンダーでステージ1勝と順調なスタートを切ったユアンだったが、このシーズンはそこからイマイチ調子が上がらず、ワールドツアーでの勝利はこの1勝のみに終わってしまう。
下位カテゴリーのレースではしっかり勝利を収め、そしてミラノ~サンレモでの2位を筆頭にワールドツアーでも上位フィニッシュは繰り返していたので、決して深刻な不振だった訳では無い。
ただ、チームからの評価は芳しくなかったのか、なんと2018シーズンはまさかのグランツールへの出場がゼロ。
この状況を打破すべく、ユアンは絶対的なエースとしての待遇、そしてツール・ド・フランスへの初出場を求め、2019年からはロット・スーダルへと移籍する事に。
2019年、恒例のダウンアンダーでの勝利は逃してしまったが、2月のUAEツアーでしっかりと移籍後初勝利を挙げたユアン。
5月には2年ぶりの出場となったジロでステージ2勝と、しっかりとその実力をアピールしていく。
そして7月、遂にユアンはツール初出場を果たすと、第11ステージで待望のステージ勝利を飾る事に成功。
これで波の乗ったユアンは、第16ステージ、そしてスプリンターの頂上決戦とも言える第21ステージのシャンゼリゼでのスプリントも制し、初出場のツールでステージ3勝と言う結果を残す事に。
全グランツールでのステージ勝利達成、ツールでの同一年3勝、そしてシャンゼリゼ勝利と、ユアンの実績はこの時点で世界トップクラスと言っても過言ではないものとなった。
2020年、まずは前年勝てなかったダウンアンダーでステージ2勝、更にはUAEツアーでは前年と同じハッタ・ダムの登りスプリントで勝利と、相性のいいレースで確実に結果を残していく。
そして新型コロナウィルスの影響による中断期間を経て開催されたツールでも、しっかりとステージ2勝の活躍を見せる。
第3ステージでは急激な進路変更を可能にする身軽さと判断力、そして第11ステージでは横並びのスプリントを制するその爆発力と、ユアンの強さが凝縮されたような2勝だった。
2021年、ユアンは「同一年での全グランツールステージ勝利」を目標にシーズンイン。
年初のUAEツアーでまずはステージ1勝、そして3月のミラノ~サンレモでは2018年に続く2位と、相変わらず春先からしっかりと結果を残していく。
そして目標のグランツールでは、まずはジロで1週目にステージ2勝を挙げて格の違いを見せつけ、その後第8ステージで膝のケガの為、そしてツールへの調整の為に早めに途中リタイア。
そうやって準備を整えて出場したツールだったが、ここで不運が襲い掛かる。
スプリントフィニッシュの第3ステージ、ユアンは最終コーナーで接触による落車をして鎖骨を骨折してしまう。
スピードの出る下りのコーナーというレイアウトに対して、レース前から「危険すぎる」などの批判の声もあった中、無念のリタイアとなってしまった。
その後、ツールで勝てなかった事もありブエルタへの出場は見送りつつ、ベネルクス・ツアーではステージ1勝と、その実力と意地をしっかりと見せてくれた。
その小柄な体を活かした「低空スプリント」の爆発力、勝負できるコースを見極める判断力とバイクコントロール、そして2018年辺りから急激に成長を見せている登りスプリントへの適正と、現在のユアンの実力が現役最高峰なのは疑いようがない。
ただ、長い山岳を超えるような登坂力の低さ、そして中間スプリントポイントを稼ぎに行かないそのスタイルから(あまり複数回スプリントができるタイプではない?)、スプリンターの大きな称号である「グランツールのポイント賞獲得」にはあまり向いていないようにも見える。
そんな現状を踏まえたからこそ、2021年のユアンの目標は「同一年全グランツールでのステージ勝利」という、それこそ分かりやすくて大きい称号だったのだろう。
もう一度同じ目標を設定するのか、それともグランツールでの(特にツールでの)ポイント賞を狙うのか、はたまた「スプリンターズ・クラシック」のミラノ~サンレモを狙うのか。
現役最高峰のスプリンターによる、誰しもが認める「最強の称号」を手に入れるための挑戦だ。
ポケットロケットが一体どんな軌跡を残すのか、とても楽しみである。
※2023年1月14日追記
2022年のユアンは、初戦のサウジ・ツアーでステージ1勝を挙げると、その後もクールネ~ブリュッセル~クールネでの2位や、ティレーノ~アドレアティコでのステージ勝利など、順調な滑り出しをしたかのように見えた。
しかし、重要なターゲットの一つであったミラノ~サンレモは、直前に胃腸の不調に襲われたために、残念ながら回避せざるを得なかった。
それでもその後、復帰戦のツアー・オブ・ターキーではステージ2勝と、しっかりとコンディションを取り戻して、ジロに臨む事に。
ワールドチーム残留争いに巻き込まれているロットにとって、グランツールでのポイント獲得、つまりエースであるユアンのステージ勝利は必須の状況だった。
ジロには当然、リュディガー・ゼーリッヒやロジャー・クルーゲといったユアンのためのアシストを同行させて、必勝態勢を敷いていた。
しかしここでユアンの調子が上がらず、なんと未勝利のまま(最高順位は第6ステージの2位)、第12ステージを前にして途中リタイアを選択する事に。
ジロの途中リタイアは、ツールに向けてコンディションを整える意味合いも大きかったはずだが、負の連鎖は止まらない。
まず、ツール出場メンバーに何故かユアンの発射台となる選手が見当たらないという、不可解な選出をするロット。
そうなると当然ユアンはジロ以上の苦戦を強いられ、最高順位は第21ステージの8位と、全く勝負に絡めないままツールが終わってしまった。
絶対的エースであるユアンがグランツールでポイントを稼げなかった事もあり、ロットはワールドチームからプロチームへの降格が決定。
ユアンに頼りすぎていたチーム体制の問題も大きいが、2022年はユアン自身の調子が上がらず、期待を裏切るような内容と結果だったのも事実だ。
幸い、ロットはワールドツアーへの自動招待枠を確保できてはいる。
2023年のユアンには、トップカテゴリーのレースで、不完全燃焼だった前年の印象を払拭するような活躍を期待したい。
※2023年12月15日
2023年のユアンは、シーズン開幕直後のシュワルベ・クラシックで勝利と、幸先のいいスタートを切ったように見えた。
しかし、直後のツアー・ダウンアンダー、更には2月のUAEツアー、どちらもステージ2位が最高順位となってしまい、そこからなかなか勝てない日が続いてしまう。
やっと挙げたシーズン2勝目は5月、ベルギーでの1クラスのワンデーレース。
そしてなんと、そこからは勝利を挙げられずに、そのままシーズン終了。
ツールではステージ2位と3位が1回ずつあったが、第13ステージで途中リタイア。
グランツールでの勝利から2年間も遠ざかっているのは、トップスプリンターとしてはあまりにも寂しすぎる。
チームとの不和も伝えられる中、ユアンは2024年からチーム・ジェイコ・アルウラーへ移籍する事が決定。
2018年まで在籍していた地元チームに復帰する格好になったが、チームにはディラン・フルーネウェーヘンというトップクラスのスプリンターがもう一人所属している。
2人の出場レースの振り分け、アシスト体制、そしてそもそもユアンの調子が戻るのか。
気になる部分も色々とあるが、停滞していた直近2年の状況を打ち破るために、移籍を選択した事自体は、決して悪くないだろう。
2024年で30歳と、まだまだ老け込む年齢ではない。
ポケットロケットの再点火、大いに期待したいところだ。