短いながらも濃厚な4日間
南仏はプロヴァンス地方で開催されるUCIプロツアーのステージレース、ツール・ド・ラ・プロヴァンス。
今年で7回目と歴史は浅いながら、今回もかなりネームバリューのあるメンバーが集まっている!
- ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル)
- リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)
- フィリッポ・ガンナ(イネオス)
- エリア・ヴィヴィアーニ(イネオス)
- ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)
- アルノー・デマール(グルパマFDJ)
- イヴァン・ソーサ(モビスター・チーム)
アラフィリップにガンナと、ロードとタイムトライアの世界王者が揃い踏みは、なかなか凄くないか?
プロローグも含めて全4日間と、少し規模が小さいのが寂しいところではあるけれども、タイムトライアル(プロローグ)、平坦、丘陵、山岳と、各カテゴリーが満遍なく組み込まれているのは嬉しいところだ。
プロローグ
初日のプロローグは、コーナーの少ない海岸沿いを走る、7.1kmの平坦なタイムトライアル。
この日のステージ勝者に関しては…もはや多くを語る必要が無い気もする。
世界最速の男「トップ・ガンナ」、その実力の証明。
先日のエトワール・ド・ベセージュでも圧倒的な走りを見せていたガンナ、プロヴァンスでも他を寄せ付けない圧巻の走り!
ステージ2位とステージ10位のタイム差が8秒と、距離が短いために他の選手は僅差の争いをしている中で、ガンナが2位に付けたタイム差は、なんと12秒。
ちょっと、勝負になっていない感すらある。
昨年のように、またタイムトライアルの連勝記録を伸ばしていくのだろうか。
12秒遅れでステージ2位に入ったのは、ガンナと同じくイネオスのイーサン・ヘイター!
スプリントも登りもこなせるイギリスのタイムトライアル王者は、果たして今大会どこを目標とするのか注目していたけれども…。
ひとまず、この時点でタイム差を稼いだのは、総合争いに向けて大きなアドバンテージだ。
他の主な総合勢のタイムは以下の通り。
- ピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ、+15秒)
- アラフィリップ(+17秒)
- ゴルカ・イサギレ(モビスター、+30秒)
- キンタナ(+31秒)
- マイケル・ストーラー(グルパマ、+35秒)
- カラパス(+38秒)
- ソーサ(+1分4秒)
ヘイターを基準とするなら、このタイム差から12秒を引いた数字が実質の総合タイム差だ。
ラトゥールが意外にかなり良くて、風邪で調整不足らしいアラフィリップも普通に良いタイム。
イサギレ、キンタナ、ストーラー辺りは、まあこんなものか。
カラパスに関しては、ベセージュでの落車のダメージがあるだろうから、今回は参考記録。
ディフェンディングチャンピオンのソーサは…このタイムは流石にまずくないか?
第1ステージ
序盤に3級山岳が登場する以外はほぼオールフラットな、スプリンター向けステージ。
ただし、吹きさらしの湿原地帯を走るらしく、横風注意との情報も…。
「横風注意」の情報は、見事に的中する。
仕掛けたのはイネオス、首謀者は横風職人ことルーク・ロウと、世界最高の高速巡航能力を持つガンナ。
2度の仕掛けにより、集団は一気に粉々に!
メイン集団に残れたのは、吸収された逃げ集団も含めて僅か20人強!!
そしてスプリンターは、なんとイネオスのエリア・ヴィヴィアーニのみ!!
イネオスは総合2位のヘイターを切り離すという苦渋の決断をしつつ、ステージ勝利に向けて圧倒的有利な状況を作り出した!
追走集団は、デマールが取り残されてしまったグルパマが中心となって追いかけるけれども、先頭との差は一向に縮まらない…。
途中からは完全に諦めモードに移行して、最終的には9分以上のタイム差となってしまった。
メイン集団で動きがあったのは残り約8km地点、マチェイ・ボドナール(トタルエナジーズ)が単身で飛び出しを図る!
逃がすと厄介なタイムトライアル巧者に対して、イネオスがカラパス(!?)とガンナによる牽引、更にはアラフィリップも追う素振りを見せて捕まえに掛かる。
意外と粘ったボドナールが残り1.5kmで捕まると、カウンターでマッズ・ウルツシュミット(イスラエル・プレミアテック)がアタック!
かなりキレのあるアタックだったけれども、ガンナがこの動きを許さずにピッタリとマークしたため、ウルツシュミットの仕掛けは実らず。
しかし、この一連のペースアップでカラパスが集団から遅れてしまう…!
ただ、イネオスはカラパスを牽引で使っていた事から、ケガ明けのカラパスで無理して総合は狙わない感じで、離脱も織り込み済みかも?
そしていよいよ残り1km。
ラトゥールがスルスルっと前に出ると、その背後という美味しいポジションを掴んだのはイネオスのロウとヴィヴィアーニという隊列、そして更にセップ・ファンマルク(イスラエル)、アラフィリップと続く。
ラトゥールが下がり、イネオスはロウの牽引からのヴィヴィアーニと完璧な形だ!!
最終コーナーの入り口から、ヴィヴィアーニが発射!!
残すは100m、完璧な流れで飛び出したピュアスプリンターに対抗できる選手は…いない!!
ヴィヴィアーニ、違いを見せつけての古巣復帰後初勝利!!
チーム戦略、そして見事な連携が噛み合い、思い描いた通りの完勝!
最後はスプリントで競るライバルがいなかったが故の完勝でもあるけれども、その伸びはかなり良かった!
ある意味、他のスプリンターと比べる事が出来なかったのが残念に感じるぐらいだ。
そして、横風分断を生き残れた総合系の選手がかなり少ないぞ…。
最終ステージの登坂を考えると、可能性が残ったのはアラフィリップ、ラトゥール、キンタナ、マティアス・スケールモース(トレック・セガフレード)、マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター)、オレルアン・パレパントル(AG2Rシトロエン・チーム)、あとは万全ではないカラパスぐらいか…?
スケールモース、ヨルゲンソン、パレパントルは、ちょっと実績が少なくて何とも言えないけど…。
第2ステージ
終盤に2級山岳などのアップダウンが登場し、更にはフィニッシュも約5%の登り勾配と、様々な展開がありそうな丘陵ステージ。
レース開始前、カラパスが新型コロナウィルス陽性(症状はなし)となったため、リタイアという情報が入ってくる。
前向きに捉えるなら、前週の落車の影響で万全では無かったカラパス、逆にしっかり休まざるを得ないのは悪くない事かも?
最大で5人いた逃げ集団は、残り30kmの2級山岳通過時にはアレクシー・グジャール(B&Bホテルズ・KTM)とポール・ウルスラン(トタルエナジーズ)の2人に。
この日の山岳賞ジャージ獲得を決定させたウルスランはここで下がり、グジャールは一人旅になる。
一方のメイン集団では、2級山岳でコフィディスが積極的に牽引を行い、登れない選手をふるい落としに掛かる。
展開次第ではステージ勝利の可能性がありそうだったヘイターとヴィヴィアーニのイネオスコンビは、ここで脱落してしまう。
コフィディスだけでなくトレック、AG2R、クイックステップもメイン集団の牽引に参加し、グジャールは残り2kmで吸収される。
ここからフィニッシュまでは緩い登り勾配、果たしてどんな展開になるか。
残り1.6km、早めに飛び出したのはコフィディスのピエールリュック・ペリション。
コフィディスは2級山岳に続いて、積極的な動きを貫く!
残り1kmを切ってペリションが捕まり、先頭はドリス・デヴェナインス(クイックステップ)、続くのはガンナ(!?)、ウルツシュミット、アラフィリップ、ブライアン・コカール(コフィディス)、デマール、ラトゥール辺りか。
ファンワイルダーが仕事を終えると、真っ先に仕掛けたのはラトゥール!
その背中に飛び乗ったのはコカール、前にいたガンナも当然反応、そしてアラフィリップも猛然と加速!
ラトゥールが失速して残り100m、先頭はコカール!
その後ろではアラフィリップが踏むが…コカールも勢いを失わない!!
前週のベセージュでも登りスプリントを制していたコカール、チームメイトの奮闘に応える見事な勝利!!
好調を維持していたコカール、そしてエースを信じて積極的にレースを動かしたコフィディス。
完璧にかみ合った素晴らしい勝利だった!
第3ステージ
登坂距離13.4km・平均勾配6.5%のリュール峠にフィニッシュする、総合争い最大の勝負所となる今大会のクイーンステージ。
総合優勝を狙うかどうかはともかく、現時点で総合首位はガンナ。
総合表彰台を争う事になるのは、アラフィリップ(+2秒)、ラトゥール(+14秒)、スケールモース(+25秒)、ヨルゲンソン(+25秒)、キンタナ(+32秒)、パレパントル(+38秒)、この辺りの選手までか。
レース開始直後に形成された逃げには、ガンナを擁するイネオスのロウの姿が。
これでイネオスはメイン集団を牽引する責務から逃れると同時に、あわよくばロウによる「前待ち」狙い…?
1級リュール峠突入時、ロマン・コンボー(チームDSM)のアタックによって逃げは2人に。
この時点で先頭の2人とメイン集団のタイム差は僅か1分、そこからコンボーはライバルを突き放して独走を試みるけれども、残り5kmを切った辺りでメイン集団に吸収される。
メイン集団の先頭はルイス・フェルファーケ(クイックステップ)、その後方ではアルケアやトレックのトレインが機を窺う。
タイプ的にはこの長い登坂向きではないガンナも、まだ集団中央辺りで生き残っている。
残り4.5km、キンタナを擁するアルケアが集団の先頭を奪い、ニコラ・エデとマキシム・ブエが一気にペースアップを図る!
集団は縦に引き伸ばされ、ガンナはズルズルと後退…!
流石にこの展開はガンナには厳しいか。
残り4.4km、総合優勝のためには30秒程タイムを稼ぐ必要があるキンタナがここでアタック!!
このキンタナの猛烈なアタックに付いていけたのは、この時点で実質総合首位と言えるアラフィリップのみ!
アマヌエル・ゲブレイグザブハイヤー(トレック)やソーサが遅れて追いかけるけれども、差は縮まらない!
キンタナはアラフィリップを突き放そうと、残り4km辺りから断続的にアタックを繰り返す!
そして残り3.5km、遂にアラフィリップが離れる!!
キンタナ、独走!!
強い!!
これが、皆が見たかったキンタナだ!!
アラフィリップはマイペース走法に切り替え、後方から上がってきたソーサと合流。
残り3kmを切り、キンタナとアラフィリップの差は約20秒。
2人の総合タイム差は30秒なので、これは結構際どくなるかも…?
残り2.5km、アラフィリップがソーサから離される…!
残り2km、キンタナとアラフィリップのタイム差が、ボーナスタイムを考えると入れ替わるところまで開く!
キンタナの踏みは、一向に衰えない!!
キンタナ、これぞクライマーの真骨頂!!
ライバルを完膚なきまでに突き放して、鮮やかなステージ勝利!!
やっぱり、その登坂力はちょっと格が違う!
一方のアラフィリップは、ゲブレイグザブハイヤー、ケニー・エリッソンド(トレック)、スケールモース、ヨルゲンソン、イラン・ファンウィルデル(クイックステップ)の追走集団に追いつかれ、集団でフィニッシュを目指す。
残り200m、ファンウィルデルが懸命の牽きを見せるけれども、アラフィリップはそのスピードに付いていく余力が残っていない…。
そのファンウィルデルの動きを利用して加速するのは、総合表彰台を争うスケールモースとヨルゲンソン!
2人は失速してしまったソーサを抜き、スケールモースがステージ2位、ヨルゲンソンがステージ3位に!
そしてアラフィリップは…、キンタナから47秒遅れのステージ7位でフィニッシュ。
この瞬間、キンタナの逆転総合優勝が決定!!
おめでとう、キンタナ!!
ちなみに、スタート前まで総合首位だったガンナは、1分20秒ほど遅れてフィニッシュ地点へ到着。
いやいや、結構頑張ったな…なんて思っていたら、レース終了後に「ガンナ失格」という驚きの情報が入ってくる…。
なんでも、レース途中でバイク交換をした際の規定違反(バイク本体の交換は指定のチームカーからのみ許可されているが、沿道に待機していたスタッフから受け取ったバイクに乗り換えたため)との事。
確かに、1級山岳に入る前の平坦区間でバイクを交換していて、「登り用の軽量なものに代えたのかも」と中継で指摘されていた。
自分は一瞬「チームカーがなんで前にいるんだ?」と疑問に思ったけれども、「ロウが先頭で逃げていたので、前方にいたチームカーが下りてきた」と勝手に納得していたけれども…。
今大会ステージ2勝を挙げたイネオス、最後の最後にちょっと失敗…。
山岳での総合争いは面白い!
それでは改めて、総合成績を確認。
山岳ステージで圧倒的な強さを見せたキンタナ、2年ぶりとなるプロヴァンス総合優勝!
やはり、万全ならその登坂力は超一級品!
アルケアに移籍して3年目、今年こそ大きな結果を期待したい!
2年連続の総合2位となったアラフィリップは、風邪で調整不足ながらこの結果な辺りは流石と言ったところか。
今シーズン初勝利はお預けとなったけれども、心配の必要は全く無いかな。
最終ステージのボーナスタイムで総合3位の座を掴み取ったスケールモースは、まだ21歳!
総合2秒差というギリギリの勝負を演じたヨルゲンソンと共に、これまた期待の若手が出て来て楽しみだ。
いや~しかし、ツール・ド・ラ・プロヴァンス2022面白かった!
プロローグ以外はどのステージも緊張感のある展開だったし、何より最終ステージ、総合優勝の行方が分からない状態での山頂フィニッシュは、本当に熱かった!
いよいよ本格化する2022年のロードレースシーズン、今回のような手に汗握る勝負がたくさん繰り広げられる事を期待したい!
それでは、また!!