グランツールの季節がやってきた!
美しくも険しい戦い、ジロ・デ・イタリアの開幕が迫ってきました!
昨年はエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)の復活を印象付ける総合優勝を筆頭に、心を揺さぶるエモーショナルな展開が多かったですが、はたして今年はどんなドラマが待ち受けているでしょうか。
グランツールの初戦、レースの主役になり得る注目選手を紹介していきます。
総合系選手
ある意味「本命不在」だった昨年とはニュアンスが違いますが、今年の総合争いも選手の力が拮抗している印象があります。
自身の強みを発揮して、はたまたチームの助けを借りて、抜け出すのは誰になるでしょうか。
サイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
「ジロに恋した男」サイモン・イェーツは、4年越しの悲願に向けて今年もジロの頂点を目指します。
2018年、総合優勝まであと一歩と迫りながらの大失速、そして喫した歴史的な逆転劇の記憶は、未だに彼の心の中心にあるようです。
昨年は序盤にコンディション不良を抱えながらも、ステージ1勝を挙げつつ総合3位と、今までで一番惜しいところまでたどり着く事が出来ました。
その持ち前のキレのある登坂力、そして近年向上した印象のあるタイムトライアル能力をしっかりと発揮する事が出来れば、総合優勝も充分に狙える位置にいるでしょう。
チーム力に若干の不安も抱えますが、軽やかでキレのあるアタックで頂点を掴む瞬間を是非見てみたいです。
リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)
昨年ツール・ド・フランスで総合3位のカラパスは、3年振りのジロ出場となります。
前回出場した2019年は、サブエースの立場を上手く活かして大胆な抜け出しを図り、総合優勝に輝きました。
今シーズン開幕直後はコンディションが上がらずに苦しんでいましたが、3月末のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャではステージ1勝を挙げて総合2位と、しっかりと調子を整えてきています。
アシスト陣も、頼れるベテランのリッチー・ポート、安定感抜群のジョナタン・カストロビエホ、エース級の登坂力を有するパヴェル・シヴァコフ、驚異の新人ベン・トゥレットと、流石はイネオスという強力な布陣です。
実績やチーム力を考えると、総合優勝に最も近い存在と言っても過言では無いでしょう。
ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)
UAEに移籍したアルメイダは、実質初めて単独エースとしてジロに臨みます。
総合4位に輝いた2020年はプロ1年目という事でスタート前は期待が大きかった訳では無く、総合6位となった昨年はダブルエース体制でのスタートでした。
そして今回、ルイ・コスタやダヴィデ・フォルモロといった実績のある選手を従えてのエース待遇となります。
今大会に出場する総合系選手の中では1・2を争うタイムトライアル能力を有しているので、そこでリードを稼ぐのはまず間違いないでしょう。
そして、山岳設定が厳しい今回のレイアウトでもしっかりと生き残る事ができれば、総合表彰台も見えてくるはずです。
ロマン・バルデ(チーム・DSM)
DSMに移籍して2年目、チームとの相性の良さを伺わせているバルデに個人的にかなり期待しています。
フランス籍チーム(現AG2R・シトロエン)のフランス人エースという重圧から解放された昨年、ジロ総合7位にブエルタ・ア・エスパーニャでステージ1勝と、復調の兆しを見せてくれました。
そして今シーズン、ジロ前哨戦とも言えるツアー・オブ・ジ・アルプスでは、最終ステージの登坂で強さを見せつけ、見事逆転での総合優勝を飾りました。
アルプスでも見せたティメン・アレンスマンとのコンビネーションがまた力を発揮すれば、かなりいい結果を残せるのではないでしょうか。
その他有力候補
他の主な候補としては…
- 今回のレイアウトなら登坂力と高地適正が威力を発揮しそうなミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ・カザクスタン・チーム)
- タイムトライアル能力・登坂力・チーム力のバランスはかなりいいウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ)
- 強力なダブルエース体制、バーレーンのミケル・ランダとペッリョ・ビルバオ
- 地元の期待に応えてそろそろ大きな結果が欲しいジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)
- 果たして復活なるか、2017年の覇者トム・デュムラン(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
大体こんなところでしょうか。
繰り返しになりますが、今回の総合争いは選手の力が拮抗している印象があります。
厳しい山岳設定の中で、どのような争いが繰り広げられるのか楽しみにしていましょう!
スプリンター
毎年ジロはツール・ド・フランスに向けて途中リタイアするスプリンターも結構いて、なかなかポイント賞の予想が難しかったりしますが、逆に言えば多くの選手にステージ勝利のチャンスがあるという事でもあります。
6~7つほどある集団スプリントになりそうなステージで、果たして誰が輝くでしょうか。
マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファヴィニル)
昨年ツールの歴代最多勝利記録である34勝に並んだカヴェンディッシュですが、今年はツールでのエースポジションをファビオ・ヤコブセンに奪われ、ジロへの出場となりました。
ただ、ジロでの活躍次第ではツールへの出場を期待する声、そして35勝目を期待する声が多く聞こえるのも事実です。
ツールへの「滑り込み」が現実的なのかは分かりませんが、少なくともジロで結果を残せなかったら可能性はほぼ消滅してしまうでしょう。
リードアウト職人ミケル・モルコフの力も借りて、果たしてどのような走りを見せるのか楽しみにしています。
カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
現役最強スプリンターとの呼び声も高い「ポケットロケット」ことユアンは、2年連続でのジロ出場です。
他の追随を許さない爆発的な加速力で、今シーズンも既に5勝と相変わらずの強さを見せています。
ただ、やはりツールが最大の目標であるはずなので、正直なところジロは途中でリタイアする可能性が高いのは間違いないでしょう。
それでも、ツールでの頂上決戦に向けて、序盤のステージでその実力を遺憾なく発揮してくれる事を期待しています。
アルノー・デマール(グルパマFDJ)
2020年のジロでステージ4勝、そしてポイント賞を獲得したデマールは、深刻な不振に陥っています。
その2020年ジロでの勝利以降、なんとワールドツアーでの勝利がありません…。
昨年はプロシリーズや1クラスといった下位カテゴリーでは勝利を挙げていましたが、なんと今シーズンは未だ未勝利と、なかなかトンネルの出口が見えていない厳しい状況が続いています。
ジャコポ・グアルニエーリ、イグナタス・コノヴァロヴァス、トビアス・ルドヴィクソン、ラモン・シンケルダム、マイルズ・スコットソンと「デマール親衛隊」をフルメンバーで引き連れての必勝体制で、復活の勝利となるでしょうか。
ジャコモ・ニッツォーロ(イスラエル・プレミアテック)
昨年のジロで悲願の初ステージ勝利を飾ったニッツォーロですが、前述のデマールと同様に今シーズンは未勝利と不振に喘いでいます。
元々、チーム力も含めて「トップ・オブ・トップ」な選手では無いかもしれませんが、それでも2020年・2021年は粘り強く勝利をもぎ取る印象があったので、現状のリザルトは少し意外です。
ジロに向けてのポジティブな材料としては、リードアウト役のリック・ツァベルの調子が良さそうなので、良い形で勝負できるケースが増える事が考えられます。
地元の声援も力に変えて、なんとか勝利を挙げる事ができるでしょうか。
その他有力候補
他の有力なスプリンターとしては…
- 今シーズンここまで好調、飛躍が期待できそうなフィル・バウハウス(バーレーン・ヴィクトリアス)
- ジロでステージ通算5勝、実績なら間違いなくトップクラスのフェルナンド・ガビリア(UAEチームエミレーツ)
- エース級2枚体制で臨むチームDSMのケース・ボルとアルベルト・ダイネーゼ
こんな感じの選手が挙げられるでしょうか。
ステージ勝利争いとポイント賞ジャージの行方、一体どうなるのか注目していきましょう!
その他注目選手
総合系やスプリンター以外にも、もちろん注目選手がいます。
むしろ、今回に限っては最大の注目選手はこのカテゴリーにいると言えるかもしれません。
そう、ジロ初参戦のあの「怪物」がいますから…。
マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
その圧倒的な出力でロードレース界を荒らしまわる「怪物」ファンデルプール、遂にジロ初参戦となります!
昨年背中を痛めた影響で今シーズンは出遅れたにも関わらず、「クラシックの王」ロンド・ファン・フラーンデレンで2年振り2度目の戴冠と、相変わらずその無茶苦茶な活躍っぷりは健在です。
決してスプリンターではありませんが普通に集団スプリントで勝負できそうな上に、スプリンターには厳しい丘陵ステージでも大暴れできそう(というかそちらが本領?)なので、その気になればポイントを荒稼ぎできそうですね…。
果たしてどのようにその怪物っぷりを発揮してくれるのか、必見です!!
マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)
昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで3勝と大活躍を見せたコルトも、今回がジロ初参戦になります。
元々はスプリンターとしてカテゴライズされていたほどのスプリント力、激坂や中程度の山岳をこなす登坂力、逃げてなお余力を残す独走力と、その多彩さはどんなステージでも勝利を狙えると言っても過言では無いでしょう。
そして、もし今回のジロで勝利を挙げる事が出来れば、全グランツールでのステージ勝利を達成する事になります。
果たしてどのステージで勝利を狙ってくるのか、見逃さないようにしましょう!
ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
エリトリアの新星ギルマイは、初のグランツール参戦となります。
元々、ピュアスプリンター級のスプリント力と水準以上の登坂力を併せ持つ、特大のポテンシャルを抱えた期待の若手として注目されている選手ではありました。
しかし、初めて石畳系クラシックレースに挑戦した今シーズン、まさかヘント~ウェヴェルヘムを制してしまうとは、誰が想像できたでしょうか?
ある種上述のファンデルプールやコルトにも通じるその異様な才能は、ひょっとしたらポイント賞戦線をかき回すかも…?
アレハンドロ・バルベルデ(モビスター・チーム)
今シーズン限りでの引退を表明しているバルベルデですが、今シーズン3勝と本当に引退するのか疑いたくなるような好走を見せています。
勝利を挙げた1クラスのレースだけでなく、ワールドツアーでもラ・フレーシュ・ワロンヌ2位にストラーデ・ビアンケ3位と、その力はまだまだ一線級です(…本当に引退するんですか?引退を撤回してくれても構わないんですよ?)。
さすがに総合争いに加わるのは厳しい気がしますが、逆に言えばステージ勝利に狙いを絞れば、丘陵ステージと山岳ステージで(前述のファンデルプールとコルトには難しい本格山岳ステージでも)大暴れする可能性があると思います。
歴史に名を残すレジェンドの勇姿、しっかりとその目に焼き付けましょう!
さあ、思う存分楽しみましょう!!
ジロの美しさ、険しさ、厳しさ、そして面白さ。
頂点を目指す総合争い、剥き出しの闘志をぶつけ合うスプリント勝負、思惑が交差するステージ勝利争いと各賞争い、そして積み重ねられるストーリー。
何にフォーカスしてジロを楽しむか、それは皆さんの自由です!
思いのままに、そして思う存分ジロを楽しんでいきましょう!!