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【レース感想】ジロ・デ・イタリア2022 第20ステージ

今大会最強の男

今大会最後のラインレースとなる第20ステージは、1級山岳サン・ペレグリーノ峠(距離9.6km・平均勾配8%)とチーマコッピのポルドイ峠(距離11.9km・平均勾配6.8%)を越えて、1級山岳マルモラーダ(距離12.9km・平均勾配7.8%)へとフィニッシュする、超高難易度の山岳ステージ。

何かを起こすならこのステージ、その何かは…起こった。

 

「本題」に入る前に、まずはステージ勝利争いの話を…。

活発なアタック合戦の末に出来上がった逃げ集団は15人。

バーレーン・ヴィクトリアスが牽引するメイン集団から5分以上のタイム差を与えられる中、動きがあったのは超級山岳ポルドイ峠。

残り53.9kmで飛び出したのはアレッサンドロ・コーヴィ(UAEチームエミレーツ)!

総合エースのジョアン・アルメイダを新型コロナウィルスで失ったUAEとしては、是が非でもステージ勝利が欲しい。

そうして逃げに2人送り込んだこの日、飛び出させたのは実績のあるダヴィデ・フォルモロではなく、コーヴィ。

ピュアクライマーではないコーヴィがどの程度このステージで力を発揮できるのか、正直なところ少し懐疑的な目で見ていたけれども…コーヴィの踏みは軽い。

追走集団に1分30秒のタイム差を付けてポルドイ峠を通過すると、ダウンヒルと平坦区間でその差を更に拡大。

最後の1級山岳マルモラーダ突入時には、その差は2分20秒。

追走集団から飛び出して追いかけてきたのはドメン・ノヴァク(バーレーン)。

コーヴィとノヴァクの差は少しづつ縮まっていくけれども…その縮まり方はかなり緩やか。

コーヴィは急勾配区間でもペースを崩さず、そのまま単独でフィニッシュ地点へとやって来る!!

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コーヴィ、失意のチームを救う見事な独走勝利!!

昨年のジロではステージ2位・3位が1度ずつと悔しい思いをしたけれども、1年越しでのグランツール初勝利を達成!!

これでプロ通算3勝目となる23歳、この勝ち方は今後にかなり期待が出来そうだ!

また、追走集団でローテーションを阻害していたフォルモロの働きも見逃せない。

アルメイダを失ったUAE 、チーム一丸となって掴んだ勝利だ。

 

そして…この日の「本題」はこちら。

総合首位リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)、総合2位ジャイ・ヒンドレー(+3秒、ボーラ・ハンスグローエ)、総合3位ミケル・ランダ(+1分5秒、バーレーン)による、総合争い。

前日、序盤からメイン集団を牽引して攻撃するような素振りを見せていたのは、ヒンドレーでの逆転を狙うボーラ。

しかし、この動きは実らないどころか、最終局面でヒンドレーが早めに丸裸になるという、(タイムを失わなかったから良かったものの)失敗寸前の動きになってしまった。

そしてこの第20ステージ、前述のように序盤から牽引を行うのはバーレーン

ランダは1分5秒のビハインドを抱えているので、逆転での総合優勝を狙うなら最後のマルモラーダではなく、ポルドイ峠から勝負を仕掛ける可能性があると、個人的には思っていた。

そんな状況下で早めにペースメイクをしていたバーレーンだったけれども、結局ポルドイ峠で猛烈なペースアップなどはせずに、そのまま普通に牽引しながらマルモラーダへと突入していく。

どうするのかと思いながら見ていると、マルモラーダの途中からはバーレーンではなくイネオスが集団の先頭に出て牽引を開始。

標高2,000m超というカラパスにとって有利な舞台で、僅か3秒しかないリードを広げる為に動いてきたか。

残すアシストはベン・トゥレットにパヴェル・シヴァコフ。

前日にリッチー・ポートを失いながらも、枚数的には問題ない。

残り5kmのバナーを過ぎると、トゥレットは脱落してシヴァコフにスイッチ。

対するヒンドレーとランダは、既に全てのアシストを失っている。

さあ、シヴァコフの牽引が終わったら、あとはカラパスが自分のタイミングで仕掛けるだけ…。

そんなカラパスにとって理想的な展開が、画面には映し出されていた。

 

しばらくすると、シヴァコフが遂にその仕事を終えて後方へと位置を下げる。

その瞬間、動いたのはなんとヒンドレー!!

この動きに反応できたのはカラパスのみで、ランダは離されてしまう…!

そしてここで、ボーラの見事な戦略が炸裂する。

この絶妙なタイミングで、逃げていたレナード・ケムナがヒンドレーを助ける為に降りてきた!!

なんと完璧な「前待ち」…!!

ケムナはそのまま全力で牽引、そうすると…なんだかカラパスが少し苦しそうな様子を見せ始めているぞ…?

残り2kmのバナーを通過した直後、なんとカラパスが離れる!!

それを見たヒンドレーはここからさらに加速!!

カラパスはどんどん離されていく…!!

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総合優勝へ向けて、ヒンドレーの独走!!

そして、カラパスは一度千切ったはずのランダなどにも追い抜かされる、かなり苦しい展開に…。

これは…かなりのタイム差が付くぞ…!!

 

ヒンドレーはそのまま脚を緩めない!!

逃げ遅れの選手を次々とパスしながらフィニッシュへ!!

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ヒンドレー、マリア・ローザを手繰り寄せる圧巻の登坂!!

カラパスに1分25秒もの総合タイム差を叩きつけて、残すは最終日の個人タイムトライアルのみ!!

17.4kmの個人タイムトライアルで1分25秒差は、はっきり言ってほぼ「安全圏」だ。

そのリードを作り出した今大会最強の登坂力は、本当に素晴らしかった。

また、ここしかないという絶妙なタイミングでの前待ちを成功させたチーム戦略、そしてケムナの牽引も、本当に大きかった!

総合優勝争いに直接的に影響するあのタイミングでの前待ちを成功させるとは…!

ヒンドレーの登坂力、そしてチーム力でもぎ取った1分25秒のタイム差。

2年前にはその手からするりとこぼれていった総合優勝は、もう目の前だ。

 

ヒンドレーのフィニッシュから1分28秒後、カラパスが肩を落としながらフィニッシュ地点へ…。

前日まで、いや直前までの動きは完璧だった。

あとは得意の標高2,000m超という天空の世界で、その本領を発揮するだけだった。

そんなカラパスを待っていた…なんとも残酷な結末。

まさかの、バッドデイ。

繰り返しになるけれども、1分25秒のタイム差を17.4kmの個人タイムトライアルで逆転するのは、現実的では無い。

最後の最後で、マリア・ローザを失ってしまったカラパス。

ただ、全てを失った訳では無い。

総合2位死守に向けて、26秒差まで迫ってきたランダから逃げ切る、最後の仕事が待っている。

2019年の王者として、そのプライドと力をしっかりと見せつけて欲しい。