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【レース感想】ツール・ド・フランス2022 第5ステージ

ツールの神様は少し残酷すぎやしないか

11か所、距離にして19.4kmの本格的な石畳が登場する、問題の「パリ~ルーベ」ステージ。

敢えて「問題の」と書かせてもらう。

 

取り敢えず…ステージ勝利争いの話から始めようか。

結論から言うと、この日は逃げ切り。

最序盤に形成された6人の逃げの中から、ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト)、エドゥアルド・ボアッソンハーゲン(トタルエネルジー)、タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)、サイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)の4人が生き残って、小集団スプリントに。

正直なところ、もっとメイン集団からアタックが掛かると思っていた。

総合争いと関係ないステージハンター、例えばマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)やクイックステップ・アルファヴィニルの面々なんかがもっとレースを動かすのではないかと、期待していた。

その結果として激熱なステージ勝利争いが繰り広げられれば、このステージの意義もあるのかなと思っていた。

しかし、クイックステップのカスパー・アスグリーンによる攻撃は不発に終わり、そしてファンデルプールはコンディション不良で本領を発揮できなかった。

まあ、レース展開がどうなるのかなんて、誰にも分からない。

少人数というリスクを背負って逃げた選手たちが、結果的に別のリスクを避ける事によって逃げ切りを成し遂げたのは、その勇気ある判断とタフさを手放しで称賛したい。

 

最終局面で真っ先に動いたのは、途中までマグナス・コルトによるアシストを受けていたポーレス。

残り1.1kmで早駆けを仕掛けると、残る3人は一旦お見合い状態になってしまい、少しギャップが生じる。

スプリント力のあるボアッソンハーゲンが前を牽かされ、そしてそのボアッソンハーゲンも力を使いたくないから、チラチラと後ろを振り返りながら肘を動かして先頭交代を促すけれども、クラークとファンデルホールンは応じない。

残り800mのコーナーを抜けて、仕方なくボアッソンハーゲンが加速、ポーレスは残り400mで捕まる事に。

残り200m、ボアッソンハーゲンの背後で力を溜めていたファンデルホールンが飛び出すと、クラークはしっかりと反応する一方で、力を使い果たしたボアッソンハーゲンは突き放されてしまう。

ファンデルホールンが先行、残り50m辺りからクラークも横に並んでくる!

最後は2人がハンドルを投げる…!!

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際どい勝負を制したのは…クラーク!!

昨シーズン終了時には所属チームの解散と言う受難も経験した苦労人が、嬉しいツール初勝利!

レース後に「最後は両脚が攣っていた」と語るような極限状態ながら、全てを振り絞って勝利を掴み取った!!

しかし、ここまでプロ通算6勝のみだった山岳系アシストが、ツールの石畳ステージで勝利を挙げるとは…。

本当に、レースは何が起こるか分からない。

今月36歳になるベテランだけれども、今後の活躍にも期待したい!

 

本当に、レースは何が起こるか分からない。

予想外のステージ勝利の裏側で、総合争いでも予想外の出来事が起こる。

…いや、石畳ステージという事で、確かに波乱やトラブルはある程度想定されていたかもしれない。

しかし、一体誰がこんな展開を望んでいただろうか…?

 

まずは残り36.7km、ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ユンボ・ヴィスマ)のメカトラ

ユンボは遅れてしまったヴィンゲゴーを助ける為に、ワウト・ファンアールトを牽引役として下げる事を選択し、メイン集団に残っているのはプリモシュ・ログリッチとクリストフ・ラポルトの2人のみに。

残り30km辺り、このユンボにとってなかなか難しいタイミングで、なんとログリッチが落車に巻き込まれるという、更なる災難が…。

グリッチはこの際に肩を脱臼し、自身で脱臼箇所をはめ直して再出走。

しかし、この落車からの復帰に時間を擁してしまい、ログリッチはヴィンゲゴーたちの集団にも抜かされてしまう。

タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)という最大のライバルがいるメイン集団、その1分後方に位置するヴィンゲゴーたちの追走集団、そしてそこからさらに遅れているログリッチ

これは…かなり難しいシチュエーションだ。

そしてユンボが下した決断は、ヴィンゲゴーにはファンアールトとラポルトの2枚、ログリッチにはその他のアシストを投入するという、一見すると「両残し」を目指すもの。

ただ、実際には石畳での牽引力に秀でた2人をヴィンゲゴーに付ける、つまり前方にいるヴィンゲゴーの生き残りを優先させる、現実的であると同時に…ログリッチにとっては残酷な選択だ。

 

ユンボ勢が苦しむ一方で、メイン集団では残り20km辺りからポガチャルが積極的な動きを見せて、ジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)と共に抜け出しに成功。

メイン集団に生き残ったライバルからもタイム差を奪おうと、この石畳ステージでも王者は攻撃の手を全く緩めない。

 

その後、ヴィンゲゴーのいる追走集団はファンアールトを中心とした必死の牽引の甲斐あって、メイン集団への合流になんとか成功。

残り3kmを切った辺りからはポガチャルとのタイム差も縮めに掛かるけれども、結局そこへ追いつく事は最後まで叶わなかった。

ただ、最終的にポガチャルと13秒差でのフィニッシュなら、今日の展開を考えれば傷口は最小限で済んだと捉えるべきだろう。

しかし、その更に後ろ、グリッチの集団はポガチャルから2分8秒遅れてのフィニッシュに…。

悲願のツール制覇を目指していたログリッチにとって、この大きなビハインドは…。

 

確かに、レースにトラブルは付き物かもしれない。

落車によるタイムロスなんかは、ある意味ではレースの一部であるのは事実だと思う。

そしてワンデーレースなら、例えばパリ~ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンのように、トラブルが多発する過酷なレイアウトでの生き残りを前提にした「そういったレース」があっても全然いいと思う。

それでも、グランツールにこの日のような厳しい石畳ステージを組み込むのは、自分としては理解がしがたい。

総合系の選手がトラブルを理由に脱落する姿を、一体誰が望んでいるのだろうか?

 

山岳での決戦や、個人タイムトライアルでの一秒を争う削り合いこそが、総合争いの醍醐味ではないのか。

当然、そういったステージでもトラブルは発生するけれども、それはレースの一部として消化できる。

しかし、わざわざ「トラブルが起こる事が前提」のステージを組み込む意味とは、一体何なのだろうか。

スリリング、センセーショナル、ドラマティック、サプライズ。

もしかしたら主催者側は、このようなものを求めているのかもしれない(観客がそれらを求めていると思い込んでいるのかもしれない)。

今一度、グランツールの面白さを思い返してほしい。

わざわざ石畳なんかを用意しなくても、グランツールはそれらの要素を十分に含んでいると、個人的には思っている。

 

長々と個人的な意見を書いてしまったけれども、こういったものを書きたい瞬間も、時折ある。

かなり極端な論調なので、反対意見なんかもあるかもしれないけれども、もちろんそういったものを否定する意図がある訳では無く、あくまで個人的な願望を書き連ねただけなので、その辺りは理解して頂けるとありがたい。

 

なんにしても、ツールはまだ5つのステージが終わっただけだ。

グリッチは決定的に近い差を付けられてしまったかもしれないけれども、決して総合争いが終わったわけではない。

ポガチャルからのタイム差を考えると、ヴィンゲゴー、アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)、ゲラント・トーマス(イネオス)、アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)、ダニエル・マルティネス(イネオス)、ロマン・バルデ(チームDSM)、ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)、ダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)、ヤコブ・フルサン(イスラエル)、エンリク・マス(モビスター・チーム)辺りまでは、まだまだ勝負圏内と言っていいはずだ。

残りのステージ、まずは可能な限りトラブルが少ない事を。

そしてその上で、手に汗握るような激戦が繰り広げられる事を期待したい。