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【レース感想】ツール・ド・フランス2022 第12ステージ

イギリス希望の光

アルプス3連戦の最終日は、スタート直後のガリビエ、中盤のクロワ・ド・フェール、そしてフィニッシュのラルプデュエズと、名峰と名高い超級山岳が3つ登場する、とんでもない難易度のステージ。

フランス革命記念日に、こんなステージを用意するとは…。

果たして、前日のようなドラマは起こるのか。

 

アクチュアルスタートと同時にニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト)が飛び出すと、数人がそこに合流して逃げ集団を形成する格好に。

これで落ち着くのかと思ったら、まだメイン集団からはパラパラと前方を目指して飛び出す選手の姿がある。

…ん?

逃げを目指すイスラエル・スタートアップネーションの選手、あの特徴的なフォームは…クリス・フルームだ!

2019年の大事故から復活を目指す2010年代の盟主が、久しぶりにツールで動きを見せている…!

 

そんなエモーショナルな動きがある中、ガリビエで飛び出して先頭集団を猛追する選手がもう1人。

イネオス・グレナディアーズの新たな才能、シクロクロス世界王者にして東京オリンピックのマウンテンバイク競技金メダリスト、トム・ピドコックだ。

ピドコックはそのオフロード競技で鍛え上げたダウンヒルを存分に発揮…いや、そんな表現でも生ぬるいぐらい、かなりぶっ飛んだレベルでダウンヒルを攻める!

スムーズで美しくすらある体重移動と、明らかに他の選手とは違うライン取りで、逃げを追走する選手を次々と追い抜いていく。

そして、これまたダウンヒル巧者として名高いフルームにも追いつき、2人で先頭集団を目指す…!

チームスカイ(現イネオス)の象徴だったフルームと、イネオスの新時代の旗手となりうるピドコックという、新旧イギリスの才能による胸が熱くなるようなタンデムだ。

 

フルームとピドコックが合流して9人になった逃げ集団に対して、チーム・ユンボ・ヴィスマがコントロールするメイン集団は最大で7分ほどのタイム差を許容。

ユンボがガチガチに隊列を固めて守りに徹した事もあり、ガリビエやクロワ・ド・フェールで動こうとする総合系の選手は現れず、静かな展開が続く事に。

 

クロワ・ド・フェールの登坂でメイン集団とのタイム差を減らしてしまった先頭集団だったけれども、そこからの長いダウンヒルでまたしてもピドコックがとんでもないかっ飛ばし方を見せる。

ラルプデュエズ突入時点で、マージンは6分以上に拡大。

逃げ切りの可能性が高い状況で、21のヘアピンカーブを持つ名峰、数々の伝説を作ってきたラルプデュエズを迎える事に。

 

登坂に入ると、逃げ集団はピドコック、フルーム、ポーレス、ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)、ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)という、登坂力のある強者のみに絞り込まれる。

決定的な動きがあったのは残り10.6km。

鋭角なコーナーを利用して、ピドコックが切れのあるアタックを繰り出す!!

インチェスやフルームが懸命に追走するけれども、ピドコックはそのまま独走!!

ベイビー・ジロ(U23ジロ・デ・イタリア)の覇者が、遂にその才能をツールの舞台で見せつける!!

 

一方のメイン集団は、相変わらずユンボのコントロール下に。

ワウト・ファンアールト、ステフェン・クライスヴァイク、プリモシュ・ログリッチ、セップ・クス、そして総合リーダーのヨナス・ヴィンゲゴーと並べて、一分の隙も見せない。

というか、相変わらずグリーンジャージらしからぬ登坂力を披露するファンアールト…エグすぎる。

 

先頭をひた走るピドコックは、早めの仕掛けだったにも関わらず、全くペースを崩さない。

唯一食らいつこうと粘っていたメインチェスも、残り5kmを切った辺りから徐々に離されてしまい、完全にピドコックの独走状態でフィニッシュに向かう!

最後は「信じられない」といった様子で首を振りながら、両腕を突き上げてフィニッシュ!!

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天才ピドコック、初出場のツールで鮮やかな独走勝利!!

ラルプデュエズでの独走は、その才能の大きさを改めて証明するには十分すぎる!!

とんでもないダウンヒルテクニックで先頭に合流し、メイン集団にタイム差を詰められてもまたダウンヒルでタイムを稼ぎ、そして登坂力自慢しか残らなかったラルプデュエズで独走。

いやいやいや、これは凄すぎないか?

これまではシクロクロスやマウンテンバイクにフォーカスしていた事もあって、ロードレースではその才能が全て発揮できていなかった感があったけれども、しっかりと照準を合わせるとこうなるのか…。

イネオスの、そしてイギリスの新たな希望の光として、今後が楽しみだ。

 

一方、後方のメイン集団では、マイヨジョーヌを奪われたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が、やはりアタックを繰り出す。

ただ、ヴィンゲゴーはしっかり反応する強さを見せ、更にはアシストのクスもしっかりと付き従ってヴィンゲゴーをサポートしている。

そして、ゲラント・トーマス(イネオス)は前日同様に、アタックには無理に付き合わずにマイペース走法で追いつく、クレバーな走りを披露。

結局、ヴィンゲゴー、ポガチャル、トーマスはタイム差が付かないままフィニッシュする事に。

ただ、総合2位だったロマン・バルデ(チームDSM)は19秒失ってしまい、総合4位に順位を落としてしまった。

 

これで、激闘となったアルプス3連戦が終了。

ここでひとまずの「勝利」を収めたのは、間違いなくユンボだった。

第11ステージで見せた怒涛の波状攻撃、そして第12ステージで見せた鉄壁の守り。

その最高峰のチーム力は、ヴィンゲゴーの総合優勝に向けて、現在の2分22秒と言うタイム差以上の大きなアドバンテージだ。

ただ、この日もアタックを繰り出したように、ポガチャルはまだ死んでいない。

また、虎視眈々と機を窺うトーマスは、ピドコックという強力なアシストの存在も明らかになった。

激闘の中盤戦を経ての終盤戦、何が起こるのか今から楽しみだ。