初心者ロードレース観戦日和

初心者でもいいじゃない!ロードレース観戦を楽しもう!

【レース感想】ツール・ド・フランス2022 第17ステージ

チャンピオンチームの意地

ピレネー3連戦の2日目は、これまでも数々の名勝負を生み出してきた1級山岳ペイラギュード(登坂距離8km・平均勾配7.5%)へとフィニッシュする難関山岳ステージ。

ペイラギュードだけでなく、1級山岳アスパン(登坂距離12km・平均勾配6.5%)、2級山岳ウルケット・ダンシザン(登坂距離8.2km・平均勾配5.1%)、1級山岳ヴァル・ルーロン・アゼ(登坂距離10.7km・平均勾配6.8%)と絶え間なく登場するそのレイアウトは、まさにピレネー山脈と言ったところ。

果たして、総合逆転を目論むディフェンディングチャンピオン、タデイ・ポガチャル(UAE)による早めの仕掛けはあるのか。

 

スタート前、ポガチャルの重要なアシストであるラファウ・マイカがリタイアと言うニュースが飛び込んでくる。

前日のメカトラの際に太腿を痛めていたようで、ここでのマイカの離脱は痛すぎる…。

これで、ポガチャルのアシストはブランドン・マクナルティ、ミッケル・ビョーグ、マルク・ヒルシの3人のみ。

ビョーグは平坦牽引役、そしてヒルシここまでは絶不調で、山岳アシストとして計算できそうなのがマクナルティのみと、ポガチャルはスタート前からかなり苦しい状況になってしまった。

 

展開次第では逃げ切りもあり得る、そして山岳ポイントを稼ぐには絶好のレイアウトという事で、アクチュアルスタート直後から激しい逃げの打ち合いに。

結果的に、明確な逃げ集団が形成されないような状態で、1つ目の1級山岳アスパンに突入する事に。

この時点で20秒ほど先行していたオウェイン・ドゥール(EFエデュケーション・イージーポスト)とギヨーム・ボアヴァン(イスラエル・プレミアテック)も、登りに入ってからしばらくするとメイン集団に捕まってしまう。

山頂まで残り8km辺りで飛び出したのは、アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザフスタン・チーム)とティボー・ピノ(グルパマFDJ)という実力者2人。

その後ろから更に追走する選手がパラパラと飛び出し、その中には山岳賞ジャージをキープする為に是が非でも山岳ポイントが欲しいシモン・ゲシュケ(コフィディス)の姿も。

山頂はそのまま先頭の2人が争わずに通過、そして追走集団ではゲシュケとジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)が争って、ゲシュケが3位通過でポイント獲得に成功。

チーム・ユンボ・ヴィスマがコントロールするメイン集団では、6分37秒遅れで総合9位のロマン・バルデ(チームDSM)のアタックが容認されて、単独で飛び出す格好でダウンヒルに突入していく。

 

短いダウンヒルを終えてそのまま登り始める2級山岳ウルケット・ダンシザンに、先頭は相変わらずルツェンコとピノの2人、30秒ほど後方にゲシュケを含む追走集団(2級山岳に入ってすぐにバルデも合流)、そしてそこから1分強ほど離れてメイン集団という構図で突入していく。

メイン集団を牽くのは…なんとビョーグ!?

大柄なタイムトライアルスペシャリストであるビョーグが、2級山岳でハイペースを刻む…!

このビョーグの鬼気迫るような牽引で、クリス・フルームイスラエル)、アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)、トム・ピドコック(イネオス)、ピエール・ラトゥール(トタルエネルジー)、バウケ・モレマ(トレック)、マイケル・ストーラー(グルパマ)など、名だたる登坂強者が遅れていく驚愕の展開に…!!

先頭の2人はまたしても争わずにピノが先頭で山頂を通過。

そして追走集団ではなんとゲシュケがトラブル(メカトラ?接触?)で痛恨の足止め、ライバルのチッコーネにポイント獲得を許してしまう。

 

1級山岳ヴァル・ルーロン・アゼに入って間もなく、先頭の2人に追走集団が合流。

先ほどトラブルで遅れたゲシュケは…30秒ほど後方。

そのゲシュケから1分遅れてメイン集団という構図。

山頂まで残り7.6km、先頭集団からアンドレアス・レックネスン(DSM)が先行を開始。

その頃メイン集団では、ここまで驚愕の牽引を見せていたビョーグが仕事を終え、牽引をマクナルティにバトンタッチ。

ビョーグとは対照的に静かな表情で淡々と牽くマクナルティのペースが、これまたもの凄い強烈…!

山頂まで残り6kmの時点でこの集団に生き残っているのは、ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ)、セップ・クス(ユンボ)、ゲラント・トーマス(イネオス)…これだけ!?

山頂まで残り4km、ユンボのアシストとして唯一生き残っていたクスも脱落。

これで、遂にヴィンゲゴーが丸裸に!

ユンボも人数を2人減らしていたとは言え、UAEが実質ビョーグとマクナルティだけで、ヴィンゲゴーのアシストを全て剥がしてしまうという驚きの展開だ…!

山頂まで残り3km、ここまで食らいついていた総合3位のトーマスも遅れる…!

その直後には先頭のレックネスンも捉えて、それでもなおマクナルティはハイペースでの牽引を継続していく。

 

山頂まで残り200m、遂にこの男が動く。

2分22秒差の逆転を目指すポガチャル、全力でのアタック。

総合系の選手としては規格外なスプリント力でヴィンゲゴーを突き放そうと試みるけれども、ヴィンゲゴーも慌てずにその背中を捉える。

そうするとポガチャルも無理は出来ず、下りに入るとマクナルティを待つ事を選択。

マクナルティは後方からクスが追いついて来るのを防ぐため、このダウンヒルもハイペースで牽引していく。

 

残り8km、先頭の3人が遂にペイラギュードの登り口に到着。

後方の追走集団はダウンヒルで人数を増やしているけれども、1分以上のタイム差があるので、先頭の争いに絡む事は難しそうだ。

このペイラギュードでも、マクナルティは素晴らしい牽引を披露。

ひたすら牽くマクナルティ、なかなか動きを見せないポガチャル、そして動く必要が無いヴィンゲゴー。

この構図が変わらないまま、気が付けばもう残り2km。

ここからの勾配が厳しくなる区間で勝負か。

残り1.2km、ポガチャルは苦しいのか一瞬だけマクナルティとの間にギャップを作ってしまい、そしてヴィンゲゴーはそれを見逃さずにマクナルティの背中に張り付く。

そのまま、マクナルティ、ヴィンゲゴー、ポガチャルの並びで残り1kmのゲートを通過。

これは…もしポガチャルがアタックしても大きなタイム差を稼ぐのは不可能な距離になっている上に、なんだかポガチャルはあまり余裕が無いようにも見える…?

このぐらいの距離からフィニッシュまで踏み切るのは得意技のはずなのに、ポガチャルはなかなか動かない。

残り300m、勾配がさらに厳しくなる最後の勝負所で、ポガチャルはゆっくりと腰を上げて加速を開始。

ただ、いつものかっ飛んで行くような勢いのあるアタックではなく、ヴィンゲゴーは難なくその背中を捉える。

残り200m、ポガチャルが腰を下ろして踏みを緩めると、逆にヴィンゲゴーがアタック!

苦しそうに見えるポガチャルも、なんとか食らいつく!

急勾配区間を終えて最後は短い緩斜面、ここで前に出るのは…ポガチャル!!

Embed from Getty Images

王者の意地を見せつけるステージ勝利!

これでポガチャルは、ツールで3年連続ステージ3勝!!

いや~、見応えのある勝負だった!

「殴り合い」だった第11ステージと比べると、確かに派手さは無かったかもしれない。

それでも、つばぜり合いをしながら睨み合っているような、ヒリヒリする緊迫感が漂う戦いは、充分に面白かったと言いたい!!

ただ、ポガチャルはヴィンゲゴーに対してタイム差を稼ぐことが出来ず、ボーナスタイムの差による4秒を縮めたのみ。

2分18秒と言う大きな差を逆転するためには、翌日の第18ステージでリスク度外視の早めの攻撃を仕掛ける必要性が、より高まってしまった。

こうなると、圧倒的に有利なのは守る側のヴィンゲゴーなのは間違いない。

それでも、ポガチャルなら何かを起こす可能性も充分にあり得ると思えてしまうのが恐ろしいところ。

泣いても笑っても残す山岳ステージはあと1つ、超級山岳オタカムにフィニッシュする第18ステージのみ。

激戦の締めに相応しい、素晴らしいレースを期待したい。