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【レース感想】ツール・ド・フランス2022 第21ステージ

激闘に感謝

今年もこの日がやってきた。

シャンゼリゼへとフィニッシュする、ツール・ド・フランスの閉幕日。

長く厳しかった旅路の果てに辿り着く、祝福のパレードランと、世界最強を決めるスプリント。

特別ジャージを着る4人、マイヨジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ユンボ・ヴィスマ)、マイヨヴェールのワウト・ファンアールト(ユンボ)、マイヨブランのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、そして繰り下げでマイヨブランアポワルージュを着るシモン・ゲシュケ(コフィディス)を先頭に、選手たちは最後のスタートを切る。

ヴィンゲゴー、ファンアールト、ポガチャルという今大会を大いに盛り上げた3人が「おふざけで」いきなりアタックするような和やかな雰囲気は、最終日にのみ許された特別な時間だ。

 

そして始まる、毎年恒例の記念撮影タイム。

総合優勝を成し遂げただけでなく、ポイント賞も獲得し、更にはステージ6勝を挙げたユンボは、間違いなく今大会の主役だった。

リタイアしたメンバーのゼッケンを手に、誇らしげに記念撮影。

アクシデントで人数を減らしながらも、このチームの連携とチーム力は、本当に素晴らしかった。

ロードレースとは何なのかを存分に見せつけてくれたと、個人的には思う。

 

惜しくも総合優勝を逃したディフェンディングチャンピオン、ポガチャルはアシストへの感謝を行動で示す。

彼の見せた積極的で攻撃的なレース運び、これもまたロードレースの魅力的な一面だ。

 

これがツールのラストランとなる偉大なレジェンド、フィリップ・ジルベールはなんだかご機嫌な様子だ。

残念ながら勝利には結びつかなかったけれども、チームメイトのために集団を牽引していた姿が、今大会は強く印象に残っている。

 

そして、総合優勝を成し遂げたヴィンゲゴーの出身地であり、今大会のスタート地点であったデンマークの選手が、並んで先頭へ。

デンマークスタートでデンマーク人が総合優勝は、ちょっと出来すぎなストーリーと突っ込みたくなるぐらいだ。

 

あぁ、これぞパレードランだと、毎年思う。

この雰囲気にずっと浸っていたいと思いながら、確実に近づいてくるシャンゼリゼの周回コース。

いよいよ、最後のレースが始まる。

 

ユンボの5人が先頭を固めながら、「フィニッシュライン」を通過。

直後、ヨナス・ルッチ(EFエデュケーション・イージーポスト)のアタックを皮切りに、最終日に逃げてやるという野心家たちが飛び出していく。

ヤン・トラトニック(バーレーン・ヴィクトリアス)、ピエル・ラトゥール(トタルエネルジー)、シュテファン・ビッセガー(EF)など、今大会あまり活躍できなかった実力者たちは、なんとか爪痕を残そうとモチベーションは高そうだ。

それでも、メイン集団はあまり大きなリードを許さず、「逃げては捕まる」ような状況が続く。

やっと少し安定した逃げが出来上がったのは、残り32km辺りのマクシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ)によるアタックを起点とした動き。

シャフマン、この日2度目のトライとなるルッチ、オウェイン・ドゥール(EF)の3人が抜け出し、ここにグルパマFDJの2人…オリヴィエ・ルガックとアントワーヌ・ドゥシェーヌが合流。

20秒ほどのタイム差をもらって、力の限り逃げ続ける。

 

逃げ集団を大きく離しすぎないようにコントロールするのは、当然スプリンターチームの選手たち。

牽引する選手の中には、ジルベールの姿も!

最後のツールで、最後の最後までチームの為に汗を流している。

残り6.8km、ファイナルラップに入るとほぼ同時に、逃げていた選手は全員吸収される。

さあ、スプリントに向けて最後の勝負だ。

と思った矢先、総合3位のゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)がフィリッポ・ガンナを引き連れてアタックという、とんでもない奇襲が!

反対サイドからは、なんとポガチャルも飛び出そうと全力で踏んでいる!!

トーマスもポガチャルも、本当に最後まで魅せてくれる…!

もちろんこの動きは捕まるんだけれども…最高に面白くて、最高に盛り上がる展開だ。

 

残り3km、主導権を握ろうと集団前方をキープするのは、ロットとトレック・セガフレード

ユンボの面々が前方にいない。

昨年のシャンゼリゼ勝者であるファンアールト、この日は勝負しないのかも。

前方では主導権が目まぐるしく入れ替わり、アルペシン・ドゥクーニンク、アルケア・サムシック、チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ辺りも前へと上がってくる。

残り2km、トンネルを抜けてジャンヌダルク像の前を通過。

最終コーナーに向けて位置取りが重要なセクション、先頭を牽くのはバイクエクスチェンジ、その後ろのアルペシンもいい格好だ。

残り1.5km、バンジャマン・トマ(コフィディス)が抜け出しを狙うアタック!

バイクエクスチェンジはマイケル・マシューズという重要な駒を使って、この動きを必死に抑え込む。

最終コーナーを抜けて残り700m、先頭で抜け出したのはバイクエクスチェンジ、しかし横からアルペシンもスルスルっと上がってくる!

先頭はバイクエクスチェンジの最終発射台ルカ・メスゲッツ、背中にはトレックのアシスト選手が入り込み、その後ろにディラン・フルーネウェーヘン(バイクエクスチェンジ)とジャスパー・フィリプセン(アルペシン)が連なっている。

メスゲッツが力尽きた事で、フルーネウェーヘンは残り250m辺りからと少し早めの仕掛けに!

その背中を捉えていたフィリプセンが、最高のタイミングで飛び出す格好だ!!

フルーネウェーヘンも後ろを引き離すような速度域で踏み続けるけれども、フィリプセンの伸びがもの凄いぞ!!

最後の最後まで踏み切って、圧倒的な差を付けてのフィニッシュ!!

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昨年の涙を乗り越えて、フィリプセンがシャンゼリゼでの勝利!!

これで今大会2勝目と、スプリンターとしては最多勝利だ!!

いや~、もの凄い伸びだった!!

フィニッシュ時の写真が、パッと見ではスプリントと思えないぐらい後続と離れている…!

昨年のシャンゼリゼでは2位に終わって悔し涙を流していたフィリプセン、その抜群の伸びで見事に「シャンゼリゼ勝利」という栄誉を掴み取った!!

 

そして、ユンボの選手達が少し遅れてフィニッシュラインにやって来る。

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ヴィンゲゴー、素晴らしいメンバーに支えられて成し遂げた総合優勝!!

ユンボが個の力をチーム力へと見事に昇華させ、素晴らしいレース運びで成し遂げた悲願達成の瞬間だ!!

まず、その個々の力。

ヴィンゲゴーやファンアールトの圧倒的な能力の高さだけでなく、プリモシュ・ログリッチ、セップ・クス、ステフェン・クライスヴァイク、ティシュ・ベノート、クリストフ・ラポルト、ネイサン・ファンホーイドンクと、その陣容の厚さは間違いなく今大会トップだった。

その上で披露した、見事な連携。

それぞれの選手が持ち場で力を存分に発揮して、お互いに補い合い、1+1が2ではなく3にも4にもなるような、素晴らしい関係性だった。

それを成し遂げたのは、間違いなくチームのマネージメント力。

「前待ち」とか、あんなにバンバンと決まるものでは無いはずなのに、その采配は神懸かり的な当たり方をしていた。

特に第11ステージで見せた、まさにチームの総力を挙げての決死の波状攻撃は、結果として総合優勝を手繰り寄せる事になっただけではなく、その美しさに感動してしまうほどの、極上のものだった。

そして何より、それにしっかりと応えたヴィンゲゴーの強さ。

本当に、本当に強かった。

ポガチャルのアタックを全て封じ込め、そしてグラノンとオタカムでは突き放してタイム差を奪う。

更には、個人タイムトライアルでも圧巻の走りを披露。

間違いなく、今大会最強の選手はヴィンゲゴーだった。

最強の選手が、最高のチームに支えられて成し遂げた、素晴らしい総合優勝だった。

おめでとう、ヴィンゲゴー!!

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個人的には、過去最高の大会

改めて、最終成績を確認。

 

総合優勝:ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

総合2位:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ

総合3位:ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ

ポイント賞:ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞:ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

ヤングライダー賞:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ

総合敢闘賞:ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

チーム総合賞:イネオス・グレナディアーズ

 

総合優勝は、圧巻の走りを披露したヴィンゲゴー!

山岳ステージでもタイムトライアルでも、常に安定しつつ勝負所ではしっかりと決め切る、盤石の走りで頂点に!

チーム力の高さも含めて、ほぼ完ぺきな内容と言ってよかったと思う。

また、グラノンとオタカムの山頂フィニッシュを制した事で、山岳賞も獲得!

超級山岳2つを勝ったのだから、文句のつけようもない。

 

総合2位は、2連覇中だったポガチャル!

チームメイトが多数離脱すると言う不運に見舞われながら、最後の最後まで攻める事を貫いたその姿勢は、ディフェンディングチャンピオンの矜持を感じさせてくれた。

この敗戦で、きっとまた強くなるのだろう。

また、当然ながらヤングライダー賞も獲得。

来年もヤングライダーの対象という恐ろしさ…。

 

総合3位は、復活のトーマス!

ここ2年、グランツールでは落車に見舞われて結果を残せていなかったけれども、2018年総合優勝に2019年総合2位と2年連続で総合表彰台に登った実力は、まだまだ健在!

2強の争いには割って入れなかったかもしれないけれども、ベテランらしい安定した走りは流石と唸らされた。

 

ポイント賞と総合敢闘賞は、今大会中暴れに暴れまくったファンアールト!

その圧倒的な出力と驚異の万能性の前に、ライバルはちょっと手も足も出なかったというのが正直なところ。

歴代最多となるスプリントポイント480点、ステージ3勝、そして総合優勝に直接的に貢献するアシストと、もはやなんとコメントしていいのか分からないぐらい、常に活躍をしていた印象しかない。

そして見せた、第20ステージでの男泣き…。

間違いなく、今大会の主役の1人だった。

 

チーム総合賞は、総合トップ10に2人送り込んだイネオス!

複数エース体制が効果的に機能したかは微妙なところもあるけれども、なんだかんだでやはり高いチーム力でこの結果に。

明らかに過渡期にある2010年代の盟主は、苦しみながらもチーム力を大きく落としてはいないので、何かのきっかけでまた頂点へ返り咲く事は充分に考えられると、個人的には思っている。

 

自分は2019年からロードレース観戦を始めたけれども、客観的に見て、今回のツールが今までで一番面白かったと思う。

ユンボがチームの総力を挙げてポガチャルからマイヨジョーヌを奪い取る。

ポガチャルは持ち前の積極性で逆転を試みる。

そしてユンボはまたしてもチームの総力を挙げて守り抜く。

血が沸くほどの熱量を持った総合争いが、繰り広げられていた。

特に、第11ステージや第18ステージは、屈指の名レースだったと断言したい。

あんなレースを目の当たりにする事が出来て、本当に幸せだった。

また、各ステージの勝利を目指した争いも、「激しすぎる」ぐらい激熱だった。

総じて、まさに激闘だったと思う。

これだけ素晴らしいものを見る事が出来た事に感謝したい。

未だに難しい情勢の中でのレース開催に尽力してくれた関係者、そして熱い戦いを繰り広げてくれた選手達に、心の底から感謝したい。

 

さあ、激闘のツールの次は、熱戦必至のブエルタ・ア・エスパーニャだ!

しばらくはツールの余韻に浸りながらも、今後のレースに心躍らせようではないか!

それでは、また!!

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