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【レース感想】世界選手権2022 男子エリートロードレース

史上4人目の快挙!!

オーストラリアはウロンゴンで開催されるUCIロードレース世界選手権2022。

男子エリートのコースレイアウトは、マウント・ケイラ(登坂距離8.7㎞・平均勾配5.7%)を越えて、ウロンゴン・シティ周回を12周する266.9km。

ウロンゴン・シティ周回に登場する主な起伏マウント・プレザント(登坂距離1.1㎞・平均勾配7.7%)は、単体ではそこまでの破壊力は無さそうにも思えるプロフィール。

ただ、プレザント直前の名もなき起伏なども合わせて、12周回を重ねると総獲得標高はなんと3945mに。

勝負に絡むために登坂力は必須と言えそうだ。

それを踏まえて、主な有力選手は以下の感じかな。

  • コンディションに不安がありつつコース適正という意味では抜群、ディフェンディングチャンピオンジュリアン・アラフィリップ(フランス)
  • 登坂力もスプリントも一級品、異次元の万能性を誇るワウト・ファンアールト(ベルギー)
  • ファンアールトとのダブルエース、独走に持ち込んだら誰も止められないレムコ・エヴェネプール(ベルギー)
  • 圧倒的な出力で全てをひっくり返す怪物、マチュー・ファンデルプール(オランダ)
  • 世界最強のオールラウンダー、前哨戦でも絶好調だったタデイ・ポガチャル(スロベニア
  • 登れるスプリンターとして地元の期待を背負うエース、マイケル・マシューズ(オーストラリア)

そして自分の予想がこちら。

正直言って全然分からなかったので(…普段は分かっているのか?)、雑にファンデルプールを本命にして、その展開なら対抗する相手はファンアールトだろうという流れ。

 

素晴らしい天候の元、レースがスタート!

若干のアタック合戦を経て、割とスムーズに12人の先頭集団が形成される流れに。

一方のメイン集団では…なんだかファンデルプールの様子がおかしい。

集団の後方に位置しているのも違和感があるし、明らかに覇気を感じない…。

なんて思っていたら、なんと30kmほど走った辺りでそのままリタイア!?

どうやら、前日の夜にホテルでトラブルに巻き込まれた影響だとか…(ファンデルプールがレース前夜に警察連行 出走するものの序盤リタイアに - 10月23日まで勾留の可能性? | cyclowired)。

まだ情報が色々と不明瞭だから細かい内容についての言及は避けるけれども…、レース外のトラブルに巻き込まれるのは、そしてそれが理由でリタイアになってしまうのは、(本人の非が少ないのが事実なら)可哀そうすぎる…。

 

そんな起こって欲しくなかった波乱を経て、気が付けばレースは最初の大きな起伏であるマウント・ケイラに突入。

フィニッシュ地点まで遠すぎるので動きが無いだろうと思い、まったりしながら見ていたら、なんとメイン集団でフランスがペースアップを図っている…?

それも、パヴェル・シヴァコフ、ロマン・バルデ、ブルーノ・アルミライルなんかを動員してのペースアップだから、これは伊達や酔狂では無さそう。

前年同様、序盤から引っ掻き回して主導権を握りに行く狙いか。

 

フランスの継続的な攻撃によって、メイン集団は分断と言うか追走が飛び出たと言った感じの状況に。

残り152km、その飛び出した選手の中から、シヴァコフ、ピーター・セリー(ベルギー)、ベン・オコーナー(オーストラリア)、ルーク・プラップ(オーストラリア)、サミエーレ・バティステッラ(イタリア)というなかなか強力な5人が先頭に合流。

その後方には他の飛び出した選手を吸収したメイン集団、先頭とのタイム差は7分以上。

流石に16人の逃げに大きなタイム差は与えられないので、ドイツ、オランダ、スペイン辺りがメイン集団を牽引して、じわじわと先頭とのタイム差を縮めていく。

 

残り77km、先頭とメイン集団のタイム差が2分ほどに縮まってきた状況で、先頭ではバティステッラがマウント・プレザントの登りで加速。

ほぼ同じタイミングで、メイン集団ではフランスチームが集団の先頭に出て来てペースアップを図っている。

マウント・プレザントの登りを越えてもペースは下がらず、メイン集団は完全に分断。

前に出た25人ほどの集団には、フランスがバルデ、フロリアン・セネシャル、カンタン・パシェの3人、ベルギーもエヴェネプールにクインテン・ヘルマンスにスタン・デウルフと同じく3人、他にもニールソン・ポーレス(アメリカ)、アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)、ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)、パスカル・エーンコーン(オランダ)、マウロ・シュミット(スイス)、マティアス・スケールモース(デンマーク)といった選手が乗っている。

エヴェネプールが含まれている(しかも2枚のアシストがいる)から、ベルギー以外のチームはこの集団を前に行かせてはいけない気がするけれども…?

 

残り59km、9周目のマウント・プレザント頂上で、エヴェネプールを含む集団が先頭から飛び出していたバティステッラを吸収。

そしてエヴェネプールはそこからアタック!!

流石にこの動きはバルデが封じ込めたけれども、エヴェネプールは構わずそのままハイペースを維持。

この動きで先頭は活性化して、いくつかのカウンターアタックがあったかと思ったら、残り56kmでまたエヴェネプールがアタック!

これも決まりはしなかったけれども、結果的にメイン集団とのタイム差は1分40秒以上にまで広がっている。

続く10週目のマウント・プレザントでは、先頭集団で動きが無かった代わりに、メイン集団はヴァランタン・マデュアス(フランス)の牽引で一気にペースアップ。

先頭集団とのタイム差を1分強にまで縮めてきた。

 

勝負を決めるアタック、その瞬間は突然やってきた。

残り35km、何の変哲もない平坦区間で、エヴェネプールがこの日3度目のアタック…!!

反応できるのは…ルツェンコのみ!?

ルツェンコはエヴェネプールと同等に回す力を残していない様子だけれども、エヴェネプールはお構いなく全開での踏みを継続!

その後方ではヘルマンスが追走のローテーションを阻害、先頭の2人は徐々にタイム差を開いていく!!

そしてメイン集団は…2分以上後方だ…!!

追走集団からエーンコーン、シュミット、スケールモース、ロレンツォ・ロタ(イタリア)の4人が飛び出して先頭の2人を追いかけるけれども、タイム差は30秒以上とこちらもかなり厳しい…。

 

残り26km、11回目のマウント・プレザントで、ルツェンコがエヴェネプールに付いていけない…!!

途中からほぼ先頭を牽きっぱなしで、より力を使っていたはずのエヴェネプールに付いていけない!!

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独走を始めたら、誰にも止められない!!

世界最強の独走力を有する若者は、世界最高の舞台でもその力を存分に見せつけて、フィニッシュへと向かっていく!!

 

エヴェネプールが勝つならこのパターンだとは思っていた。

しかし、ここまで鮮やかに決め切るとは…!!

そういえば、ブエルタ・ア・エスパーニャ開幕前も同じように思っていたけど、見事にやり切って、総合優勝に輝いていた。

もう、こちらの想像や不安なんかを軽々と超えてくる。

ムラのあるメンタル?

積極的過ぎるレース運び?

2020年の大怪我?

エヴェネプールはそんな様々なエクスキューズを軽々と跳ねのける、本物の強さをその身に宿しているのだ。

 

好機を逃さず、最後は力でねじ伏せるという、およそ考え得る最高の形でフィニッシュへと近づいていくエヴェネプール。

残り1kmを切ると勝利を確信し、早くもガッツポーズを繰り出しつつ、首を横に振り「信じられない」といった素振りを見せている。

感極まった様子で顔を手で覆い、ガッツポーズを繰り出し、唇に人差し指を立て、ジャージのベルギー国旗を指差し、両腕を力強く広げ…、最後は雄叫びを上げながら堂々のフィニッシュ!!

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エヴェネプール、22歳での世界選手権制覇!!

そして、モニュメント勝利、グランツール総合優勝、世界選手権制覇を同年での達成は、史上4人目の快挙!!

改めて、その圧倒的な独走力は世界の頂点に相応しい、特別なものだと証明する1年だった!!

間違いなく、新時代を象徴する世界最強の1人。

来シーズンはどんな目標を立てて走るのか、果たしてどんな素晴らしい走りを見せてくれるのか、今から楽しみで仕方がない!

 

そして、後続の表彰台争いもなかなか激熱な展開に。

まずは、ルツェンコに追走のシュミット、スケールモース、ロタの3人が追いつき(エーンコーンは登りで脱落)、4人で2枠を争う格好に。

残り1km、もの凄い牽制合戦で、とんでもなくペースが落ちている様子が映し出されて…、いや、ペースを落としすぎでは…?

と思った瞬間、画面外から一旦脱落したエーンコーンが飛び込んできて4人をごぼう抜き!?

慌てて追いかける4人、エーンコーンも突き放すのが難しいと思ったのか脚を緩めて5人で仕切り直し…?

最終コーナーの手前、ヤン・トラトニック(スロベニア)も追いついてきて、そのまま早駆け!?

その後ろには…え!?

メイン集団!?!?

最後まで抵抗を続けるトラトニック、しかしメイン集団が飲み込んでいく…!!

結局最後は集団スプリント!!

2着はクリストフ・ラポルト(フランス)!!

3着は地元オーストラリアのマシューズ!!

いや~、何と言っていいやら…。

とりあえず、色々と驚いたよ…。

でも、激熱だったからヨシ!!

 

「常識」は変わりつつある

エヴェネプールによる圧巻の独走劇となった今回の世界選手権、本当に面白かった!

国別の争いという事もあって、普段とはまた別の熱量がこもったレースは、やはり展開を面白くしてくれる。

そんな中で印象的だったのは、エヴェネプールの独走はもちろんなんだけれども、フランスチームのかなり早い段階からの仕掛け。

昨年も同じように序盤から動いたフランスは、ある意味ロードレース伝統国とは思えない「常識外れ」な位置から仕掛け始めて、昨年は優勝、今年も2位と言う結果を持ち帰る事になった。

 

ここ数年、急激な世代交代や、シクロクロス勢の台頭や、既存の脚質では括れない選手の登場や、そしてレース展開の変化など、ロードレース界は明らかに何かが変わりつつある。

この過渡期でどのようにライバルより先んじて結果を残すのか、そしてその先にどのような新しいロードレース像が作り出されるのか。

「旧態依然なスポーツ」という印象もあるロードレースだけれども、きっとこの先にはもっと面白いものが待っている。

そう思わせてくれるには十分な、本当に素晴らしいレースだったと言いたい。

…なんだか堅苦しく語ってしまったけれども、要するにこの日のレースは最高に面白かったし、きっと自分はこの先もロードレースにハマり続けるだろう、という事だ!

 

それでは、また!!

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