見事な復活!
イタリア半島を横断する、「2つの海を繋ぐレース」ティレーノ~アドレアティコ。
並行開催のパリ~ニースに劣らず、やはりこちらもかなり豪華なメンバーが集結!
総合勢は、プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)、エンリク・マス(モビスター・チーム)、アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)、ジョアン・アルメイダ(UAE)ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)、アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ)、ベン・オコーナー(AG2Rシトロエン)、テイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ)辺りが中心メンバー。
有力なスプリンターは、ファビオ・ヤコブセン(スーダル・クイックステップ)、ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)ディラン・フルーネウェーヘン(チーム・ジェイコ・アルウラー)、フィル・バウハウス(バーレーン・ヴィクトリアス)、マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタンチーム)、ペテル・サガン(トタルエナジーズ)、と言った辺り。
そして、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル)、マチュー・ファンデルプール(アルペシン)、ワウト・ファンアールト(ユンボ)、トム・ピドコック(イネオス)と、パリ~ニースに比べるとビッグネームなワンデーレーサーが集まっているのが面白いところ。
一体どんなレースが繰り広げられるのか。
第1ステージ
海沿いを走る、フラットでコーナーがほぼ無い個人タイムトライアル。
激しい雨だけでなく時折雹が降るような荒天に苦しむ選手も多い中、中盤の出走で好タイムをマークしたのはマグナス・シェフィールド(イネオス)。
並み居るエース級選手を押しのけて暫定首位に立った20歳のアメリカ人、ちょっとポテンシャルの固まりすぎやしないかい?
出走順が終盤に入ると天気は徐々に回復してきて、良いタイムを出す選手が増えて来るけれども、なかなかシェフィールドから首位の座を奪う選手は現れない。
まさかこのままシェフィールドが…?とも思い始めたタイミングでタイムを更新したのは、ドイツのタイムトライアル王者レナード・ケムナ(ボーラ)。
シェフィールドを3秒上回り、ホットシートへ。
そして最終走者は、昨年の世界選手権で王座を明け渡し、イタリアチャンピオンジャージでタイムトライアルに臨む姿に若干の違和感を覚えるフィリッポ・ガンナ(イネオス)。
大柄な体格からあふれ出るパワーで力強く踏み込むガンナ…速いぞ、これ!
なんとケムナを28秒も上回り、ぶっちぎりのステージ勝利!
11.5kmの個人タイムトライアルで28秒差って…ぶっちぎりにも程があるわ!!
改めて、恐るべし「トップガンナ」の出力。
第2ステージ
集団スプリント間違いなしの、平坦なステージ。
5人の選手が逃げるけれども、スプリンターチームがあまりタイム差を大きく広げないようにコントロールして、残り20km辺りで逃げを吸収。
大方の予想通り、ピュアスプリンターによるハイスピードバトルが繰り広げられる事に。
残り2km、先頭で主導権を握ろうとするのは、意外にもアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ。
しかし、そのすぐ背後ではスーダルとアルペシンが強烈なトレインを整えて控えている。
残り300m、ここで意表を突くロングスプリントを仕掛けたのはフェルナンド・ガビリア(モビスター・チーム)!
かなり良い勢いで飛び出したガビリアを追いかけるのはフィリプセン、そしてその背中にはヤコブセンがピッタリと貼りついている!
残り100mを切ってヤコブセンがフィリプセンの背中から飛び出してスプリントを開始!
最後はガビリア、フィリプセン、ヤコブセンの3人によるハンドルの投げ合い!!
激熱なスプリントを制したのは…ヤコブセン!
ヤコブセンを安定して前へ運ぶスーダルのチーム力、そしてギリギリまでスプリントを待ったヤコブセンの冷静さが光った勝利だった!
第3ステージ
若干の起伏がありつつ、前日同様に集団スプリントになりそうなステージ。
残り70km以上と早めのタイミングで逃げを吸収し、このまま穏やかに集団スプリントに向かうのかと思いきや、終盤に一波乱が。
残り12kmを切った辺り、ユンボがファンアールトを中心とした猛牽引で集団に負荷をかけると、横風の影響もあり分断が発生。
総合勢やステージ勝利に絡みうるスプリンターも結構な人数が後ろに取り残されるという、なかなか面白い展開に…!
ただ、珍しくエースのヤコブセンが後ろに取り残されてしまったスーダルが、チーム総力を挙げてなんとか前方との合流に成功。
この荒れた展開が、最後の集団スプリントにどのような影響を及ぼすか…。
市街地を抜けるテクニカルなコーナーの連続に殆どのチームが隊列を乱される中、アルペシンは残り500mを切ってからファンデルプールが先頭、そしてその背中にはエースのフィリプセンと、最高の態勢に!
ファンデルプールがその規格外の出力でスピードを一切緩めず、残り100mでフィリプセンを発射!!
最高のお膳立てから発射されたトップスプリンターに、並べる選手などいる筈もない…!!
圧巻のリードアウトと世界最高峰のスプリント力による、圧倒的な勝利!
これは強かった!!
乱戦の中であの展開に持ち込まれたら、止められるチームは…まぁいないでしょ!
そしてアルペシンは、意外にもこれが今シーズン1勝目。
ワールドチームに昇格した今シーズン、ここからしっかり巻き返しに期待したいところだ。
第4ステージ
終盤に最大勾配19%の激坂トルトレートを4回登る、なんだかワンデーレースのようなレイアウト。
この日の逃げは残り60kmほどの位置でメイン集団に捕まり、トルトレート4周回のどこで誰が仕掛けるのか、なかなかの緊迫感でレースが進んでいく。
2度目のトルトレートと言う早いタイミングで仕掛けたのは、なんとこの日の本命の1人であるアラフィリップ!
流石にこの動きはその後の平坦区間で潰されてしまうけれども、早くからのハイペースな展開にメイン集団はどんどん人数を減らしていく。
最後のトルトレートの直前、落車が発生。
転んでいるのは…この日の有力候補であるファンアールトとピドコック…!?
このタイミングでの落車は、残念ながらどうしようもない…。
メインキャストを2人欠いてのフィニッシュへの登りとなってしまった。
フィニッシュへと向かうトルトレートの登りでは、散発的なアタックはいくつか起こったけれども、決定的な動きはなかなか無いまま、気が付けば残り1kmを切っている。
残り700mからヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)がアタック、合わせるように背中に付いたのはゲイガンハートにマス、そして少し位置を下げていたようにも見えたログリッチもしっかり前に出てくる。
残り500m、ログリッチが静かに先頭へ!
残り300m、コーナーを利用してヴィクトル・ラフェ(コフィディス)とアダム・イェーツ(UAE)が前へ差し込んでくる!
残り200m、気が付けばアラフィリップも前に上げて来ている!
そのまま有力選手が雪崩れ込むように残り100mを通過!!
最終コーナー、冷静な位置取りでするっと前へ抜けたのは…ログリッチ!!
ログリッチ、目まぐるしい展開を制して今シーズン初勝利!!
無理して踏み込むのではなく、最適なコース取りとタイミングで手繰り寄せた技ありの勝利だった!
第5ステージ
超級山岳サルナノ・サッソテットにフィニッシュする今大会のクイーンステージ…なんだけれども、記録的な強風の影響でフィニッシュ地点が2.4km手前に移動される事に。
ただ、2.4km短縮されたとは言え、サルテナ・サッソテトのプロフィールは登坂距離10.7km・平均勾配7%と、総合争いの場としては十分な難易度だ。
6人の逃げはサルテナ・サッソテトに到達する前にメイン集団に吸収され、やはり最後は総合勢によるガチンコの争いに。
UAEによる高速牽引で次々と脱落者が出る中、残り4.7kmで飛び出したのはダミアーノ・カルーゾ(バーレーン)。
総合45秒遅れのカルーゾを遮二無二追いかけるチームは無く、カルーゾは強風の中淡々とペースを刻みながら独走を続ける展開に。
残り2kmを切ってタイム差は20秒以上と、カルーゾによる逃げ切りの可能性が出てきたようにも見えていたけれども、残り1.2km辺りでのマスのアタックを皮切りに、タイム差は一気に減少!
マスのハイペースに反応したのはサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン)とジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)の2人のみ。
しかし、残り1kmを切ってカルーゾを吸収すると、少し遅れて後続の選手も追いついて来る。
結局最後は20人弱での小集団スプリント、真っ先に仕掛けたのはカーシー!
ここは、ログリッチのアシストであるウィルコ・ケルデルマンがこの動きをしっかりと封じ込める。
強い向かい風の影響もあり若干牽制状態の中、残り100mを切ってから仕掛けたのはゲイガンハート!
当然他の選手も合わせて踏み込む中、大外からまくるように前に出てきたのは…ログリッチだ!!
ログリッチ、ステージ2連勝で総合首位に浮上!!
フィニッシュでのスプリント力も素晴らしかったけれども、強風でかなり特殊なコンディションの中、前日同様に冷静な仕掛け所が光っての勝利!
強い選手がクレーバーに戦う…そりゃ強いわ。
第6ステージ
絶え間なくアップダウンが繰り返され、更に終盤には最大勾配20%の激坂「オージモ」が3回登場する、厳しい展開が予想されるレイアウト。
総合リーダーのログリッチを抱えるユンボは、逃げとのタイム差があまり開かないようにメイン集団をコントロール。
途中、総合1分20秒遅れのブイトラゴが、逃げに乗っていたチームメイトのニキアス・アルントの助けを借りて逃げに合流する場面もあったけれども、結局逃げは吸収された状態で最終周回へと突入。
残り28km、ギヨーム・マルタン(コフィディス)のアタックをきっかけに、マルタン、ウラソフ、アレックス・アランブル(モビスター)、カルロス・ベローナ(モビスター)というかなり強力な4人が抜け出す事に成功。
残り20km辺りでタイム差は約30秒、残り10kmでも20秒のタイム差をキープと、メンバーが強力な事もあり「ひょっとすると…?」という展開に。
しかし、残り7kmを切った辺りからイネオスがメイン集団のペースを急激に上げて、タイム差は一気に縮まっていく。
結局、残り5kmで先頭集団は吸収されて、やはりこの日も総合勢によるバチバチのやり合いが幕を開ける事に。
先頭集団を吸収した直後、石畳の激坂でペースを上げたのはランダ。
この動きに反応できたのは、カーシー、ログリッチ、アルメイダ、ゲイガンハート、マス、ウッズ、チッコーネと、錚々たるエース級のみ。
残り2km、ウッズがアタック!
ウッズは総合争いから既に脱落しているので、見逃してもらえる可能性も…と思っていたけれども、結局残り1km辺りで吸収されてしまう。
そのまま8人でフィニッシュへの距離を減らしていき、この日も最後は小集団でのスプリント!
残り400m辺りから踏み込んで先頭に出たのはマス、ただログリッチが冷静にその背中を捉える!
残り100mを切ってスプリント勝負、余力を残していたのは…ログリッチ!!
ログリッチ、なんとこれでステージ3連勝!
冷静な判断による抜群の仕掛け所で、またしてもその強さを見せつけてくれた!
以前はもう少し「王様のようなポジション取りで真正面から叩き潰しいく」節があったようにも思うけれども、この3連勝はどれも冷静で狡猾な、ある種省エネな走りに見えたのは興味深いところ。
はたして、この変化は何を意味するのか…。
第7ステージ
コーズ中盤以降はド平坦なレイアウトを5周回する、集団スプリント間違い無しなステージ。
8人の逃げ集団は、最大で3分半ほどと小さなリードしか許されなかったけれども、意外とギリギリまで粘る事に。
メイン集団が逃げ集団を飲み込んだのは、フィニッシュ地点まで僅か3.2kmという位置。
スピードを上げた集団は、そのままフィニッシュスプリントへと突入していく。
残り1kmを切って、狭いクランクへ先頭で突入していくのはファンデルプール。
エースのフィリプセンはファンデルプールの真後ろではなく、数人の選手が入り込んでしまっているけれども…?
しかし、他のチームもあまり整った隊列は組めていないこの状況を「有利」と見たのか、ファンデルプールは強烈な牽引を続行!
残り300m、ファンデルプールが牽引を終えて下がると、先頭はダヴィデ・バッレリーニ(スーダル)に。
ただ、その背中に張り付いているのはスーダルのエースであるヤコブセンではなく…フィリプセンだ!
結果的にバッレリーニがライバルチームのフィリプセンを引っ張るような形になり、フィリプセンは残り150mを切った辺りという絶好の位置からスプリントを開始!!
後方からはフルーネウェーヘンも追い上げを見せるけれども、フィリプセンは最後まで勢いを失わない!!
見事なスプリントのキレを見せたフィリプセン、今大会2勝目!
ファンデルプールの豪快な牽引、そしてそれにしっかり応えるフィリプセンのスプリント!
アルペシンは今シーズン開幕からなかなか勝てなかったけれども、やはりこの2人は別格に強い!
そして、しっかり同タイムでフィニッシュしたログリッチが総合優勝!!
シーズンオフに肩の手術を受けてからの復帰戦で、ステージ3勝を挙げての総合優勝とは…!!
なんだかんだ言われる事も多いけれども、ログリッチはやはり強い。
ジロ・デ・イタリアに向けて、上々の仕上がりだ。
総合2位に入ったのは、アルメイダ!
初日の個人タイムトライアルで7位につけると、安定感のある走りでじわじわと順位を上げて、気が付けばこの位置に。
その安定感は今年も健在、そろそろグランツールの表彰台に手が届いてもおかしくないと思う。
そして総合3位はゲイガンハート!
2020年の衝撃のジロ制覇以来、ケガなどに苦しんだ印象があったけれども、やはり地力はあると証明してくれた。
過渡期で苦しむイネオスの救世主となれるか、注目していきたい。
並行開催のパリ~ニースに劣らず、やはりティレーノも面白かった!
そして、ログリッチ、アルメイダ、ゲイガンハートと、ジロに出場予定の総合エースが総合表彰台に入ったのは印象的だった。
いや~、ジロに向けて、早くも期待感が高まってきた…!
本格開幕で一層の盛り上がりを見せるロードレースシーズン、この先も存分に楽しんでいこう~!
それでは、また!!
おまけ
今日の1枚
じっくりと三叉矛トロフィーを見つめるログリッチ