美しきローマ周回コース
2023年のジロ・デ・イタリア、その最終ステージはここ数年続いていた個人タイムトライアルではなく、実に5年ぶりとなるローマでのスプリント。
前日に劇的すぎる展開で総合争いを決着させた選手たちは、和やかで、そして晴れやかな雰囲気の中、まずはゆっくりとしたパレード走行でスタートしていく。
パレードの主役は、総合優勝を飾ったプリモシュ・ログリッチと、ログリッチを力強く支え続けたチームメイトたち。
ユンボ・ヴィスマ🩷
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】 (@jspocycle) May 28, 2023
ログリッチ、アッフィニ、ボウマン、デニス、ヘスマン、クス、グローグ、オーメン
Cycle*2023 ジロ・デ・イタリア 第21ステージ
【ローマ発着】126 km(平坦 ★)
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開幕直前に急遽のメンバーチェンジが連続で起こる、振り返ってみれば不安だらけのスタートだったけれども、結局は全員が生き残って最後までエースのログリッチをアシスト。
ログリッチの強さだけでなく、やはりそのチーム力も光った事によって達成した総合優勝だった。
ログリッチとゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)…総合優勝を争った2人が長く談笑する姿が映し出されたりしながら、気が付けばローマ市街地を6周する周回コースが近づいてくる。
レースを動かそうと逃げ集団を作ったのは、マキシム・ブエ(アルケア・サムシック)、チェザーレ・ベネデッティ(ボーラ・ハンスグローエ)、トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)の3人。
今大会積極的な逃げが目立っていたスクインシュは、中間スプリントポイントを先頭通過した結果、中間スプリント賞でトップに浮上。
トレックはエースのマッズ・ピーダスンが新型コロナウィルスで離脱してしまい、それ以降はなかなか苦戦していたけれども、最後に一つ結果を残して見せた。
最終周回に入ると、スプリントチームの牽引でスピードを上げるメイン集団が、逃げの3人を吸収。
そこから今大会7度も逃げに乗って沸かせ続けたデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)がアタックを試みたりもしたけれども、やはり最後は集団スプリントに向けてレースは展開されていく。
残り3km、先頭で隊列を組むのはモビスター・チーム、アシストを2枚残しつつフェルナンド・ガビリアが控える絶好の形。
残り2km、総合2位のトーマスが危険回避のためにスルスルっと上がってきたかと思うと、アスタナ・カザクスタンチームの2人…マーク・カヴェンディッシュとルイスレオン・サンチェスに何やら声をかける。
そしてトーマスは、なんと2人の前に出て牽引を開始…!!
この動きは…まさか、今シーズン限りでの引退を表明しているカヴェンディッシュのためか!!
トーマスの牽引の甲斐もあって、カヴェンディッシュはガビリアの背後と言う絶好のポジションで残り1kmを通過。
主導権を主張しようと頑張っていたモビスターが若干勢いを失う中、マリア・チクラミーノを着るジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)が結構後方にいるなど、他のチームもあまり良い連携は取れていない。
残り300m、やや混沌とした状態が続くのを嫌ってか、ガビリアが早めのスプリントを敢行!
その背中にはカヴェンディッシュが張り付き、そしてミランは別ラインから独力でスプリントを仕掛けようと試みる!
ミランは連日の疲労か早々に失速、そしてガビリアもやはり仕掛けが早すぎたのか苦しむ一方、ガビリアの動きを利用してカヴェンディッシュが残り150mで先頭へ!!
カヴェンディッシュを追える選手は…いない!!
直後に落車が起こった事もあり、カヴェンディッシュは完全に独走状態でフィニッシュへ!!
最終日も何と劇的な結末!!
これが最後のジロとなるカヴェンディッシュ、最後の最後にスプリントで圧倒的な強さを見せて、ジロ通算19勝目!!
いやはや、凄すぎる…!
カヴェンディッシュも、展開も、凄すぎる…!
元チームメイトであり、そして同じイギリス代表としてトラック競技で旧知の間柄だったトーマスによる熱い牽引よ!
そしてそれにしっかり応えるカヴェンディッシュ!
最後の最後に、またとんでもないシーンを見せてくれた!
そして、総合首位のログリッチも無事にフィニッシュ!!
ジロ・デ・イタリア2023、総合優勝はプリモシュ・ログリッチ!!
開幕前からトラブル続きで、決して順風満帆ではなかったけれども、その力でしっかりと勝利を掴み取った!!
本当におめでとう!!
色々あったけれども…
改めて、最終成績を確認。
- 総合優勝:プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)
- 総合2位:ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)
- 総合3位:ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)
- ポイント賞:ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)
- 山岳賞:ティボー・ピノ(グルパマFDJ)
- ヤングライダー賞:ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)
- 総合敢闘賞:デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)
- チーム総合賞:バーレーン・ヴィクトリアス
総合優勝は、ログリッチ!!
開幕前のメンバーチェンジ、落車による縫合が必要なレベルの裂傷、そして第20ステージでのメカトラブル…。
様々な困難やバッドラック、そして強力なライバルを、その圧倒的な力で乗り越えての戴冠!
「大事なところで勝てない」と揶揄されがちだけれども、改めてその強さを証明できたのは、本当に喜ばしい事だった!
熟練の走りで総合2位に入ったのは、トーマス!
その安定感と判断力は、本当に素晴らしかった!
また、逆転を喫した第20ステージ後のログリッチを称えるコメントや、第21ステージで見せた胸が熱くなるようなアシストなど、その言動も本当に印象的だったと思う。
ロードレースへの愛と理解とリスペクト、そして少しのユーモア…。
トーマスの魅力がとても顕著に表れていた3週間だった。
総合3位のアルメイダは、自身初のグランツール総合表彰台!
2020年のジロで彗星のように現れて総合4位に入って以降、あと一歩で逃し続けていたその位置にやっとたどり着いた!
第16ステージで見せたあのアタック、そして掴んだステージ勝利は、総合3位と言う結果と共に、彼を更に成長させてくれると思う。
改めて、ここからのキャリアが楽しみだ!
ポイント賞を獲得したのは、地元イタリアの新星ミラン!!
第2ステージで勝利を挙げてポイント賞首位に立つと、なんとそのまま最後までマリア・チクラミーノをキープ!
スプリント時の位置取りにはまだまだ改善点も見られるけれども、それでいてこの結果を残したその爆発的なトップスピードは、驚愕の一言。
193cm・84kgとかなり大柄な割に結構登れる部分も含めて、新たな主役候補として注目していきたい。
山岳賞を獲得したのは、現役最終年のピノ!!
やはりその登坂力は、並みの選手とは格が違う…!
目標としていたステージ勝利にはあと一歩のところで届かなかったけれども、しっかりと勲章を持ち帰ってくれるのは、本当に喜ばしい事だ!
残りのシーズンも、悔いなく頑張ってほしい!
総合敢闘賞は、今大会で一気にその名前を売ったジー!!
7度の逃げから4度のステージ2位と、とにかく目立ち続けていた。
そしてその結果として、ポイント賞・山岳賞・中間スプリント賞の3つ全てで2位と、これまた珍しい記録をマーク…!
「1位」は無くても、まさに総合敢闘賞に相応しい、果敢でチャレンジングな走りに称賛を送りたい!
そしてチーム総合賞は、バーレーン!!
ミランのポイント賞とステージ1勝だけでなく、ダミアーノ・カルーゾが総合4位にランクイン、サンティアゴ・ブイトラゴも逃げてステージ1勝と、満遍なく活躍していた印象通りの結果に。
そして、アシストとしてチームを支え続けた新城幸也も表彰台に…!!
最終日もスプリント直前にメイン集団を牽引していたように、平坦区間を中心にもの凄い仕事量をこなしていた新城。
本当に、凄い選手だ…。
新型コロナウィルス、そしてかなりの悪天候の影響で、51人ものリタイア者が出た今回のジロ。
レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)を筆頭に、テイオ・ゲイガンハート(イネオス)、アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)、ピーダスンなど、主役級の選手もかなりいなくなり、それがかなり展開に影響してしまい、寂しい部分があったのも事実だとは思う。
それでも、残された選手によるレースは当然ながらやはり本物であり、そして最終盤にはあまりにも劇的すぎる展開が繰り広げられていた。
難しい状況の中で戦い続けた選手たちや、大会に関わった人たちに本当に感謝したい。
さあ、「美しくも過酷」を体現したジロが終わり、次のグランツールは…7月のツール・ド・フランス!!
ジロとはまたテイストの違う、至高の戦いへの期待感を胸に抱きながら、まずは6月の前哨戦を楽しんでいこう!!
それでは、また!!