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【レース感想】ジロ・デ・イタリア2024 第12ステージ

これぞアラフィリップ…!!

第12ステージは、4つの4級山岳が登場するだけでなく、カテゴリーの付かない起伏が多数設定された丘陵ステージ。

逃げ切りが十分に狙える「お得意」のレイアウトで躍動したのは…世界王者に輝くこと2回、フランスの英雄ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)。

2022年以降はケガに苦しめられていた「手負いの狼」は、初めての出場となるジロで、その鋭い牙を剝いた。

 

逃げ切りの可能性が大いにあるレイアウトのため、スタート後のアタック合戦が激しく繰り広げられる中、アラフィリップは抜け目なく、早い段階で逃げに乗ることに成功。

その後、30人近い大人数の追走集団が先頭に合流してきて、先頭は38人というとんでもない人数に。

この先頭集団には、今大会既にステージ勝利を飾っているジョナタン・ナルバエス(イネオス・グレナディアーズ)を筆頭に、現役屈指のタイムトライアルスペシャリストであるフィリッポ・ガンナ(イネオス)、百戦錬磨のマッテオ・トレンティン(チューダー・プロサイクリング)やミケル・ヴァルグレン(EFエデュケーション・イージーポスト)、新進気鋭の有望株ローレンス・ピシー(グルパマFDJ)など、かなり強力なメンバーが揃っている。

一方のメイン集団は、総合5分57秒遅れのヤン・ヒルト(スーダル)が先行しているのは気にしつつ、先頭集団を捕まえてやろうという意思は見えない。

大集団での逃げ切りの展開、果たしていつゴングが鳴るのか、アップダウンの続くレイアウトで一体どんなサバイバルレースになるのだろうかと、自分も含めて多くの人が思っていただろう。

 

残り126km、登坂区間で先頭集団が割れると、なんとその隙にアラフィリップがアタックを仕掛けて、ミルコ・マエストリ(ポルティ・コメタ)と2人で抜け出す展開に。

今大会かなり積極的な動きを見せていたアラフィリップが仕掛けることは、予想できた人も多かっただろう。

しかし、日本語での中継が始まる前、残り126kmという驚くほど速い位置からの仕掛けになるとは、予想していた人はほぼいないのではないだろうか。

正直言って、個人的には「早すぎる」と思った。

追走集団は、人数が多いだけでなく、力のある選手が揃っている。

「あぁ、アラフィリップはまた焦って仕掛けどころを誤ってしまったのでは…?」なんて思っていた。

しかし、ここから意外な展開が続く。

すぐさま30秒ほどのタイムギャップを作り出した2人は、徐々に…着実にリードを大きくしていく。

残り90kmで、追走とのタイム差は1分30ほど。

逃げ切れるのか、それとも捕まるのか、どちらの可能性も残したままレースは進んでいく。

 

先頭の2人は、登坂区間では明らかに力の差があり、遅れそうになるマエストリをアラフィリップが脚を緩めて「待つ」ようなシーンが続く。

それでも、平坦区間ではマエストリもしっかりとローテーションをして、協調体制を維持したまま逃げ続ける。

一方の追走集団は、登りを越える度に人数を減らしていき、気が付けば9人に。

ナルバエス、ヴァルグレン、トレンティン、クインテン・ヘルマンス(アルペシン・ドゥクーニンク)、オレリアン・パレパントル(デカトロン・AG2R・ラ・モンディアル)、クリスティアンスカローニ(アスタナ・カザクスタンチーム)、サイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)、ディオン・スミス(アンテルマルシェ・ワンティ)、ハイス・レイムライゼ(チームDSMフェルミニッヒ・ポストNL)と、当然ながら力のある選手しか残っていない。

しかし、タイム差の縮み方が…どうにも鈍い。

しかも、残り50kmで1分10秒差にまで縮めたかと思いきや、残り40kmでは1分45秒と、逆に広がってしまっている。

残り30kmでも、先頭と追走の差は1分20秒。

長い登坂の無いこの日のレイアウトだと、アタック一発で先頭に追いつきたいのなら、タイム差を30秒ぐらいには縮めておくべきなはず。

この先に登場する登坂は、残り9.4kmに頂上が設定された急坂、最大勾配20%を誇るモンテ・ジョーヴェのみ。

要するに、追走が追いつくのは…極めて厳しい状況になっている。

そして、先頭の2人…アラフィリップとマエストリは、明らかに登坂力の差がある。

勝負がほぼ決まったのは、明白だった。

 

残り11.5km、モンテ・ジョーヴェの丘を待たずして、その瞬間は訪れた。

モンテ・ジョーヴェの直前にある小さな起伏でアラフィリップが加速すると、マエストリが付いていけない…!!

独走を開始するアラフィリップ、追走とのタイム差はまだ45秒ほどある!

そしてモンテ・ジョーヴェの丘でも、アラフィリップの勢いは衰えない!!

激坂フィニッシュのラ・フレーシュ・ワロンヌを3度制し、世界王者にも2度輝いた「激坂の王」は、最盛期のような登坂を見せつける!!

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頂上を越え、後方とのタイム差は40秒!

マエストリを抜き去ったナルバエスとヘルマンスが追いかけてくるけれども、これは…やはり届く距離ではない!!

 

テクニカルなダウンヒルを勢い良く駆け抜け、市街地も全力で踏み込み、順調にフィニッシュ地点に向かうアラフィリップ。

残り700mを切ると…勝利を確信してようやく笑顔を見せる!

最後はアラフィリップらしい、力強いガッツポーズでのフィニッシュ!!

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鮮やかに、エネルギッシュに、そして情熱的に!!

これぞアラフィリップ、渾身の逃げ切り勝利!!

帰ってきた…!!

強いアラフィリップが帰ってきた!!

積極的に仕掛け、勝負所を見逃さず、最後は必殺の激坂アタック!!

2022年に落車で重傷を負ってからは、かなり苦しい時期が続いていたけれども、…、やっと本来のアラフィリップの走りが炸裂した!!

いや~本当に、痺れるようなカッコよさだよ、アラフィリップ!!

この調子で、残りのステージでも暴れまわっていこう!!

 

そしてもう一人の「勇者」、マエストリ

アラフィリップと同じく32歳、ワールドチームへの所属経験がないイタリア人。

明確に「格上」のアラフィリップが相手なら、律儀にローテーションしなくてもある程度は許容されただろうに、しっかり協調して全力で踏み続けたその姿は、称賛に値するはずだ。

レース後には、アラフィリップの方から近づいていき、熱い抱擁を交わして、お互いを讃え合う。

チームの垣根を越えた共闘という、ロードレースならではの要素が生み出した、美しいシーン。

改めて、本当に素晴らしいレースだった。

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