掛け値なし、別格の「ビッグ4」
第7ステージは、少し登りの要素もある25.3kmという、中距離の個人タイムトライアル。
注目は、総合争いの「ビッグ4」。
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)、プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)という、極めて高いタイムトライアル能力を有した4人による、バチバチの争い。
それはまさに…激戦になった。
ビッグ4の出走前、暫定トップのタイムをマークしていたのは、元アワーレコード世界記録保持者のヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)。
この歴戦のタイムトライアルスペシャリストがホットシートを温める妥当性と同時に、3つある中間計測のトップタイム記録者がカンペナールツ以外の3人だった(要するに、各区間ごとに最速タイムを出した選手がバラバラだった)のは、この日のレイアウトの見た目以上の難しさを示唆していた。
ビッグ4で最初の出走は、東京オリンピックにおける個人タイムトライアルの金メダリスト、ログリッチ。
ログリッチは、現役屈指のタイムトライアルスペシャリストであるシュテファン・キュング(グルパマFDJ)がマークしていた第1中間計測の最高タイムを、1秒上回る。
登坂の頂上に設定された第2計測(こちらはEFエデュケーション・イージーポストのベン・ヒーリーが暫定トップタイム)も、ログリッチは軽々と更新する。
続いてダウンヒルの終わりに設定された第3計測、今年のパリ~ニース総合優勝者マッテオ・ヨルゲンソン(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)が記録したトップタイムを、21秒も上回る。
そしてフィニッシュ地点では、カンペナールツの記録を14秒更新。
カンペナールツが最終区間でかなりペースを上げていたのが改めて明らかになったけれども、もはやそんなことは関係ない。
ログリッチと比べるべきタイムは、数分後に続々とフィニッシュしてくるライバルのタイムだ。
続いての出走は、昨年のツールで総合優勝を手繰り寄せる圧巻の個人タイムトライアルを見せつけていたヴィンゲゴー。
第1中間計測で10秒、第2中間計測で14秒ログリッチを上回り、この日も順調…かと思いきや、終盤にややペースダウン。
第3計測ではログリッチを4秒上回っていたけれども、フィニッシュタイムは…3秒遅れ。
この結果はヴィンゲゴーにとって「完璧」ではないが…、4月の大落車の影響で100%のコンディションではない中、上手くまとめたと評価するべきか。
個人タイムトライアル世界王者の証である虹色のジャージではなくヤングライダージャージで出走したのは、現役最強のタイムトライアラーの1人、エヴェネプール。
スタートから勢いよく飛び出し、その踏みは軽快かつ力強く、そして空気抵抗を軽減するべく体を小さくしたそのフォームは…相変わらず極上の美しさ。
第1計測で…ヴィンゲゴーより10秒早い!!
そのまま全ての中間計測のトップタイムを更新し、フィニッシュタイムは…ログリッチを34秒も上回る!!
ログリッチ相手にこのタイム差は…エヴェネプール、相変わらず恐ろしすぎるタイムトライアル能力だ。
そしてマイヨジョーヌを纏う最終走者、ツールのタイムトライアルではこれまでに2勝を挙げているポガチャルがスタート。
まずは第1中間計測…エヴェネプールから2秒遅れと、これまたかなり速い!
そこから第2中間計測では10秒差、第3中間計測では6秒差と、僅差をキープしながらフィニッシュが近づく…!
最終タイムは…エヴェネプールから12秒遅れ!!
これが世界王者の力!!
大激戦となった個人タイムトライアル、制したのはエヴェネプール!!
凄い…。
本当に凄すぎる、エヴェネプールの強さ!
最終ステージが33.7kmの個人タイムトライアルなのを考えると、そこまで何とか粘って総合30秒遅れぐらいで辿り着ければ、総合優勝も見えてくるぞ…!
「ビッグ4」が文字通り別格の走りを見せつけたことで、総合争いはほぼ4人での戦いに。
タイム差は、総合首位ポガチャル、総合2位エヴェネプール(+33秒)、総合3位ヴィンゲゴー(+1分15秒)、総合4位ログリッチ(+1分36秒)と、それぞれの差が1日でひっくり返る可能性があるレベル。
ここから、果たしてどんな勝負が繰り広げられるのか。
「ビッグ4」の争いに割って入ってくる選手は現れるのか。
今年のツールの総合争い、本当に楽しみで仕方がない。