復活、そして反撃の狼煙
第11ステージは、終盤50kmに2級・1級・2級・3級と4つのカテゴリー山岳が詰め込まれた、中央山塊を舞台とする山岳ステージ。
山頂フィニッシュではないけれども、獲得標高は4,000mを超え、1級山岳ピュイ・マリー(登坂距離5.4km・平均勾配8.1%)は頂上付近2kmの勾配が11%を超える、なかなかの難所。
そして直後の2級山岳頂上には、ボーナスタイムが設定されている。
まず間違いなく、総合争いが激化するはずだ。
僅かな逃げ切りの可能性を求めて飛び出した選手たちは、リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)、ベン・ヒーリー(EF)、ギヨーム・マルタン(コフィディス)、ポール・ラペラ(デカトロン・AG2R・ラ・モンディアル)、オイエル・ラスカノ(モビスター・チーム)など、かなり強力なメンバーでの逃げ集団を形成する。
しかしメイン集団を牽引するUAEは、タイム差を1分台でコントロールと、逃げ切りを許す気など毛頭ない。
第4ステージと同じように、ニルス・ポリッツを中心とした牽引で山岳入り口まで到達すると、やはりそこから自慢の高速山岳トレインを「発進」させる。
この日最大の勝負所である1級山岳ピュイ・マリーでの機関車役は、昨年総合3位のアダム・イェーツ。
その実力を出し惜しみなく注ぎ込んだ高速牽引で、逃げていた選手を飲み込み、そしてライバルへ容赦ない攻撃を浴びせる。
他のチームのアシストを全滅させ、更にはエースも…レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)、ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)、プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)、ジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)と、僅か5人にまで絞り込んでみせる。
そして山頂まで600mの位置で、最高のお膳立てを受けたタデイ・ポガチャルが、この日も得意のアタックを繰り出す。
ヴィンゲゴーとログリッチがなんとか追おうと試みるけれども、ポガチャルの背中は遠ざかる。
山頂でのポガチャルとのタイム差は、ヴィンゲゴーは5秒、ログリッチは10秒、エヴェネプールは20秒。
そして、第4ステージではダウンヒルでもタイム差を広げていたポガチャルの強さは…4人のダウンヒルでの力関係は、この日も変わらない。
ヴィンゲゴー、ログリッチ、エヴェネプール、そしてカルロス・ロドリゲスとチッコーネ、更にはアダム・イェーツとジョアン・アルメイダというUAEのアシストも、ダウンヒルで一つの集団になってポガチャルを追走。
それでも、続く2級山岳に突入するまでに、タイム差は30秒強にまで広がっていく。
2級山岳(登坂距離4.5km・平均勾配8.2%)の登坂に入ると、追走集団ではヴィンゲゴーがペースを上げ、その動きにログリッチとエヴェネプールが付いていこうと試みる。
しかし、エヴェネプールはすぐに千切れ、しばらくするとログリッチも突き放される。
このログリッチが突き放された山頂まで残り2.5km地点、ポガチャルとヴィンゲゴーのタイム差は22秒。
これは…エヴェネプールやログリッチが遅いのではなく、ヴィンゲゴーのペースが速い…!?
まだ2kmしか登っていないのに、先頭を走るポガチャルとのタイム差が10秒も縮まっている…!
山頂の直前、ヴィンゲゴーがポガチャルに追いつく!!
怪我明けぶっつけ本番でツールに臨んでいたヴィンゲゴーのコンディションが、間違いなく1週目より上がっている!!
ポガチャルとヴィンゲゴーは、そのまま2人で3級山岳を越え、ダウンヒルはヴィンゲゴーが前で牽き続けて、フィニッシュへと近づいていく。
そのままヴィンゲゴーが前に出され続けた状態で、最後は緩い登りでのマッチスプリント。
2人は牽制しながら、残り150m、ほぼ同時に踏み込む。
脚質的にも、シチュエーション的にも、どう考えてもポガチャルが有利。
すぐさまポガチャルが横に並び、そのまま前に…出られない?
ポガチャルが…伸びない!?
どこか力が入り切らない様子で踏み込むポガチャルに対して、ヴィンゲゴーも必死の形相で粘る!!
厳しい山岳を越えて極限状態でのスプリント、最後は両者がハンドルを投げ合う…!!
勝ったのは…ヴィンゲゴー!!
ヴィンゲゴー、スプリントでポガチャルを降してのステージ勝利!!
ガッツポーズの後に本人も頭を抱える、「まさか」の勝ち方…!!
なんという…本当になんという選手だヴィンゲゴー!
4月、イツリア・バスクカントリーの落車で負った怪我は、鎖骨と肋骨の骨折、肺の気胸と挫傷と、ツールの出場自体が危ぶまれる、本当に大きなものだった。
そこからなんとかツールに間に合わせたけれども、1週目はやはりまだコンディションが万全ではなかったのか、第4ステージで少し遅れを取っていた。
このまま調子が上がらず、ポガチャルに対して何もできずに終わってしまう可能性もあるかもしれないと、そう思うぐらいの状態だった。
それでも、この日見せた走り。
ペース走で追いついた2級山岳での登坂、そして最後のスプリント…!!
これが、王者の力。
これが、現役最強の総合系選手、ヴィンゲゴーの強さ。
王者の帰還を、心から祝福したい。
それでもポガチャルは、未だに小さくないリードを保っている。
総合2位のエヴェネプールとは1分6秒、この日少しだけ差を詰められたヴィンゲゴーとは1分14秒、そしてログリッチとは2分15秒、これだけのタイム差を有している。
その上で…考えなければいけないことは、たくさんある。
ヴィンゲゴーのコンディションは更に上がっていくのか?
ジロ・デ・イタリアからの連戦となる、ポガチャル自身の調子はどうだ?
積極策と安全策、どのステージでどのような選択が最適だろうか?
エヴェネプールとログリッチは、どこかで仕掛けてくるのか?
山岳ステージの難易度が本格化する後半戦、ますます目が離せなくなってきた。