王者の攻撃
第19ステージは、ヴァルス峠(登坂距離18.8km・平均勾配5.7%)にボネット峠(登坂距離22.9km・平均勾配6.9%)と2つの超級山岳を越えて、1級山岳イゾラ2000(登坂距離16.1km・平均勾配7.1%)へとフィニッシュする、今大会の最難関ステージ。
総合首位タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)と総合2位ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)のタイム差は、3分11秒。
ヴィンゲゴーとしては、このステージでなんとしてもタイムを縮めたいところだ。
ヴィンゲゴーの逆転優勝に向けて、ヴィスマはマッテオ・ヨルゲンソンとウィルコ・ケルデルマンという強力な山岳アシスト2人を逃げに乗せる、かなり大胆な作戦を敢行。
逃げ集団にはこの2人の他に、同じく総合3位レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)のアシストであるイラン・ファンウィルデル、山岳賞狙いのリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)、ステージ勝利狙いのジャイ・ヒンドレー(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)やサイモン・イェーツ(チーム・ジェイコ・アルウラー)など、展開次第では十分に逃げ切り勝利を狙える選手が入っている。
カラパスは狙い通り、標高2,802mを誇る今大会最高峰ボネット峠を先頭通過して、山岳賞暫定首位に浮上。
その一方で逃げ切りに関しては、メイン集団を牽くUAEのニルス・ポリッツが、ボネット峠でも驚愕のペーシングを披露して、タイム差をコントロール。
恐らく、ヴィスマはこのボネット峠から攻撃を仕掛けたかったのだろうけれども、ポリッツの高速牽引でヴィスマのアシストが軒並みメイン集団から脱落してしまったこともあり、ヴィンゲゴーとしては仕掛けるどころではない状況に。
クライマーではなく平坦系ルーラーのポリッツ、今大会の仕事ぶりは本当に素晴らしい。
メイン集団から4分弱のリードでイゾラ2000の登坂を開始した先頭集団で、残り13.5kmの位置から仕掛けたのは、なんとヴィンゲゴーの前待ち要員かと思われていたヨルゲンソン。
これは…ヴィスマは、ステージ狙いに切り替えたのか…?
そして残り8.7km、メイン集団から飛び出したのは…ポガチャル。
エヴェネプールとヴィンゲゴーが追いかけようとするけれども、その背は遠くなっていく…!
先頭のヨルゲンソンとのタイム差は2分40秒、このまま追いついてしまうのか…?
ヨルゲンソンとポガチャルのタイム差は、残り5kmで1分強と、かなりのペースで削れていく。
ヨルゲンソンは他の逃げの選手に20秒以上のタイム差を付ける決して悪くないペースのはずなのに、ポガチャルはこの時点でエヴェネプールとヴィンゲゴーに1分30秒も差を付けているという、異次元のペース…!
残り2km、遂にポガチャルがヨルゲンソンをキャッチ。
そして追いついたその瞬間、ポガチャルは腰を上げて更にペースアップ…!!
一気にヨルゲンソンを置き去りにして、そのままフィニッシュへ向かう!!
ポガチャル、強すぎる…!!
総合優勝を更に盤石にする、ステージ4勝目!!
正直って、もはや「攻める意味」もあまりない状況なのに、このスタイル。
そしてこの…もはやなんと形容していいのかすら分からなくなる、圧倒的な強さ。
「ヴィンゲゴーと比べると長い登坂は得意ではない」といった評価をされながら、今大会で見せた走り。
直近2年分の悔しさを原動力に、相当な鍛錬を重ねて、「新たなステージ」に登ったのだろう。
王座への返り咲きは、まず間違いない。
このツールは、ポガチャルの新章の幕開けとして、語り継がれていくことになるはずだ。