初心者ロードレース観戦日和

初心者でもいいじゃない!ロードレース観戦を楽しもう!

ベルナルの現在地について考えてみる

「あの日」から3年

イネオス・グレナディアーズ所属のクライマー、エガン・ベルナル。

この28歳のコロンビア人は、世界屈指のクライマー「だった」。

2016年に18歳でプロ入りを果たし、翌2017年には若手の登竜門として名高いツール・ド・ラヴニールで総合優勝。

2018年からは、現所属チームの前身であるチーム・スカイ…当時間違いなく世界最強の総合系チームだったスカイに、鳴り物入りで加入する。

そして、2019年にはツール・ド・フランスで総合優勝と、早くも世界の頂点に立った。

アルプス山脈を軽やかに駆け上がるその走りは、この時点で「世界最強のクライマー」と称されるに相応しい、特別なものだった。

2020年は背中に故障を抱えながらの走りとなり、ツールを含めて結果は残せなかったものの、2021年にはジロ・デ・イタリアで総合優勝と、復調をアピール。

世界最強のクライマーの1人、そして最強クラスの総合系選手として、ここから更に活躍を見せてくれると、多くの人が思っていたはずだ。

 

しかし、2022年の1月25日、全てを無に帰すような出来事が起きてしまう。

公道でのトレーニング中に、停車したバスに高速域で衝突するという、想像するだけで恐ろしくなるような大事故。

なんとか一命をとりとめたものの、胸椎の脱臼骨折、大腿骨の粉砕骨折、膝蓋骨の開放骨折など、トップアスリートとしては致命的に思えるレベルの、重度の負傷をしてしまった。

 

正直に言おう。

この時点で、自分はベルナルの復活を「諦めて」いた。

ロードレースに限らず、このレベルの負傷からトップアスリートへ返り咲いた例を、自分はぱっと思いつかない。

トップレベルに返り咲けるかどうかではなく、そもそも競技に復帰できるのかどうかがかなり怪しい、そんなレベル。

復活してくれたら、トップレベルに返り咲いてくれたら、それはもちろん嬉しいし、それを望む気持ちは、当然ある。

それでも、「復活できなくても仕方がない、あの事故から生還しただけで、これ以上の望むべきものなどない」と、ある種の心の保険として、そう思うようにしていた。

 

しかし、だ。

ベルナルの生命力…フィジカルの回復能力とロードレースに対する情熱は、自分のような凡人の想定や想像を軽く飛び越えていた。

事故から約7か月という、恐ろしく短い期間で、ベルナルはレースに復帰。

流石に、2022年は「レースを走り切るのが精一杯」という感じだった。

しかし、翌2023年にはツールとブエルタ・ア・エスパーニャを完走、ツール・ド・ロマンディでは総合8位と、ワールドツアーでもそれなりに走って見せる。

まだまだ「エース級」と評価するには足りないが、もうここまで戻せて来るのかと、かなり驚かされた。

そして期待を(と同時にまだ不安も)胸に抱いて迎えた2024年、成績はさらに向上。

パリ~ニース総合7位、ボルタ・ア・カタルーニャ総合3位、ツール・ド・ロマンディ総合10位、ツール・ドスイス総合4位と、1週間規模のワールドツアーなら、普通にトップ10に入ってくる。

ツールでも、風邪(インフルエンザ?)でコンディションを崩すまでは総合13位と、悪くない順位をキープ(最終的には総合28位)。

流石にまだ「トップ層」とまでは言えなくても、「サブエース」や「優秀な山岳アシスト」というレベルまで、コンディションを上げてきた。

 

そして2025年、まずはコロンビア国内選手権でロードレースと個人タイムトライアルの2冠と、最高のシーズンイン。

続くクラシカ・ハエンでも好走…途中まではかなりの好走を披露。

先頭でチームメイトのミハウ・クフィアトコフスキが逃げていたので、ベルナルは追走集団でのチェック役に回る展開に。

ライバルの動きを潰すベルナルの走りは、どこか余裕すら感じさせる、完全に強者の動き。

ただ、未舗装路の下りコーナーで落車した際に鎖骨を骨折してしまい、離脱を余儀なくされる事に。

好調時の離脱は悔しすぎる…と同時に、その走りは明らかに昨年よりも力強く、これは期待せざるを得ない。

ファンの贔屓目が入っているかもしれないが、見ている感覚としては、2021年のジロでの走りに近い。

もちろん、グランツールと言う長丁場での安定感に関しては「証明が足りていない」ものの…、5月に出場予定のジロで総合争いに加わったとしても何ら不思議ではないと、素直に思っている。

 

カタルーニャで脚試し

クラシカ・ハエンでの鎖骨骨折から約1か月、復帰戦は同じくスペインの地、ワールドツアーのステージレースであるボルタ・ア・カタルーニャ

3月24日から7日間、総合優勝を争うライバルは…もちろん手強い。

まず筆頭は、直前のティレーノ~アドレアティコで総合優勝をしたフアン・アユソUAEチームエミレーツ・XRG)だろうか。

アダム・イェーツという強力なサブエース兼スーパーアシストを従えるまだ22歳の若者は、爆発力や勢いだけでなく、すでにかなりの完成度を誇っている。

続いて名前を挙げなければいけないのは、実績ベースなら最大の優勝候補と呼ぶべき選手であるプリモシュ・ログリッチレッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)

今シーズンはまだ1レースしか走っていないので、仕上がりは若干未知数ではあるものの、当然手強い相手だ。

そこに続くのは、アユソと同じくスペイン勢のミケル・ランダ(スーダル・クイックステップエンリク・マス(モビスター・チーム)になるか。

特にランダは、昨年このレースでベルナルより1つ上の総合2位なので、意識したい相手ではある。

今シーズンはまだ結果を残せていないが、サイモン・イェーツ(チーム・ジェイコ・アルウラー)、リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)、ベン・オコーナー(チーム・ジェイコ・アルウラー)、フェリックス・ガル(デカトロン・AG2R・ラ・モンディアルレニー・マルティネス(バーレーン・ヴィクトリアス、この辺りの選手もライバルと考えるべきだろう。

 

一方、ベルナルを支えるイネオスの山岳アシストの陣容は、ローレンス・デプルス、オマール・フライレ、ルーカス・ハミルトン、そして…現役最終年のゲラント・トーマス。

サブエース級のアシストであるデプルス、安定感抜群のフライレ、この2人がいるのなら十分に戦えるだろうし、調整具合が不透明とはいえ偉大な大先輩トーマスの存在も心強い。

ファンとしては、もちろん総合優勝してくれたら最高だけれども…、結果と同時に、求めたいのは内容。

例えば、総合3位だったとしても、アユソやログリッチバチバチやりあっての総合3位と、トップ層の争いに加われず「第2グループでトップ」での総合3位では、意味合いが大きく違う。

アユソやログリッチと「同じ土俵」でやり合う事ができていれば、5月のジロでも十分に戦えると判断しても、大きな間違いではないだろう。

 

改めて、ベルナルの復活度合いを図るべく、最高の試金石となるであろう、ボルタ・ア・カタルーニャ

もしかしたら、骨折明けでコンディションが100%ではない可能性もあるが…、それは一旦忘れよう。

そもそも、自分の「戻っている」という感覚が錯覚や勘違いである可能性も、ここは忘れておこう。

久しぶりに…純粋な気持ちで。

不安や悲観を抱かず、ただひたすらに、ベルナルを応援するレース。

本気で、ベルナルを応援するレース。

どうか、カタルーニャで最高の1週間を。

どうか、鮮やかな復活と言いたくなる、素晴らしい走りを。

頑張れ、ベルナル。

心の底から、応援しているよ。