美しき完全制圧
荒れた石畳が選手に襲い掛かる、「北の地獄」ことパリ~ルーベ。
モニュメント(5大ワンデーレース)の1つであるこのレースは、まるで前週のロンド・ファン・フラーンデレンの焼き直しのような展開になった。
つまり…マチュー・ファンデルプールに、アルペシン・フェニックスというチームに、抗えるライバルはいなかった。
ロンドと同じように、ファンデルプールによる圧倒的な独走勝利。
前年と同じように、ファンデルプールとヤスペル・フィリプセンによるワンツーフィニッシュ。
同じような展開、同じような結果になった理由は、一体どこにあったのか。
少しいつもの感想記事とは違うテイストで、振り返っていこうと思う。
ライバルの戦力
まず、やはり大きかったのは、ライバルの不在。
ファンデルプールと真っ向からやり合える数少ない存在であるワウト・ファンアールト(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)が、骨折のために出場できなかったのは、かなり大きな影響があった。
更に言うと、ヴィスマはファンアールトの不在だけでなく、代役エース候補の2人、クリストフ・ラポルトとディラン・ファンバーレも欠くという、「飛車角落ち」どころではない、とんでもなく厳しい状況に。
はっきり言って、勝負できる体制ではなかっただろう。
マッズ・ピーダスンを筆頭に数の利で戦いたかったであろうリドル・トレックも、ヤスペル・ストゥイヴェンを欠いての戦いを強いられていた。
その上に、ジョナサン・ミランを落車により序盤で失ってしまったのだから、こちらもまたかなり苦しい台所事情での勝負に。
マティアス・バチェクの奮闘もあり、ピーダスンを3位に送り込めただけでも御の字と言うべきかもしれない。
他には、UAEチームエミレーツがニルス・ポリッツとティム・ウェレンスのコンビで、グルパマFDJがシュテファン・キュングとローレンス・ピシーのコンビで、積極的な攻めを見せるシーンはあったけれども、ファンデルプールに対して力不足なのは否めなかった。
それぞれ、ポリッツの4位にキュングの5位という順位は、望み得る最大限の結果だっただろう。
アルペシンの戦力
ロンド同様、アルペシンはチーム力でレースを完全に掌握したと評価していいだろう。
シリヴァン・ディリエ、ティモ・キーリッヒ、エドワルド・プランカールト、オスカー・リースビークの4人は、序盤の展開を厳しくする役割を担った。
彼らの身を粉にした牽引に横風の影響も加わり、5つ星の難易度を誇る「アランベール」突入時には、集団の人数は20人ほどという恐ろしく少ない数に削られていた。
レース後のフィリプセンのインタビューで、「アランベール入り口に設置された減速用シケインまでに集団の人数を減らす」というプランだったと明かされたけれども、ここまで理想的な形で実行できたのは、選手の力だけでなく戦略面のマネージメントも含めた、まさにチーム力の賜物と言っていいだろう。
そして、アランベールを抜けてからの「本番」とも言えるレース中盤では、ファンデルプールの他に、フィリプセンと、ジャンニ・フェルミールスが集団に生き残っていた。
現役最強のスプリンターであるフィリプセンに、グラベル世界選手権優勝者のフェルミールス。
フェルミールスは、そのタフさと悪路での安定感を存分に生かして、徹底的に「潰し役」を担う。
フェルミールスだけでは対応できないタイミングではフィリプセンが補う、全く隙のない構え。
結局、アランベールを抜けてからはただの一度も、「危険な抜け出し」というものは許されなかった。
そしてフィリプセンは、ファンデルプールが独走を仕掛けた後に形成された追走集団に、しっかりと入り込む。
ライバルは当然ファンデルプールを追いかけたいけれども、それと同時に世界最強のスプリンターをフィニッシュまで同行させたくはない。
万が一トラブルなどでファンデルプールが追い付かれたとしても、まず間違いなく、脚を温存していたフィリプセンがスプリントで勝つ。
この展開に持ち込まれた時点で、はっきり言って「終戦」だった。
ファンデルプールの個の力
そして当然、ファンデルプールの抜きん出た実力が、この結果を掴み取った最大の要因なのは間違いない。
残り59.7km、3つ星の第11セクター「オルシ」で加速した際の、あの出力とスムーズさ。
明らかに他の選手とはレベルの違うバイクコントロール技術により、まるで一人だけ整った舗装路を走っているようなスピードと安定感は、美しさを感じさせるほどだった。
セクター13 ★★★
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】 (@jspocycle) April 7, 2024
オルシー 1,7km
残り距離59.7kmでファンデルプールが加速
Cycle*2024 パリ〜ルーベ🪨#ParisRoubaix #jspocycle
〜J SPORTSオンデマンドでLIVE配信中〜https://t.co/66zgdFHFmE pic.twitter.com/8J7FSZuyPR
レース後のインタビューで「あそこからの独走を狙った訳では無く、レースを厳しくしようとしただけ」と語る、その恐ろしさ。
相変わらず、一人だけ別次元だ…。
そして、約60kmの独走を、なんだか余裕の表情で完遂させてしまうのも、本当に恐ろしいところ。
フィニッシュ地点のヴェロドロームを悠々と走る姿は、およそパリ~ルーベのフィニッシュとは思えないものだった。
まさに、完全制圧。
ファンデルプールの個の力と、アルペシンのチーム力が融合することによって成された、美しい勝利。
思わず「あっさり勝った」とでも表現しそうになるほど、余裕を持っての勝利にも見える。
しかし、当然ながら「あっさり」などという、勘違いをしてはいけない。
アランベール入り口に新設されたシケインがもたらすものを、驚くほどの的確さで活かした、素晴らしいチーム戦略。
その展開に持ち込むための、4人のアシストの奮闘。
グラベル世界選手権覇者フェルミールスによる、完璧な「潰し役」の遂行。
現役最強のスプリンターでありながら追走の「重石役」を担い、最後のスプリントではしっかりと2位の座を射止めたフィリプセンの強さ。
そして、ファンデルプールの、惚れ惚れするような走り。
ファンデルプールが、アルペシンが、的確な準備をして、多くのものを積み重ねて、その結果として掴み取った勝利なのだ。
その部分に対して、最大級の称賛を送りたい。
素晴らしいレースを見せてくれたことに、本当に感謝したい。
ファンデルプール、そしてアルペシン、本当におめでとう!
モニュメント3連勝!!
アルペシンはこれで、ミラノ~サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ~ルーベと、モニュメント3連勝!!
いや、凄すぎる…!
2年前まではワールドチームではなかったのが、信じられないぐらいだ…。
ここまで強いと、「圧倒的すぎてつまらない」とか、「もっと競ったレースを見たい」みたいな意見もあるのだろうけれども…。
個人的には、こういうレースも普通に楽しめるかな。
なにはともあれ、4/14のアムステルゴールドレースからは、アルデンヌクラシックがスタート!
こちらは恐らく、アルペシンは戦力的にそこまで活躍は見込めない…はず。
どんなレースになるのか、楽しみにしていよう!!
それでは、また!!
おまけ
レース前の予想ポスト。
パリ〜ルーベ予想
— kiwa (@kiwa2408) April 7, 2024
本命:マチュー
対抗:フィリプセン
穴:ピーダスン
大穴:ポリッツ
アルペシンのダブルエースは、どちらが本命かかなり迷うところ…
ピーダスンは、ケガ明けのロンドであの走りならある程度期待できるはず
ポリッツも、より適正のあるルーベの方が楽しみ#ParisRoubaix #jspocycle
1位から4位まで完全的中、どやぁ…!
…え?
シンプルに有力選手を並べただけ?
それは、そう。