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【レース感想】ミラノ~サンレモ2024

現役最強のスプリンター

シーズン最初のモニュメント(5大ワンデーレース)、ヨーロッパに春を告げる「ラ・プリマヴェーラ(イタリア語で「春」)」こと、ミラノ~サンレモ。

「スプリンターズ・クラシック」とも呼ばれながら、ここ数年はスプリンターが勝てない展開が続いているけれども…。

この流れの要因の一つが、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツの存在。

直近の2年は、終盤に登場するチプレッサとポッジオ、このスプリンターがなんとか乗り切れるぐらいの難易度の2つの起伏を、ポガチャルが「アタックでライバルを突き放して独走を仕掛けるためのポイント」として利用。

その結果、スプリンターにはほぼ勝負権がないような厳しい展開になった訳だけれども…。

ポガチャルとしては勝機がそれしかないと同時に、この2つの起伏では完全な独走態勢に持ち込むには緩すぎるという事実も、ある程度露呈している。

それでもポガチャルは、これまでと同じような布陣で…チプレッサとポッジオで高速牽引を仕掛けるようなアシストを引き連れて、今回も本気で優勝を目指す。

そんなポガチャルを迎え撃つのは、ディフェンディングチャンピオンにして世界王者、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)。

ファンデルプールがポガチャルのアタックに対応できるのは、この2年で実証してある。

そしてアルペシンとしては、もしスプリント決着になった場合のために、現役最強のスプリンターであるヤスペル・フィリプセンも連れてくる徹底ぶり。

レースを作るのは、間違いなくポガチャル率いるUAE

そしてそれを万全の態勢で迎え撃つ、アルペシンのファンデルプールとフィリプセン。

この2つの軸に、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)、ヤスペル・ストゥイヴェン(リドル)、マイケル・マシューズ(チーム・ジェイコ・アルウラー)、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)、トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)、フィリッポ・ガンナ(イネオス)など、他の有力勢がどのように振る舞うのか。

穏やかな春の日差しのもと、288kmの激戦がスタートする。

 

イタリアのプロチームを中心に構成された11人の逃げに対して、主にアルペシンが牽引を行うメイン集団は、最大でも3分弱のタイム差しか許さない。

コース中盤のトゥルキーノ峠を越え、美しい景色が広がるリグーリア海岸沿いへと舞台が移っていっても、その構図は…タイム差はなかなか動かない。

レースが動きを見せ始めたのは、残り52km辺りから始まる3連起伏「トレ・カーピ」の入り口。

UAEが、この早いタイミングでメイン集団のペースアップを敢行する。

この動きにクリストフ・ラポルト(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)やアレクサンダー・クリストフ(ウノエックス・モビリティ)といった選手が、早くも脱落。

また、ワールドチーム初年度ながらモニュメント初挑戦となった留目夕陽選手(EFエデュケーション・イージーポスト)も、このタイミングでメイン集団から遅れていく(留目選手は94位で完走)。

 

かなり早めの動きを見せたUAEだったけれども、その代償として、当然ながらアシストは人数を減らしてしまうことに。

ポガチャルの他に残っているのは、アレッサンドロ・コーヴィ、ティム・ウェレンス、そしてイサーク・デルトロの3人だけ…?

トレ・カーピを超えて、チプレッサに突入するタイミングでは…メイン集団の主導権をEFに明け渡している。

…と思ったら、コーヴィがポガチャルを連れてスルスルっと集団先頭に出てきて、やはりここでも集団のペースを上げていく。

コーヴィが仕事を終えて下がると、牽引を引き継ぐのは話題沸騰中の超大物ルーキー、デルトロ!

デルトロの牽きで集団は縦に引き伸ばされ、そして逃げとのタイム差も20秒を切ってくる。

デルトロはチプレッサ頂上まで残り2kmほどの位置で、力尽きて後退。

そしてUAEは、最後のアシストであるウェレンスも投入して、高速ペーシングを続行!

この動きは…どうなんだ?

文字通り「捨て身」と言える早めのペースアップ、果たしてどうなるか…。

 

チプレッサ頂上付近でメイン集団の先頭に出てきたのはリドル、そしてそのまま下りで逃げを吸収…と思った瞬間、捕まる直前だったセルヒオ・サミティエル(モビスター)とアンドレア・ピエトロボン(ポルティ・コメタ)が落車…!?

幸い、メイン集団の選手が巻き込まれるようなことにはならなかったけれども、やはりミラノ~サンレモの下りは、スピードが出る上にテクニカルで、少し怖い…。

そしてこの「隙」に加速を見せたのは、ここまで逃げてきたダヴィデ・バイス(ポルティ)。

この動きを見て、メイン集団は逆に一旦ペースダウン。

ポッジオまでの平坦区間で、チプレッサで遅れた選手も結構な数がメイン集団に戻ってくる。

ポッジオ突入までの距離が2kmを切ると、リドルのジョナサン・ミランがメイン集団を牽引してペースアップ。

そのままダヴィデ・バイスを飲み込み、ポッジオ入り口に向けて、一気に緊張感が高まっていく。

 

ポッジオ突入の瞬間に集団先頭をキープしていたのは、意外にもチューダー・プロサイクリング、エースはベテランのマッテオ・トレンティン。

チューダーの支配は長くは続かず、代わって先頭に出てきたのは2017年の優勝者ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス)。

イネオスはまだピドコックとガンナという有力候補2人に加えて、ジョナタン・ナルバエスも生き残っている。

しかしそこにすぐさまウェレンスが被せてきて、チプレッサに続いての高速牽引を開始!

集団は縦一列に引き伸ばされ、先頭からウェレンス、ポガチャル、ファンデルプール、アルベルト・ベッティオール(EF)、ガンナ、ピーダスン、ストゥイヴェン、ピドコック、マッテオ・ソブレロ(ボーラ・ハンスグローエ)、マシューズ、フィリプセン、ビニアム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)、モホリッチ、アラフィリップ、マクシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)といった感じの並びに。

ピュアスプリンターは…フィリプセンだけ、いわゆる「登れるスプリンター」もピーダスンとマシューズぐらいか。

ポッジオ頂上まで1km、勾配が最も厳しくなる区間で、満を持してポガチャルがアタック!

ここはファンデルプールを筆頭にしっかり反応、そう易々とは勝負を決めさせない。

頂上まで300m、加速を見せたのはストゥイヴェン、しかしそのカウンターで再びポガチャルが腰を上げてアタック!!

一瞬誰も反応できずに、少しだけギャップが生まれる…!!

ファンデルプールがギャップを埋めにいき、頂上を超えた直後に合流、しかし後続は少し離されている…?

残り4.5km、抜群のダウンヒルテクニックを誇るピドコックのお陰もあり、追走が合流。

改めて、生き残っているメンバーは…ポガチャル、ファンデルプール、ピドコック、ガンナ、ピーダスン、ストゥイヴェン、ベッティオール、モホリッチ、アラフィリップ、マシューズ、ソブレロ、ファンヒルス…そしてフィリプセンもいる。

残り2.4km、ダウンヒルが終わる…というその瞬間、一瞬の隙を突いてモホリッチが飛び出す!

この位置は…2021年にストゥイヴェンがアタックを決めてそのまま逃げ切った場所と、ほぼ同じ…!!

モホリッチの独走力なら、後ろが牽制状態になれば十分に可能性はある…と思っていたら、追走集団はファンデルプールが迷わずに牽引、残り1.3kmでモホリッチを捕まえる。

モホリッチを捕まえてペースが緩んだ隙に、今度はソブレロがスルスルっと加速して抜け出しに成功、そしてそれをピドコックが追いかける!

S字コーナーを抜けて残り800m、ピドコックがソブレロをかわして、そのまま更に加速!!

ソブレロは千切れ…ピドコックの独走力ならこのままいけるか!?

しかし、ここもファンデルプールが追走集団を牽引、フィリプセンを勝たせるために、ディフェンディングチャンピオンがアシストの動きに徹している…!!

ファンデルプールが力尽きると、そのままスムーズにストゥイヴェンが集団を牽引、こちらはピーダスンのための動きだ!

ストゥイヴェンの後ろにはピーダスンがしっかりと控え、以下マシューズ、フィリプセン、ポガチャル、ベッティオール、モホリッチ、ファンヒルス、アラフィリップと並んでいる。

残り200mを切り、ピドコックを捕まえる…というその瞬間、マシューズがスプリントを開始!

ピーダスンはマシューズと逆サイドからのスプリントを選択、フィリプセンはそのままマシューズの背中を捉えている!

ピーダスンが若干失速、フェンス際ではマシューズとフィリプセンが横並びで激しく競る!!

そして後方からはポガチャルも位置を上げてくる…!!

最後はマシューズとフィリプセン、2人がハンドルを投げ合う大接戦…!!

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スプリントを制したのは…フィリプセン!!

現役最強のスプリンターが、「スプリンターズ・クラシック」を制覇!!

スプリンターの勝利は、2016年以来と実に8年ぶり!!

いわゆる「登れるスプリンター」ではなく、ここ数年は登坂力の向上も見えていたとはいえ「ピュアスプリンター」のフィリプセンが勝つとは…!!

あの展開を耐え抜き、そしてスプリントでしっかり勝ち切るフィリプセンの強さが素晴らしかったのは当然として…、特筆すべきはファンデルプールの動き!

ポガチャルを捕まえてから、アタックを仕掛けたりはせずに後続が追いつくのを待ったのは、フィリプセンから「スプリントで勝負できる脚は残っているから、ポガチャルと先行しないでくれ」と無線が入っていたため。

その声に応え、そしてその後は抜け出しを試みたモホリッチやピドコックを捕まえるために、獅子奮迅の働き…!

昨年のパリ~ルーベではフィリプセンがファンデルプールのモニュメント制覇をアシストしたように、今度はファンデルプールが全身全霊での見事なアシストを見せる。

アルペシンが誇る最強の2人による最高のコンビネーション、これぞロードレースの醍醐味だ。

 

惜しくも2位に終わったマシューズは、2度の3位に続くこれが3度目の表彰台。

良い走りを見せながらまたしても頂点には届かなかった、当然ながらその悔しさが、フィニッシュ直後には滲み出ていた。

しかし、フィリプセンとのフェンス際の攻防、フィリプセンのためのコースをしっかりと空けて、真っすぐフェアなスプリント勝負をしたその姿勢には、勝利とはまた違った価値があるはず。

今シーズンで34歳、ベテランと呼ばれる年齢に入っても衰えぬその輝きで、これからも素晴らしいレースを続けてほしい。

 

そして…3位はポガチャル。

ポッジオであれだけアタックを見せておいて、ピーダスンを下して3位に入る脚を残しているとは…。

改めて、化け物じみた強さだ。

正直なところ、冒頭でも触れたようにポッジオの登りはポガチャルが勝つためには緩すぎると思うけれども、それでも本気で勝ちに行くその姿勢。

…姿勢だけでなく、遂に表彰台に登るところまでやってきてしまった。

来年も、ポッジオでアタックする姿を楽しみにしていたい。

 

相変わらずの濃縮された面白さ!

久しぶりにスプリンターが勝ったミラノ~サンレモ、やはり今回もチプレッサからの面白さは…格別!

ラスト30km以降のまさに手の汗握る展開、特に今回は、ポガチャルのアタック、そしてモホリッチ、ソブレロ、ピーダスン、どれもそのまま勝っておかしくない動き…からの、最後はスプリント決着。

いや~、痺れたね~!

フィリプセンはこれで、「ツール・ド・フランスのポイント賞」、「シャンゼリゼのスプリント」、そして「ミラノ~サンレモ」と、スプリンターの称号というべきものをコンプリート。

名実共に、現役最強のスプリンターと言って間違いない。

ファンデルプールとの最強のコンビで、全盛期はまだまだ続きそうだ。

一体どこまで実績を積み上げてくれるのか、楽しみにしていよう!

 

それでは、また!!

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おまけ

今日の1枚

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仲良し3人組。

3人とも、イケメンだなぁ…。