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【レース感想】ロンド・ファン・フラーンデレン2023

掛け値なしに、伝説の走り

モニュメントの一角、「クラシックの王」ことロンド・ファン・フラーンデレン

激坂と石畳の組み合わせが熱いドラマを生む伝統の一戦、開催前から「ビッグ3」と称されて注目を集めていたのは以下の3人。

  • 2020年と2022年の覇者、規格外の出力で全てを捻じ伏せる「怪物」マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)
  • ファンデルプールの最大のライバル、異次元の万能性を有するワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
  • 総合系最強の選手ながら、ワンデーレースでもその偉大な才能を発揮するタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ

この3人、一瞬の爆発力ならファンデルプール、スプリントと登坂のバランスならファンアールト、登坂ならポガチャルと、上手い具合に強みが分かれているのがまた面白いところ。

そしてその他の有力候補としては、マッズ・ピーダスン(トレックセガフレード)、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)、カスパー・アスグリーン(スーダル)、クリストフ・ラポルトユンボ)、トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)辺りが挙がるか。

 

ロードレースへの熱狂度が高い事で知られるベルギーのファンが見守る中、レースはスタート。

序盤は例年通り平穏な展開…かと思いきや、バーレーンが主体となって横風分断作戦を敢行、逃げが出来上がらない程のハイペースをキープしながら、メイン集団が割れている…!?

また、落車も多発してしまい、何だかいきなりカオスな展開に…。

一応、70kmほど走った辺りで分断は解消されてレースは振り出しに、そしてそこから更に30kmほど走って…残り170km辺りで逃げ集団が形成される格好に。

これで一旦落ち着いたように見えたけれども、その後も落車が散発。

特に、残り141km辺りで発生した落車は30人以上が絡む大落車で、ファンアールト、アラフィリップ、ペテル・サガントタルエナジーズ)、ティム・ウェレンス(UAE)、ジャスパー・ストゥイヴェン(トレック)、ベン・ターナー(イネオス)など、勝負に影響を与え得る有力選手も含まれていて、サガン、ウェレンス、ターナーは残念ながらリタイアに…。

そして、歩道の芝にタイヤを取られてコントロールを失い、この大落車の原因を作ってしまったフィリプ・マチェユク(バーレーン)は、「歩道の走行」と言う理由で即時に失格処分に(あくまで名目上は大落車を起こしてしまった事ではなく、「歩道の走行」なのがポイント)。

レース中に選手が歩道を走るシーンは割と見かけるけれども、現実的には容認されつつ、こういったリスクがあるから禁止になっている訳だ…。

ちなみに、マチェユクは失格になった直後に謝罪ツイートを投稿。

プロ2年目の23歳、ここから色々な事を学んで、また頑張って欲しい。

 

レースが新しい展開を見せ始めたのは、残り112km辺り。

ピーダスンのアタックに追随する格好で、アスグリーン、マッテオ・トレンティン(UAE)、シュテファン・キュング(グルパマFDJ)、ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)、ブノワ・コスヌフロワ(AG2Rシトロエン)、マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)、フレッド・ライトバーレーン)、ジョナタン・ナルバエス(イネオス)、ナータン・ファンホーイドンク(ユンボ)など、有力選手を多く含んだ追走集団が形成される。

この追走集団は残り77km辺りで先頭集団に合流、そしてそれとほぼ同じタイミングでメイン集団からニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)がアタックし、アクセル・ジングレ(コフィディス)がこの動きに同調。

これで、20人程の先頭集団、間にポリッツとジングレを挟んで、先頭から2分後方にメイン集団という格好で、レースは終盤へと向かっていく。

 

残り55kmから始まる「オウデ・クワレモント(2回目)」で仕掛けたのは…昨年もこの位置から仕掛けたポガチャル!

ポガチャルの登坂速度にライバルは誰も付いていけず、ファンデルプール、ファンアールト、ラポルト、ピドコックの4人のみが、少し離れて追いかけるような状況に…!

ポガチャルはあっと言う間にポリッツとジングレを追い抜き、一旦は抜け出しに成功。

ただ、その後の平坦路でファンデルプール、ファンアールト、ラポルト、ピドコック、ポリッツ、そして逃げから遅れたダン・ホーレ(トレック)が、ポガチャルになんとか合流。

残り45kmから始まる「コッペンベルフ」を前にして、先頭集団とポガチャル達の集団のタイム差は1分30秒弱という状況に。

そして、最大勾配22%を誇る難所「コッペンベルフ」で、またしてもポガチャルがアタック

ポガチャルの動きに反応できたのは、ファンデルプールとファンアールトの2人のみ!

やはりと言うか何と言うか、「ビッグ3」がひと塊になって、最終盤に突入する事に。

 

「ビッグ3」と先頭集団のタイム差は残り40kmで1分、残り30kmで40秒を切ってきた…というタイミングで、先頭集団からピーダスンがアタック!

あっと言う間に後続に10秒以上の差を付けるピーダスン、ポガチャル達に対してもタイム差が広がっていっているぞ…!?

これは…ピーダスンならこのまま行く可能性も…?

しかしそうはさせまいと、残り28kmの「クラウスベルフ」でファンデルプールがアタック!

ポガチャルは反応するけれども、ファンアールトが付いていけない…!

序盤で落車に巻き込まれていたファンアールト、やはりダメージがあったのか…。

 

残り22km、ポガチャル達が追走集団(ピーダスンに置いて行かれた「元々の先頭集団」)に合流。

ピーダスンとのタイム差は30秒強、そしてファンアールトが集団の15秒後方と言うこの状況で、ファンアールトを引き上げる為に、集団からファンホーイドンクが下がっていく事を選択。

ユンボとしては、あくまでエースはファンアールトという事だ。

 

残り18km、ピーダスンは30秒強のリードをキープしたまま「オウデ・クワレモント(3回目)」に突入。

そしてメイン集団で動いたのは…やはりポガチャル!

オウデ・クワレモントの入り口から加速すると、ファンデルプールを含めたライバルを一気に突き放し、ピーダスンを猛追!!

あっと言う間にピーダスンを視界に捉え、そのまま一気に抜き去っていく!!

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強すぎる…!!

30秒のタイム差を、アタック一発で溶かすとは…!!

オウデ・クワレモントを抜け、ポガチャルを15秒程の差で追いかけるのは、ピーダスンを抜いたファンデルプール。

フィニッシュに向けて向かい風基調との情報、独走は不利と言う意見も多かった中で、先頭を走るポガチャルの勢いは…緩まない。

 

残り14kmから始まる最後の登り「パテルベルフ」を終え、残すは平坦路のみ。

先頭はポガチャル、その15秒程後方にファンデルプール。

更にその後方には、ピーダスン、アスグリーン、キュング、パウレス、ヨルゲンソン、ライト、そしてそこに再合流したファンアールトも加えた小集団。

ツール・ド・フランスの個人タイムトライアルステージを制した最強のオールラウンダー…要するに現役屈指の独走力も有するポガチャルは、ファンデルプールとのタイム差をじわじわと広げていく。

決して、ファンデルプールのペースが遅い訳ではない。

ファンデルプールと後方集団のタイム差は、30秒差からこちらも少しずつ広がっていくぐらい、ファンデルプールのペースも悪くない。

ただひたすらに、ポガチャルが強い。

その純粋にして圧倒的な事実は、間もなく歴史的な瞬間を生み出そうとしていた。

 

残り1kmのゲートを、25秒という「間違いのない差」で通過したポガチャル。

ここまで必死の表情で踏み続けていたけれども、後方のファンデルプールとの差を確認して、ようやく頬を緩める。

残り200mを切り、まずは無線でチームメイトに短く報告を…恐らくは喜びと感謝を伝える。

そして、自らが「No.1」である事を知らしめるかの如く天に向かって指を突き上げ、最後は成し遂げた事の大きさを噛みしめるように、頭を抱えながらのフィニッシュ!!

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まさしく伝説となる走り。

間違いなく歴史に大きく刻まれるリザルト。

ツールを2度制している現役最強の総合系選手であるポガチャルが、「クラシックの王」でも頂点を獲って見せた!!

ツールとロンド両方を制したのは、実に史上3人目と言う紛う事なき快挙!

「独走しか勝機は無い」と事前に語り、オウデ・クワレモントでの2度に渡る強烈なアタックを見せつけ、有言実行の独走勝利。

本当に、この選手の才能は一体どうなっているのだろうか。

我々は、間違いなく伝説の選手を目の当たりにしていると、改めて実感させてもらった。

ポガチャルよ、我々をただのファンではなく「歴史の証人」にしてくれて、ありがとう。

そして、おめでとう!!

 

2位に入ったのは、最後まで必死にポガチャルを追走していたファンデルプール。

敗れはしたものの、終盤には自ら仕掛ける場面もあり、そして最後は単身ポガチャルを追いかけて…。

その走りはディフェンディングチャンピオンに相応しい、素晴らしいものだったと思う。

 

そして小集団による3位争いを制したのは…ピーダスン!

終盤に見せた先頭集団からのアタックは、「もしかしたら、これで決まったか?」と思わせる程絶妙で、痺れるような動きだった。

これでロンドの表彰台は2018年に続く2回目、今後また頂点を目指す機会は充分にありそうだ。

 

今シーズンのベストレース候補

改めて振り返ってみると、本当に凄いレースだった。

最序盤は大きな落車もあって「このまま展開が荒れて、イマイチ盛り上がらない可能性も…」なんて考えたりもしたけれども、終盤はそんな事を一切考えさせない、素晴らしいレースが展開されていた。

ビッグ3のバチバチとしたやり合い、手に汗握るタイム差の変動、そしてポガチャルのパフォーマンス…。

ロードレースの魅力が凝縮された名レースだったと言いたい!

 

さあ、そんな興奮も冷めやらぬ中、次の日曜日、4/9は「北の地獄」パリ~ルーベ!!

これまた過酷な石畳レース、同じく激戦を期待しようではないか!!

 

それでは、また!!

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おまけ

今日の1枚

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