あっという間?永遠のよう?
今年も、この日がやってきた。
ツール・ド・フランス、最終第21ステージ。
パリ、シャンゼリゼへの凱旋。
開幕からフルスロットルで、あまりにも濃密だった3週間は、まるで一瞬で過ぎ去っていったようなスピード感であると同時に、第1ステージを振り返ろうとするとはるか遠い過去のような…そんな矛盾を孕んでいるのは気のせいだろうか?
いずれにしても、今日が最終日。
激闘を締めくくるパレードランがスタートする。
スタートと同時に、「シャンゼリゼに到着するまではまったりとしたパレードラン」という不文律を破って、勢いよく飛び出したのは総合敢闘賞に輝いたヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)。
「お祭り」らしいナイスなジョークをかましたカンペナールツは、観客の視線を独占する時間をひとしきり楽しんでから、悠々とメイン集団に戻っていく。
3週目に見せた「3日連続ファーストアタック(…いや、この日を含めれば4日連続か)」なども含めて、かなりのインパクトを残した「元タイムトライアルスペシャリスト」。
逃げ屋への転身が、これまた綺麗に嵌った例だと思う。
ゆったりとパレードランを楽しむ集団は、恒例の写真撮影タイムに突入。
まずは、4賞の受賞者がスタートの流れからそのまま横並びに。
2018年以来、5年ぶりとなる「4賞受賞者がそれぞれ別の選手」になった今大会。
活躍の偏りがあまりなかったという意味では、間違いなく歓迎されるべきことだろう。
続いて、総合優勝を飾ったヨナス・ヴィンゲゴーと、それを強力に支えたユンボ・ヴィスマのアシストたち。
選手個々の力と、チームワーク。
どちらも極めて高いレベルで兼ね備えた、文句なしに最強のチームだった。
同国出身者がまとまって走るシーンも多く見受けられる中、やはり目を引いたのはヴィンゲゴーを含むデンマークの選手たち。
ヴィンゲゴー以外にステージ勝利を挙げたのが、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)とカスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ)の2人。
他にも、マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)、ミケル・モルコフ(スーダル)、マティアス・スケルモース(リドル)など…。
北欧の小国は、本当に多くの一流選手を揃えていて、うらやましい限りだ。
150人の集団は、いよいよシャンゼリゼを8周回する、最後の勝負の場に突入。
最後の最後に大きな花火を打ち上げるべく、集団から飛び出したのは、なんと総合2位のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)…!!
この4年間ほぼ毎ステージ獲得してきたヤングライダージャージとも、この日がお別れ。
若さをこれでもかと爆発させて、がむしゃらにペダルを踏み込む!
完全に調子を取り戻したポガチャルのあまりにも強烈すぎるペースに、メイン集団は結構四苦八苦しつつ…、ここはスプリンターチームもしっかり意地を見せる。
ポガチャルを吸収してからも散発的なアタックはあったけれども、これらも「予定通り」全て封殺。
スプリントフィニッシュに向けて、スピードを上げていく。
残り3km、チーム・ジェイコ・アルウラー、リドル、ボーラ・ハンスグローエ、アルペシン・ドゥクーニンクなど、やはり有力なスプリンターを擁するチームが主導権を握ろうと集団最前列で隊列を展開する。
そんな中、残り1kmでスルスルっと単身最前列に上がってきた白いジャージ、あれは…え!?
ポガチャルだ…!!
後ろにマッテオ・トレンティンを連れている訳でもなく、ただただ単身最前列に出てきて集団を牽引するポガチャル。
流石にここからの勝利を狙った訳ではないだろうけれども、ポガチャル、君という男は本当に…何と言っていいのやら。
ポガチャルが下がっていくと先頭に立ったのはアルペシンのヨナス・リッカールト、アルペシンは4番手にマチュー・ファンデルプール、5番手にヤスペル・フィリプセンと、「必殺の構え」だ。
残り500m、この日もファンデルプールの最終リードアウトが発動!!
その破壊的なトップスピードで誰も横に並ばせないファンデルプール、ただしライバルも黙ってはおらず、ディラン・フルーネウェーヘン(ジェイコ)とピーダスンがフィリプセンの背後で虎視眈々とタイミングを伺う。
残り200m、先に仕掛けたのはフルーネウェーヘン!!
フィリプセンは進路を塞がれた格好になってしまい、スプリントの開始が一呼吸遅れる…!!
先頭で激しく競り合うフルーネウェーヘンとピーダスン!!
しかし、ここからフィリプセンの伸びがもの凄い!!
そしてフィリプセンと逆サイドからは、ヨルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ)も上がってくる!!
残り50m、4人が完全に横並びの状態…!!
最後の最後に伸びてくるのは…フィリプセンとメーウス!!
2人でハンドルを投げ合う…!!
…どっちだ!?
写真判定の結果…競り勝ったのはメーウス!!
メーウスはなんとこれが、グランツール初勝利どころかワールドツアー初勝利となる、特大の金星!!
あそこから伸びてきたフィリプセンも相当凄かったけれども、それを超える最後のひと伸び…!!
スルスルっと上がってきてピーダスンの背中を捉えた判断も見事、そしてフィリプセンに負けないトップスピードとは…いや~、本当に驚いた!!
スプリンターは一つの勝利で化けるなんて言われるけれども、シャンゼリゼでの勝利となると、余計に期待したくなる!
メーウスの今後に注目だ!!
そして、大白熱のスプリントの後方では、王者が悠々とフィニッシュ!!
ヴィンゲゴー、堂々のツール2連覇達成!!
登坂力、タイムトライアル能力、チーム力、そして自信…、全てを兼ね備えての圧巻の勝利!!
強い。
もう、清々しいほどに強い!
特に目立ったのが、3週目の勝負どころと睨んだステージ、そこに照準を合わせての強さ。
正直なところを言うと、1・2週目に未だにコンディションに苦しむポガチャルを突き放せなかったのを見て、ヴィンゲゴーも調子が悪いのかと、勝手に勘違いしていた。
違ったのだ。
第16ステージと第17ステージにピークが来るように調整した上で、2週目までに無理をする必要が無いと判断していたのだ。
第16ステージと第17ステージで決着をつける、確固たる自信があったのだ。
そして見せた、第16ステージでの衝撃のタイムトライアルと、第17ステージでの周到にして徹底的な攻撃。
これが、ヨナス・ヴィンゲゴー。
これが、ユンボ・ヴィスマ。
何の文句のつけようもない、王者と最強の総合系チームによる、ツール制圧。
本当に、ただただ強かった!!
おめでとう、ヴィンゲゴー!!
何をもって面白い、素晴らしいとするか
改めて、最終成績を確認。
- 総合優勝:ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)
- 総合2位:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
- 総合3位:アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)
- ポイント賞:ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)
- 山岳賞:ジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)
- ヤングライダー賞:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
- 総合敢闘賞:ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)
- チーム総合賞:ユンボ・ヴィスマ
総合優勝は、ヴィンゲゴーが見事2連覇を達成!
再三になるけれども、ただただ強かった!
その実力と実績に裏付けされた自信と振る舞いは、もう完全に王者の風格。
今シーズン、この後はなんとブエルタ・ア・エスパーニャに出場予定らしく…、そちらも本当に楽しみだ!
総合2位は、こちらも2年連続でポガチャル!
第17ステージで失速をした瞬間は「…もしかしたら総合2位の座も怪しいか?」なんて心配したけれども、全くの杞憂だったどころか、そこから第20ステージで勝利を挙げてしまうのだから、やはりこの選手はとんでもない!
4月の骨折の影響が出てしまったのは残念だったけれども、逆に言えば今回の敗北はポガチャルの「格を落とす」ようなものではないのも事実(同時に、それは決して「ヴィンゲゴーの勝利の価値を落とす」ものでもない)。
また万全な状態で、その圧倒的な力を見せつけてほしい。
総合3位のアダム・イェーツは、念願のグランツール総合表彰台!
ポガチャルのアシストをしながらこの順位は、本当に素晴らしい!!
今までは色々と噛み合わない事も多くて「安定感が無い」と評価されていたけれども、そもそも2016年には総合4位に入っているのだから、ある意味驚くような結果ではないはずだ。
ポイント賞は、文句なしに今大会の最強スプリンターだったフィリプセン!
その抜群のトップスピードに安定感も備えて、ステージ4勝とライバルを圧倒!!
昨年もステージ2勝を挙げていて、個人的には今大会の本命と睨んでいたけれども、ここまで鮮やかに勝ち切るとは!!
アルペシンのトレイン力が強かったのは事実だけれども、トレインが機能しなかった第11ステージでも勝っているのだから、決して依存していた訳では無いのが凄いところ。
今大会だけでなく、ここ数年の実績を考えると「現役最強」と評してもいいぐらいだ!
山岳賞は、積極的な走りを続けたチッコーネ!
3週目、総合勢のポイントを考えると「取りこぼし」が許されない中、取るべきポイントをしっかり全回収したのは、第16ステージを筆頭にかなりの難易度だったはず!
これで、チッコーネとしては2019年のジロ・デ・イタリアに続く、2度目のグランツール山岳賞獲得。
…どこかでブエルタも狙っておく?
ヤングライダー賞は…当然ポガチャル!
4年連続4回目、そしてこれが最後のヤングライダー賞だ。
いやいや、冷静に考えて、相当頭おかしい記録だな、これ…。
来年以降は、またヤングライダー賞争いも激化すると思うと、少し安心(?)するというのが本音かな。
一体どんな若手が活躍するのか、今から楽しみだ。
総合敢闘賞はプロチームのロットから、カンペナールツが受賞!
エース・スプリンターのカレブ・ユアンが早々にリタイアしてしまったロットとしては、かなり苦しい戦いを強いられたはずだけれども、こうやってしっかり爪痕を残せたのは素晴らしいことだと思う。
そして、3日連続ファーストアタック(実質4日連続?)を仕掛けるなど、かなり印象に残ったカンペナールツのキャラクター。
…元々こんな感じだったっけか?
なんにしても、今大会で一気に好きになった選手の一人だ。
そしてチーム総合賞は、これまたユンボが獲得!!
いや~、もう言うことがないね、これは。
本当に、徹頭徹尾、ユンボが強い大会だった。
結果だけを見れば、間違いなくユンボの圧勝だった総合争い。
果たしてそれは、一方的で「つまらない」ものだっただろうか?
答えは、否。
最終的にヴィンゲゴーとポガチャルのタイム差が7分以上に広がったのはあくまで「数字」でしかなく、それは今回の総合争いの面白さや素晴らしさとは直結していないと言いたい。
最高の力を持った2人が、共に頼れるアシストの力を存分に借りながらバチバチにやり合い、繰り広げた激闘。
それは間違いなく、心を震わすほど魅力に溢れていた。
その上で、完膚なきまでに勝ち切ったヴィンゲゴーの走りは、心を震わすほど素晴らしかった。
そして更に、そこから最後に意地を見せつけたポガチャルの走りもまた、心を震わす特別なものだった。
もちろん総合争い以外、各賞やステージ勝利争いも、やはりツールの熱量は他のレースとは違う、間違いなく唯一無二のものだ。
本当に、色々な意味で、特別なレースだと思う。
今年もツールは特別であり、そしていつも通り素晴らしかった。
選手、運営、関係者…、ツールに関わる全ての人に、改めて感謝をしたい。
今年も素晴らしいものを見せてくれて、本当にありがとう、と。
さあ、ツールを終えると…今年はここからのスケジュールが例年と違う!
次は…世界選手権だ!!
これまた特別で唯一無二、虹色の王者の証アルカンシェルを争う、国別の一発勝負!!
その緊迫感と高揚感を、存分に堪能しようではないか…!!
それでは、また!!