初心者ロードレース観戦日和

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【レース感想】ツール・ド・フランス2023 第20ステージ

本日もまた、エモーショナルなロードレース日和

第20ステージは、2級・2級・2級・3級・1級・1級と、133.5kmの短い距離に6つものカテゴリー山岳が詰め込まれた、かなりの難易度を誇るレイアウト。

恐らく主催者側の意図としては、総合優勝を懸けた最後の争いが劇的なものになるように用意した、とっておきのコースだった。

残念ながら、総合優勝争いの実質の決着は付いている。

7分35秒ものリードを積み重ねたヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)の総合優勝は、どうあがいても揺るがない。

それでも、安心して欲しい。

この日のレースはそんなことと関係なく、活気に満ち溢れ、歓喜の爆発があり、心揺さぶられる、格別に特別なものになった。

 

ファーストアタックを仕掛けたのは、実に3日連続の逃げへのチャレンジとなったヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)!

しかしこれを許さないのは、ジュリオ・チッコーネの山岳賞獲得に王手を掛ける、リドル・トレック。

もはやどこがメイン集団か分からなくなるぐらいハイペースで混沌とした展開が続く中、リドルは常にチッコーネを先頭集団に留める。

途中までは総合エースだったマティアス・スケルモース、ステージ1勝を挙げた元世界王者マッズ・ピーダスンという、豪華アシスト陣に導かれたチッコーネは、順調に山岳を先頭通過していく。

そして迎えた3つ目の2級山岳、10人である程度安定した先頭集団、その先頭でチッコーネは山頂を通過!

山岳賞獲得を確定させ、雄叫びを上げながら歓喜を爆発させるチッコーネ…!!

今ツールの序盤ではスケルモースの総合順位を守るために動き、スケルモースが総合争いから脱落すると、今度はスケルモースがチッコーネの山岳賞獲得に向けて強力なアシストを見せて…。

チーム一丸となって掴んだ山岳賞だ!

 

2連続で登場する1級山岳、その1つ目プチ・バロン(登坂距離9.3km・平均勾配8.1%)の登坂。

先頭集団ではヴァランタン・マドゥアス(グルパマFDJ)が絞り込みを掛け、生き残っているのは同じくグルパマのティボー・ピノの他には、トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)、ワレン・バルギル(アルケア・サムシック)の2人だけ。

この強力な選手が揃った先頭集団から抜け出したのは、ピノ…!!

力強い、とても「らしさ」溢れるエネルギッシュな登坂を見せるピノを山頂付近で迎えるのは、ファンクラブの有志が集結して形成された「ピノ・コーナー」!!

割れんばかりの声援…!!

画面越しにも伝わってくる、とんでもない熱量の応援…!!

現役最終年のピノを、最後のツールを走るピノを、大声援が包み込む!!

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凄い…。

凄すぎる。

2010年代、フランスの期待を背負いながら戦い続けたピノを、応援するその熱量。

いやもうこれは…凄すぎる。

 

最後のカテゴリー山岳、1級プラツァーヴァーゼル(登坂距離7.1km・平均勾配8.4%)に先頭で突入したピノを20秒差で追いかけるのは、ピドコック、バルギル、そして遅れて合流したクリス・ハーパー(チーム・ジェイコ・アルウラー)。

そしてメイン集団は、その更に1分後方。

1級プラツァーヴァーゼルでペースを上げたのは…メイン集団。

ラファウ・マイカUAEチームエミレーツ)が牽引でお膳立てをして、山頂まで5kmを残した位置からタデイ・ポガチャルがアタック…!!

第17ステージに「これまでのロードレース人生で最悪」と語るほどの失速を見せたポガチャルが、最後の最後にもう一つステージを獲るため、そして誇りと自信を取り戻すため、スピードを上げる!!

3日前の力なく遅れていった姿とは明らかに違う、力あるアタックを仕掛けるポガチャル…!!

反応できるのは、やはりヴィンゲゴーだけ!

ヴィンゲゴーが付いてきたので一旦ペースを緩めると、総合8位のフェリックス・ガル(AG2Rシトロエン)が合流。

ガルはライバルを突き放して総合順位を上げるため、ハイペースでの牽引を敢行。

逃げ残り3人を吸収し、そして突き放し、そのままヴィンゲゴーとポガチャルを引き連れて山頂を通過していく。

 

フィニッシュに向けて、残すは平坦基調の約8km。

先頭の3人は少しペースを落として、ここに合流してきたのは総合3位のアダム・イェーツ(UAE)と総合5位のサイモン・イェーツ(ジェイコ)。

ポガチャルにとって、ここでアダム・イェーツが加わるのはかなり大きい。

当然アダム・イェーツは先頭を固定で牽いて、残り1kmを通過。

並びはアダム・イェーツ→ポガチャル→ヴィンゲゴー→ガル→サイモン・イェーツという順番だ。

残り200mを切ろうかというタイミング、緩いS字コーナーで早めのスプリントを仕掛けたのは意外にもヴィンゲゴー!!

ただ、力をしっかり温存できていたポガチャルは易々とその背中を捉え、最終ストレートで力強く加速を見せる!!

ヴィンゲゴーが諦めて首を横に振る…!

ポガチャルが吠える…!!

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ポガチャル、最後の最後でまた魅せてくれた!!

雄叫びを上げながら、改めてその強さを証明するステージ勝利!!

いやはや…なんと表現すればいいのか…。

正直言って、信じられない。

3日前、5分以上のタイムを失うような最悪のコンディションだったにも関わらず、この強さよ…!!

もちろん、結果として2年連続でツール総合優勝をヴィンゲゴーに譲ったことにはなる。

それでも、ステージ2勝を挙げながらの総合2位は、充分に誇るべき結果だろう。

ましてや一応、手首の骨折明けというエクスキューズも付くのだから…。

やはりこの選手の強さは…ちょっと常軌を逸している。

今回のツールを経て、ここからどんな進化を見せてくれるのか。

ポガチャルの次のステージを、楽しみにしていたい。

 

そして…ヴィンゲゴーは総合優勝が実質確定!

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総合2連覇か…。

それも、昨年以上に圧倒的な走りで、だ。

個の力も、チーム力も、「我こそが王者である」と主張するような、そんな説得力を持っていた。

その強さに、ただただ称賛を送りたい!

 

さあ、これで残すは最終第21ステージ、パリへの凱旋のみ!

最後の最後まで、このお祭りを楽しんでいこう~!!