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【レース感想】ツール・ド・フランス2023 第17ステージ

こんな日もある

衝撃のタイムトライアルに続くのは、超級山岳ロズ峠が登場し、獲得標高が5,405mにもなる今大会の最難関ステージ。

登坂距離28.1km・平均勾配6%というロズ峠の本領は、山頂まで残り11kmを切ってから。

11kmの平均勾配は8%強、特にラスト4kmに関しては平均10%弱、そして最大24%という恐ろしい数字になる、超絶難易度。

果たして、「何か」は起こるのか…。

 

超級山ロズ峠に向かう道中も、1級・1級・3級とカテゴリー山岳が立て続けに登場するため、アクチュアルスタート直後に飛び出す意欲を見せたのは、山岳賞を争うジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)やニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)を中心としたメンバー。

ただ、逃げはなかなか決まり切らず、吸収されかけてはまた新たな選手がトライしてを繰り返す、かなりあわただしい展開に。

そんな中、メイン集団では何ら変哲もない箇所でタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が落車してしまうシーンも。

大きなダメージはなくすぐさまレースに復帰したけれども、総合首位のヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)を1分48秒差で追いかけるポガチャル、なんだからしくない、不穏なスタートに…。

なんとか形成された先頭集団には、チッコーネがしっかりチームメイトと共に乗り込んだ一方、パウレスはここまでの疲労が大きいのか、力無く後退していく。

34人の先頭集団にはチッコーネの他に、サイモン・イェーツ(チーム・ジェイコ・アルウラー)、ペッリョ・ビルバオバーレーン・ヴィクトリアス)、フェリックス・ガル(AG2Rシトロエン)という総合トップ10の選手、更には「前待ち要因」としてユンボUAEのアシストなど、かなり強力なクライマーが揃っている。

ただ、チッコーネの他に山岳賞に色気を出す選手はいなくて、チッコーネは無事に1級・1級・3級と3つの山岳を先頭通過して、合計25ptの山岳ポイントを獲得。

ただし、その先にそびえる超級ロズ峠は、「山岳ポイント2倍」のボーナスが設定されていて、トップ通過で獲得できるポイントはなんと40pt。

まだまだ、チッコーネは安泰とは言えないのが現状だ。

 

先頭集団は、メイン集団に対して2分30秒ほどのリードを保ったまま、この日のメインディッシュであるロズ峠に突入。

ここまでで力を使い果たしたチッコーネは遅れていき、それでもステージ勝利を狙えるクライマーがまだまだ残った状態で、28.1kmという長い登坂を進んでいく。

メイン集団は、ここまで牽引を担っていたユンボに代わって、イネオス・グレナディアーズのアシスト陣がペースメイク。

総合4位のカルロス・ロドリゲスを抱えているイネオスとしては、先行するサイモン・イェーツやビルバオにあまり大きなタイム差を与える訳にはいかず、オマール・フライレ、ジョナタン・カストロビエホ、そしてミハウ・クフィアトコフスキと、経験豊富なベテランアシスト陣がバトンを繋いでいく。

 

イネオスのペースメイクは、あくまで先頭集団に大きなタイム差を許さないためのもので、メイン集団への攻撃という意図は、恐らく少なかった。

実際、先頭集団とメイン集団とのタイム差はほとんど減少していなくて、メイン集団が活性化するのは山頂がもっと近づいて、急勾配区間に入ってからなのかと思い始めた頃、事件が起こる。

なんと、ポガチャルがメイン集団のペースに付いていけない…!?

どこか生気のない顔で、ずるずると遅れ始める…!?

マルク・ソレルがなんとか引き上げようと先導するけれども、これは付いていける雰囲気ではない…!!

そしてそれを見たユンボは、セップ・クスの牽引で一気にペースを上げる!!

スタート前に1分48秒だったヴィンゲゴーのリードを、決定的なものにしようと攻撃を開始する…!!

 

ユンボの攻撃は、容赦なく、強力で、徹底していた。

逃げていた2人、ティシュ・ベノートとウィルコ・ケルデルマンがしっかりタイミングをずらして降りてきて、クス→べノート→ケルデルマンと牽引を繋いでいく流れは、ため息が漏れるほどの美しさであると同時に、その周到さは…もはや恐ろしくもあった。

ユンボはこの日、ロズ峠でポガチャルを沈めるために、チームとして並々ならぬ準備で臨んでいたのだ。

奇しくも、その攻撃が発動する直前で、ポガチャルは力尽きた。

「共倒れ」だけは避けなければならないと、同行していた総合3位のアダム・イェーツに「ポガチャルを守るのではなく自分の順位を守れ」という指示が出るぐらい、ポガチャルは離されていく…。

失速し始めた時点で、ロズ峠の残り距離は…およそ8km。

ソレルのアシストを受けながら、「総合2位を守る」ための戦い、長く過酷な戦いが始まった…。

 

ポガチャルの失速という大事件の直後、先頭集団でアタックを仕掛けたのは、ベン・オコーナーのアシストを受けたガル!

当然、サイモン・イェーツなどが追いかけるけれども、急勾配区間に入ってもガルの勢いは衰えない…!

ガルはサイモン・イェーツに20秒ほどのタイム差を付けてロズ峠を通過!

残すは6.6km、テクニカルなダウンヒルと、最後にはまた18%を超える勾配の激坂。

ダウンヒルを着実にこなし、最後の激坂…250mの短くも壁のような坂に入り、残り100mで振り返って後ろを確認。

サイモン・イェーツはその視界に入ってきたけれども、まだ優に100m以上は離れている!!

歯を食いしばりながら、坂を登り切る…!!

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クイーンステージを制したのは、見事な逃げ切りを決めたガル!!

ツール初出場で、大きな仕事をやってのけた!!

ロズ峠で、サイモン・イェーツやビルバオといったトップ選手を相手にしてこの勝ち方は、相当な強さ!

そしてステージ勝利だけでなく、総合順位は8位に上昇、更には山岳賞ランキングでも首位のチッコーネ(88pt)と6pt差の2位と、山岳賞も視野に入ってきた…!!

2015年のジュニア世界王者、25歳で完全に覚醒したと言っていいのでは…!?

 

ガルの1分52秒後、ヴィンゲゴーがフィニッシュ。

強い。

ポガチャルの失速とか関係なく、本当に強い。

同じくメイン集団で走っていた選手で次にフィニッシュしたアダム・イェーツとのタイム差は、1分51秒。

個の力、そしてチーム力。

全てを備えたディフェンディングチャンピオンは、2連覇をほぼその手中に収めたと言っていいだろう。

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そして、ヴィンゲゴーから5分45秒遅れて、ソレルに付き添われながら、ポガチャルもフィニッシュ地点にやってくる。

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特大のバッドデイによる、実質の終戦

しかしそれでも、辛くも総合2位の座は死守。

よく守ったと、評してもおかしくないだろう。

ポガチャル自身も、無線で「I'm gone,I'm dead(残っていない、終わった)」と伝えるほど、どうにもならなかった。

それぐらい、致命的な失速だった。

 

骨折による調整不足の影響か。

それともユンボの継続的な攻撃がここにきて効いたのか。

はたまた連日の暑さにやられたか。

この日はスタート直後の落車もあった。

もちろん、こうなった要因は一つではなく、単純に語れるものではないだろう。

3週間…事前の準備を考えれば当然もっと長い期間、更に言えばそれまでのロードレーサーとして積み重ねたものが、本当にさまざまのものが複雑に絡み合うのが、グランツールなのだ。

時に残酷に、時に美しく。

このコントラストが、きっとロードレースなのだ。

 

最後に、チームをまとめるベテランであるラファウ・マイカが、フィニッシュ後に呆然と座り込むポガチャルに掛けた言葉で締めたい。

”心配するな、たかが自転車だ”

酸いも甘いも知り尽くした百戦錬磨のベテランによる、この言葉の重みよ…。

 

ポガチャル、確かに今回は「君のツール」ではなかった。

でも、そういうこともある。

それがロードレースであり、それが人生だ。

きっと君はこれから先、今までのように多くの勝利を掴み取ると同時に、また今回のような経験をすることもあるだろう。

時に喜び、またある時は悔しがり、それらを受け止め、受け入れ、そして力に変えて…。

その力で、またペダルを漕ぐのだろう?

常にハッピーではないかもしれない。

それでも、常に心にハッピーを携えて、笑顔を振りまきながら、君は走ってきたではないか。

ほらもう、目の前に次の目標が迫っているぞ。

アダム・イェーツと共に、シャンゼリゼの総合表彰台に登るのだろう?

総合2位は、今の君のとってはもちろん悔しい結果かもしれない。

それでもそれはきっと、輝かしく、誇るべき勲章だ。

そこに立つ自分の力と、信じて支えてくれた仲間の力に胸を張って、最後まで走り抜こうではないか。

 

疲れたら、ちょっと休んだって構わない。

それでも君なら、また元気に走ってくれると、勝手ながら期待して、そして応援しているよ。

一人のロードレースファンとして、心から君のことを応援しているよ。