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【レース感想】ツール・ド・フランス2023 第18ステージ

窮狼、集団を嚙む

衝撃の山岳2連戦を終えた選手たちを迎えるのは、4級山岳が2つ登場するだけの平坦ステージ。

ここ数年、グランツール3週目の平坦ステージでは、疲弊したメイン集団が逃げ切りを許す展開も結構あるけれども、流石にこのレイアウトは難易度が低すぎて…まあ集団スプリントでしょう。

 

アクチュアルスタート直後に飛び出したのは、ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)、カスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ)、ヨナス・アブラハムセン(ウノエックス・サイクリングチーム)の3人。

エーススプリンターを失ったロットとスーダルにとっては、一縷の望みに託した格好か。

少数ながらかなり良い選手が揃った先頭集団に対して、メイン集団は最大限の警戒を払い、与えたタイム差は最大でも1分30秒ほど。

ヤスペル・フィリプセンでのステージ5勝目を狙うアルペシン・ドゥクーニンク、当然ながらかなりの気合の入れ方だ。

 

ただ、「アタック一発」で合流できる距離に先頭集団をコントロールし続けたリスクが、2つ目の4級山岳で顕在化してくる。

先頭集団にブリッジを架けたい選手が散発的にアタックを仕掛け、少し慌ただしい展開に。

単独で抜け出しそうになったパスカル・エインコールン(ロット)に対しては、なんとフィリプセンが自ら追いつき、若干進路を塞ぎながら声を掛ける場面も。

一旦はその「圧力」に屈して大人しく集団に戻ったエインコールンだったけれども、しばらくすると隙を見てまたアタック!

先頭からはチームメイトのカンペナールツがわざわざ下がってエインコールンを「迎えに」いき、そのまま2人で先頭に合流!

カンペナールツ、アスグリーン、アブラハムセン、エインコールン…、改めてかなり良いメンバー、ただしメイン集団はわずか45秒後方、そして残り距離はまだ60km近く残っている。

未だにメイン集団が圧倒的に有利に見えるけれども、果たして…?

 

残り50kmの時点で、タイム差は一旦1分に拡大。

残り40kmでの1分10秒差を頂点として、やはりここから徐々にメイン集団が差を詰めてくる。

残り30km、45秒差。

残り15kmでは、25秒差。

このまま吸収か…と思いきや、ここからが遠い。

残り10kmでも未だに25秒差と、思うように縮まっていかない。

ただ、「遠い」のは先頭集団も同様で…、特にレース開始から逃げ続けている3人にとっては、ここからフィニッシュまでの10kmは、かなり遠い。

 

メイン集団は、アルペシン、リドル・トレック、チーム・ジェイコ・アルウラー辺りが何とかペースを上げようとアシストを投入しているけれども、そんな動きを妨害する蒼いジャージが…。

先頭集団にアスグリーンを送り込んでいるスーダル、ジュリアン・アラフィリップやティム・デクレルクによるローテーション阻害…!

残り5km、タイム差は14秒と、若干削れてはいる。

メイン集団の牽引には、ドイツのタイムトライアル王者であるニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)が出てきた。

しかしこの最終盤で、ポリッツの後ろには総合首位のヨナス・ヴィンゲゴーを抱えるユンボ・ヴィスマが危機回避のために連なり、ポリッツの1人牽きが続く…!

残り3kmからはバーレーン・ヴィクトリアスやアスタナ・カザクスタンチームが集団牽引に加わるけれども、ここでもまたスーダルによる妨害工作が「重し」となる!

そして先頭の4人は、牽制をせずに逃げ切りに向けた協調体制!!

タイム差は未だ10秒!!

まだ可能性は残しているぞ…!!

 

残り1km、先頭集団はカンペナールツが捨て身の一本牽き態勢、同行するエインコールンに託すべく、逃げ切りを成立させようとその力を惜しみなく投入!!

そしてアスタナが引っ張るメイン集団は、スーダルに代わってウノエックがローテーション阻害…!

タイム差は6秒、まだどちらに転ぶか分からない…!!

カンペナールツが牽く!

元アワーレコード世界記録保持者が、その力を存分に見せつける!!

メイン集団はアルペシンが再度出て来て牽引、ペースを上げる!!

残り500mでカンペナールツが力尽き、その差は縮まる…!!

ただ、先頭は極端な牽制状態に陥らず、そのまま流れで距離を縮め…残り200mでアスグリーンがスプリントを開始!!

メイン集団もマッズ・ピーダスン(リドル)とフィリプセンがスプリントをするけれども…。

これは…届かない!!

前での勝負!!

ステージ勝利は、先頭3人での勝負!!

スグリーンに力負けするアブラハムセン、そしてアスグリーンの後ろで力を溜めたエインコールンも、アスグリーンに届かない…!!

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何という展開、何という逃げ切り方!!

スグリーン、苦しむチームを救う大きな大きな勝利!!

まさか、このコースレイアウトで逃げ切りが決まるとは…!!

4人それぞれの強さ、しっかりとした協調、更にはメイン集団の追いかけ方、色々な要素が噛み合っての結果だけれども…。

結果論で語るなら、ロットが中盤でエインコールンを合流させたのは、本当に大きかった。

残り1km、カンペナールツの捨て身の一本牽きは、本当に痺れるような凄さ。

あれがなければ、絶対に飲み込まれていた。

たった1人、されど1人。

これこそが、ロードレースの妙だと思う。

 

そして、アスグリーンよ…!!

スーダルとしては、エーススプリンターのファビオ・ヤコブセンを落車で失い、そこから積極的な動きを見せ続けたアラフィリップも勝利には届かず、このまま終戦か…と思ったところでの勝利!!

そのタフネス、判断力、そして最後のスプリントの強さは、流石は2021年のロンド・ファン・フラーンデレン覇者!!

チームとしても、ウルフパックの名に恥じぬ、チーム一丸となってのローテーション阻害でアスグリーンを見事にサポート。

これもまた、ロードレースの妙と言いたくなる動きだった。

こういった事があるから、ロードレース観戦はやめられない。

ロードレースは、本当に面白い。

それを再認識させられる、素晴らしいレースだった!!