初心者ロードレース観戦日和

初心者でもいいじゃない!ロードレース観戦を楽しもう!

【レース感想】ツール・ド・フランス2023 第14ステージ

なんと拮抗した勝負…!!

アルプス山脈3連戦の2日目は、3級・1級・1級・1級・超級と5つのカテゴリー山岳を越えて、最後はダウンヒルフィニッシュとなる超難関ステージ。

全体的にかなり厳しいレイアウトだけれども…特に最後の2つ、1級山岳ラマ峠(登坂距離13.9km・平均勾配7.1%)と超級山岳ジュー・プラーヌ(登坂距離11.6km・平均勾配8.5%)が続く最終盤は、今大会を通じての大きな勝負所の一つ。

そして、総合首位のヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)と総合2位タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)のタイム差は、僅か9秒。

激戦必至のステージが幕を開ける。

 

注目を集めるレースは、望まない波乱のスタートに…。

アクチュアルスタート直後、通り雨で濡れたコーナーで大規模な落車が発生してしまう。

まだ逃げが形成されていなかったこともあり、レースは一旦中断に。

ダメージを負ったアントニオ・ペドレロ(モビスター・チーム)とルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)の2人は即時リタイア、一度は再出走したエステバン・チャベス(EFエデュケーション・イージーポスト)も、残念ながらリタイアを選択。

30分ほどの中断を経ての再開後、今度はダウンヒルでロマン・バルデ(チームDSMフェルミニッヒ)とジェームズ・ショー(EF)が落車してしまい、両名ともそのままリタイアに…。

レースに落車は付き物とは言え、これはなかなか辛い展開だ…。

 

それでも、当然レースは続く。

山岳賞争いやステージ狙いの選手が入り乱れて、前方でのアタック合戦はかなり激化。

更には、ユンボがメイン集団をハイペースで牽引したこともあり、かなり落ち着かない状態でレースは進行する。

山岳賞争いでは、ジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)が2つの1級山岳を連続で先頭通過して、順位を一気に上げる。

ただ、この日3つ目の1級山岳ラマ峠では、メイン集団がかなりペースを上げて逃げを全て吸収。

ティシュ・ベノート→ディラン・ファンバーレ→ワウト・ファンアールトと牽引を繋ぐユンボのペースメイキングはかなり強力で、そのままメイン集団を一気に絞り込んでいく。

ラマ峠の山頂通過時点で生き残っているのは、ユンボが総合首位のヴィンゲゴー、ファンアールト、ウィルコ・ケルデルマン、セップ・クスの4人に、UAEが総合2位のポガチャル、アダム・イェーツ(総合5位)、ラファウ・マイカ、フェリックス・グロスシャートナーと、同じく4人。

他には、イネオス・グレナディアーズがカルロス・ロドリゲス(総合4位)とジョナタン・カストロビエホの2人、チーム・ジェイコ・アルウラーもサイモン・イェーツ(総合6位)とクリス・ハーパーの2人。

あとは、ジャイ・ヒンドレー(総合3位、ボーラ・ハンスグローエ)、ペッリョ・ビルバオ(総合7位、バーレーン・ヴィクトリアス)、ダヴィド・ゴデュ(総合9位、グルパマFDJ)、フェリックス・ガル(総合14位、AG2Rシトロエン)、ギヨーム・マルタン(総合15位、コフィディス)が、それぞれ単騎で残るのみと、かなり厳しい展開になっている。

長いダウンヒル区間でも、ユンボはファンアールトによる高速牽引を継続。

それによりサイモン・イェーツ、ハーパー、ガル、マルタンが一旦千切れて遅れるけれども、なんとか超級山岳ジュー・プラーヌ突入前に再合流。

そしてそれとは別に、イネオスはカストロビエホのペースを緩めさせ、1級山岳で遅れてしまった総合8位トム・ピドコックのアシストに向かわせることを選択。

総勢16人、選ばれし精鋭のみで、ジュー・プラーヌへと突入していく。

 

ジュー・プラーヌの登坂に入ると、UAEがマイカを集団先頭に出して牽引を開始させる。

ゴデュ、ハーパーが千切れると同時に、ファンアールトとケルデルマンも遅れていき、これはUAEの攻撃が大成功か…と思ったのも束の間、衝撃の映像が飛び込んでくる。

なんと、ファンアールトが再び先頭まで上がってきて、もう一度牽引…!?

このファンアールトの再牽引で、マイカが千切れるとんでもない事態に。

なんだそりゃ…。

ファンアールトは短いながらも強烈な牽引を見せてから、クスにバトンタッチ。

これでメイン集団は、前からクス、ヴィンゲゴー、ポガチャル、アダム・イェーツ、ロドリゲス、ヒンドレー、ガルの7人に。

いやはや、ファンアールト、恐ろしすぎる…。

 

山頂まで残り5.5km、集団の牽引は変わらずクスのまま勾配が厳しい区間に入ると、まずはガルが脱落。

続いて遅れていったのは、総合3位のヒンドレー…!

総合4位のロドリゲスは未だに快調な足取り、そして2人の総合タイム差は1分57秒。

スタート直後の落車に巻き込まれていてダメージも見受けられるヒンドレー、山頂まで残り5km強、総合3位の座を守るために踏みとどまれるか…?

山頂まで残り4.7km、ポガチャルがアイコンタクトで指示を送ると、アダム・イェーツが集団先頭に上がって牽引を開始。

このアダム・イェーツのペースはかなりのもので、仕事を終えたクスが離れていき、そしてロドリゲスも無理せずにマイペース走法を選択。

ロドリゲスとしては、第一目標はいかにしてヒンドレーにタイム差を付けるかだ。

そしてこれで、UAEはヴィンゲゴーを丸裸にすると同時に、アシストを1枚残したポガチャルという、攻撃するのに理想的な状況を作り出した。

 

そして山頂まで残り3.7km、ポガチャルがアタック!!

当然反応するヴィンゲゴー、しかし少し離される…!!

その差は…5秒ほど!

そしてこの5秒差が…2人の力があまりにも拮抗していて、なかなか動かない。

抜きん出た力を持つ2人による、限界ギリギリでの攻防だ…。

永遠に続くかと思うようなこの膠着状態は、山頂まで残り2kmを切るとほんの僅かに…減少し始め、そして遂にヴィンゲゴーがポガチャルをキャッチ。

再び一つになった2人、ポガチャルに再加速する余力はなく、そしてヴィンゲゴーにもカウンターアタックを仕掛けるエネルギーは残っていない。

お互いに睨み合い、牽制でペースを落としながら山頂へ向かっていく。

 

息を整え、山頂に設定されたボーナスタイム獲得のために加速を見せたのは、パンチ力で勝るポガチャル!

切れ味のあるアタックでそのまま行ったかと思ったけれども、なんと前方を走るオフィシャルモトに進路を防がれてしまい、一旦スピードを緩める羽目に…。

そして「無駄脚」を使ってしまったポガチャルを、ヴィンゲゴーが残り100mからのアタックで抜き去る…!

そのままヴィンゲゴーが先頭通過して8秒、ポガチャルが5秒のボーナスタイムを獲得。

オフィシャルモト…と言うか、その進路を塞いだ観客によって、少し勝負に影響が出てしまった格好だ…。

 

そのまま2人でダウンヒル区間に入ると、山頂手前で牽制をしている間にかなり差を詰めていたロドリゲスとアダム・イェーツが合流してくる。

そしてロドリゲスは、お互いをマークする総合トップ2を尻目に、抜け出しからの独走を敢行!!

ステージ勝利のため、そして総合3位のヒンドレーを突き放し逆転するため、テクニカルなダウンヒルを攻めていく!!

そのまま無事にフィニッシュ地点までやってきたロドリゲス、最後までしっかり踏み切ってからガッツポーズ!!

Embed from Getty Images

スペインが誇る次世代の大器、改めてその才能の証明!!

ロドリゲスが自身初となるグランツールステージ勝利で、総合3位に浮上!!

トップ2のやり合いを意識しすぎず、しっかりとマイペースを貫いて超級山岳を「最適解」でクリアし、そして最後は勇気を持った独走!

山頂とフィニッシュのボーナスタイムを合わせて、ヒンドレーを1秒(!)上回り総合3位の座を奪い取って見せた!

そもそも、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは最終盤に落車で順位を落としながら総合7位と、既にグランツールである程度戦えるのは証明されていた選手。

イネオスのチーム力もあり、このまま表彰台の座を守り切る可能性は充分にありそうだ。

そしてイネオスとしては、前日のミハウ・クフィアトコフスキに続いてのステージ2連勝!

色々あって「低迷」とか言われたりするけれども、個人的にはそんなにチーム力が落ちたとは思っていなくて…、「妥当」な結果と内容だと評したい。

 

ロドリゲスの5秒後、ポガチャルとヴィンゲゴーもフィニッシュ。

最後はポガチャルがスプリントをして先着、ただしタイム差は付かず。

フィニッシュのボーナスタイムは、2位ポガチャルが6秒、3位ヴィンゲゴーが4秒。

つまり結局…ジュー・プラーヌ山頂とトータルで、この日はヴィンゲゴーがポガチャルとの差を1秒だけ拡大したということか。

総合タイム差10秒、あまりにも拮抗した2人の勝負は続く…。