超級山岳グラン・コロンビエール
第13ステージに登場するカテゴリー山岳はたった1つ。
フィニッシュにそびえる名峰、超級山岳グラン・コロンビエール。
2週目のハイライトとなるであろうアルプス山岳3連戦の幕開けに相応しい、シンプルだからこそエースの登坂力が問われるレイアウトだ。
この日もアクチュアルスタート後から激しいアタック合戦が繰り広げられ、出来上がった先頭集団は19人。
逃げ切りを目指すには登坂力が必須だけれども、一級品の登坂力を備えていると言えるのは…ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)、ピエール・ラトゥール(トタルエネルジー)、マクシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)、アロルド・テハダ(アスタナ・カザクスタンチーム)、ゲオルグ・ツイマーマン(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)、ジェームズ・ショー(EFエデュケーション・イージーポスト)…ぐらいか?
一方のメイン集団を牽引するのは、総合リーダーのヨナス・ヴィンゲゴーを擁するユンボ・ヴィスマではなく、総合2位のタデイ・ポガチャルがいるUAEチームエミレーツ。
コース中盤に登場する「スプリントポイントが設定されたけれども山岳カテゴリーの付かない起伏」の時点で、メイン集団と先頭集団のタイム差は2分強と、UAEは意外にも逃げ切りを容認しないペースメイクを実行。
…と思っていたら、超級山岳グラン・コロンビエールに向かっていくダウンヒルで、タイム差は拡大傾向に。
(登り区間も含めて)脱落者が出るほどのハイペースを刻んだ先頭集団は、3分50秒ほどのリードを持って、グラン・コロンビエールに突入していく。
登坂区間に入ってすぐ、先頭集団から飛び出しを試みたのはカンタン・パシェ(グルパマFDJ)。
パシェを追いかけるのは、テハダ、ファンヒルス、ショーの3人。
しばらくは先頭を維持していたパシェだったけれども、残り13kmを切った辺りで3人に追いつかれると、力を使い果たしたのかそのままズルズルと脱落。
新たな先頭集団となった3人は、メイン集団に対して3分40ほどのリード。
メイン集団は未だにUAEの牽引であまり大きなペースアップは見られず、展開次第では逃げ切りもあり得なくはないか…?
残り12kmを切った辺り、しばらくメイン集団を映していたカメラが先頭集団に切り替わると…あれ!?
クフィアトコフスキがテハダ、ファンヒルス、ショーの3人を抜き去って、先頭に躍り出ている…!?!?
どこから…いつ出てきた!?
そんなこちらの疑問に応えるように流れるリプレイ映像…、コーナーで追いついてきたクフィアトコフスキは、ためらうことなくそのまま3人をぶち抜いていた…!
これは…クフィアトコフスキならそのまま行けてしまうのでは!?
3分10秒ほど後方のメイン集団は、相変わらずUAEのマルク・ソレルがペースメイク。
意外なことに、これまでの山岳ステージでは圧倒的な支配力を見せていたユンボが、あまり人数を残せていない…?
とりあえず、最強の山岳アシストであるセップ・クスはしっかり生き残っている…というか、アシストはもうクスしかいない…?
これは…UAEの攻撃が効いているのか、それとも…。
山頂が近づいても、クフィアトコフスキの踏みは全く勢いが落ちない。
残り3kmで追走とのタイム差は1分7秒、メイン集団とは2分13秒と、これは流石にステージ勝利が見えてきた。
ふと思い起こすのは、2020年のツール第15ステージ、新型コロナウィルスの影響がまだ大きく、無観客だったこのグラン・コロンビエール。
あの日のクフィアトコフスキは、ケガの影響で大きく遅れてしまったエースのエガン・ベルナルを、最後までサポートしながらフィニッシュまで連れてきた。
その献身性は美しく素晴らしいものだったが、中継映像は先頭での争いを映していたため、その勇姿を目に焼き付ける事はほとんど出来なかった。
今日は、違う。
熱狂渦巻く歓声の中を、自らの勝利に向けて、力強く突き進む!
現地では観客が声援を送りながら、その走りを見届ける!
中継映像ももちろん、ステージ勝利に向かっていくクフィアトコフスキを映し続ける!!
最後の最後に勾配が上がる厳しいレイアウトを、歯を食いしばりながら…必死の形相になりながらも同時に笑みも浮かべて、駆け上がっていくクフィアトコフスキ!
最後は拳を振り下ろすガッツポーズを見せてのフィニッシュ!!
これが、2010年代最強のチーム・スカイを支えた世界最高の万能アシストの強さ!!
クフィアトコフスキ、グラン・コロンビエール山頂フィニッシュで渾身の逃げ切り勝利!!
強い…!!
本当に強い!!
2019年以降、調子を落とした時期もあったけれども、やはりクフィアトコフスキは強い!!
百戦錬磨の猛者らしい、冷静に機を窺う判断力と純粋な強さの同居は、手放しで称賛するしかない!
そして、クフィアトコフスキがフィニッシュするのとほぼ時を同じくして、メイン集団でも動きが…。
残り450m、アダム・イェーツのアシストを受けたポガチャルが猛然とアタック!!
まるでワンデーレースかのようなとんでもない勢いの加速に、付いていこうと試みたのはヴィンゲゴーのみ!!
そのヴィンゲゴーさえも、しばらくするとじわじわと離されていく…!!
なんだこの出力、なんだこの出力の継続は…!?
そのまま最後まで踏み切ったポガチャルは、ヴィンゲゴーに4秒の差を付けただけでなく、ステージ3位に入ったことで4秒のボーナスタイムも獲得!
これで、総合首位ヴィンゲゴーと総合2位ポガチャルの差は、僅か9秒。
2強によるハイレベルな総合争い、凄すぎる…!!