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【レース感想】ツール・ド・フランス2022 第18ステージ

全てを出し尽くして

ピレネー3連戦の最終日は、超級山岳オービスク(登坂距離16.4km・平均勾配7.1%)と1級山岳スパンデル(登坂距離10.3km・平均勾配8.3%)を経て、名峰と名高い超級山岳オタカム(登坂距離13.6km・平均勾配7.8%)へとフィニッシュする、決戦の場に相応しい難易度を誇る難関山岳ステージ。

泣いても笑っても、これが今大会最後の山岳ステージ。

激闘の最終章が幕を開ける。

 

この日も絶好の山岳ポイントの稼ぎ所、そして展開次第では逃げ切りもあり得るという事で、逃げに乗るためのアタック合戦はかなり激化。

そして、なんとか超級オービスクの手前で出来上がった逃げは、30人以上の大所帯。

前待ち狙いのワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)やティシュ・ベノート(ユンボ)やダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ)、山岳ポイント狙いのジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)などが逃げに入った一方で、山岳賞争いで首位のシモン・ゲシュケ(コフィディス)はメイン集団に残ったまま。

コフィディスとしてはなんとしてもゲシュケを逃げに乗せたいので、必死にメイン集団を牽引して、逃げとのタイム差は約30秒とかなり近い位置に留まっている。

しかし、トレックは逃げにチッコーネだけでなくバウケ・モレマも送り込んでいて、モレマが強烈に牽引。

この動きで結局ゲシュケは逃げに追いつけず、オービスクの山頂はチッコーネが先頭で通過に成功。

これで、ゲシュケが64pt、チッコーネが61ptと、山岳賞争いも分からなくなってきた。

 

ダウンヒルを経て1級山岳スパンデルに突入すると、ファンアールトが先頭集団のペースアップを図る。

「マイヨヴェールを着ながら1級山岳で牽引」というこの破天荒な行為で、先頭集団はかなり絞り込まれて、生き残ったのはなんとマルティネスとティボー・ピノ(グルパマFDJ)という、トップクラスの実績を誇るクライマーのみになってしまう。

ファンアールトの牽引はそのまま続き、山頂をファンアールト、マルティネス、ピノの順番で通過。

これでファンアールトは山岳ポイントが47ptになり、万が一このまま逃げ切り勝利を挙げると、なんと山岳賞も獲得というとんでもない事態が発生する事に…。

 

一方のメイン集団は、前日に続きブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)がペースメイク。

2分18秒というビハインドを逆転するためには早めの仕掛けが必須のタデイ・ポガチャル(UAE)が、やはり仕掛けてくる。

ポガチャル、山頂まで6km以上を残した位置からアタック。

付いていけるのは、やはり総合リーダーのヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ)のみ。

セップ・クス(ユンボ)、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)辺りは、必死に2人を追いかける。

一旦クスが追いつき、そうなるとポガチャルも無理は続けられず、クスに牽引を任せる事を選択。

これでペースが緩んだ事で、トーマスやナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)が追いついて来る。

しかしその直後、ポガチャルがこの日2度目のアタック!

腰を上げて猛然と踏み込むポガチャルと、対照的に静かにシッティングで付いていくヴィンゲゴー。

この動きにクスも追随し、クスはまた前に出てペースメイク、ポガチャルのアタックを可能な限り封じに掛かろうとしたところで…ポガチャルがもう一度アタック!

ただ、やはりヴィンゲゴーは離れない!

ヴィンゲゴーが離れないとなると、ポガチャルも一旦脚を緩めて呼吸を整える。

その間にまたクスとトーマスが追いついてきた…と思ったら、ここでトーマスがアタック!!

ここまで静かな走りを続けてきたトーマス、今大会初めて見せるタイム差を奪いに行く動き…!

抜け出したトーマスを、ヴィンゲゴーとポガチャルの2人は静観。

もしこのままヴィンゲゴーとポガチャルがお見合い状態になったら…?

前方にはマルティネスという頼れるアシストもいるトーマス、千載一遇のチャンス到来か?

ただ、ここはクスが牽引してトーマスとの差を詰めに掛かる。

ここでアシストを残せているユンボの強さよ…。

そして、山頂まで残り3kmを切った辺りで、ポガチャル4度目のアタック!

この日一番とも思える勢いのアタックに対しても、ヴィンゲゴーはしっかりと反応できている…!

ヴィンゲゴーが付いてきてもお構いなしにポガチャルは踏み続け、そのまま2人はトーマスをもの凄い勢いでぶち抜いていく!!

この2人、ちょっと勢いが違いすぎる…。

他の選手とは、地力が違いすぎる…。

タイム差が多少離れている事もあったけれども、トーマスの動きが完全に「無視」され、そして結局置き去りにされるとは…。

山頂の手前でポガチャルがこの日(と言うかこの山岳で)5回目となるアタックを見せるけれども、ここでもヴィンゲゴーは離れない。

先頭から1分30秒と言うタイム差で、オタカムに向けてのダウンヒルに入っていく。

 

ダウンヒルに入ってすぐ、ヴィンゲゴーがコーナーでバランスを崩す…!?

後輪をスリップさせながらも、ヴィンゲゴーはなんとか落車を回避…。

…思わず変な声が出るシーンだった。

なんて思ったのも束の間、その直後に今度はポガチャルがコーナーでオーバーランしてそのまま落車…!?

すぐさま立ち上がって走り始めるポガチャル、そして前を走るヴィンゲゴーは…ポガチャルを待つ。

あくまで、決着を付けるのはトラブルではなくその走りで。

ヴィンゲゴーの、ロードレースとポガチャルに対する素晴らしいリスペクトだ。

合流したポガチャルは手を差し出し、2人は握手を交わす。

どうか、2人とも全てを出し尽くして、悔いのない戦いを。

最終決戦の地オタカムは、もうすぐそこだ。

 

先頭の3人がオタカムに突入する頃、2分20秒後方のヴィンゲゴーとポガチャルには、トーマス、クス、ベノート、ダヴィド・ゴデュ(グルパマ)などが合流。

ヴィンゲゴーが2枚のアシスト…前方のファンアールトを加えたら3枚のアシストを揃えた、盤石の態勢で勝負所を迎える事に。

残り9.2km、先頭ではファンアールトが加速…!

マルティネスが付いていく一方、ピノはゴデュのアシストに切り替えたのか、無理をせずに離れていく。

メイン集団は、ベノートが早々に仕事を終えてクスに牽引をバトンタッチしていて、先頭との差が1分を切るほどのペースアップで、残っているのは…クス、ヴィンゲゴー、ポガチャル、トーマスのみと、またかなり絞り込まれている。

残り7.3km、遂にトーマスも脱落。

残り5.4km、クス、ヴィンゲゴー、ポガチャルの3人が先頭の2人に合流。

その瞬間、マルティネスは踏みを止めてトーマスを待つ事を選択。

そして、ここまで素晴らしい牽引を見せていたクスも力尽きて後退し、集団を牽引するのは…ファンアールト。

「最強スプリンターの称号」とも言われるマイヨヴェールを着ながら、超級山岳オタカムでの最終局面で牽引をする。

ファンアールト、なんという規格外な男…。

更に、残り4.5kmから、ファンアールトは最後の力を振り絞って猛加速!!

…ポガチャルが離れる!!

マイヨヴェールを着たファンアールトの牽引で、ツール総合2連覇のポガチャルが遅れる…!!

鬼のような形相でそのまま牽き続けたファンアールトが力尽きると、ヴィンゲゴーが独走を開始!!

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残すは3.7km、勝利に向けた一人旅だ!!

 

順調に踏み続けるヴィンゲゴーは、そのままポガチャルとの差を1分以上にまで拡大!

ポガチャルも決して大きな失速はしていない中、ヴィンゲゴーがひたすらに強い…!

最終コーナーを抜け、安堵するような表情を見せるヴィンゲゴー!!

静かに、噛みしめるようなガッツポーズを見せながらのフィニッシュ!!

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ヴィンゲゴー、総合優勝をほぼ確実なものにする、今大会2勝目!!

チーム一丸となって、またしてもポガチャルを崩して見せた!!

ここで更に1分以上のタイム差を付け、第20ステージの個人タイムトライアルに向けて3分26秒のタイム差をポガチャルに叩きつけた意味は、相当に大きい!!

ポガチャルのアタックに全て反応し、最後は見事な独走を決めたヴィンゲゴーの強さ。

美しい程の連携を見せてレースをコントロールし、そしてポガチャルを沈めた素晴らしいチーム力。

ヴィンゲゴー、そしてユンボが全てをぶつけて掴み取った、最高の結果だ!!

 

そして、ポガチャルもまた、全てをぶつけ、全てを出し尽くし、なんとか逆転の糸口を掴もうとしていた。

勝利に対する飽くなき執念。

その戦う姿勢。

敗れたとはいえ、ディフェンディングチャンピオンとして、その力と矜持を存分に見せつけてくれたと思う。

本当に素晴らしかったと、最大級の賛辞を贈りたい。