逆襲の絶対王者
ピレネー山脈2日目となる第6ステージは、序盤に3級山岳を1つこなしてから、1級山岳アスパン峠、超級山岳トゥールマレー峠を経て、1級山岳コトレ・カンバスクの頂上へとフィニッシュする、前日に続いてかなりの難易度のレイアウト。
8%前後の勾配が10km以上続く名峰トゥールマレー、そして終盤に10%を超える勾配が登場するコトレ・カンバスクは、どちらも総合争いが起こるには充分すぎる。
1週目に、2日続けてこのレベルのコースを用意するとは…。
この日の逃げは、またしても「前待ち」の構えを見せるワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)、山岳ジャージ奪還を目論むニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)、中間スプリントポイント狙いのブライアン・コカール(コフィディス)、ファンアールト同様に前待ちの可能性があるミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)など、これまた20人と大きな人数に。
パウレスが序盤の3級山岳と1級山岳アスパン峠、コカールが中間スプリントポイントを先頭通過し、それぞれがしっかりと目標達成に成功。
そして超級山岳トゥールマレーに入ると、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)とジェームズ・ショー(EF)のアタックがあったけれども、ファンアールトが得意の高速牽引でこの動きを封殺。
ファンアールトは2人を捕まえてからもそのままハイペースを維持して、先頭集団はみるみる小さくなっていく…。
一方、先頭から4分30秒ほどのタイム差でトゥールマレーに突入したメイン集団も、牽引するのはユンボのアシスト陣…?
ユンボはマイヨ・ジョーヌを着るヨナス・ヴィンゲゴーの前に、ディラン・ファンバーレ、ウィルコ・ケルデルマン、そしてセップ・クスと並べるいつもの「攻撃準備」態勢。
先頭でのファンアールトと同様に、高速牽引で集団を小さくしていくんだけれども…。
このシチュエーションで先頭のファンアールトも牽いている理由は…?
一応考えられる理由としては、ヴィンゲゴーがトゥールマレーでアタックしてから前待ちのファンアールトが合流する予定で、ヴィンゲゴーのアタックに対して「ファンアールト以外の逃げの選手の牽引では遅すぎる(狙い通りの位置で合流できなくなる)」から…なのか?
いやはや、理屈は分かるけれども…この動きを試みるファンアールトが規格外すぎる…。
メイン集団で大きな動きがあったのは、山頂まで残り4kmを切ってから。
ユンボが牽引のバトンを最終アシストのクスに交代すると、ヴィンゲゴーの他にそのスピードについて行けるのは、最大のライバルであるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)のみ。
そしてしばらくすると、前日と同様にヴィンゲゴーがアタック!
しかしこの日は、ポガチャルも難なく付いていく…!!
緩めないヴィンゲゴー、そして離れないポガチャル。
マイヨ・ジョーヌのジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)を含む後方集団とのタイム差が一気に開いていくけれども、後方はもはやヴィンゲゴーとポガチャルの眼中に入っていない。
絶大な個の力を有する2人による、頂上決戦だ。
相変わらずファンアールトが牽く先頭集団は、他にトビアス・ヨハンネセン(ウノエックス・サイクリングチーム)、ルーベン・ゲレイロ(モビスター・チーム)、クフィアトコフスキ、ショーのみが生き残っている状態でトゥールマレーの頂上を越えて行く。
その僅か30秒ほど後に、ヴィンゲゴーとポガチャルの2人も山頂を通過。
そして、ここでファンアールトはペースを落としてヴィンゲゴーとポガチャルに合流し、ダウンヒルでも強烈な牽引を披露。
ファンアールトはそのまま2人を引き連れて先頭に再合流し、そして1級山岳コトレ・カンバスク突入時には後方集団とのタイム差が2分40秒にまで広がっていた。
恐ろしいことに、コトレ・カンバスクでもファンアールトの牽引は続き、ゲレイロやショーを脱落させていく。
そして残り4.5km、勾配が厳しい区間に突入すると同時に、ヴィンゲゴーがこの日2度目のアタックを開始。
ポガチャルはその背中に張り付く一方、ヨハンネセンはすぐさま遅れ、そしてなんとか食らいついていたクフィアトコフスキも離されていく。
やはり、ヴィンゲゴーとポガチャルの力が抜けている。
と同時に、ポガチャルの様子が前日とは…あっけなく離された前日とは違い、淡々とヴィンゲゴーの背中を捉え続ける強さを見せている。
ヴィンゲゴーからすると、離れる様子が無いとなると無茶なアタックは仕掛けにくいけれども、パンチ力に長けたポガチャルをフィニッシュまで一緒に連れて行くのも得策には思えない。
攻めているはずのヴィンゲゴーが、実は少し難しいシチュエーションに追いやられているようにも見えてきた。
レースが動いたのは、残り2.8km地点。
ポガチャルが腰を上げて猛烈なアタックを披露すると、ヴィンゲゴーが付いていけない…!?
とんでもない加速で一気にギャップを作ったポガチャルは、その後もじわじわと差を広げていく…!!
ヴィンゲゴーも黙々とペース走で追いかけるけれども、ポガチャルに失速するような様子はない!
スタート前は53秒あった2人の総合タイム差は、一体どうなるか…!
いつものような余裕の表情ではなく、歯を食いしばりながら、苦しさに表情を歪めながら、それでも力強くペダルを踏む脚に力を込め、フィニッシュに近づいていくポガチャル。
その強さは、とても前日に遅れを喫した選手のものではない。
最後は歓声に応える役者のようなポーズを披露してのフィニッシュ!!
これが「絶対王者」の力!!
ポガチャルが前日の不安を吹き飛ばす鮮やかな山頂フィニッシュ制覇!!
いや~、凄すぎる!!
前日あの遅れ方をしたポガチャルが、この日は逆にヴィンゲゴーをアタック一発で突き放すとか、想像できる訳がない…!!
今までも何度も我々の想像を超えてきたけれども、その中でも最大級の驚きだ!!
そしてヴィンゲゴーは、ポガチャルから24秒遅れてのフィニッシュ。
これでヴィンゲゴーは、2分以上遅れてフィニッシュしたヒンドレーを抜き去り、総合首位の座へ。
ただやはり、その目が捉えているのは、ポガチャルという強力すぎる「挑戦者」のみだろう。
総合首位に立ったヴィンゲゴー、そして25秒遅れの総合2位にいるポガチャル。
現役最強の2人による至高の総合争いが、この瞬間に改めて幕を開けたのだ。