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【レース感想】ツール・ド・フランス2021 第17ステージ

王者の強さ

3週目の山場にして総合争いのクライマックス、ピレネー山頂フィニッシュ2連戦。

第17ステージは今大会最難関との呼び声も高い、終盤に山岳を1級・1級・超級と連続で登るかなり厳しいレイアウト。

 

この日の逃げは6人、メイン集団からは8分以上のタイム差を許され、中盤までの平坦区間を穏やかに進んでいく。

メイン集団では、山岳に突入する直前に設置された中間スプリントポイントで先着(全体の7番通過)争いが起こり、マイケル・マシューズ(チーム・バイクエクスチェンジ)が先着、続いてマーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)の順で通過。

 

1つ目の1級山岳に入ると、メイン集団からナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)がアタック。

この動きにピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ)と山岳賞争いのライバルであるワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)が反応。

しかし、この3人も結局はメイン集団に引き戻されて、2つ目の1級山岳に突入。

この登坂で逃げ集団は人数を減らし、アントニー・ペレス(コフィディス)が先頭、やや遅れてドリアン・ゴドン(AG2Rシトロエン)、さらに遅れてアントニー・テュルジス(トタル)と、メイン集団の前を走るのは3人のみになったので、メイン集団では山岳賞に向けて山頂通過争いが発生。

集団先頭(全体4着)は現在山岳賞首位のプールス、続いて山岳賞3位のキンタナが通過していく。

 

先頭のペレスにゴドンが追いついて2人で超級山岳に入るけれども、ほどなくしてペレスが再び独走を開始。

ただ、メイン集団とのタイム差は「僅か」4分しか残っていない。

 

メイン集団を牽引するのは、総合リーダーのタデイ・ポガチャルを擁するUAEチームエミレーツ

ダヴィデ・フォルモロ、ブランドン・マクナルティ、ラファウ・マイカと山岳アシストを惜しみなく使い倒してペースを上げていく。

先頭のペレスを吸収した直後、この日も「王」が自ら動く。

残り8.5km地点で、総合リーダーのポガチャルがアタック!!

この動きに反応できたのは、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、総合2位)、ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ユンボ・ヴィスマ、総合3位)、リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、総合4位)の3人のみ!

そしてポガチャルが再度ペースを上げると、総合2位のウランが遅れていく…!

これで先頭はポガチャル、ヴィンゲゴー、カラパスと、今大会の登坂3強に絞られる!

 

ポガチャルが何度かの軽いアタックで揺さぶりを掛ける中、ヴィンゲゴーはしっかりローテーションに参加するのに対して、カラパスは苦しそうな表情を見せながら頑なに前に出ない。

これは…カラパスはかなり厳しいのか?

それとも…?

J SPORTS中継の解説の栗村修さんも「カラパスのブラフの可能性」に言及している…。

この時点では真実は分からないまま、苦しそうなカラパスはそれでも離れることは無く、徐々にフィニッシュ地点へ近づいていく。

 

残り1.5km、遂に先頭で動きが起こる。

なんと、後方で苦しそうな様子を見せていたカラパスが突如アタック!!

この意表を突いた攻撃に、ヴィンゲゴーは反応が遅れて少し離されてしまう…!

そしてポガチャルは、踏み続けるカラパスの背中をぴったりとマーク!

カラパスはひたすら全力で踏み続けるけれども、ポガチャルは余裕のある様子で離れない!

一旦遅れてしまったヴィンゲゴーは自分のペースで黙々と踏み続け、逆にカラパスのペースが少し落ちてきた事で、残り200m地点で3人はまた1つに合流する。

 

残り100mでフィニッシュに向けて加速したのは、ここまで最も余裕のある走りを見せていたポガチャル!!

直前に力をかなり使ってしまった2人のライバルを軽々と突き放す!!

最後はジャージをアピールしながらのフィニッシュ!!

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王者ポガチャル、この日も余裕を持っての勝利!!

強い!

ただひたすらに強い!

登坂力もスタミナも、1人だけ別次元の強さ!

既に総合優勝ほぼ確実と言えるようなタイム差を持っているのだから、それこそヴィンゲゴーとカラパスにステージを譲ってもいいような状況にありながら、それでも貪欲に勝利を狙うその姿勢に、王者の強さと矜持が見えたような気がする。

出し惜しみはしない。

勝利は逃さない。

これこそが、王者のメンタリティなのかもしれない。

 

ヴィンゲゴーはポガチャルから3秒遅れ、カラパスはそこから更に1秒遅れてフィニッシュ。

ヴィンゲゴーの粘りは称賛に値するものだったと思うし、カラパスの泥臭い姿勢も個人的には見ていて熱くなるものだったと思うんだけれども…。

カラパスの「死んだふりからのアタック」には、レース後に少し厳しい声も聞こえている模様。

まぁ、「先頭交代に加わらないで楽をしたのに、それを利用してライバルを出し抜くようなアタックを仕掛けるのはフェアではない、ロードレースの紳士協定違反だ」という意見が出るのは、正直なところ予想はしていた。

言いたいことは分かるし、それも一理あるとは思うけれども、あのシチュエーションであのカラパスの動きは、個人的にはどちらかと言うと「アリ」。

「勝つため」にレースをやっている以上、「リスク」を承知で、「内外からの批判にさらされる」「今後のレースや集団内での立ち位置へ影響がある」というリスクを承知でああいう動きをするというのは、個人的にはアリだと思う。

それを好まないという意見ももちろん理解はできるし、なんでもかんでも「卑怯な」戦い方を容認するという意味ではないけれども。

 

あと、このカラパスに批判的な声が飛ぶ中で、「残り1.5kmという早い位置から仕掛けて、結局失速して追いつかれた」事に対して、「また早めに仕掛けて失敗してるよ」「カラパスの早めのアタックは決まらない」みたいな意見も見かけるんだけれども…。

この意見は的外れだと、ここははっきり言いたい。

「また早めに仕掛けて失敗」の「また」と言うのは、今大会の第7ステージや、昨年ブエルタの第12ステージなんかの事を指していると思う。

確かに結果だけ見れば、早めに仕掛けて抜け出してながら、結局は追いつかれて(追い抜かれて)いるから、「失敗」に見えるかもしれない。

ただ、カラパスが早めに動くシチュエーションというのは、どれも「逆転のためには大きなタイム差が必要な場合」だと思う。

この日のアタックも、第20ステージの個人TTを見据えて、TTが得意なヴィンゲゴーに大きなタイム差を付けたかったという事だと、自分は理解している。

もちろん、それはリスクが高くて難しいトライであり、「失敗」の可能性が高いものだとは思う。

それでもカラパスは、総合3位ではなく総合2位を目指して(流石にポガチャルを抜くのは現実的ではないけれども)、リスクを背負ってトライをした。

少しでもいい結果を求めて、トライをしたのだと思う。

今回は実らなかったけれども、勝利を目指してトライしたのだから、むしろその姿勢は称賛されるべきであり、「失敗」などと笑われるようなものではないはずだ。

逆に、カラパスほどの実績がある選手が、そしてイネオスという総合系最強のチームが、あのシチュエーションで総合3位を守るような動きをしたのなら、むしろそちらの方が幻滅する。

だから、ポガチャルの貪欲に勝利を狙う姿勢を評価するように、カラパスの少しでも上を目指したアタックを、自分は肯定的に評価する。

勝利を目指してトライする選手を、自分は肯定的に評価していきたい。