絶対王者の力
まだ冬の寒さを感じさせるパリをスタートし、フランス南部ニースを目指す「太陽に向かうレース」ことパリ~ニース。
毎年かなり豪華なメンバーが集まるレースだけれども、今年の目玉は何と言ってもヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)とタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の激突。
昨年のツール・ド・フランスで激闘を演じた現役最強の2人によるマッチアップが、こんな早い時期に見られるとは…!
もちろん、2強に穴を穿ちたい「第3勢力」も、サイモン・イェーツ(チーム・ジェイコ・アルウラー)、ダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ)、ロマン・バルデ(チームDSM)など、まさに多士済々。
更に、スプリンター陣もティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)、サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)、マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)という実績十分な選手に加えて、オラフ・コーイ(ユンボ)、アルノー・ドゥリー(ロット・デスティニー)、カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)など伸び盛りの若手も混ざり、群雄割拠の様相。
果たして、この8日間の行程でどのようなレースが繰り広げられるのか。
第1ステージ
フィニッシュから6km手前と言う、なんとも絶妙な位置に「ボーナスタイム付きの中間スプリントポイント」が設定された平坦ステージ。
序盤から中盤にかけては平穏で「何も起こらない」典型的な平坦ステージらしい展開が続き、残り31kmで逃げていた2人がメイン集団に吸収される。
3級山岳でニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)が加速するとメイン集団が活性化。
ポガチャルやアントニー・テュルジス(トタルエネルジー)もパウレスと共に抜け出しを図る姿を見せつつ、流石にこの動きはメイン集団が許さない。
残り6kmの小さな斜面の上に設定された「ボーナスタイム付きの中間スプリントポイント」では、ポガチャルが加速。
かなりの踏み込みを見せたポガチャルはそのまましっかりと6秒のボーナスタイムを獲得して、ヴィンゲゴーなどのライバルに早くも圧を掛けていく。
そこからは大きな波乱もなく、想定されていた通りに集団スプリントへ。
集団を牽引するのはスーダルの隊列、残り1km辺りからその横に並んできたのはトレックの隊列、そしてその後ろにはダニー・ファンポッペルに導かれたサム・ベネット、更には単騎でコーイやドゥリーの姿も。
スーダルのリードアウターであるフロリアン・セネシャルが一瞬後ろを千切ってしまうという不思議な動きがあった結果、残り200mという素晴らしいタイミングで発射されたのはサム・ベネット!
しかしその後ろからはコーイとメルリールも伸びてくる!
最後の最後で伸びたのは…メルリール!
メルリール、チームの働きに応える抜群の勝負強さ!
これで、今シーズンはツアー・オブ・オマーン、UAEツアー、そしてこのパリ~ニースと、出場した全てのステージレースで最初のスプリントステージを制する、相変わらずの「開幕男」っぷり!
第2ステージ
第1ステージに続き…いや、それ以上にフラットで集団スプリント向け、典型的な平坦ステージ。
強風による集団の分断も危惧されるこの日、前日も逃げたヨナス・グレゴー(ウノエックス・サイクリングチーム)が1人逃げを敢行。
グレゴーは順調に2つの3級山岳を先頭で通過して、山岳賞トップに躍り出る事に成功。
ただ、メイン集団が横風分断の警戒もありペースを上げた事で、残り50km以上を残してグレゴーを吸収してしまう。
残り13km地点の「ボーナスタイム付き中間スプリントポイント」では、2日続けてポガチャルが貪欲にタイムを稼ぎに来る。
この日はチームメイトによるリードアウトも利用して、またしても先頭通過で6秒を獲得。
流石と言うか何というか…、まあこれぞポガチャルと言ったところか。
その後は大きな動きもなく、最後はやはり集団スプリントの展開。
残り2kmの時点で、アルペシン、アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ、ジェイコ辺りが割といい感じの位置で隊列を組みつつ、明確に主導権を握っているようなチームは無いような雰囲気に。
残り1kmで落車が発生、そしてその直後のラウンドアバウトを抜けると、殆どのチームがまともな隊列を組めていない…。
そんな中、先頭から2番手にアレックス・キルシュ、そしてその後ろにエースのピーダスンが控えているトレックは絶好の展開!
残り200m、ピーダスンスプリントを開始!
後ろからコーイが猛追を仕掛けてきて、最後はハンドルの投げ合い…!!
混戦から大迫力のスプリント、僅差で制したのはピーダスン!!
ほんと、こういう「荒れた」展開に強い…!
第3ステージ
今年のパリ~ニースは例年とは違い、個人タイムトライアルではなくチームタイムトライアルを採用。
しかも、「規定の人数(多くの場合4人目ぐらい)がフィニッシュしたタイムがチームのタイム」となる通常のチームタイムトライアルと違い、「先頭でフィニッシュした選手のタイムがチームのタイム」、そして「選手個人にはそれぞれのフィニッシュタイムが個人成績として加算」という、かなり斬新なルールでのチームトライアルに。
序盤で好タイムを出したのは、優秀なルーラーを多くそろえたジェイコ。
サイモン・イェーツはこれで大幅な総合ジャンプアップに成功。
そしてイネオス、UAEという強豪チームがいまいちタイムを伸ばせない…と言うか、2チームともあまりタイムトライアルに寄っていないメンバー選出をした感があるので、まあ妥当な結果か。
そんな中、この日の大本命であるユンボが出走。
何せ、メンバーがエグイ。
ローハン・デニスにトビアス・フォスという2人のタイムトライアル世界王者、現役最強クラスのオールラウンダーであるヴィンゲゴー、そして優秀なTT系ルーラーであるエドァルド・アッフィニ、ヤン・トラトニック、ナータン・ファンホーイドンク…。
スプリンターのコーイ以外はまさにタイムトライアル強者揃いという布陣で、起伏もコーナーも少ないコースを疾走!!
ユンボはジェイコのタイムを4秒上回り、そのままステージ優勝!
ユンボ流石の強さ…と同時に、ジェイコのタイムがかなり良かった事も改めて発覚。
更には、その後の出走でEFがユンボの1秒遅れでのフィニッシュと、これまたなかなかサプライズなリザルトも。
この結果、総合リーダーはなんとEFのマグナス・コルトに!
EFが最後パウレスではなく、コルトを行かせた瞬間は意図が分からなかったけれども、これはナイス判断!
しかし、今回の新ルールでのチームタイムトライアルは、どのチームもまだ手探り感が見えて、なかなか面白かったな~。
アシストをどのタイミングで使い倒して切り捨てるか、エースをどのタイミングでどのように発射するか、結構チームごとの差が出ていた気がする。
あと、最後の登りでかっとんで行ったポガチャルの加速の異常さは、ちょっと言葉を失うぐらい凄まじかった…。
第4ステージ
1級山岳を登る、今大会最初の山頂フィニッシュ。
山岳賞で首位に立つグレゴーはこの日も逃げに乗り、順調に山岳ポイントを加算して山岳ジャージのキープに成功。
しかし、チームタイムトライアルを挟んで3連続での逃げ、つまり実質全ステージで逃げるとは…これまた凄い。
そんなグレゴーを含んだ逃げ集団は「ボーナスタイム付きの中間スプリントポイント」直前でメイン集団に吸収されるけれども、そのどさくさに紛れて(?)ポガチャルがしれっと中間スプリントポイントを3位通過して、この日もしっかりとボーナスタイム獲得に成功。
抜け目がないと言うか、貪欲と言うか、それとも容赦がないと言うべきか…、まあいつも通りのポガチャルではある。
1級山岳の登坂でメイン集団が絞り込まれる中、残り4.3kmでアタックを仕掛けたのはヴィンゲゴー。
ポガチャルが当然反応、そしてヴィンゲゴーもあまり無理をせずに一旦ペースを落として、集団が再度合流…したタイミングでダヴィド・ゴデュ(グルパマ)が加速!
ゴデュはかなり良いペースで登り続け、メイン集団から反応して追いつけたのは…なんとポガチャルのみ!?
ヴィンゲゴーも、サイモン・イェーツも、マルティネスも、バルデも付いていけない…。
…ヴィンゲゴーの調子がイマイチなのは間違いないとして、ゴデュがめっちゃいいぞ、これ。
結局そのまま、ポガチャルとゴデュの2人でフィニッシュ地点へと向かう事に。
残り300m、ポガチャルが腰を上げて加速すると、ゴデュもしっかりと反応。
そしてゴデュは一縷の望みをかけて、前へ出ようと踏み込むけれども、ポガチャルはそれを許さない!
残り100mでゴデュを突き放し、最後は余裕のガッツポーズでフィニッシュ!
ポガチャル、強っ!!
相変わらず圧倒的な強さを見せて、「指定席」の総合首位に。
なんか、余裕すらあるもんなぁ…。
まあ、強者がしっかり強いのは良い事だ。
そして、最後はポガチャルに屈したけれども、かなりの強さを見せたゴデュ。
フランス期待の星、遂に本格開花か。
この走りを今後も継続できるなら、楽しみすぎる。
力負けとなったヴィンゲゴーは…43秒遅れでのフィニッシュ。
「最後のスプリントで負ける」なら全然問題ないけれども、この日の負け方は…。
まあ、本調子ではないというだけなんだろうけれどもね。
第5ステージ
スタート直後に3つのカテゴリー山岳、そして終盤にも一つ3級山岳が登場しつつ、平坦区間もかなり長い、なんとも表現が難しいステージ。
この日の逃げはグルドーとサンディ・デュジャルダン(トタルエナジーズ)の2人…って、また逃げたのかグルドー!
グルドーはスタート直後の3つのカテゴリー山岳を通過しただけでなく、平坦区間でメイン集団に吸収された後、終盤の3級山岳でもしっかりと先頭通過に成功して、山岳賞ジャージをキープ。
今大会で一気に名前を売った感のあるグルドー、自分もしっかり覚えたぞ(2021年までアスタナに在籍していた際はあんまり認識していなかったなぁ…)。
その後は特に動きが無く、最後は集団スプリントへ。
残り1kmのゲートの直後にラウンドアバウトがあり、各チームの隊列はかなり乱れた状態で最終局面に突入。
その隙に乗じてベン・スウィフトが早掛けを仕掛けたけれども、これは実らず。
残り200m、ポイント賞ジャージを着るピーダスンがスプリントを開始!
しかしその背後からはコーイが猛加速!!
ピーダスンを捻じ伏せ、そして後続も寄せ付けずにフィニッシュラインへ!!
圧倒的なスピードを見せつけたコーイ、今シーズン1勝目!
これは…やはりコーイは相当強いぞ!
良い形でスプリントに持ち込めたら既にかなりのもの、そしてまだ21歳…。
昨年一気に名を上げたスプリント界の新星、このまま順調に成長していって欲しいところだ。
第6ステージ
この日は…記録的な強風が吹き荒れたため、なんとレースは中止。
倒木が発生するほどの強風…確かにレースをする環境ではない…。
第7ステージ
1級山岳クイヨール峠(登坂距離17km・平均勾配7.1%)へとフィニッシュする、今大会のクイーンステージ。
急勾配はほぼ無いけれども、緩む区間も全く無い17kmの長距離登坂は…、まさに純粋な登坂力勝負になりそう。
この日の逃げは19人と、結構な人数に。
総合3分32秒遅れのダヴィ・デラクルスが逃げに乗った事もあり、メイン集団はあまり大きなタイム差を許さずにレースを進めていく。
クイヨール峠に突入すると、メイン集団はユンボのフォスがハイペースでの牽引を開始。
このフォスの牽引は凄まじく、逃げを吸収するだけでなく、なんとイネオスのエース格であるマルティネスを脱落させ、更にはポガチャルのアシストであるフェリックス・グロスチャートナーも剥がす事に成功。
ただ、ユンボもフォスが最後のアシスト、ヴィンゲゴーはどうするのかと思っていたら、残り6km辺りでフォスが仕事を終えるとそのままヴィンゲゴーがペースアップ。
しかし、ポガチャルも負けじとカウンターアタックを繰り出し、この動きに対応できたのはヴィンゲゴーとゴデュの2人のみ。
その後ヴィンゲゴーが離されそうになるシーンもありつつ、結局この3人が先頭を形成したままフィニッシュ地点へ向かっていく。
残り300mを切った辺り、ヴィンゲゴーがリスクを負ってのアタックを敢行!!
しかしやはり調子がイマイチなのかキレは無く、逆にポガチャルがカウンターでとんでもない加速を見せる!!
早々に諦めるヴィンゲゴー、そして何とか食らいつこうとしたゴデュも離されていく…!!
ポガチャルがまたしても圧倒的な強さを見せつけ、今大会2勝目!!
いや~、強い!
山岳ステージのフィニッシュスプリントで勝てる選手は、正直言って思い浮かばないぐらい強い!
初出場のパリ~ニース制覇まで、あと1ステージだ。
そしてこのポガチャルに食らいついたゴデュ…!
総合成績も12秒差の2位と、まだ最終ステージに望みは残されている。
果たして、何か仕掛けるのか。
第8ステージ
2級・2級・2級・1級・1級と5つのカテゴリー山岳を通過する、ニース発着のショートステージ。
ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)やヨン・イサギレ(コフィディス)と言ったステージを狙えそうな実力者が逃げに乗ったけれども、メイン集団はUAEが結構なハイペースを刻んだ事で、逃げとメイン集団のタイム差はほとんど開かないような展開でレースは進行。
結局そのまま、残り50km以上を残して逃げは全て捕まってしまい、そのまま総合勢による最終ラウンドのゴングが鳴る格好に。
残り99kmから始まるエズ峠(登坂距離6.1km・平均勾配7.6%)に突入すると、急勾配区間で真っ先に仕掛けたのはサイモン・イェーツ。
しかしこの動きは実らず、逆にポガチャルがカウンターを仕掛け、そのままポガチャルは単独での抜け出しに成功…!
ゴデュ、ヴィンゲゴー、サイモン・イェーツ、マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)が追走を仕掛けるけれども、ポガチャルとのタイム差は徐々に広がっていく!!
ポガチャルはダウンヒルも無難にこなし、悠々とフィニッシュ地点へ!
最後はカーテンコールに応える役者のような、優雅な仕草でフィニッシュ!!
ポガチャル、その堂々たる王者の走りで見事総合優勝!!
昨年のツール・ド・フランスでは敗れてしまったけれども、やはりポガチャルはとんでもなく強い。
改めて、その別格の強さを見せつける1週間だった。
総合2位には、最終日を除けば唯一ポガチャルに食らいついたと言っていいゴデュがランクイン!
これまでは勝ちきれない姿も目立っていたけれども、今大会の強さを安定して見せられるのなら、ちょっとその強さに対する認識を改めなければいけないかな。
2016年にツール・ド・ラヴニールを制して期待されていたフランスの星が、遂に覚醒したのかもしれない。
そして総合3位は、今大会の本命とも目されていたヴィンゲゴー。
正直言って、山岳での走りは本来の姿では無かった。
まあ、2022年もシーズン序盤はあまり好調な感じでは無かったから、こういう感じの調整をする選手なのかもしれない、とも思ったり…。
単独エースとして、どう仕上げていくのか注目していきたい。
いや~しかし、今年もパリ~ニースは濃厚な1週間だった!
スプリントも総合争いも、やはりこれだけの選手が集まると本当に面白いレースになるよね。
ステージレースが大好きな人間としては、大満足だった!
さあ、3/18にはもうミラノ~サンレモ開催、春のクラシックシーズンの幕開けだ!
盛り上がっていくロードレースの春、思う存分に楽しんでいこう!
それでは、また!!