逃げに命を懸けた「逃げ職人」
トーマス・デヘント(Thomas De Gendt)
所属チーム:ロット・スーダル
国籍:ベルギー
生年月日:1986年11月6日
脚質:ルーラー・オールラウンダー
主な戦歴
総合3位(2012)、ステージ1勝(2012)
通算ステージ2勝(2016、2019)
ステージ1勝(2017)
・ボルタ・ア・カタルーニャ
通算ステージ4勝(2013、2016、2018、2019)
どんな選手?
全グランツール(ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャの三大ステージレース)で逃げての区間勝利を達成した逃げの職人。
25歳の時にジロ・デ・イタリア2012で総合3位に入ったように総合系の選手(ステージレースで総合優勝を狙う選手)として将来を嘱望されていたが、「毎日先頭で数秒差を争うのが性に合わない」との事で、逃げてステージ優勝を狙う「逃げ屋」に転身。
「逃げ」とは、メイン集団から飛び出して先行する事である。
少人数で逃げて先頭で走っている間はテレビによく映り、それがジャージに広告を出しているスポンサーのアピールに繋がるので、総合優勝は狙えない選手の仕事として各ステージレースでまず間違いなく少人数の逃げが形成される。
ただし、メイン集団が大人数で先頭交代しながら走るのと比べ空気抵抗を多く受けるため、メイン集団が本気でペースを上げれば基本的には結局追いつかれてしまう。
例外として、逃げている選手の総合タイムが遅い場合はメイン集団が「今日の逃げメンバーなら総合争いに関係ないから、逃がしてもいいや」と判断して、逃げのメンバーでステージ優勝を争うことがそれなりの頻度で起こる。
・・・ちょっと前振りとして逃げの説明が長くなってしまったが、ここからが本題。
デヘントは逃げやすいステージで逃げを許してもらう為に、逃げに不向きのステージでは手を抜いて走っている。本当は総合優勝争いできるぐらいの力があるに。
そして、ここと決めたステージでは他の逃げたい選手と協力して思いっきり逃げる。
力のある選手が温存していた力を全力で発揮すればそれはもう強い。笑っちゃうぐらい強い。
更に言えば強いだけでなく、上手い。
逃げ集団の中には山岳ポイント(山頂を上位で通過すると加算、最もポイントを稼いだ選手は「山岳賞」で表彰)を狙っている選手がいる場合がある。
そんな選手を山頂手前までアシストしてあげて、山岳ポイントを稼がせてあげる。その代わりにそこ以外ではその選手に先頭を多く牽いてもらう。
もちろん他の選手もそういう協調を行っているが、デヘントは逃げ集団が上手く行くように明らかにリーダーシップを発揮している場面が散見される。
※動画後半の「大逃げ協同組合」は解説者の悪ノリです(笑)
後から逃げに加わろうと追いかけてきた選手の為に、一度先頭から下がってその選手をアシストして先頭まで引き上げたこともある。
※ 該当シーンは1:39頃から
「逃げは乗るものではなく作るもの」と語るデヘントに対して、日本のファンが付けた愛称は「デヘント先輩」。
先輩、今シーズンもカッコいい逃げを期待してるっス!
※2020年12月22日追記
「逃げ屋」という安定して勝利する事が難しいスタイルにも関わらず、2016以降は毎年ワールドツアーのレースでステージ勝利を上げていたデヘントだったが、2020年は5年ぶりの年間0勝に終わってしまった。
要因の一つとして、ツールの第1ステージで落車によりチームメイトが2人もリタイアしたため、自由に逃げる事が許される状況ではなくなってしまったという不運もあった。
しかしその代わり、エースのカレブ・ユアンはスプリントで2勝を上げたので、そのために自分を殺して献身的に働いたデヘントの走りは評価されるべきだろう。
それでも、ファンとしてはやはりデヘントの職人技の逃げが見たい。
グランツールの大舞台で、地力の高さとその匠の技を存分に発揮して爽快に逃げ勝つ、そんな瞬間を2021年も期待したい。