若手からベテランまで、多士済々
情熱の国スペインで繰り広げられるグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャの開幕が迫ってきました!
その破天荒な(?)コース設定で、激しくて面白いレースが繰り広げられ傾向にありますが、果たして今年はどうでしょうか。
ブエルタに焦点を絞ってきた選手だけでなく、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアで結果を残せなかった選手、新進気鋭の若手、そして引退を目前にしたレジェンドなど、今回も様々なモチベーションを抱いたメンバーが大会を彩ってくれそうです。
その全員を注目選手として挙げる訳にはなかなかいきませんが…、個人的に注目している選手を中心に紹介していきます。
総合系選手
4連覇という史上初の偉業が達成されるのか、それとも実績ある選手や新世代の選手が王者を打ち破るのか。
激戦必至の総合争い、果たして抜け出すのは誰になるでしょうか。
プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
ツールを落車でリタイアしたログリッチは、史上初の4連覇という偉業を目指してブエルタに出場します。
悲願の初制覇を目指したツールでは、第5ステージの落車の際に肩を脱臼してしまい、第14ステージ終了後にリタイアを選択と、今年も悔しい思いをしました。
それでも、痛みを抱える中で見せた第11ステージの走りは、チームのセカンドエースであるヨナス・ヴィンゲゴーを総合優勝へと導く、本当に素晴らしいものでした。
ログリッチの実力が現役最高クラスなのは、疑いようがないでしょう。
それでも、何故かツールでは上手くかみ合わないため「最強」とは呼びにくい、なんとも歯痒い状態が続いてしまっています。
ブエルタに初めて出場した2019年は、得意の個人タイムトライアルステージで勝利を挙げつつ、同年のジロで終盤失速してしまった反省を活かして、3週間を見事なペース配分でこなしていきなり総合優勝に輝きます。
翌2020年は、直前のツールで歴史に残る大逆転負けを喫した精神的ダメージも心配されましたが、それを微塵も感じさせないアグレッシブな走りを見せ、終盤の山岳では少し苦しみながらもステージ3勝などで稼ぎまくったボーナスタイムが決め手となり、2連覇を達成します。
そして2021年は、これまたツールでは落車によりリタイアと悔しい思いをしながら、なんとステージ4勝を挙げて、圧倒的な差を付けての総合優勝でした。
ただ、今回はツールでのケガからの回復具合がはっきりしていません。
直前まで出場するか判断を保留していたぐらいなので、トレーニング不足も含めて、万全では無いコンディションで開幕を迎える事になりそうです。
そのため、序盤からタイムを失って総合争いから脱落する可能性も充分にあり得ますが、強力なチームメイトの助けを借りて序盤を乗り切れば、4連覇も見えてくると思います。
偉業達成なるか、是非期待しながら見守りましょう。
リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)
2019年のジロ覇者カラパスは、ここ数年のグランツールでは抜群の安定感を誇ります。
2018年ジロ総合4位、2019年ジロ総合優勝、2020年ブエルタ総合2位、2021年ツール総合3位、そして今年のジロでも総合2位と、エースを任されて出場すれば必ず総合優勝争いに絡んでくるという、ものすごい成績です。
間違いなく現役有数の総合系選手であるカラパスですが、強いて課題を挙げるならステージを勝ち切る能力でしょうか。
2019年のジロでステージ勝利を挙げて以降、グランツールでのステージ勝利はありません。
2020年のブエルタでは、前述の通りその部分の差でログリッチに敗れています。
また今年のジロでも、安定した走りで第19ステージまでは総合首位を守りながらも、総合2位に食らいついていたジェイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)を突き放せなかった事が、第20ステージで逆転を許す要因になってしまいました。
そんな欠点(と呼べるほど大きな欠点ではないですが…)を補うべく、イネオスは自慢の選手層を活用して今大会もかなり強力なアシスト陣を揃えてきました。
山岳アシストとして、ジロでもカラパスを強力にサポートしたパヴェル・シヴァコフ、2020年ジロ覇者のタオ・ゲイガンハート、スペイン国内選手権を制したカルロス・ロドリゲスと、この3枚看板はとんでもなく強力です。
更には、イーサン・ヘイターにルーク・プラップという、グランツール初出場ながら今シーズン登坂でポテンシャルを見せている若手も加わります(前述のロドリゲスもグランツール初出場)。
平坦要因としても、抜群の安定感を誇るディラン・ファンバーレに加えて、これまたグランツール初出場ながら、今シーズン春のワンデーレースで大車輪の活躍を見せたベン・ターナーと、優秀なメンバーが揃います。
そしてカラパスの最大の強みは、やはりその高地適正でしょう。
今大会第15ステージ、シエラネバダ山頂フィニッシュの標高はなんと2512m。
この天空の世界で、強力アシスト陣に導かれたカラパスが強力なアタックを繰り出し、そしてそれが決まれば…総合優勝に限りなく近づきそうな予感がします。
過渡期にあるイネオスが、カラパスという実力者で本気で総合優勝を狙いつつ、若手も積極的に起用する姿勢は、かなり興味深く、そしてかなりの期待感があります。
2010年代の盟主がどんなレース運びを見せるのか、本当に楽しみです。
ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)
新型コロナウィルスのせいで無念のジロ途中リタイアとなったアルメイダは、今回のブエルタで改めてグランツール初の総合表彰台を目指します。
今年のジロ第17ステージ終了後、1分54秒遅れの総合4位だったアルメイダがリタイアとなってしまったのは、最終ステージがアルメイダの得意とする個人タイムトライアルである事を考えると、逆転総合優勝の可能性も充分に考えられるシチュエーションだっただけに本当に残念な出来事でした。
もしアルメイダがそのまま残っていれば、その後のステージでライバルチームの戦略もまた違ったものになっていた可能性もあるぐらい、戦局に大きく影響してしまうリタイアだったと思います。
そんな不運を経験したアルメイダでしたが、このブエルタではチャンスが転がり込んでくる格好になりました。
エースとして出場予定だったタデイ・ポガチャルが出場を回避したため、改めて総合エースとして走るチャンスを得たのです。
2020年のジロでマリア・ローザを14日間着用して総合4位になり、華々しいグランツールデビューを飾ったアルメイダは、2021年のジロでも(序盤はレムコ・エヴェネプールのアシストをしながら)総合6位、そして前述の通り今年のジロでも第17ステージまで総合4位と、その高い実力は証明済みです。
スペシャリストに匹敵するタイムトライアル能力、総合系としてはかなり高水準にあるパンチ力、そしてペース走による粘り強さが身上の登坂力と、タイムトライアル型オールラウンダーとしてのポテンシャルはかなりのものを有しています。
今シーズン、特にその登坂力には磨きが掛かっていて、前哨戦のブエルタ・ア・ブルゴスでは遅れそうになりながらもなんとか食らいつき、そして最後はアタックを決めてシヴァコフやミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ・カザクスタン・チーム)を抑えてステージ勝利と、驚きの走りを見せてくれました。
この走りを安定して披露できるなら、山頂ステージでは遅れない走りを見せ(余裕があれば持ち前のパンチ力でタイム差を奪い)、そして個人タイムトライアルでリードを稼ぎ出すスタイルで、表彰台の頂点だって狙えるかもしれません。
アルメイダを支えるチーム体制も、なかなかのものが用意されました。
ツールでも奮闘を見せたブランドン・マクナルティとマルク・ソレル、ジロ山岳ステージ2勝の実績を誇るヤン・ポランツ、そしてスペイン次世代の大器フアン・アユソと、山岳アシストの質・枚数ともに問題ないレベルと言っていいでしょう。
満を持してグランツール総合に挑むアルメイダ、その実力に相応しい走りと結果を期待しています。
レムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル)
総合を狙わない可能性もありますが、個人的にはエヴェネプールにかなり期待しています。
今シーズン、リエージュ~バストーニュ~リエージュとドノストア・サンセバスティアン・クラシコアという2つのビッグレースで長距離独走を決めての勝利は、その独走力がいかに群を抜いてるか、改めて証明してくれました。
ただのワンデーレースではなく、登坂力も要求されるこの2つのレースで独走を決めたのは、驚きつつも納得というか…その破格の才能の前にただ唖然とするしかありませんでした。
もちろん、グランツール総合争いに向けて不安要素もあります。
まずは、3週間のグランツールを走り切った経験がない事です。
唯一のグランツール参戦となった2021年のジロは、1週目こそ総合2位につけていましたが、2週目以降は失速してしまい、そして3週目には落車の影響でリタイアとなっています。
そしてもう一点は、「長い登坂が苦手なのではないか」という不安が払拭できていない事です。
2021年のジロでも(長期療養明けというエクスキューズは付きますが)長い登坂で遅れるシーンがあった上に、今シーズンも開幕直後のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ第3ステージで、フィニッシュ地点に設定された登坂距離9.9kmの1級山岳で41秒のタイムを失い、リーダージャージを奪われています。
ただこの点に関しては、春のクラシックシーズン以降は今回のブエルタに向けて調整を行っていたようなので、ある程度克服されている可能性も充分に考えられそうです。
そもそもの話として、総合争いではなくステージ勝利に焦点を合わせている可能性もありますが、序盤でタイムを失わなかった場合は総合争いに加わってくる可能性が高いのではないかと、個人的には考えています。
普段総合はあまり狙わないクイックステップですが、今回は登れる選手を可能な限り入れてきたような、まるでエヴェネプールの山岳アシストを大量に連れてきたような感が出ているのも、そう考える要因の一つです。
3週間の走り方と長い登坂さえ克服してしまえば、前述のアルメイダ以上のタイムトライアル能力を有するオールラウンダーとして、一気に総合優勝候補となり得るでしょう。
果たしてどんな狙いでブエルタに臨むのかは分かりませんが、いずれにしてもその破格の才能をどのように見せつけてくれるのか、かなり楽しみにしています。
その他有力候補
今回、総合系の有力候補がかなり多いんですよね。
ざっと箇条書きで並べてみます。
- ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)
- ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ)
- セルヒオ・イギータ(ボーラ)
- サイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
- ミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ・カザクスタン・チーム)
- ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)
- ジーノ・メーダー(バーレーン)
- ベン・オコーナー(AG2Rシトロエン)
- エンリク・マス(モビスター・チーム)
- リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)
- エステバン・チャベス(EF)
- ヒュー・カーシー(EF)
- ティボー・ピノ(グルパマFDJ)
- ティメン・アレンスマン(チームDSM)
- マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)
- ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
- ヤン・ヒルト(アンテルマルシェ)
…ボーラとEFはエースを張れそうな選手が3人もいますね。
もちろん、ボーラ勢やEF勢に限らず、この全員が総合争いに加わる訳では無いと思いますが、これだけのメンバーが揃っているのは本当に楽しみですね。
スプリンター
今大会に限らず、ここ数年は頭一つ抜けたようなスプリンターがいない「スプリンター戦国時代」のような感じです。
今大会も絶対的な本命選手は存在しないと思うので、一体誰が勝利を重ねるのか予想も付きません。
サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)
ツールでまさかの選外となったベネットは、2020年のブエルタ以来、丸2年ぶりのグランツール出場となります。
2020年にはツールでステージ2勝にポイント賞獲得とまさに絶頂期でしたが、2021年には直前のケガでツール出場を回避、古巣のボーラに復帰して迎えた今シーズンはここまで僅か1勝と、ここ2年は思うような結果を残せていません。
特に今シーズンは、エースと迎え入れられたのだから当然出場するだろうと予想されていたツールのメンバー外と、なんだかチームからの信頼が揺らいでいるようにも見えます。
そんなある種危機的状況で臨む今大会、ボーラはスプリントと総合の「両方を本気で狙う」ような、超強力布陣を揃えてきました。
今シーズン素晴らしいリードアウトを見せているダニー・ファンポッペル、素晴らしい牽引役の同胞ライアン・ミューレン、地味ながらいい仕事をする中堅のヨナス・コッホと、「ツールのスプリント班」としても全く問題ないぐらい強力な体制です。
逆に言えば、万が一このメンバーで結果を残せなかったら、ベネットとしてはかなりまずい事(エース交代?)にもなりかねませんが…。
本来のベネットは、水準以上のピュアスプリント力、軽い登りスプリントは問題なくこなせる登坂耐性、自軍トレインでも「タダ乗り」でも戦える判断力と自在性、そして抜群のロングスプリント能力と、純粋に強い上に多彩なパターンで勝てるかなりの実力者です。
改めてその実力と存在意義の証明をしてくれると期待しています。
パスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ)
2021年に大きな不振を経験したアッカーマンも、ベネットと同様に今大会が2年振りのグランツール出場になります。
2019年にジロでステージ2勝を挙げてポイント賞も獲得、2020年はブエルタでステージ2勝と、順調に結果を残していた印象のあるアッカーマンでしたが、2021年はなんとワールドツアーでは未勝利と、極端な不振に陥っていました。
そしてUAEに移籍して迎えた今シーズンも、ここまでは僅か2勝に終わっています。
ただ、7月のツール・ド・ポローニュで約2年ぶりのワールドツアー勝利を飾っているので、どん底の状態は脱したと判断していいでしょう。
今大会のUAEはこれまたベネットのボーラと同様に、スプリントも総合も狙う布陣で臨みます。
ただ、UAEはより総合寄りのメンバー構成で、アッカーマンのアシストと言えるのは発射台であるファン・モラノと、平坦牽引役のイヴォ・オリヴェイラの2人のみです。
それでも、モラノのリードアウト力はかなり強力なので、上手く連携できれば十分勝負に絡めるとは思います。
ポディウムで見せる笑顔が印象的な選手なので、なんとか勝利を挙げて欲しいところです。
ティム・メルリール(アルペシン・ドゥクーニンク)
昨シーズンのジロとツールで1勝ずつを挙げたメルリールですが、今シーズンは今回のブエルタが唯一のグランツール出場となりました。
ジロとツールに不出場だった理由としては…、来シーズンからスーダル・クイックステップ(現クイックステップ・アルファヴィニル)へと移籍が決まった事も影響していそうですね。
この「来シーズン移籍する選手は(特にビッグレースへの)出場機会が減らされる」というロードレース界の慣習は、個人的にはあまり納得がいかないのですが…。
そんなメルリールは今シーズンここまで4勝と勝利数はそこそこですが、ワールドツアーで2勝、そしてベルギー国内選手権を制覇と、大きなレースでしっかり勝てているのは好印象です。
ベルギーチャンピオンとして臨む今大会、クイックステップに向けての「手土産」となる勝利を飾る可能性は、充分にあると思います。
ただ、気になっているのはグランツールの完走率です。
これまで2回出場して、そのどちらも1週目の終わりにリタイアをしています。
「2連続でグランツール最初のスプリントステージを勝った」と言えば聞こえはいいですが、それで心身ともに燃え尽きてしまっている可能性も…?
そういう意味では、もし「序盤で勝利を挙げられなかった場合、その後の走り」にはかなり興味があります。
…まあ、深く考えすぎと言うか、サンプルも2つだけなのであまり意味のない考察かもしれませんね。
間違いなくそのスプリント力は一級品なので、鮮やかなピュアスプリントに期待しましょう。
ブライアン・コカール(コフィディス)
直前の新型コロナウィルス感染で無念のツール欠場となったコカールは、改めてこのブエルタに臨みます。
長くフランスのプロチーム(旧プロコンチネンタルチーム)を渡り歩いてきたコカールですが、ワールドチームであるコフィディスと契約した今シーズンは、2月のレースで2勝と最高の滑り出しを見せていました。
その後も、勝利こそありませんでしたがパリ~ニースとツール・ド・スイスでステージ2位に入るなど、過去最高の状態でツールに臨める雰囲気だっただけに、ツール欠場は本当に残念で仕方がありません。
今シーズンの2勝ですが、いずれも登り勾配のフィニッシュレイアウトでの勝利です。
171cm・59kgと、スプリンターとしてはかなり小柄な事もあり、やはり重量級スプリンターと比べたらかなりの登り適性があるのでしょう。
特に、エトワール・ド・ベセージュは残り500mの平均勾配が12%を超える激坂フィニッシュだったので、並のスプリンターはまず生き残れない勾配を乗り越えた事に大きな意味があると思います。
本人が「今シーズンやっとそれ(登り適性)に気が付いた」と語っていたのは、なんともツッコミどころではありますが…。
今大会、第13ステージや第16ステージは平坦基調からの緩い登りフィニッシュと、まさにコカールにぴったりなレイアウトになっています。
まあ、「基本、あまりド平坦なステージが無い」ブエルタなので、マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)を筆頭に他にも登り適性のあるスプリンターがいて、コカールが圧倒的有利という訳にはいかないかもしれませんが…。
ツールの悔しさを晴らすような、会心の走りを見せて欲しいですね。
その他有力選手
あまり強力なピュアスプリンターは多くないと言うのが率直な印象です。
- カデン・グローヴス(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
- マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
とりあえず、この2人は充分に勝利が狙えそうです。
グローヴスは平坦でのピュアスプリント、ピーダスンはそれに加えて登りスプリントや早掛けなんかも狙ってくる可能性があると思います。
他には、どれだけ自由が与えられるかは不透明ですがマイク・テウニッセン(ユンボ)やイーサン・ヘイター(イネオス)なんかは面白い存在になるかもしれません。
あと個人的には、ツールでも積極的な走りを見せていたフレッド・ライト(バーレーン)や、グルパマ期待の若手であるジェイク・スチュワートは少し気になる存在だったりします。
その他注目選手
ベテラン、実力派中堅、期待の若手と注目の選手はたくさんいますが、今回は実績のある選手を中心にピックアップしてみます。
ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル)
4月の落車によるケガでツールを回避したアラフィリップは、2017年以来5年振りのブエルタ出場になります。
リエージュ~バストーニュ~リエージュでの落車で、肩甲骨と肋骨の骨折や外傷性の肺気胸という重傷を負ってしまったアラフィリップでしたが、落車からちょうど2か月後のフランス国内選手権でレース復帰を果たしました。
しかし、やはりコンディションが万全では無かったようで、2017年以来となるツール欠場を選択せざるを得ませんでした。
そして今回、久しぶりのブエルタ出場になりますが…、良く考えると激坂やアップダウンの多いブエルタは、アラフィリップにとってかなり適性のあるレースと言えそうです。
2年連続で世界選手権を制している「激坂の申し子」は、きっとこのブエルタでも華麗なアタックで観客を魅了してくれるでしょう。
また、ステージによってはエヴェネプールのアシストとしても働く事が考えられます。
2018年ツールで山岳賞を獲得し、2019年ツールでは総合5位に入った登坂力、そして圧倒的な実績を誇りながらアシストに回る事を厭わない献身性は、大きな助けになりそうです。
自身の勝利、そしてチームの勝利に向けて、アルカンシェルは躍動してくれると思います。
トーマス・デヘント(ロット・スーダル)
「逃げ王」デヘントは、チームを救う為にきっと逃げまくります。
現在、ロットはUCIポイントを思うように稼げておらず、このままではシーズン終了後にワールドチームからプロチームへ降格という、危機的状況です。
2015年からこのチームに所属し、2024年までの契約があり、そして地元ベルギー出身のデヘントにとっては、当然他人事ではないでしょう。
昨年のツール後には、加速する展開の激化に「もうツールには出ない」などとモチベーションの低下も伺わせていたデヘントですが、今シーズンはジロで久々となるグランツールのステージ勝利を飾ったように、その力はまだ健在です。
また、ブエルタでは2018年に山岳賞を獲得した経験もあり、今回も狙う可能性は充分にあると思います。
積極的に逃げて山岳ポイントを果敢に狙い、ここぞというステージでは溜めていた力を爆発させる、そんな逃げ職人の本領発揮を期待したいところです。
クリス・フルーム(イスラエル・プレミアテック)
きっと多くのロードレースファンが「果たしてフルームは復活できるのか」という疑問を持っていると思います。
2019年のクリテリウム・デュ・ドーフィネ試走中に大クラッシュをして重傷を負ってしまったフルームは、その後全くと言っていいほど結果を残せていません。
ツール4回を含む7度のグランツール制覇という実績を誇る2010年代最強の総合系選手は、未だにトップコンディションを取り戻せずに苦しんでいます。
しかし、今年のツールで一筋の光明となるような走りを見せてくれました。
第12ステージ、超級山岳が3つ設定された難関山岳ステージで逃げに乗ると、勝利こそ掴めませんでしたが、ステージ3位という結果を手に入れます。
もちろん、「逃げてのステージ3位」で喜ぶのは早いというか、全盛期の強さを考えたらこの程度で喜ぶのは失礼かもしれません。
それでも、復帰からここまで山岳では早々に脱落を続けていた姿と比べれば、明らかにコンディションが上昇している事が伺えます。
その後、ツールは残念ながら新型コロナウィルスに感染してしまったために途中リタイアとなりましたが、今回改めてブエルタに挑みます。
「全盛期の強さを取り戻してほしい」は流石に高望みかもしれませんが、ステージ勝利だけでも掴んでくれたら、きっと多くのファンが喜ぶでしょう。
2011年に初めてグランツール総合優勝を飾ったこのブエルタで、なんとか意地を見せて欲しいところです。
グランツールでは見納めとなるレジェンド
やはり何と言っても、今シーズン限りで引退を表明しているレジェンド2人も注目でしょう。
- アレハンドロ・バルベルデ(モビスター・チーム)
- ヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン・チーム)
通算133勝を誇るバルベルデは、地元レースという事もあって気合も入っているはずです。
今シーズンもストラーデ・ビアンケやフレーシュ・ワロンヌで2位に入るなど、ステージを狙うぐらいの力はまだまだ残っていそうですね。
全グランツール制覇を達成しているニバリは、実は今シーズンのジロでも総合4位と、驚愕の結果を残しています。
自身の総合やステージを狙うのか、それともロペスのアシストに回るのかは分かりませんが、好走が期待できそうです。
例年通り…いや、例年以上の熱戦を!!
情熱の国スペインを舞台にしたブエルタは、毎年熱い戦いが繰り広げられて、見ていて本当に面白いレースです。
今年はかなりの役者が揃っていますし、例年以上に見ごたえのある内容になるかもしれません。
今シーズン最後のグランツール、選手たちと同様に熱くなりながら、思いっきり楽しんでいきましょう!!