屈強なジャーマン・スプリンターの系譜
選手名:パスカル・アッカーマン(Pascal Ackermann)
所属チーム:イスラエル・プレミアテック
国籍:ドイツ
生年月日:1994年1月17日
脚質:スプリンター
主な戦歴
ステージ3勝(2019 × 2、2023)、ポイント賞(2019)
ステージ2勝(2020)
・ドイツ国内選手権
優勝(2018)
・ツール・ド・ポローニュ
通算ステージ5勝(2018 × 2、2019 × 2、2022)
・ティレーノ~アドレアティコ
ステージ2勝(2020)、ポイント賞(2020)
・エシュボルン=フランクフルト
優勝(2019)
どんな選手?
大柄な体格を活かした力強い走りが魅力の正統派スプリンター。
近年のドイツからはアンドレ・グライペルやマルセル・キッテルといったトップクラスのスプリンターが輩出されているが、その系譜に連なるパワー溢れるスプリントが最大の魅力。
背丈がものすごく高いわけではないが、鍛えられたその屈強な肉体は集団走行中でもとても目を引き、ゴール前のスプリントでは圧倒的な迫力でフィニッシュへと向かっていく。
2018年にワールドツアーで6勝を挙げ、更にはドイツ国内選手権を制して一躍その名を轟かせる。
そして2019年、地元ドイツでのエシュボルン=フランクフルトで勝利と好調をアピールし、満を持して臨んだジロ・デ・イタリア2019。
初めてのグランツール(三大ステージレース)出場にも関わらず、ステージ2勝に加え、そのレースで最高のスプリンターの証ともいえるポイント賞まで獲得する大活躍を見せる。
その後も順調に勝利を積み重ね、2019年は年間13勝を挙げ勝利数ランキング堂々の2位タイをマーク。
トップスプリンターの一人として認識されるまでになった。
そんな彼が大活躍したジロ・デ・イタリアの直前、同郷ドイツの偉大な先輩マルセル・キッテルが不振などを理由に休養を宣言し、残念ながら結局そのまま8月に引退を発表。
奇しくもキッテル引退と入れ替わるように大躍進を遂げてトップスプリンターとなったアッカーマン。
地元ドイツのチームであるボーラ・ハンスグローエに所属している彼には、偉大な先輩たちと同様な輝かしい未来を期待してしまう。
今シーズンも大迫力のスプリントと、ポディウム(表彰台)でのはじけるような笑顔をたくさん見せてくれ!
※2020年12月20追記
2019年に年間13勝を挙げたという事で、2020年はトップスプリンターの1人として大きく期待されてのシーズンインとなったアッカーマン。
春先のUAEツアーで1勝を挙げて幸先よくスタートしたかと思いきや、その後イマイチ調子が安定しない。
3月のパリ~ニースではチームのシンボルであるペテル・サガンと同時出場ながらエース待遇で走らせて貰うも、そのサガンのアシストを受けて万全の態勢で突入した第2ステージのスプリントでまさかの失速をしてステージ2位に終わってしまう。
コロナウィルスによる中断期間開けもイマイチ調子が上がらず、相性のいいツール・ド・ポローニュでも2度のステージ2位、ドイツ国内選手権も2位、ヨーロッパ選手権は3位と、安定して上位に入賞はするものの、ワールドツアーではなかなか勝てないような状態に。
ティレーノ~アドレアティコではステージ2勝とポイント賞を獲得して復調したかにも見えたが、直後のビンクバンク・ツアーでは2度のステージ3位と、やはり勝ちきれない。
そんな状態で臨んだブエルタ・ア・エスパーニャでは、スプリント最大のライバルとしてサム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ)が出場しており、昨シーズンまでは同僚だった2人の対決が注目される事に。
1つ目のスプリントステージとなった第4ステージではベネットが圧巻の爆発力を披露して勝利、アッカーマンは4位に終わる。
続いての第9ステージもベネットが先着して2連勝かと思いきや、位置取り争いで肩をぶつけた動作が危険行為とみなされベネットは降格処分、2着だったアッカーマンがステージ勝利という形に。
第15ステージではベネットがスプリントに絡めなかったために大チャンスだったものの、ジャスパー・フィリプセン(UAEチームエミレーツ)が勝利し、アッカーマンはまたしても2着でフィニッシュ。
アッカーマンはこのまま先頭でフィニッシュできないままブエルタを終えてしまうのかと思われた中、最終18ステージのスプリントは再度アッカーマンとベネットの争いに。
早めに仕掛けたアッカーマンと後ろから猛追するベネット、その差はごく僅かで写真判定となり、ほんの数cmの差でアッカーマンが勝利。
これでアッカーマンはステージ2勝目、そしてなにより正真正銘の先頭フィニッシュでの勝利を飾る事ができた。
シーズンを通して苦しみながらも、最後はブエルタで有終の美を飾ったアッカーマン。
勝利はもちろん素晴らしかったが、レース後のコメントがまた素晴らしかった。
「サムが降格になったステージの勝利をカウントするつもりはないので、これで彼とステージ1勝ずつ。みんなハッピーな気分で大会を終えることができる」
(出典:アッカーマンが写真判定でベネットを下す ログリッチがブエルタ連覇を達成 - ブエルタ・ア・エスパーニャ2020第18ステージ | cyclowired)
今シーズンはファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)の痛ましい事故の影響もあり、スプリントの際の位置取りや安全性が取りざたされ、接触による降格処分の基準が大きな話題になるようなピリピリした空気の中、このアッカーマンのリスペクトとフェアプレー精神が表現されたコメントは本当に印象的だった。
2021年シーズンもフェアで健全で、そして激熱なスプリントに期待したい。
※2021年11月20日追記
2020シーズンはブエルタ2勝と結果を残しつつも調子が安定せずに苦しんだアッカーマンであったが、2021シーズンは更に苦しむ事となる。
まずは春先、UAEツアーやパリ~ニースといったワールドツアーで勝てないだけでなく、下位カテゴリーのレースでも勝利を挙げられないという、深刻な不振に陥ってしまう。
待望のシーズン初勝利はなんと7月、1クラスのシビウ・サイクリングツアーまで待たなければならなかった。
その後、セッティマーナ・チクリスティカ・イタリアーナやドイツ・ツアーではステージ勝利を挙げる事ができたものの、まさかのワールドツアー未勝利、そしてグランツールに出場しないままのシーズン終了となってしまった。
不完全燃焼のシーズンを送ったアッカーマンだったが、2022シーズンからはUAEチームエミレーツに移籍する事が決定。
タデイ・ポガチャルによるツール・ド・フランス3連覇を目指すこのチームでは、スプリンターのアッカーマンがツール初出場を目指すのは難しいかもしれない。
ただ、またジロやブエルタで結果を残す事で、2021シーズンに失った信頼を取り戻すというのは、現実を見据えた悪くないチョイスだとも言えるだろう。
新天地でまたその実力を遺憾なく発揮してくれる事を、そしてポディウムでその印象的な笑顔を見せてくれる事を期待したい。
※2022年11月13日追記
ポガチャルという絶対的なエースを擁し、総合争いに比重を置くようになったUAEに移籍したアッカーマンだったが、春先からUAEツアーにティレーノ~アドレアティコと言ったワールドツアーのステージレースでエースとして走る機会に恵まれた。
ただ、そこで勝利を挙げられなかった事もあってか、ジロにはもう一人のエース格スプリンターであるフェルナンド・ガビリアが出場する事に。
そして当然ツールはポガチャルのためにスプリンターの居場所はなく、アッカーマンはブエルタに出場する流れとなった。
ブエルタの直前、ツール・ド・ポローニュで2年ぶりのワールドツアー勝利と調整が順調に思えたアッカーマンだったが、肝心のブエルタではなかなか調子が上がらない。
勝てない中で目についたのは、リードアウト役とのコンビネーションの嚙み合わなさ。
リードアウトのタイミングが早すぎたのが2回、絶好のタイミングでのリードアウトだったのにアッカーマンがはぐれてしまったのが1回と、歯がゆい状況が続く。
そんな状態で迎えた最終第21ステージ、UAEは抜群の連携を見せて最終盤の集団先頭を支配。
フアン・モラノのアシストを受けたアッカーマンが勝つ、そんな流れに見えたが、まさかの展開が待ち受けていた。
フィニッシュライン直前、リードアウト役のモラノがギリギリまで素晴らしい牽きを見せ、そしてアッカーマンが…なかなか飛び出さない。
そして、なんとそのままモラノが先頭でフィニッシュラインを通過してしまったのだ。
あの高速域を最後まで維持し続けたモラノの走りが称賛に価すると同時に、その真後ろという絶好の位置につけていたエースのアッカーマンがしっかりとスプリントできなかったのは、少しショッキングな展開でもあった。
結局、アッカーマンはポローニュも含めてシーズン2勝と、エーススプリンターとしてはかなり物足りない数字でシーズンを終える事になった。
総合争いに力を入れているチームという事で、アッカーマンを支える環境が整ってなかったとも言える一方、その環境の中では望外と言えるほどチャンスに恵まれていたのも事実であり、それを活かせなかったのはアッカーマン自身の責任が大きいだろう。
来シーズン、チーム内のライバルであったガビリアはモビスター・チームへ移籍する事になり、ピュアスプリンターはチーム内にほぼアッカーマンのみという状況になる。
ここで活躍を見せられなければ、チーム内の居場所を失う可能性は高いだろう。
唯一のエーススプリンターという立場を守るため、もしくは手厚いアシストを受けられるスプリントチームへと移籍するため、いずれにしても必要なのは単純に勝つ事だ。
2020年頃までに見せていた走りを取り戻せれば、結果はしっかりとついてくるだろう。
正念場を迎えたアッカーマン、逆境での復活に期待したい。
※2023年11月14日追記
2023年のアッカーマン、その評価は非常に難しい。
まずは、2019年以来の出場となったジロでは、アッカーマン以外はジョアン・アルメイダの総合争いに力を注ぐチーム編成の中、ステージ1勝をもぎ取る事に成功。
実に3年ぶりとなるグランツールステージ勝利を、アシストがほぼいない状況で挙げられたのが素晴らしい事だったのは間違いない。
ただ、年間勝利数はそのジロも含めて僅か2つ。
これは、寂しすぎる数字と言わざるを得ない。
総合争いに重きを置くチームの中でチャンスに恵まれない部分があったのも事実かもしれないが、ツール・ド・ポローニュやドイツランド・ツアーと言ったスプリンターにチャンスがあったレースで全く勝負に絡めなかったのは、本当に残念としか言いようがない。
そうなると流石にUAEと契約延長の流れにはならず、2024年からはイスラエル・プレミアテックで走る事が決定。
ワールドチームからプロチームへと「格が下がる」移籍になってはしまったが、イスラエルはワールドツアーへの優先出場権を持っているので、走るレースのランク的には全く問題はない。
ある程度スプリント班を整えた編成で、エーススプリンターとして走れるチャンスがまず間違いなく増えると思われるので、決して悪い選択肢ではないだろう。
新天地で、かつての輝きを取り戻すような活躍に期待したい。