ピュアスプリント以外でも力を発揮する万能型スプリンター
選手名:マッズ・ピーダスン(Mads Pedersen)
所属チーム:リドル・トレック
国籍:デンマーク
生年月日:1995年12月18日
脚質:スプリンター・ルーラー
主な戦歴
・世界選手権
優勝(2019)、4位(2023)
ステージ通算2勝(2022、2023)
ステージ1勝(2023)
ステージ3勝(2022)、ポイント賞(2022)
・ヘント~ウェヴェルヘム
優勝(2020)
・ベーマー・サイクラシックス
優勝(2023)
・パリ~ニース
ステージ通算2勝(2022、2023)
・ビンクバンク・ツアー
ステージ1勝(2020)
・ツール・ド・ポローニュ
ステージ1勝(2020)
・デンマーク国内選手権
優勝(2017)、2位(2022)
2位(2018)、3位(2023)
・パリ~ルーベ
4位(2023)
どんな選手?
2019年の世界選手権優勝で一気に開花した、登坂力やタイムトライアル能力も持ち合わせた万能型スプリンター。
2015年、20歳の若さで地元デンマークのプロコンチネンタルチーム(現行制度におけるプロチーム、2部相当)と契約してプロデビュー。
若手の登竜門として名高いツール・ド・ラヴニールでステージ1勝を挙げるなど、プロ選手として順調な滑り出しを見せる。
2016年も、アンダーカテゴリー版のヘント~ウェヴェルヘムでの優勝や、HCクラス(現行制度におけるプロシリーズ)のレースであるツアー・オブ・ノルウェーでステージ勝利を挙げつつ山岳賞を獲得と、着実な成長を続けていた。
2017年、ワールドチームのトレック・セガフレードと契約を結ぶと、トップカテゴリー初年度ながらワールドツアーに多く出走するだけでなく、グランツール(3大ステージレース)の一つであるジロ・デ・イタリアのメンバーに選ばれるなど、チームからの評価がかなり高い事が伺えた。
そしてその評価に応えるように、初のグランツール挑戦となったジロを完走、デンマーク国内選手権の優勝、ツアー・オブ・デンマークでステージ1勝に加え、総合優勝・ポイント賞・ヤングライダー賞の特別賞総なめと、しっかりと結果を残していく。
続く2018年は勝利数こそ少なかったものの、モニュメント(5大ワンデーレース)の一つであるロンド・ファン・フラーンデレンでの2位入賞やドワーズ・ドール・フラーンデレンでの5位と、ワンデーレース適正を見せ始める。
更には、個人タイムトライアルでもツアー・オブ・デンマークでのステージ勝利やティレーノ~アドレアティコでのステージ4位と、様々な可能性を垣間見せる1年になった。
2019年は春先から振るわず、時折ステージレースでステージ上位に入るもののなかなか勝てず、シーズン初勝利は9月22日。
しかしその翌週、ヨークシャーで行われた世界選手権で転機が訪れる。
冷たい雨が激しく降り続き、周回ごとにメイン集団が人数を減らしていくようなサバイバルレースの様相を呈する中、ピーダスンは逃げに乗っての先行を選択。
メイン集団からは優勝候補マチュー・ファンデルプール(オランダ)の急襲があったものの、その動きのせいでメイン集団は牽制状態に陥ってしまいペースが上がらず、逃げ切りが濃厚な状況に。
体力を消耗しすぎたファンデルプールが脱落する波乱などもありつつ、最終局面まで生き残ったのは、ピーダスンの他には、タイムトライアル強者のシュテファン・キュング(スイス)と、前年のヨーロッパ王者であるマッテオ・トレンティン(イタリア)。
グランツールでのスプリント勝利などスプリンターとして実績を誇るトレンティンが圧倒的に有利かと目される中、スプリント勝負の決め手はサバイバルレースを生き抜くタフネスだった。
踏み込もうとする様子は見せつつ思うように加速し切れないトレンティンを尻目に、ピーダスンは渾身のスプリントを見せ、最後はガッツポーズを披露しながらのフィニッシュ。
弱冠23歳、ワールドツアー未勝利の若者による、鮮烈な世界選手権制覇だった。
2020年、世界王者の証である虹色のジャージ「マイヨ・アルカンシェル」を身に纏うピーダスンであったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で3月からシーズンが中断した事により、アルカンシェルを着用して走るレースが極端に少なくなるという憂き目に遭ってしまう。
ツール・ド・フランスでステージ2位が2度と惜しい場面もありつつ、ツール・ド・ポローニュで挙げたワールドツアー初勝利が、残念ながら唯一のアルカンシェルでの勝利となってしまった。
それでも、世界選手権が終了して10月に入ると、ビンクバンク・ツアーでのステージ勝利とポイント賞獲得、そしてヘント~ウェヴェルヘムの制覇と、前年の世界選手権制覇が決してフロックではなく、相応の実力があるとしっかり示す事は出来た。
2021年は、クールネ~ブリュッセル~クールネ優勝に、ツアー・オブ・デンマークとツアー・オブ・ノルウェーでのステージ勝利と、下位カテゴリーでは勝利を重ねつつ、残念ながらワールドツアーでは未勝利に終わってしまう。
ただ、スプリントステージでのトップ10フィニッシュが10回近くあり、スプリンターとして安定感を発揮し続けた1年ではあった。
2022年、ワールドツアー未勝利だったた前年から一転して、3月のパリ~ニースで早くも勝利を飾る事に成功。
これで勢いづいたのか、ミラノ~サンレモ6位、ヘント~ウェヴェルヘム7位、ロンド・ファン・フラーンデレン8位と、ここ2年程少し振るわなかった春のワンデーレースでも上位に食い込み、好調を継続していた。
そして7月、ツールで遂に待望の瞬間が訪れる。
アップダウンの影響で集団スプリントか逃げ切りか予想が難しいレイアウトの第13ステージで、ピーダスンは途中から先頭集団に合流。
先頭集団とメイン集団の追いかけっこが長く続いていたが、最終盤に入るとそのまま先頭集団による逃げ切りの流れに。
メイン集団が逃げの吸収を諦めた直後、ピーダスンはアタックを仕掛けて、先頭集団を3人に絞り込む。
そうして迎えたフィニッシュスプリントで、ピーダスンは格の違いを見せつけて圧勝。
機を見て逃げに乗り、終盤に自ら絞り込みを掛けて、最後はスプリントで圧倒と、完全に強者の勝ち方でのグランツール初勝利だった。
更に勢いに乗ったピーダスンは、未出場だった最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャで「無双」する。
まずは1週目、常にスプリント勝負に絡み続るだけでなく、登りフィニッシュでもステージ2位に入り、3連続ステージ2位という安定感でポイント賞トップに立つ。
そして、第13ステージ、第16ステージ、第19ステージと、「登りの絡んだスプリントステージ」では他を全く寄せ付けず、ステージ3勝を挙げてポイント賞争いを独走。
結果的に、ステージ3勝を挙げてのポイント賞獲得と、完全に登れるスプリンターとしての評価を確立したレースとなった。
デビューしたての頃は、どちらかと言うとタイムトライアル能力や、意外と登れる部分が評価されていたピーダスン。
それらの能力を下地としつつ、2019年の世界選手権制覇以降は明確にスプリンターとして成長を続けた事で、気が付けば現役を代表する「登れるスプリンター」と評されるまでになった。
また、雨中のサバイバルレースとなった世界選手権制覇や、22歳でのロンド・ファン・フラーンデレン2位入賞など、タフな展開に強みを見せるワンデーレーサーとしての顔も持っている。
春先はワンデーレースを中心に、5月以降はグランツールで、きっと様々な活躍を見せてくれるのだろう。
狙えるところは着実に、そして時折意外性を見せて勝利を狙う、そんな魅力的な姿をこれからも期待したい。
※2023年12月22日追記
2月1日のエトワール・ド・ベセージュから2023年のシーズンを開始させたピーダスンは、第1ステージの平坦スプリントで2位、第5ステージの個人タイムトライアルで勝利と、開幕戦から相変わらずの万能っぷりを発揮。
3月に入ると、パリ~ニースの平坦スプリントで1勝、ミラノ~サンレモ6位、ヘント~ウェヴェルヘムとドワーズ・ドール・フラーンデレンで5位と、前年同様にとても安定した成績を残し続ける。
そしてロンド・ファン・フラーンデレンでは積極的な先行策に出て、一時は先頭を独走し、そのまま勝利の可能性もあるように思えた。
しかし、最終盤にとてつもないペースアップを見せたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)とファンデルプールに抜かれ、2018年以来の表彰台登壇となる3位でフィニッシュ。
続くパリ~ルーベでも、その抜群の嗅覚で最終局面の先頭集団に入り込み、4位でフィニッシュ。
ロンド・ファン・フラーンデレン3位にパリ~ルーベ4位と言う結果は、改めてフランドル・クラシックへの適性の高さがよく分かるものだった。
5月、ピーダスンは5年ぶりにジロに出場すると、第6ステージの平坦スプリントで勝利を飾った事で、全グランツールでのステージ勝利を達成。
第2・第5・第10・第11ステージでも5位以内に入り、ポイント賞ランキングで2位に付けていたが、残念ながら気管支炎の影響で、第13ステージ出走前にリタイアを選択する事になってしまった。
デンマーク国内選手権を挟み、7月にはツールに出場。
迎えた第8ステージ、まさにピーダスン向けの登りスプリントフィニッシュで、リドル・トレックはチーム一丸となってピーダスンをアシスト。
絶好の形でフィニッシュ直前までエスコートしてもらったピーダスンは、残り250m辺りでスプリントを開始。
登りスプリントにしては少し早めのタイミングにも思えたが、ピーダスンは失速することなくそのまま先頭でフィニッシュラインを通過。
「現役屈指の登れるスプリンター」という評価に違わぬ、貫禄の勝利だった。
そのまま4年連続のツール完走となったピーダスンは、トップ10フィニッシュが実に9回と言う安定感を披露し、ポイント賞では2位にランクイン。
改めて、その万能性はツールのポイント賞も狙えるものだと示す内容・結果と言えるだろう。
8月、ピーダスンはグラスゴーで開催された世界選手権に出場。
無数のコーナーと細かい起伏が設定された高難易度の周回コースは、大方の予想通りレース展開を非常に厳しいものにして、最終盤まで生き残れたのはピーダスン、ファンデルプール、ファンアールト、ポガチャルという、精鋭中の精鋭4人のみ。
残り22km、最大勾配14%を誇るモンテローズの登坂でファンデルプールが加速を見せると、残る3人は反応できない。
ファンデルプールの優勝が間違いないと言う状況になった後、2位を狙ったファンアールトが追走集団から抜け出しを図ると、ピーダスンはこれを必死に追走。
しかし、ファンアールトに追いつくことは出来ず、そしてこの動きで力を使った事によってポガチャルにスプリントで敗れてしまい、4位でのフィニッシュに。
惜しくも表彰台は逃してしまったピーダスンだが、世界選手権では2019年の優勝以来となる好成績、ましてやこれだけ厳しいレースを生き残っての4位は、大きな価値があるだろう。
シーズン終盤も、ツアー・オブ・デンマークで全ステージ5位以内に入っての総合優勝や、ベーマー・サイクラシックス優勝と、結果を残し続けたピーダスン。
登りスプリントを軸としつつ、平坦スプリント、厳しい展開のワンデーレース、個人タイムトライアルと、相変わらずレースの種類を選ばず活躍する姿は、2023年も健在だった。
2024年シーズンについても、春のクラシック、ツール、ブエルタと、早くもビッグレースへの出場予定が発表されている。
全グランツールでのステージ勝利は達成したので、次なるメインターゲットはモニュメントと考えるのが自然だろうか。
ミラノ~サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ~ルーベ、いずれも優勝の可能性は十分にある。
勢力を増すデンマーク勢のワンデーレースにおける筆頭選手として、更なるビッグタイトル獲得に期待したいところだ。