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【選手紹介Vol.30】マッズ・ピーダスン

ピュアスプリント以外でも力を発揮する万能型スプリンター

選手名:マッズ・ピーダスン(Mads Pedersen)

所属チーム:トレック・セガフレード

国籍:デンマーク

生年月日:1995年12月18日

脚質:スプリンター・ルーラー

 

主な戦歴

・世界選手権

 優勝(2019)

ツール・ド・フランス

 ステージ1勝(2022)

ブエルタ・ア・エスパーニャ

 ステージ3勝(2022)、ポイント賞(2022)

・ヘント~ウェヴェルヘム

 優勝(2020)

・パリ~ニース

 ステージ1勝(2022)

・ビンクバンク・ツアー

 ステージ1勝(2020)

・ツール・ド・ポローニュ

 ステージ1勝(2020)

デンマーク国内選手権

 優勝(2017)、2位(2022)

ロンド・ファン・フラーンデレン

 2位(2018)

 

どんな選手?

2019年の世界選手権優勝で一気に開花した、登坂力やタイムトライアル能力も持ち合わせた万能型スプリンター。

 

2015年、20歳の若さで地元デンマークのプロコンチネンタルチーム(現行制度におけるプロチーム、2部相当)と契約してプロデビュー。

若手の登竜門として名高いツール・ド・ラヴニールでステージ1勝を挙げるなど、プロ選手として順調な滑り出しを見せる。

2016年も、アンダーカテゴリー版のヘント~ウェヴェルヘムでの優勝や、HCクラス(現行制度におけるプロシリーズ)のレースであるツアー・オブ・ノルウェーでステージ勝利を挙げつつ山岳賞を獲得と、着実な成長を続けていた。

 

2017年、ワールドチームのトレック・セガフレードと契約を結ぶと、トップカテゴリー初年度ながらワールドツアーに多く出走するだけでなく、グランツール(3大ステージレース)の一つであるジロ・デ・イタリアのメンバーに選ばれるなど、チームからの評価がかなり高い事が伺えた。

そしてその評価に応えるように、初のグランツール挑戦となったジロを完走、デンマーク国内選手権の優勝、ツアー・オブ・デンマークでステージ1勝に加え、総合優勝・ポイント賞・ヤングライダー賞の特別賞総なめと、しっかりと結果を残していく。

続く2018年は勝利数こそ少なかったものの、モニュメント(5大ワンデーレース)の一つであるロンド・ファン・フラーンデレンでの2位入賞やドワーズ・ドール・フラーンデレンでの5位と、ワンデーレース適正を見せ始める。

更には、個人タイムトライアルでもツアー・オブ・デンマークでのステージ勝利やティレーノ~アドレアティコでのステージ4位と、様々な可能性を垣間見せる1年になった。

 

2019年は春先から振るわず、時折ステージレースでステージ上位に入るもののなかなか勝てず、シーズン初勝利は9月22日。

しかしその翌週、ヨークシャーで行われた世界選手権で転機が訪れる。

冷たい雨が激しく降り続き、周回ごとにメイン集団が人数を減らしていくようなサバイバルレースの様相を呈する中、ピーダスンは逃げに乗っての先行を選択。

メイン集団からは優勝候補マチュー・ファンデルプール(オランダ)の急襲があったものの、その動きのせいでメイン集団は牽制状態に陥ってしまいペースが上がらず、逃げ切りが濃厚な状況に。

体力を消耗しすぎたファンデルプールが脱落する波乱などもありつつ、最終局面まで生き残ったのは、ピーダスンの他には、タイムトライアル強者のシュテファン・キュング(スイス)と、前年のヨーロッパ王者であるマッテオ・トレンティン(イタリア)。

グランツールでのスプリント勝利などスプリンターとして実績を誇るトレンティンが圧倒的に有利かと目される中、スプリント勝負の決め手はサバイバルレースを生き抜くタフネスだった。

踏み込もうとする様子は見せつつ思うように加速し切れないトレンティンを尻目に、ピーダスンは渾身のスプリントを見せ、最後はガッツポーズを披露しながらのフィニッシュ。

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弱冠23歳、ワールドツアー未勝利の若者による、鮮烈な世界選手権制覇だった。

 

2020年、世界王者の証である虹色のジャージ「マイヨ・アルカンシェル」を身に纏うピーダスンであったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で3月からシーズンが中断した事により、アルカンシェルを着用して走るレースが極端に少なくなるという憂き目に遭ってしまう。

ツール・ド・フランスでステージ2位が2度と惜しい場面もありつつ、ツール・ド・ポローニュで挙げたワールドツアー初勝利が、残念ながら唯一のアルカンシェルでの勝利となってしまった。

それでも、世界選手権が終了して10月に入ると、ビンクバンク・ツアーでのステージ勝利とポイント賞獲得、そしてヘント~ウェヴェルヘムの制覇と、前年の世界選手権制覇が決してフロックではなく、相応の実力があるとしっかり示す事は出来た。

 

2021年は、クールネ~ブリュッセル~クールネ優勝に、ツアー・オブ・デンマークとツアー・オブ・ノルウェーでのステージ勝利と、下位カテゴリーでは勝利を重ねつつ、残念ながらワールドツアーでは未勝利に終わってしまう。

ただ、スプリントステージでのトップ10フィニッシュが10回近くあり、スプリンターとして安定感を発揮し続けた1年ではあった。

 

2022年、ワールドツアー未勝利だったた前年から一転して、3月のパリ~ニースで早くも勝利を飾る事に成功。

これで勢いづいたのか、ミラノ~サンレモ6位、ヘント~ウェヴェルヘム7位、ロンド・ファン・フラーンデレン8位と、ここ2年程少し振るわなかった春のワンデーレースでも上位に食い込み、好調を継続していた。

 

そして7月、ツールで遂に待望の瞬間が訪れる。

アップダウンの影響で集団スプリントか逃げ切りか予想が難しいレイアウトの第13ステージで、ピーダスンは途中から先頭集団に合流。

先頭集団とメイン集団の追いかけっこが長く続いていたが、最終盤に入るとそのまま先頭集団による逃げ切りの流れに。

メイン集団が逃げの吸収を諦めた直後、ピーダスンはアタックを仕掛けて、先頭集団を3人に絞り込む。

そうして迎えたフィニッシュスプリントで、ピーダスンは格の違いを見せつけて圧勝。

機を見て逃げに乗り、終盤に自ら絞り込みを掛けて、最後はスプリントで圧倒と、完全に強者の勝ち方でのグランツール初勝利だった。

 

更に勢いに乗ったピーダスンは、未出場だった最後のグランツールブエルタ・ア・エスパーニャで「無双」する。

まずは1週目、常にスプリント勝負に絡み続るだけでなく、登りフィニッシュでもステージ2位に入り、3連続ステージ2位という安定感でポイント賞トップに立つ。

そして、第13ステージ、第16ステージ、第19ステージと、「登りの絡んだスプリントステージ」では他を全く寄せ付けず、ステージ3勝を挙げてポイント賞争いを独走。

結果的に、ステージ3勝を挙げてのポイント賞獲得と、完全に登れるスプリンターとしての評価を確立したレースとなった。

 

デビューしたての頃は、どちらかと言うとタイムトライアル能力や、意外と登れる部分が評価されていたピーダスン。

それらの能力を下地としつつ、2019年の世界選手権制覇以降は明確にスプリンターとして成長を続けた事で、気が付けば現役を代表する「登れるスプリンター」と評されるまでになった。

また、雨中のサバイバルレースとなった世界選手権制覇や、22歳でのロンド・ファン・フラーンデレン2位入賞など、タフな展開に強みを見せるワンデーレーサーとしての顔も持っている。

春先はワンデーレースを中心に、5月以降はグランツールで、きっと様々な活躍を見せてくれるのだろう。

狙えるところは着実に、そして時折意外性を見せて勝利を狙う、そんな魅力的な姿をこれからも期待したい。

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