前代未聞、逃げの無い1日
「逃げ」というのは、各レース必ず発生するものだと思っていました。
まさかツール・ド・フランスという世界最高の舞台で、放送席の誰もが「記憶に無い」と語る、逃げのないステージが発生するとは…。
フィニッシュの手前に少し登り坂はあるものの、コース全体としては下り基調で最終的には集団スプリントが確実視されていたツール・ド・フランス第5ステージ。
確かに最後はスプリントでの決着となったものの、そこに至るまでの過程があまりにも珍しかった。
何と、逃げが発生しなかった!!
序盤にトーマス・デヘントやカスパー・アスグリーンがアタックを試みるも、すぐさま集団に吸収されてしまい、そしてそのまま、172人のメイン集団のままレースは進行していく…!
これには放送席も困惑、twitterも大騒ぎ。
序盤から厳しいステージが続いたから?
大混乱の初日、100人以上にも及んだ大量落車のダメージが残る選手が多かったから?
2つの4級山岳しかなく、山岳賞争いをする選手にうま味が無かったから?
理由はいくつかあるんだろうけど、こんなことあるんだな…。
中間スプリントはドゥクーニンク・クイックステップが万全の態勢で、サム・ベネットがトップ通過。
これで暫定ではあるものの、ベネットがついにサガンを抜いてポイント賞争いの首位に!
マッテオ・トレンティンなんかもグリーンジャージに色気を見せているし、今年のポイント賞争いは昨年よりも面白くなりそうだ。
そのままレース最終盤までひと塊のまま進み、気づけばスプリントに向けて集団のスピードと緊張感が増してきている。
残り1km、チーム・サンウェブが良いトレインを形成してフラムルージュを通過、エーススプリンターは期待の若手ケース・ボル!
その後方に位置しているのはユンボ・ヴィスマのワウト・ファンアールト!
ん?ファンアールト!?
総合のための仕事ではなく、単独でのスプリントの参加をチームから許されたのか…!
そして完璧なトレインを組んだサンウェブ、特に最終発射台のカスパー・ピーダスンの牽引は強力で、そのスピードにベネットやサガンも引き離される中、ファンアールトだけはボルをピッタリ背後でマーク!
残り200mという最高のタイミングで飛び出したボル、そして唯一追いかけるファンアールト!
良い伸びを見せるボル、しかしそれ以上のとんでもない勢いのファンアールト、そして…!
ファンアールトが差し切った!
完璧な連携を見せたサンウェブを、完全に個の力でねじ伏せる圧巻の勝利!
第4ステージでの山岳アシスト(【レース感想】ツール・ド・フランス2020 第4ステージ - 初心者ロードレース観戦日和)にも驚いたけれども、このスプリントは間違いなく怪物級の凄まじさ!
サンウェブのトレインはあのベネットやサガンが付いていけない程の見事な連携を見せていて、そこから発射されたボルの伸びも十分、普通ならまず間違いなくそのまま勝っていたはず。
決してピュアスプリンターではないはずのファンアールトが、それを完全に個人の能力で打ち破ったのだ。
正直言って、意味が分からない。
しかも、昨年のツールで太腿と臀部に大きな裂傷を負い、選手生命すら危ぶまれたのに、この強さ。
マチュー・ファンデルプールと並ぶ、シクロクロスからの刺客、ファンアールト。
今後しばらくはこの2人がロードレース界の常識を壊しながら暴れまわる予感しかしない。
そしてレース終了後、表彰式の直前に仰天のニュースが飛び込んでくる。
ジュリアン・アラフィリップがフィニッシュ地点から20km以内での補給禁止のルールに抵触したために、20秒のペナルティを課され総合首位から転落してしまったのだ!
結果的に、4秒差に位置していたアダム・イェーツが意外な形で自身初のマイヨ・ジョーヌを獲得する事に。
少し居心地の悪そうな様子で表彰台に登場したアダム・イェーツ、ツール開幕前には「総合優勝は争わず、ステージ勝利を狙う」と明言していたが、果たしてどこまでこのイエロージャージを守るのか。
総合争いできるような力を持っているだけに、レース展開を面白くする存在になってくれそうな予感がする。