まだまだ何があるか分からない
3週目の初日は、終盤に1級山岳が2連続で登場する山頂フィニッシュステージ。
この日の逃げは19人。
山岳賞首位のジョフリー・ブシャール(AG2Rシトロエン)がしっかり逃げたのは予想通りだけれども、総合首位のエガン・ベルナルを抱えるイネオス・グレナディアーズのジャンニ・モスコンが逃げに乗ったのは、かなり予想外。
総合リーダーが「前待ち」なんてやる…?
…まさか、モスコンの出身地を通るレイアウトという事で「地元アタック」?
さすがにそんな訳ないか。
一方のメイン集団は、序盤はいつも通りイネオスが牽引していたけれども、途中からチーム・バイクエクスチェンジが牽引を開始。
逃げとのタイム差を4分程度にコントロールしてレースは進んでいく。
1つ目の1級山岳に入ると、逃げもメイン集団も人数が削れていく厳しい展開に。
山岳ポイントが是が非でも欲しいブシャールは、途中で一旦先頭から遅れるかなり厳しい様子を見せながらも、気合の入った粘りを見せて先頭での山頂通過に成功する。
メイン集団では、ダウンヒルで大きな落車が発生してしまう。
そして、落車した選手の中には総合6位ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)の姿が…。
更には、レムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ)も落車した選手を避けようとしてガードレールに乗り上げるような形で転倒している。
チッコーネはアシストの助けもあってなんとかメイン集団には復帰したけれども、これは厳しい展開…。
エヴェネプールはしばらく立ち止まっていたのでそのままリタイアするのかと思いきや、左腕をガチガチにテーピングして再度スタートしていく。
エヴェネプールは何とかフィニッシュまでは走り切るものの、その後リタイアを表明。
既に総合順位は落としていながらも完走への意欲を語っていただけに、これはなんとも残念な落車となってしまった…。
先頭集団は1つ目の1級山岳で絞り込まれた4人、ブシャール、モスコン、ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)、アントニオ・ペドレロ(モビスター・チーム)に、シモーネ・ラヴァネッリ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)とジョヴァンニ・カルボーニ(バルディアーニ・CSF・ファイザネ)の2人が追いつき、6人で最後の1級山岳の登坂に突入。
ここで抜きん出た強さを見せつけたのは、ダニエル・マーティン。
集団から1人で抜け出すと、追い縋ろうとしたペドレロも軽々と振り切り、力強く独走を開始!
メイン集団とのタイム差は1分強と、逃げ切りは少し厳しいようにも見えたけれども、ダニエル・マーティンはそこからなかなかタイム差を縮めさせない!
一方のメイン集団は、逃げから降りてきたモスコンも加えたイネオスがコントロール。
モスコンはすぐに仕事を終えて下がっていくけれども、続いてジョナタン・カストロビエホが淡々とペースを刻むと、続々とメイン集団から脱落する選手が出てくる。
先ほどの落車の影響が隠せないチッコーネ、総合9位のトビアス・フォス(チーム・ユンボ・ヴィスマ)、総合7位のロマン・バルデ(チームDSM)、総合4位のアレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック)、総合3位のヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)と、総合上位勢もかなりのメンバーが遅れてしまう。
残り5km、未だにダニエル・マーティンが黙々と自分のペースを刻み続ける一方、メイン集団からは総合10位のジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク)がアタック。
総合タイムで10分遅れているアルメイダのアタックにイネオスは全く反応せず、とりあえずアルメイダが抜け出す格好に。
しかし、直後に総合5位のサイモン・イェーツ(バイクエクスチェンジ)がアタックを仕掛けると、イネオスももちろん反応!
総合リーダーのベルナルが自らチェックし、更にはアシストながら総合8位のダニエル・マルティネスも付いていく!
サイモン・イェーツ、ベルナル、マルティネスの3人はあっという間にアルメイダに追いつく一方、離されてしまった総合2位のダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)は無理せずにペースで登る事を選択している。
追いつかれたアルメイダが再度加速して飛び出そうとするけれども、サイモン・イェーツがこれをしっかりとチェック、ベルナルとマルティネスもしっかりとついて来る。
その頃、先頭のダニエル・マーティンは残り3kmを通過、タイム差は50秒程。
後ろのペースが上がっているのにこのタイム差という事は、ダニエル・マーティンのペースがかなりいい?
もしかしたら逃げ切るかもしれないなんてことを考えていたら、メイン集団でも動きが…ん?
…え?
ベルナルが遅れている…!?
急勾配区間で、明らかに力を失いペースを落としている!!??
もちろんサイモン・イェーツとアルメイダはどんどん先に進んでいき、タイム差はあっという間に30秒程まで広がってしまう!!
まさかまさか、ここにきてのバッドデイ?
それとも、懸念されていた背中の痛み、昨年のツールをリタイアする原因にもなった痛みが、ここで出てしまっているのか…?
先ほど突き放したカルーゾに追いつかれる程ペースが落ちる中、マルティネスはベルナルを引っ張り上げようと前を走るだけでなく、懸命に鼓舞する姿を見せる!
Daniel Martinez is the ultimate teammate. #Giro104 pic.twitter.com/cWI4Kqwkv6
— CyclingTips (@cyclingtips) May 26, 2021
ベルナルと同郷で同世代のマルティネスが、かつてクリス・フルームを懸命にサポートしたリッチー・ポートの姿を思い出させるような、最高のアシストを見せてくれている!!
このマルティネスの献身の甲斐あってか、それとも緩斜面に入ったためか、ベルナルは少し脚に力を取り戻し、前を行くサイモン・イェーツとアルメイダとの差はあまり広がらなくなっていく!
このペースなら、もしかしたら1分も失わないぐらいか…?
なんとかこのまま粘り切れ!!
残り1km、先頭は未だにダニエル・マーティン!
追いかけてくるサイモン・イェーツとアルメイダとのタイム差は30秒残っている!!
ダニエル・マーティンは勢いが衰えないまま踏み続け、アルメイダがサイモン・イェーツを緩斜面区間で引き離して迫って来るけれども、もう追いつくだけの距離は残っていない!
後方を確認して勝利を確信すると、最後は余裕をもってガッツポーズを繰り出しながらのフィニッシュ!!
ダニエル・マーティン、強さを見せつける見事な逃げ切り勝利!!
そして、史上101人目となる全グランツールでのステージ勝利達成!!
第11ステージで大きくタイムを失って総合争いからは脱落しているけれども、「史上最高の仕上がり」とチームが語るだけあって、やっぱり強い!
アルメイダは惜しくも13秒届かず、2位でフィニッシュ。
第4ステージで早々に総合争いから脱落したかと思いきや、気が付けば総合8位に上がってきている。
昨年のジロ総合4位、やはり地力はかなりある。
ここからどれだけ順位を上げていけるか、かなり注目の存在になってきた。
アルメイダから17秒遅れてフィニッシュしたサイモン・イェーツは、第16ステージで失ったタイムをかなり取り戻して、総合3位に浮上。
表彰台圏内に入っただけではなく、もしかしたら大逆転での総合優勝も…?
総合首位のベルナルは、最後は一緒に走っていたカルーゾに3秒だけ離されて、サイモン・イェーツから53秒遅れでフィニッシュ。
急に失速するのを見た瞬間は、正直言って血の気が引くような思いだったけれども、よくこのぐらいのタイム差で粘り切ってくれた!
楽観視すれば、カルーゾに付いていけたという事はそこまで深刻な不調では無いのかも…?
そしてこの位置を守れたのは、間違いなくマルティネスの献身的なアシストのおかげ!
あのベルナルを鼓舞するシーンは、見ていてもの凄く感動したし、ベルナルもそこから少し息を吹き返してくれた。
昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネの覇者が、ベルナルの為に全身全霊で尽くしてくれている。
あとは、ベルナルがそれに応えるだけだ。
あと4ステージ、頑張れベルナル!!
これで総合争いは、ベルナルが苦しみながらも変わらず総合首位、2分21秒遅れでカルーゾ、3分23秒遅れでサイモン・イェーツが追いかける形に。
残す総合争いの場は、山岳ステージが第19と第20の2つ、そして最終日の個人TT。
タイム的にはベルナルがまだまだ有利だけれども、最後まで何が起こるか、まだ分からなくなってきた。