結実した勇気ある攻め、勇気ある守り
今大会最後のラインレースは、1級山岳を3連続で登る超難関ステージ。
しかも、3つの1級山岳のうち、最初の2つは標高が2000mを超えるというオマケつき。
白熱の総合争い、その行方は如何に…。
この日は中間スプリントポイントがスタートから16.9km地点にあったため、ポイント獲得を目指した選手の動きでまずは逃げが生まれない展開に。
ポイント賞3位のフェルナンド・ガビリア(UAEチームエミレーツ)が3位通過、ポイント賞2位のダヴィド・チモライ(イスラエル・スタートアップネーション)が4位通過、そしてマリア・チクラミーノ着用のペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)が8位通過となった事で、ポイント賞争いの上位陣に変動は無し。
これで、サガンのポイント賞獲得が実質確定。
「ポイント賞を獲得する為に生まれた男」が、遂にツールだけでなくジロも制する事になった。
その後、やっと形成された逃げは9人。
メイン集団は、この日も総合順位を上げる事を目論むチーム・バイクエクスチェンジとドゥクーニンク・クイックステップがコントロールして、タイム差は最大で4分強ほどでレースは進んでいく。
ダラダラと長い距離を登る1つ目の1級山岳に入ると、チームDSMがメイン集団の牽引を開始。
このDSMの強力な牽引でメイン集団のペースは一気に上がり、逃げとのタイム差が急激に縮まっていき、山頂通過時にはわずか50秒程になっている。
そしてダウンヒルに入ると、メイン集団を引っ張ていたDSMがそのまま少し先行を開始。
この先行したクリス・ハミルトン、マイケル・ストーラー、総合6位のロマン・バルデという3人を、リーダー・チームのイネオス・グレナディアーズは危険視せず容認。
更に、バーレーン・ヴィクトリアスの2人、ペッリョ・ビルバオと総合2位のダミアーノ・カルーゾも、メイン集団を飛び出している。
カルーゾが飛び出したらイネオスも流石にこれは追うかな…と思っていたら、意外にもイネオスは静観の構えを見せる。
ダウンヒルでリスクを負ってペースを上げるべきではない、残り2つの山岳で充分差を詰めれれるという判断か…?
メイン集団から抜け出したDSMの3人とバーレーンの2人は、そのままダウンヒルで逃げ集団(山岳で人数を減らして5人)と合流し、積極的にローテーションをして協力しながら逃げる事に。
この時点でメイン集団とのタイム差は20秒。
2つ目の1級山岳でどうなるのかと思いながら見ていたら、意外にもタイム差は広がっていき、山頂通過時には45秒程に。
メイン集団を牽引するのはイネオスの面々で、牽引の責任を負う事で流石に人数は減ってきていて、残すアシストはジョナタン・カストロビエホとダニエル・マルティネスの2人のみ。
しかし、この隙を突こうとするライバルチームは現れず、「『総合2位と総合6位の入った逃げ』vs『その他総合上位陣のいるメイン集団』」という構図のままレースは進んでいく。
先頭の4人、カルーゾ、ビルバオ、バルデ、ストーラーはメイン集団から40秒のリードを保ったまま最後の1級山岳に突入。
残り7.1kmでストーラー、そして残り6.5kmでビルバオと、ここまでエースの為に献身的に働いてきたアシストが仕事を終えて下がっていく。
全てを出し尽くして後ろに下がっていくビルバオの背中をカルーゾは2回叩き、労いと感謝の気持ちをしっかり伝えてから、ペースを上げていく。
ビルバオが最後の一滴まで振り絞りカルーゾの勝利のためにアシスト。ねぎらう総合エース(急遽)
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】@ジロ開催中🇮🇹 (@jspocycle) May 29, 2021
本当に美しいシーンです😭
ハイライト動画👉https://t.co/e3D6Jr1yw9#Giro #jspocycle pic.twitter.com/J98Pp0fALW
ダミアーノ・カルーゾ、33歳。
これまで、ティレーノ~アドレアティコとツール・ド・スイスで総合2位、ツール・ド・フランスで総合10位、ジロ・デ・イタリアで総合8位、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合9位と、間違いなく上位クラスの実力を持ちながらプロ通算2勝、ワールドツアーでは未勝利の選手。
そんな典型的な「力はあるけれども勝てないアシスト選手」が、自らのステージ勝利と、初のグランツール表彰台を目指して、力強くペダルを踏みこんでいく!
アシストの大変さと重要さを身をもって知る男が、自分に尽くしてくれる仲間の思いを胸に山を駆け上がっていく!
一方のメイン集団は、マルティネスの牽引で人数がかなり絞られている。
残り5km地点で生き残っているのは、マルティネス、ベルナル、サイモン・イェーツ、ウラソフ、カーシー、アルメイダのみに。
これまでのステージでもベルナルを守り続けてきた「今大会最高の山岳アシスト」マルティネスの牽きはこの日も強烈で、ほどなくしてウラソフとカーシーは千切れていく。
残り2.5kmのボーナスタイムポイントを先頭通過したのはカルーゾ、続いてバルデ。
メイン集団は20秒ほど遅れて、マルティネスがしっかりベルナルに1秒を稼がせる。
残り2km、カルーソが急勾配区間でバルデを突き放す!!
その20秒後、メイン集団もほぼ同じ地点で…サイモン・イェーツが遅れ始める!!
先頭を突き進むカルーゾのペースは落ちない!!
メイン集団を牽くマルティネスもほぼ同じペースを刻み、タイム差は変わらない!
残り1.3km、マルティネスのペースに今度はアルメイダが付いていけなくなる!
マルティネスの牽引で、ベルナルはカルーゾ以外のライバルを全て振るい落とす事に成功!!
マルティネスが相変わらず最高の仕事を見せてくれている!!
カルーゾは地元イタリアのファンの熱い声援を浴びながら、順調にフィニッシュ地点へ向かっていく!
残り500mを切ると、普段はポーカーフェイスな男が勝利を確信して少し笑みを浮かべる!
最後は噛みしめるようなガッツポーズを見せながら、堂々のフィニッシュ!!
カルーゾにとって間違い無くキャリアで最大の、そして最高の勝利!!
早々にエースのミケル・ランダを失いながら、ここまで安定した走りで気が付けば総合2位に位置していたカルーゾが、最後は自らその順位を強固に守り抜くための「勇気ある攻め」の走りで掴んだ、本当に見事な勝利だった!!
ビルバオの背中を叩く仕草、勝利を確信して少し笑みを浮かべる様子、そしてすべてを受け止めながら噛みしめるような表情のフィニッシュシーン、そのどれもが美しく、そして素晴らしかったと思う。
アシストとエースの関係性、3週間と言う長い道のり、そしてカルーゾの長いキャリアが詰まった、これぞロードレースと言いたくなるような、最高のレースを見られたことに感謝したい!!
そして、カルーゾから遅れる事24秒、ベルナルがフィニッシュ!!
カルーゾには少しタイム差を削られたけれども、まだまだ1分59秒のリードを保つことに成功!!
カルーゾ達が先行した際に、無理して追いかけないという「勇気ある守りの走り」で、見事に総合首位の座を強固にしてみせた!!
調子を落としていると言われつつ他の総合勢を引き離す地力の高さ、そして苦しいときにしっかりと守ってくれるチーム力の高さ、どちらも最高だった!!
さあ、残すはミラノでの個人TT!
総合優勝はもう目前まで迫っているぞ!!
最後まで力強く、冷静に、そして熱い心で走り抜け、ベルナル!!