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【レース感想】ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第17ステージ

王者の走り

ブエルタ総合争いの最大の勝負所である、第17・第18ステージの山岳2連戦。

その初戦となる第17ステージは、3級・1級・1級とカテゴリー山岳を超え、最後は超級山岳「ラゴス・デ・コバドンガ」へとフィニッシュするレイアウト。

 

曇り空の下でスタートしたレースは、スタート直後の平坦区間、そして3級山岳を超えても逃げが決まらない激しい展開に。

1回目の1級山岳の直前にやっと30人前後の逃げ集団が形成されて、そのまま1級山岳の登坂に突入。

ただ、イネオス・グレナディアーズUAEチームエミレーツが牽引するメイン集団は、逃げにあまり大きなタイム差を許さない。

山頂まで1km辺りから、今大会ここまで不振が続いているミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)がアタックを仕掛け、メイン集団から一気に逃げ集団までジャンプ。

その直後、総合リーダーのオッドクリティアン・エイキング(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)はメイン集団から少し離され始めてしまう。

ここまでなんとかマイヨロホをキープしてきたエイキング、やはり大方の予想通りトップの座に位置しているのはこの日までか。

逃げ集団はマイケル・ストーラー(チームDSM)が山頂を先頭で通過したけれども、その後のダウンヒルで足並みがそろわず、オリヴィエ・ルガック(グルパマFDJ)を除いて全員がメイン集団に吸収されてしまう。

 

2つ目の1級山岳は、ルガックが40秒強のリードを保ったまま登坂を開始。

メイン集団はまたしてもイネオスがペースメイク。

イネオスのペースはやはり速く、逃げていたルガックを吸収し、そして再合流していたエイキングをまた突き放していく。

イネオスはトム・ピドコック、パヴェル・シヴァコフと2人のアシストを使い倒し、「仕掛けが早すぎやしないか?一体どうするつもりだろうか?」と思っていたその時、ここまでのステージでは調子の上がっていなかった「あの男」が遂に動きを見せる。

山頂まで残り5km、フィニッシュまで残り60kmという距離を残して、イネオスの若きエース、エガン・ベルナルがかなり早めのアタック!!

明らかに「本気」の踏みを見せるベルナルに付いていったのは、実質的な総合首位のプリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)ただ1人!

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後ろからはミゲルアンヘル・ロペス(モビスター・チーム)が追走を仕掛けようとも試みたけれども、早々に諦めざるを得ないぐらい、先頭の2人のペースは速い!

共にグランツール総合優勝2回の実績を誇る2人の王者が、その圧倒的な力で山岳を駆け上がる!!

総合のタイム差的に圧倒的優位のログリッチは前には出ず、ベルナルが前を牽き続ける展開が続き、メイン集団に45秒程の差を付けた状態で1級山岳の頂上を通過していく。

 

長いダウンヒルは雨で濡れてかなりスリッピーな状態になっていて、ベルナルやバーレーンのアシスト選手がコーナーでオーバーランしそうになるような場面も…。

危険な路面状況にどの選手も慎重な走りを見せるこの状況で、先頭ではログリッチが先頭交代に加わった事もあり、先頭の2人とメイン集団のタイム差はじわじわと広がっていく事に。

そんな状況下で、メイン集団への復帰を目指していた追走集団では落車が発生してしまう…。

転んでいるのは…マイヨロホのエイキングと、総合11位のアレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック)だ…。

幸い、2人とも(そして一緒に転倒していた他の数名の選手も)また走り出したけれども、残念ながら大きくタイムを失ってしまう事になってしまった…。

そしてメイン集団はバーレーンが中心となって先行する2人を追いかけるけれども、そのタイム差は最大で2分強にまで広がる事に。

さすがにボーラ・ハンスグローエとコフィディスが追走に手を貸し、バーレーンも本来は最後の山岳まで温存しておきたかったであろうダミアーノ・カルーゾまで投入して、なんとかタイム差を縮めに掛かる。

 

いよいよ先頭の2人が超級山岳「ラゴス・デ・コバドンガ」に突入、メイン集団とのタイム差は1分30秒にまで縮まってきている。

登坂に入っても先頭とメイン集団のタイム差があまり動かない緊迫した展開の中、最初に動きがあったのは先頭の2人。

残り7.5km、ログリッチの刻む高速ペースにベルナルが付いていけない…!!

1級山岳での仕掛けで力を使いすぎてしまっていたのか、それとも調子がまだ完全に戻り切っていなかったのか…。

ベルナルは大失速という感じではないように見えるけれども、ログリッチとの差はじわじわと広がっていってしまう…。

メイン集団からは総合2位のギヨーム・マルタンコフィディス)が遅れ、そしてバーレーンの牽引が終わったタイミングでロペスがアタック!

前方にエースを走らせているアダム・イェーツ(イネオス)とセップ・クス(ユンボ)は当然このアタックに付いていく。

こうなるとロペスもあまり無理はできず、一旦ペースを緩めざるを得ない。

ただ、この動きで集団はかなり絞られて、ロペス、アダム・イェーツ、クス、エンリク・マス(モビスター)、ジャック・ヘイグ(バーレーン)、ジーノ・マーダー(バーレーン)と、残すは僅か6人のみに。

この6人と先頭のログリッチのタイム差は1分40秒前後からほとんど動かず、そんな中でベルナルはやはりペースがあまりよくなく、追走に追いつかれるのも時間の問題か。

超級山岳の途中から一人旅となっていたログリッチはしっかりとこのタイム差をキープしたまま、最後まで力強くペダルを踏み続ける!!

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グリッチ、雄叫びを上げながらのフィニッシュ!!

この圧倒的な走り、これぞ王者の強さ!

残り60kmからのベルナルのアタックに唯一反応して、途中からはしっかりとローテーションにも参加。

そして、超級山岳ではその強力なペーシング走法でベルナルを突き放し、後続集団にもタイム差を縮めさせないという、まさに圧巻の走り。

ただただ、強かった!

これで、総合2位のマスとの差は2分22秒。

まだ第18ステージの厳しい山岳と第21ステージの個人TTが残っているとは言え、ログリッチが総合優勝をグッと手繰り寄せたと言っていいはずだ!

 

グリッチの1分35秒遅れとなった追走集団では、残り1km辺りでのクスのアタックでベルナルが吸収され、そのまま7人が同タイムでフィニッシュ地点へ。

最後はクスが再度アタックして先着し、ユンボはログリッチとクスによるワンツーフィニッシュを達成する事に。

クスも完全に復調して、ユンボは本当に盤石な態勢だ。

 

そして、ベルナルはクスたちと同タイムの7位フィニッシュ。

もちろん、結果だけを見れば「アタック失敗の末の失速」であり、総合表彰台を狙ったジャンプアップ、そして総合優勝を目指した一発逆転の賭けは、失敗に終わったのは間違いない。

それでも、調子が上がっていない事に苦しみ得意の山岳でもズルズルと遅れていった1週目の走りを考えると、この日の1級山岳でのアタックは本当にカッコよかった。

何より、リスクを恐れずにチャレンジするその姿は、本当に素晴らしかったと言いたい!

今日の調子なら、もし1級山岳で仕掛けずにメイン集団に留まり、最後の超級のラスト数キロぐらいでアタックを仕掛けていれば、ライバルから数十秒のタイムを奪う事は出来たのかもしれない。

けれども、それでは総合表彰台は狙えない。

ベルナルは数十秒ではなく、数分というタイム差を狙い、あの位置から仕掛けたのだ。

仕掛けが失敗する、下手をしたら失速してタイムを失うというリスクを恐れずに、あの位置からチャレンジしたそのマインドこそが、王者の資質だ。

この日のチャレンジによってエネルギーをかなり消耗した事で、第18ステージではあまり積極的に動く余裕が無いかもしれないし、恐らく総合表彰台は結構難しい状況になっているけれども、それでも、この日のベルナルの動きを自分は称えたい。

 

レース後のベルナルは、晴れやかな表情で「走る喜びを感じるためにアタックした」と語ってくれた。

思う存分楽しんで、思う存分戦って…そして時には大きな結果を持ち帰って。

そんなベルナルをこれからも応援していきたい。

ブエルタも残すは4ステージ、最後まで頑張れ、ベルナル!