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【レース感想】ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第20ステージ

こんな事が起こるのか…

今大会最後のラインレースとなる第20ステージは、アップダウンの連続が「ミニ・リエージュ~バストーニュ~リエージュ」とも形容される丘陵ステージ。

まず間違いなく逃げ向きで総合が大きく動くことは無い、動いたとしても最後の山岳で数十秒。

恐らく多くの人が、…少なくとも自分はそう考えていた。

 

この日が「ステージ勝利を挙げる最後のチャンス」と飛び出した逃げは16人。

総合リーダーのプリモシュ・ログリッチを擁するチーム・ユンボ・ヴィスマとしては、総合と一切関係ないメンバーのみの逃げを積極的に追う理由は全く無いので、早々に10分以上のタイム差を与える。

「まぁ、どう考えてもこういう展開になるよな」なんて思いながらレースの経過を追っていくと、中盤以降のアップダウン区間に入ってレースに動きが出てくる。

総合5位のエガン・ベルナルと総合6位のアダム・イェーツを抱えるイネオス・グレナディアーズが、アシスト総出でメイン集団を牽引している…!

イネオスはサルバトーレ・プッチョ、パヴェル・シヴァコフ、トム・ピドコックの3人を、このレース中盤の段階で何の惜しげもなく使い倒して、一気にペースアップを図る。

ベルナルとアダム・イェーツの総合順位を一つでも上げる、可能なら総合表彰台に乗せる、そしてあわよくばステージも獲ってしまおうという、王者イネオスによる捨て身の奇襲だ…!

このイネオスの動きで、メイン集団と逃げ集団のタイム差は一気に5分台にまで縮み、そしてメイン集団もかなり人数が絞られていく事に。

 

残り57kmの1級山岳に入ると、逃げ集団はかなり人数が削られてしまい、残すは7人に。

一方のメイン集団では、アダム・イェーツがアタックを仕掛けると、付いていけたのはログリッチ、エンリク・マス(モビスター・チーム、総合2位)、ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、総合4位)、ジーノ・マーダー(バーレーン、総合8位)のみ。

…え?

ミゲルアンヘル・ロペス(モビスター、総合3位)とベルナルは…?

まさか、付いていけないのか…。

 

1級山岳はマイケル・ストーラー(チームDSM)が先頭通過して山岳賞を確定させることに成功。

その直後、先頭集団からライアン・ギボンズUAEチームエミレーツ)が抜け出して、独走を開始する。

グリッチたちの集団はそこから4分ほど後方を順調に走行中。

そしてその後方に置いていかれたロペスたちの集団は…ログリッチたちから40秒も離されてしまっている…。

というか、その差がどんどん広がっている…。

この集団をほぼ単独で牽いているのは、総合4位のヘイグに先行を許したことで総合3位の座から滑り落ちそうになっているロペス。

平地巡航が苦手なロペスの牽引だと、差が広がる一方なのは当然の流れだ…。

イネオスとしては、前方にアダム・イェーツを送り込む事ができたので、ベルナルを切り捨ててでもロペスを一緒に連れていきたくない。

しかも、先行するグループには逃げから降りてきたマーク・パデュン(バーレーン)までローテーションに加わり、更に巡航速度を上げていく。

2つの集団のタイム差はあっという間に2分を超え、ロペスは総合3位の座から滑り落ちるのが実質確定してしまう。

その後も、タイム差の拡大は止まらない。

そしてしばらくすると、ロペスはリタイアを選択してしまった…。

単に脚が無かっただけでなく、チームからの指示、「マスを守るために追走するな」という指示に怒ったからという報道もあるけれども…、いずれにしても、ここまできてのリタイアは残念過ぎる…。

 

グリッチたちの集団は逃げ遅れた選手たちを飲み込みながら進んでいき、残り10km辺りで残すは先頭のギボンズのみ、タイム差は1分30秒程。

残り6.7km、アダム・イェーツが軽やかにアタック!

グリッチ、マスはすぐさま反応するけれども、ヘイグは少し遅れて反応し、やっとの事で追いつく感じ。

一呼吸置いて、アダム・イェーツが再びアタック!

ここも先ほどと同じような動きになり、ヘイグはなんとか食らいついていく。

そして残り4kmを切った辺りで、アダム・イェーツがまたしてもアタック!

このアタックでまたヘイグが千切れ、そしてここまで粘っていたギボンズは吸収される。

ヘイグは平坦区間で何とか戻って来るけれども、かなり厳しそうだ。

その後もアタックと牽制が続き、後続の選手が続々と追いついて来たりしたけれども、元々逃げていた選手は限界が近い、そして総合勢はそれらの選手に構わず牽制し合っているので、局面はあまり変わらない。

残り2kmを切って先頭は結局ログリッチ、マス、ヘイグ、アダム・イェーツの4人、やっぱり最後はこの4人で小集団スプリントで決着かと思ったその瞬間、画面に突如飛び込んできたのは白いジャージ。

残り1.7kmの激坂区間で、クレモン・シャンプッサンAG2Rシトロエン)がもの凄い勢いで、そしてもの凄い形相で先頭の4人をぶち抜き、そのまま独走!!

総合勢の4人はシャンプッサンを追わないぞ…!!

ミケル・ビスカラ(エウスカルテル・エウスカディ)やロマン・バルデ(DSM)も総合の4人を追い越してシャンプッサンを捉えようと試みるけれども、結局勢いを失って4人に捕まってしまう。

先頭を進むシャンプッサンも限界寸前のような表情だけれども、最後の最後まで力強く踏んでいく!!

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間隙を縫っての見事な一撃!!

シャンプッサンブエルタという大舞台で嬉しいプロ初勝利!!

「どこから出てきた!?」と思うぐらい唐突で勢いのあったアタックは、とっくに限界を迎えているのに気合だけで踏んでいるようなその表情も相まって、本当に素晴らしかった!!

2人のエース格の選手を手放して生まれ変わろうとしているAG2Rの、そしてこの日眩い輝きを放ったシャンプッサンの、その未来はきっと明るいに違いない。

 

そのシャンプッサンの6秒後にはログリッチがフィニッシュ。

グリッチから2秒遅れてマスとアダム・イェーツ、その更に4秒後にヘイグもフィニッシュ。

そしてベルナルが7分近く遅れてフィニッシュした事で、総合順位は大きくシャッフル!

総合首位はもちろんログリッチ、総合2位も動かずにマス(2分38秒遅れ)、そして総合3位にはヘイグ(4分48秒遅れ)が入り、総合4位にアダム・イェーツ(5分48秒遅れ)。

総合5位にはこの日3つ順位を上げたマーダー(8分14秒遅れ)、そしてこの日大きくタイムを失ったベルナル(11分38秒遅れ)が総合6位となり、ヤングライダー賞ジャージはマーダーが着用する事に。

いやしかし、まさかこのステージでこんなに総合が動くとは…

ベルナルがタイムを失ったのは、まあイネオスとしては文字通り捨て身の作戦だったし、ベルナル自身の調子が悪い中でアダム・イェーツに託した結果だから、理解できると言うか納得感はある程度ある(ファンとしてはもちろん悔しいけどね…)。

しかし、総合3位と表彰台圏内にいたロペスが大きく遅れ、挙句の果てにはリタイアを選択してしまうとは、一体誰が想像できただろうか…。

 

今年のブエルタも残すはあと1ステージ、33.8kmの個人TTのみ。

グリッチとマスの順位はまず動かないだろうけれども、ちょうど1分差の総合3位マーダーと総合4位アダム・イェーツは、もしかしたら動くかもしれない。

どちらが総合3位になっても自身初のグランツール総合表彰台、はたしてその座を掴むのはどちらか。

長い旅路の締めくくりも、面白くなりそうだ!