最後の最後まで圧倒的
長かった3週間の激闘もこの日が最終日、そして今年のグランツールの最終日でもある、ブエルタ・ア・エスパーニャ第21ステージ。
今年はマドリードでの周回コースではなく、用意されたのはアップダウンを含む33.8kmの個人TT。
ステージ優勝も総合優勝も、何かトラブルさえなければプリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)が確実と言う状態で、終わりを告げるレースが始まる。
まず良いタイムを出したのは、第1走者のヨセフ・チェルニー(ドゥクーニンク・クイックステップ)。
第1出走…つまり総合最下位というのは、ファビオ・ヤコブセンのポイント賞獲得のために、文字通り自らを犠牲にして働き続けた証だ。
第1ステージの個人TTでもステージ5位と良い結果を残していたチェルニーの走りはやはり素晴らしく、約1時間の間ホットシートを温める事に。
30番出走で、新城幸也選手(バーレーン・ヴィクトリアス)がスタート。
チェルニーと同様に、チームの為に身を粉にした献身的な働きが輝いていた新城選手。
チームはジャック・ヘイグの総合3位とジーノ・マーダーのヤングライダー賞、そしてチーム総合成績1位と、考え得るほぼ最高の成績を残せたと言っていいはず。
そこに大きな貢献をする新城選手、本当に素晴らしかった。
チェルニーの約1時間後、今大会最も輝いた選手の1人であるマグナス・コルト(EF・エデュケーション・NIPPO)が、この最終日も相変わらず素晴らしい走りを披露。
なんと、チェルニーのタイムを1分2秒も更新する驚愕のタイムを叩き出す!
激坂、スプリント、逃げ、そしてTTと、本当に多彩なコルト。
今後も色んなレースで活躍してくれそうだ。
コルトのタイムを誰も更新できないどころか、肉薄するようなタイムを誰も出せないまま、気が付けば残すは総合上位勢のみに。
最終ステージも、あと1時間ほどで終了だ。
まず好走を見せたのは、総合9位だったダヴィ・デラクルス(UAEチームエミレーツ)。
ステージ11位に入る好タイムを記録して、総合7位に順位を上げる事に成功する。
今大会のデラクルスは、早めのアタックや積極的にステージを狙う動きが目立っていただけに、こうやって最後もいい走りを見せてくれたのはなんだか少し嬉しいかな。
続いて素晴らしい走りを見せてくれたのは、総合6位のエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)。
なんと、ステージ6位に入る好タイムを叩き出す!
やはり、コンディションが整えばTTでもこれだけの結果を残せるようなポテンシャルがあるのだ!
今大会序盤はコンディションがなかなか上がらずに苦しんでいたけれども、3週目に見せてくれたその走り、第17ステージでの60kmを残しての仕掛けや、第18ステージの超級山岳での再三にわたってのアタックは、本当に素晴らしかった!
今回の経験を糧にして、さらなる活躍を期待しているぞ!!
残すは総合トップ5。
総合5位のマーダーは、ステージ31位でフィニッシュしてヤングライダー賞をキープ。
まだ24歳の新鋭は、総合エースのアシストをこなしながらも大きく遅れる事は一度もなく、3週目の総合が大きく動いた第17・第18・第20ステージでもしっかりと10位以内でフィニッシュできた事がこの結果に繋がった。
思い返せば、3月のパリ~ニースの山頂フィニッシュでログリッチにギリギリで差されるという悔しい経験をしながら、5月のジロ・デ・イタリアと6月のツール・ド・スイスでステージ勝利を挙げ、その力は既に証明されてはいた。
今回の3週間の経験は、また彼を成長させてくれそうだ。
総合4位のアダム・イェーツ(イネオス)は、総合で1分差のジャック・ヘイグを逆転する事を目指してのスタート。
第1中間計測でのタイムはかなり良くて、2分後にスタートしたヘイグのタイムと比べると、この時点で25秒リード。
このペースを保つことが出来れば逆転もありえたけれども…アダム・イェーツは終盤に残念ながら失速。
逆転を目指して序盤から飛ばした結果だから、これは仕方がない。
惜しくも総合表彰台は逃したけれども、総合4位は彼にとって2016年のツール・ド・フランスに並ぶグランツール最高順位。
もしかしたらイネオスのエースとしては周囲から不満も聞こえるかもしれないけれども、充分に誇っていい成績のはずだ。
そして総合3位のヘイグは、しっかりと総合表彰台をキープ!!
ヘイグは自身初のグランツール表彰台!
第7ステージで逃げに乗って総合順位を大幅に上げてから、堅実な走りで山岳ステージでは常に上位でフィニッシュして、大崩れしなかった事でこの順位に!!
特に、第18・第20ステージでは最後の登りでかなり苦しみながらも最後まで粘り切った事がこの結果に繋がった!
ツールでは単独エースを託されながら無念の落車リタイアしていただけに、この結果は本人にとっても相当大きな意味を持つはず!
これから脂が乗ってくる時期に突入するであろうヘイグの今後が楽しみだ!
総合2位のエンリク・マス(モビスター・チーム)は、ステージ9位となかなかの結果で今大会の締めくくり!
マスは2018年以来2度目のブエルタ総合2位!
今大会ログリッチに唯一真正面から食らいつき、ログリッチがベルナルと抜け出しを図った第17ステージ以外では大きくタイムを失わないという、抜群の強さと安定感を披露!
残念ながらログリッチには力負けしたかもしれないけれども、その登坂力の素晴らしさは誰の目にも明らかだったはず!
スペインの希望の星として、きっといつかグランツールの頂点にも輝く、そう思わせてくれるには十分な走りだった!
そして遂に最終走者、今大会最強の証である赤いスキンスーツを身に纏ったログリッチが出走。
東京オリンピックの個人TTで金メダルを獲得し、今大会第1ステージの個人TTでも勝利している別格の存在は…この日も圧倒的に速い!
総合優勝が実質確定しているからと安全に行くのではなく、最後まで貪欲に、全力で勝利を取りに行く!!
これこそがログリッチ!!
コルトのタイムを14秒更新して、総合優勝に自ら花を添えるステージ勝利!!
ログリッチ、史上3人目のブエルタ・ア・エスパーニャ3連覇達成!!
最初から最後まで一分の隙も無い、まさに王者の走りでその力を改めて証明してくれた!!
タイムトライアルは圧倒的に速く、登坂もペース走法でこなしつつ、激坂や登りフィニッシュでタイムを稼ぐ。
そして3週間を通して、調子を落とすタイミングが一切ない。
本当に理想的と言える、完璧な3週間の走り。
これまでも悔しい思いをバネに結果を残し続けているこの王者は、ツールでの悔しいリタイアを乗り越えて、やはりまた成長したのかもしれない。
そして…力の証明はもう十分すぎるぐらいだ。
来年の夏こそ、もう一度「頂点」を獲りに行く。
ツールを制する、その準備は整っている。
情熱の国の熱き戦い
改めて、最終成績を確認!
総合優勝:プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
総合2位:エンリク・マス(モビスター・チーム)
ポイント賞:ファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)
山岳賞:マイケル・ストーラー(チームDSM)
ヤングライダー賞:ジーノ・マーダー(バーレーン・ヴィクトリアス)
総合敢闘賞:マグナス・コルト(EFエデュケーション・NIPPO)
完全無欠の走りを見せたログリッチが総合3連覇を達成!
TTでも山岳でも強く、更には安定感も備え、そして頼もしいチームメイトに支えられて、文字通りライバル達を圧倒。
3週間を通して、付け入る隙など一切与えなかった。
ツールでの落車リタイアというショッキングな出来事を乗り越えてのこの走り、お見事!
総合2位のマスは、2018年以来久々に総合優勝争いで実力を発揮!
ログリッチに唯一食らいつき続けたその力はやはり素晴らしく、現役スペイン人総合系選手としては最強だと、改めて示す事が出来たと思う。
総合3位のヘイグは、今年大躍進を見せているバーレーンの勢いに乗り、自身初のグランツール総合表彰台!
粘り強く戦い抜くその姿は、今後もグランツールで活躍する事を予感させてくれた!
ポイント賞のヤコブセンは、昨年のあの悲惨な事故からはとても想像できないような、奇跡の完全復活!!
グランツールに1年で戻ってきただけでも凄いのに、まさかステージ3勝にポイント賞とは…!
現役屈指のスプリント力で、今後も暴れ回りそうだ!
山岳賞のストーラーは、今大会で最も評価を高めた選手と言っていいはず!
積極的に逃げてのステージ2勝、そしてそこで見せた登坂力は、今後の可能性に期待するには十分すぎるもので、しっかりと注目していきたい!
総合敢闘賞のコルトは、激坂、スプリント、逃げ、TTと、ジャンルを問わずに活躍!
3週間の間、常に私たちを魅せ続けてくれた!
そしてバーレーンは、ツールに続いてのチーム総合賞獲得!!
エースの予定だったミケル・ランダを失いながらも、ヘイグが総合3位、マーダーが総合5位とヤングライダー賞、そしてダミアーノ・カルーゾがステージ勝利と、今大会で最も成功したチームかもしれない!
マーク・パデュン、ワウト・プールス、ヤン・トラトニック、そして新城選手と、アシスト陣の働きも特筆もので、3週間を通して安定したチーム力を披露!
その中で重要な働きをこなしまくっていた新城選手、本当にカッコよかったぞ!!
これで、今年のグランツールは全て終了。
グランツールのトリを飾る、情熱の国スペインを舞台に繰り広げられたブエルタ、本当に面白かった!
王者の圧倒的な強さ、山岳ステージでの激戦、手に汗握るスプリント、胸が熱くなるような復活劇、一発を狙った果敢な攻め、意外な選手の躍進と活躍…。
どれもが見る者を惹きつけるような、もの凄い熱量を放っていた。
そこには、ツールやジロには無い何かが、確実に存在していたと思う。
きっと、選手も関係者も、そして見ている私たちも、この国が放つ情熱に浮かされている。
3週間の激闘をありがとう。
情熱の国の熱に浮かされる3週間、本当に最高だ!!
今年のグランツールは全て終わったけれども、まだまだロードレースシーズンは終わっていない!!
9月には世界選手権、10月にはパリ~ルーベとイル・ロンバルディアという2つのモニュメントも待っている!!
ブエルタから貰った情熱を胸に、残りのレースも楽しんでいくぞ!!
ブエルタ・ア・エスパーニャ2021
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】世界選手権9/19,26🌈 (@jspocycle) September 5, 2021
ヤコブセンの復活劇、マイカ、バルデ、ロペスの4年ぶりの勝利...
エモーショナルな勝利をたくさん見せてくれました
たくさんの感動をありがとうございました
ログリッチ大会3連覇おめでとうございます🎊https://t.co/SpUR2N3s3N#LaVuelta21 #jspocycle pic.twitter.com/pfsXkAjmY3